(本記事は、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の著書『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)

祖父母から結婚資金や子育てのための資金を援助してもらう場合に、どのような方法がありますか?

相続税,基礎控除
(画像=PIXTA)

●結婚・子育て資金の一括贈与の特例とは?

結婚資金や子育てのための資金援助についても、一括での贈与については、同じように「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」があります。

この特例は、将来の経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層について、両親や祖父母の資産を早期に移転することを通じて、子や孫の結婚・出産・子育てを支援することを目的とした特例措置です。

2015年4月1日から2019年3月31日までの期限付措置でしたが、2019年の税制改正で適用期限が2021年3月31日まで2年間延長されることになりました。

制度としては、受贈者(贈与を受ける子、孫等)は20歳から50歳未満で、50歳になった時点で贈与金が残っているとその残額に贈与税がかかります。また、2019年の税制改正で、受贈者の所得が1,000万円を超えると適用は受けられないものとなりました。

したがって、この特例の目的は、将来の経済的不安から結婚・出産を躊躇している若年層に対して両親、祖父母が費用を一括贈与することで、不安を取り除き、背中を押す点にあるといえるでしょう。

●1人につき合計1,000万円まで非課税

結婚・子育て資金の一括贈与の特例の非課税限度額は、子や孫等1人につき1,000万円です。このうち、結婚費用に充てられるのは300万円までとなります。なお、結婚・子育て資金の「結婚」の費用とは、婚礼、披露宴費用、新居の住居費などが該当し、「子育て」は不妊治療費、妊娠中の通院費、子供の医療費、保育料などが該当します。

注意が必要なのは、贈与者(両親や祖父母)が亡くなると、その時点で特例の適用が消滅してしまうという点です。贈与者が亡くなると、受贈者が50歳未満であっても、残額はすべて相続または遺贈で受け取った財産とみなされて、相続税が課税されることになります。

また、受贈者が50歳になった時点で、贈与金額が残っていると、その残額に贈与税がかかります。受贈者が50歳になる前に亡くなった場合には、残額に贈与税は課税されません。

●結婚・子育て資金の一括贈与の特例の要件

この特例の適用を受けるにあたっての要件は、以下のとおりです。

・直系尊属から20歳以上50歳未満の子・孫等への贈与であること
・受贈者の所得が1,000万円以内であること
・結婚や子育ての資金に使用すること
・金融機関で口座を開設すること

金融機関で専用口座を開設した後に、贈与された金額の預入れを行う必要があります。また、このとき、受贈者から所定の申告書(結婚・子育て資金非課税申告書)を金融機関に提出する必要があります。なお、口座を開設する前に贈与者と受贈者の間で、書面による贈与契約を締結する必要があります。

開設可能な専用口座は、受贈者1人につき1つです。一度に全額ではなく分割して預け入れることも可能です。

●信託を活用した結婚・子育て資金贈与について

信託は資金を預かるだけではなく、事務手続きのサポートも行えるのが特徴です。結婚・子育て資金贈与も信託で取り組むことができます(名称は、「結婚・子育て支援信託」が一般的です)。

結婚・子育て支援信託の仕組みについて、ここでは三井住友信託銀行の提供しているサービスを例としてみてみます。

非課税扱いとする条件である、(1)結婚・子育て資金口座の開設、(2)資金口座からの出金、に付随する事務取扱いを信託銀行が担います。資金を信託銀行に預け入れる時点で贈与を受ける方から「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出いただき、信託銀行から税務署宛てに提出します。贈与を受ける方から結婚・子育てに関する費用の領収書等と信託銀行所定の払出請求書を提出いただくことで出金(払出し)を行う仕組みです(図表37-1)。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

当初預入金額は金融機関によって異なります(三井住友信託銀行の場合、5,000円以上1,000万円以下1円単位)。また、現在、このサービスの利用に関しては、利用者に手数料がかからない扱いが一般的となっています。

相続に備えるためには、どのような方法がありますか?

そもそも、なぜ相続対策が必要なのでしょうか?その答えには、大きく3つのポイントがあります。

●“争族”の増加

遺言書がない場合など、亡くなった方の意思がわからない状態の場合、“争族”(争う家族)が発生しやすいといわれています。また、近年は、相続人の意識が変化してきたこと(権利意識・平等意識の高まり)や、親族間の関係の希薄化も“争続”発生の要因となっています。

以下の図表38-1をみても、遺産分割事件の新受件数(調停・裁判)は年々増加傾向にあることがわかります。遺言書などが存在しない場合、遺産分割を実行するには、相続人全員の同意が必要になるため、相続手続きも簡単には終わりません。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

「いやいや、わが家は相続税がかかるほどの財産がないので心配ありません」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、財産の多寡によって、“争族”が引き起こされるわけではないことは、図表38-2の遺産額別の認容・調停成立件数をみても明らかです。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

