年金をきちんと受け取れるかが不安なうえに、銀行の金利も「ほとんどゼロ」という低金利時代の昨今。老後の生活資金に危機感を覚える方も少なくないことから、「投資」が注目を集めています。
なかでも長期にわたって分散的に投資をする「積立投資」は、安全性が比較的高い投資方法として幅広い層から人気です。そこで2018年に金融庁は、投資の初心者でも安定して資産形成ができるよう、積立投資の制度である「つみたてNISA」をスタートさせました。
この記事では、つみたてNISAの概要、メリットやデメリットなどについてわかりやすく解説していきます。
つみたてNISAをわかりやすくいえば何?
金融庁が創設した「つみたてNISA」は、初心者でも比較的安全に資産形成するための積立投資の制度です。
つみたてNISAは投資対象商品が工夫されており、金融庁が定めた基準に沿ったもの(※積立投資に適した商品)が選ばれています。さらに、複数の株式銘柄を合わせることで元本割れリスクを分散させた「投資信託」のみが対象となるので、初めての積立投資として始めやすいと言えるでしょう。
さらに、つみたてNISAには次のような非課税枠が設けられているので、安定した資産形成を期待できるでしょう。
・新規投資額を対象に、毎年40万円までの非課税枠を適用
・非課税期間は2018~2037年までの最長20年間
・最大800万円(40万円×20年間)の運用利益が非課税に
金融庁が基準を設けているとはいっても、もちろん投資に「絶対」はありません。つみたてNISAにおいても、投資対象商品が値下がりする可能性はあります。しかし、安全性や安定性を高めるためにさまざまな工夫がされているので、投資商品全体のなかでは初心者の資産形成に適したものといえるでしょう。
長期分散・積立投資の有効性
つみたてNISAが採用している「長期分散・積立投資」は、初心者でも始めやすく、安全性が比較的高い投資方法として知られています。この章では、分散投資、長期投資、積立投資の有効性について解説します。
分散投資の有効性
一般的に、投資を行う際には「リスクを分散させること」が重要とされています。
投資の対象となる資産はどのようなものであっても、値上がりや値下がりを繰り返します。そのため、投資には損をするリスクがありますが、値動きの異なる複数の資産を組み合わせることで損失リスクの軽減が期待できます。
分散投資の具体的な方法としては、主に以下のようなものがあります。
・国内外の国や地域でわける
・株式や債券などの商品でわける
・円やドルなどの通貨でわける
・積立などの時間でわける
つまり、異なる特性をもった投資対象を選ぶことで、損失リスクの軽減を目指せる点が分散投資の効果です。つみたてNISAもこの分散効果を活用しており、運用の専門家が株式や債券、不動産など複数の銘柄・資産に分散投資しています。
長期投資の有効性
世界経済は周期的に回復しながら成長する傾向があり、将来的には対象商品の価値は増していく可能性が高いと期待されています。そのため、同じ対象商品を長く保有する「長期投資」も、効果的な投資法として知られています。
また、上記の分散投資と長期投資を組み合わせると、よりリスク軽減の期待が持てます。分散投資であっても対象商品の価値は変動しますが、長期的な分散投資は元本割れのリスクが低く、値上がりを期待できるといわれています。
積立投資の有効性
長期分散投資を、毎月一定額の投資信託を購入する「積立投資」で行うと、最初に一括で購入する場合と比べ、購入単価を低くおさえることができます。定額・定期での購入であれば、商品価格が高いときには少なく、商品価格が安いときには多く購入することになるためです。したがって、定額の積立投資では購入単価を低くおさえる効率的な投資が可能となります。
以上のように、長期分散・積立投資には値下がりのリスクを軽減し、効率的に投資を行える効果があります。つみたてNISAは、まさにこの長期分散・積立投資に向いた制度といえるでしょう。
つみたてNISAと一般NISAとの違い
