これまで、プライベートバンクをはじめとする金融機関の富裕層向け営業のアプローチは、対面営業(フェイス・トゥー・フェイス)が主軸だった。しかし、新型コロナはその在り方にも変化をもたらしているという。今後は、いかに「非接触型」のコミュニケーションにおいて工夫を施すかがポイントだ。
緊急事態宣言下で、富裕層はほさど抵抗なくビデオ通話などを活用
「Zoom」や「Microsoft Teams」、「Cisco Webex meetings」など、主要なウェブ会議ツールはもはや多くのビジネスパーソンにとって、すっかりお馴染みの存在となっていることだろう。図らずも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進させる結果となった。
ビジネスシーンのみならずプライベートタイムにおいても、オンライン飲み会のような“苦肉の策”とも言えるイベントも生まれている。依然として新型コロナの猛威は衰えを見せておらず、今後も公私ともどもにおいて、こうした「非接触型」のコミュニケーションが主流とならざるをえないだろう。
富裕層もその例外でないことは、野村総合研究所(NRI)が5月中旬(14〜15日)に実施した調査からも明らかになっている。5000万円以上の金融資産を保有する世帯を対象に実施したもので、緊急事態宣言下の自粛期間中にZoomをはじめとするビデオ通話を利用していたと回答した富裕層は全体の55%に達していた。
そして、「仕事とプライベートのどちらでも利用している」と答えた人が21%に達し、「仕事だけ」や「プライベートだけ」よりも多かった。ちなみに、同調査では5000万円以下の金融資産を保有する世帯にも同じ質問を投げかけているが、ビデオ通話を利用していたとの回答は50%で、「仕事とプライベートのどちらでも利用している」(18%)との回答も富裕層のそれを下回った。
わずかの差とはいえ、富裕層のほうが新たなコミュニケーション手段を積極的に活用していたと受け止めえられるだろう。どちらかと言えば富裕層に対しては「保守的なスタンス」という先入観が働きがちだが、それは誤解のようだ。
金融機関の担当者とのコミュニケーションも「非接触型」へと急激にシフト
富裕層に対してはプライベートバンクをはじめとする金融機関がアプローチを図っているはずだが、新型コロナはその在り方にも変化をもたらしている。従来、金融機関による富裕層の攻略は対面営業(フェイス・トゥー・フェイス)が主軸だった。
しかし、緊急事態宣言が解除された後も直接的なアプローチの制限は余儀なくされており、いかに「非接触型」のコミュニケーションにおいて工夫を施すかが求められている。むしろ富裕層側は、そのほうが好都合だと考えているような傾向もうかがえる。
前出の調査で「金融機関からの資産運用に関する情報提供やアドバイスの望ましい受け方」について質問したところ、最多回答となったのは「金融機関から情報提供やアドバイスを求めていない」(44%)だった。そもそも、多くの富裕層は自ら望んで金融機関の営業トークに耳を傾けていたわけではなかったのだ。
相手の熱意に根負けし、「せめて話だけは聞こう」という心づもりで招き入れ、「誠実そうな人柄に見えるし、そこまで言うなら……」と相手のアドバイスに応じる−−。こうしたフェイス・トゥー・フェイスの強みを生かした営業活動が展開されてきたわけだが、これが成り立ちにくくなっているわけだ。
しかも、ビデオ通話やウェブ会議といったツールがその代替的な役割を果たすことはあまり期待できないかもしれない。前述の質問に対し、「金融機関の担当者とパソコンまたはスマートフォンのビデオ通話を通じて情報提供やアドバイスを受けたい」答えた人は13%すぎないのだ。
対照的に、「メールやホームページ、レポートの郵送など、金融機関の担当者を介さずに情報提供やアドバイスを受けたい」との回答が23%に達し、「金融機関から情報提供やアドバイスを求めていない」に次いで多かった。もともとガードが固いうえに、ビデオ通話やウェブ会議といったツールを通じてのコミュニケーションは、「これ以上の話を聞くのは煩わしい」と思った時点で一方的に打ち切るのも容易だ。