NISAには、これまで解説してきた「つみたてNISA」のほかに「一般NISA」があります。以下では、つみたてNISAと一般NISAの違いを表にまとめてみました。
【つみたてNISAと一般NISAの違い】
つみたてNISA | 一般NISA | |
---|---|---|
投資の方法 | 積立投資のみ | 制限なし |
対象商品 | 金融庁の基準を満たした投資信託のみ | 上場株式や投資信託などから幅広く選べる |
非課税枠の上限 | 年間40万円(月3.3万円) | 年間120万円 |
非課税期間 | 20年間 | 5年間 |
こちらの表の通り、つみたてNISAは積立投資に限定されているのに対し、一般NISAにはそのような制限はありません。それにともない、つみたてNISAの対象商品は積立に適したもののみですが、一般NISAでは上場株式やさまざまな投資信託から広く選ぶことができます。また、非課税枠の上限にも違いがあり、一般NISAのほうが高めに設定されています。
したがって、一般NISAはつみたてNISAより多くの金額を、株式などさまざまな商品から選んで投資をしたい人に向いています。また、投資のタイミングも自分で決められるので、ある程度投資の経験がある方は一般NISAを選ぶと良いでしょう。
一方で、少額から始めたい投資初心者は、つみたてNISAのほうが適しているといえます。
つみたてNISAとiDeCoの違い
つみたてNISAとよく比較されるものに、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と呼ばれるものがあります。これは、自分で決めた掛金を積み立てながら運用し、その掛金の合計額や運用益を60歳以降になってから受け取るタイプの年金制度です。
では、つみたてNISAとは主にどのような点が異なるのか、簡単に紹介しておきましょう。
【つみたてNISAとiDeCoの違い】
つみたてNISA | iDeCo | |
---|---|---|
対象商品 | 金融庁の基準を満たした投資信託のみ | 投資信託や保険商品、定期預金など |
最低運用金額 | なし | 毎月5,000円 |
年間運用額の上限 | 40万円 | 81.6万円 |
運用可能期間 | 最長で20年間 | 60歳まで |
iDeCoでは掛金のすべてが所得控除の対象となりますが、原則として60歳までは年金を受け取ることができません。つまり、年金の資産形成に特化した制度であるため、ほとんどの方が「老後資金の蓄え」として活用しています。
一方で、つみたてNISAは特に目的が制限されていないことから、老後資金や教育資金、住宅購入、早期リタイアなど、さまざまな目的で利用されています。
2024年から始まる新NISAとは?
NISAといえば前述の2つが有名ですが、実は2024年からは「新NISA」と呼ばれる制度が始まります。運用する資産や目的によっては、新しい制度のほうが適している可能性もあるので、新NISAの特徴についても簡単に紹介しておきましょう。
【新NISAの主な特徴】
・年間の投資上限額が2階層に分けられている(1階は20万円、2階は102万円)
・非課税期間は最長で5年間
・2024~2028年まで口座開設可能
上記のほか、階層によって投資対象商品が異なる点も大きな特徴です。
1階ではつみたてNISA対象商品(長期積立や分散投資に適したもの)、2階では上場株式や株式投資信託などが対象であり、1階の投資枠(20万円)を使い切らないと2階の商品を購入することはできません。つまり、新NISAは「つみたてNISA」と「一般NISA」を組み合わせたような制度といえます。
非課税期間がやや短いと思われるかもしれませんが、実は5年間の非課税期間が過ぎた後には、1階部分をつみたてNISAに乗り換えることも可能です。つみたてNISAに慣れながら、徐々に投資金額を増やしていくのに適した制度なので、数年後に投資を始める予定の方はぜひ検討してみましょう。
つみたてNISAのメリットは?
つみたてNISAのメリットを見てみましょう。
運用益が非課税になる
つみたてNISAの最大のメリットは、運用の利益が非課税になることです。
例えば、一般的な株式投資では配当益や売却益に対して、20.315%の税金(所得税15%、復興特別所得税:所得税の2.1%、住民税5%)がかかります。一方で、つみたてNISAでは税金が無料となるため、通常は税金として支払う分も運用に回すことができます。
売買の判断が不要
一般的な投資では、売買の判断が重要です。
売買の判断は、投資商品の価格が低いときに買い、高いときに売ることが基本です。ただし、高い・低いの判断は簡単ではないため、特に初心者であれば「判断に自信がない」と不安を感じるでしょう。
その点、つみたてNISAは積立型であるため売買の判断が不要です。
少額からでもスタートできる
少額からスタートできる点も、つみたてNISAの魅力です。
1万円以上の資金が必要になる投資は少なくありませんが、つみたてNISAは最低100円から始められます(※金融機関によって異なる)。少ない額からスタートし、余裕が出てきたら投資額を増やすようなこともできるので、初心者にとっては始めやすい投資といえるでしょう。
年齢の上限がない
年齢の上限がないことも、つみたてNISAのメリットといえます。
つみたてNISAと比較されることが多い個人型確定拠出年金「iDeCo」は、年齢の上限が60歳となっています。つまり、現時点で50歳であれば、10年しか掛け金を支払いできません。
その点、つみたてNISAなら何歳からでも20年間の積み立てができるので、じっくりと老後の生活に備えられます。
資産はいつでも引き出し可能
つみたてNISAでは、積み立てた資産をいつでも引き出すことができます。
一方で、iDeCoでは東日本大震災の被災者になるなど特殊な事情がない限り、60歳未満での資産の引き出しができません。その点、いつでも引き出しできるつみたてNISAであれば、教育資金や住宅資金、余暇資金など、積み立てした資産を自由に活用できます。
つみたてNISAのデメリットは?
以上のように、つみたてNISAには多くのメリットがあります。それでは、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
元本割れの可能性が0ではない
つみたてNISAのデメリットとしてまずあげられるのは、元本割れの可能性が0ではない点です。元本が保証される定期預金や保険と異なり、つみたてNISAは投資です。金融庁の基準により対象商品が厳選されてはいるものの、元本が保証されているわけではありません。
個別株などでの運用はできない
つみたてNISAでは、投資対象となる商品がすべて決められており、個別株などでの運用はできません。投資に慣れている人にとっては、これを「デメリット」と感じる人もいることでしょう。
なお、一般NISAを選べば個別株の運用も可能ですが、つみたてNISAとの併用ができないため、非課税枠を生かして個別株の投資をしたい場合は一般NISAを選ぶ必要があります。
損益通算や損失の繰越控除ができない
つみたてNISAでは、仮に損失が出た場合でも、損失を他の口座の利益と相殺して税金の負担を軽くする「損益通算」ができません。また、つみたてNISAの損失は税務上「ないもの」とみなされるため、損失を複数年にわたって控除する「繰越控除」も適用されません。
これらの点は、積極的に投資を行う人にとっては深刻なデメリットとなり得るので注意しましょう。
所得控除の対象にならない
つみたてNISAの運用益は非課税ですが、積み立てる金額自体は所得控除の対象にはなりません。一方で、前述のiDeCoではすべての掛金が所得控除の対象になるため、資産形成をしながら高い節税効果を期待できます。
非課税枠が持ち越せない
つみたてNISAでは、年間40万円の非課税枠のうち使用しない分があった場合でも、それを翌年に持ち越すことはできません。節税効果を最大限発揮させるには、1年間のうちにすべての非課税枠を使い切る必要があります。
つみたてNISAに向いている人
以上のようなメリット・デメリットがあるつみたてNISAは、どのような人に向いているでしょうか?
投資の初心者
つみたてNISAに向いている人としては、まず投資の初心者が挙げられます。元本割れリスクの低い投資商品が中心であり、かつ売買の判断も必要ないため、投資の経験が浅い方でも安心して始められます。
まとまったお金がない人
つみたてNISAはまとまったお金を一度にかけるのではなく、コツコツと積み立てしていく投資です。また、100円などの少額からでも始められるので、まとまった資金がなくても投資をしたい人に向いています。
途中で引き出す可能性がある人
60歳までは資産を引き出せないiDeCoと異なり、つみたてNISAはいつでも資産を引き出せます。したがって、老後に備えたい人だけではなく、教育資金や住宅資金を貯めたい人、入院などの急な出費に備えたい人などにも向いています。
年収103万円以下の人
iDeCoの所得控除は、そもそも所得税がかからない人(年収103万円以下)にはメリットがないものです。一方で、つみたてNISAの積立金は所得控除の対象ではないため、年収が少なくてもメリットが薄れることはありません。
また、販売手数料が0円であるつみたてNISAは、iDeCoより手数料が安くなるケースが多いです。
50歳以上の人
50歳以上で「積み立て投資を始めたい」と考える人は、iDeCoよりもつみたてNISAの利用が向いています。
例えば、iDeCoでは積み立ての上限年齢が60歳なので、50歳以上の方が始めるとすぐに運用期間が終了してしまいます。その点、つみたてNISAには年齢の上限がないため、50歳以上からでも最長20年の積み立て投資ができます。
つみたてNISAの始め方 4STEP
最後に、つみたてNISAの始め方を4つのステップに分けて紹介します。なお、実際の手順は口座の開設先によって若干異なる可能性があります。
【STEP1】口座開設をする金融機関を選ぶ
つみたてNISA口座は1人につき1つしか開設できないため、口座開設をする金融機関は慎重に選ぶ必要があります(※証券会社でも可)。金融機関選びにおいて特に意識しておきたいポイントとしては、次の点が挙げられるでしょう。
・購入したい商品を取り扱っているか
・最低積立金額に問題はないか
・質問窓口などのサポートが充実しているか
また、つみたてNISAは長期間運用するケースが多いため、気軽に足を運べる金融機関を選ぶことも大切です。電話やインターネットによる問い合わせも可能ですが、緊急時には窓口が必要になる可能性もあるので、できれば近くの金融機関を選びましょう。
【STEP2】口座開設の手続き
金融機関を決めたら、次は必要書類をそろえて口座開設の手続きを行います。開設先によって多少異なる可能性はありますが、事前に用意すべき書類は以下の2つです。
・本人確認書類(免許証や保険証など)
・個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、住民票など)
ちなみに、証券会社でつみたてNISA口座を開設する場合は、事前に総合口座の開設も必要になります。つまり、2つの口座を開設することになりますが、最近ではこれらの口座を同時に開設できるケースも増えてきました。
【STEP3】入金手続きをする
【STEP2】の手続きが終わると、通常は数日~1週間ほどで口座が開設されます。口座が開設されたら、いよいよ積立投資用の資金を入金しましょう。
入金手続きの流れは口座の開設先によってやや異なりますが、基本的には「自動引き落としサービス」が用意されています。このサービスを活用すれば、最初に設定するだけで毎月一定金額を積み立てられるので、入金の手間を大きく省くことができます。
なお、投資資金に余裕がある場合は、つみたてNISAの年間上限額である40万円をいきなり入金しても構いません。
【STEP4】購入する商品を選ぶ
ここまで進めば、あとは購入する商品を選ぶだけです。過去の運用実績や運用方法、コストなどを確認しながら、目的や投資金額に適したものを選びましょう。
つみたてNISAを活用し将来に備えよう
今回紹介したように、つみたてNISAは長期積立投資や分散投資に特化した制度です。さらに100円の少額から始められるため、特に初心者には始めやすい投資方法といえるでしょう。
銀行の金利も低いこれからの時代、資産形成には投資の活用が必要です。つみたてNISAで将来に備えましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)