“争族”を避けるためには、資産を「誰に」「何を」「どのくらい」遺したいのか、を決めること(遺産分割対策)が必要です。一般的には、遺言や生命保険の死亡保険金受取の機能を使って、残したい方を指名して資産を承継することとなります。

●相続税制の改正

2015年1月に施行された税制改正で、相続税は増税になりました。相続税の改正点は大きく分けて2つあり、(1)基礎控除額が4割引下げになり、(2)最高税率は55%に引き上げられました。

一方、贈与税は柔軟化され、(1)20歳以上の直系卑属(子や孫)への暦年贈与の税率構造の緩和、(2)相続時精算課税制度の受贈者を、以前の子だけではなく、孫まで対象を拡大、といった改正が行われました。

この税制改正で、相続税の課税対象者は大幅に増加しています。

国税庁「統計年報(平成30年度)」によると、税制改正前の2014年では、相続税の課税対象者は4.4%でしたが、税制改正後で直近の2018年のデータは8.5%と約1.9倍に増加しました。相続税の納税者数は、税制改正前は約13万人だったものが、税制改正後には約26万人へと倍増しています。

相続税を納税するのは、遺された家族です。遺された家族が、スムーズに相続税を支払うことができるように、遺す側が、早めに納税資金の準備・対策を考えておくことが大切です。

●相続手続きの負担

相続手続きには、期日が迫られる事項も数多くあり、また、金融機関への届出・手続きなど、相続人(平日勤務者である子供や高齢者)にとって、負担は少なくありません。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

まず相続が発生したら、7日以内に役所へ死亡届を出し、また14日以内に健康保険・公的年金(厚生年金は10日以内)の手続きを済ませます。相続放棄をする場合は、相続の開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所にその旨の申述が必要となります。

その間に、初七日や四十九日などの法要なども済ませなければなりません。さらに亡くなられてから4ヵ月以内に、亡くなられた方の所得税の申告や納付を行います。そして10ヵ月以内に、遺産分割協議を済ませ預貯金や不動産等の名義変更をすべて終わらせ、相続税の納付を行う必要があります。

相続発生後は、遺産分割協議が終わるまで原則預貯金等の引き出しはできません(2019年7月1日から民法等の一部改正により預貯金の払戻し制度が始まっています。詳細は図表38−4を参照)。遺産分割協議が難航すると、葬儀費用や亡くなられた方の医療費、相続税の支払いなどに充てる費用は相続人ご自身が準備しないといけない可能性も出てきます。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

これら3つの点が、相続対策を考えるうえで留意すべきポイントですが、相続対策を考える際には、以下のように総合的に考えることが大切です。

・“争族”を回避する遺産分割対策として、生命保険や遺言信託を活用する

生命保険は、死亡保険金受取人を指定することで「お金に宛名」をつけることができます。また、遺留分を考慮しておく必要はありますが、遺言書を活用すれば、法定相続人以外にも財産を遺すことができ、かつ法定相続分と異なる財産分割も可能です。

・相続税対策では、大切な資産をなるべく多く引き継げるよう、相続税額を確認し、節税できる点がないか確認しておく

生前贈与の活用、生命保険の活用、不動産の活用などがあげられます。生前贈与を上手に活用し財産の一部を次の世代へ移転しておくことで、相続発生時に課税対象となる財産を減らすことができます。相続人が受け取る生命保険は、相続税課税財産から非課税限度額まで控除することができるため、節税効果が見込めます(非課税限度額=500万円×法定相続人の数)。

相続税評価額は、一般的に現預金よりも不動産のほうが低く、さらに自用よりも賃貸用のほうが低くなることから、土地の有効活用なども節税対策の1つとなります。

・家族の当面の生活資金や葬儀費用、納税資金などのために資金準備しておく

資金準備の面で、生命保険は、受取人による死亡保険金請求手続後、原則5営業日以内に着金するので、有効な手段の1つです(一般的な相続財産の場合は、相続発生から相続完了まで数ヵ月〜10ヵ月程度かかります)。遺言代用信託(遺言代用型信託)もスムーズな資金の受取りに有効です。

相続対策の検討にあたっては、一人ひとり保有する資産の状況や家族の状況が異なりますので、どのような対策が有用なのかは専門家に相談されることをお勧めします。

●〈参考〉遺言信託とは?

『遺言信託』とは、信託銀行が『遺言書の作成のサポートや遺言書の保管、遺言の執行を行う』サービスの総称です。信託銀行では、遺言を検討されるにあたっての意向、相続人・受遺者、対象となる財産について十分に確認のうえ、遺言書の内容についてのご相談をお受けしています。

また、ご本人の生涯設計や生前贈与等を含めた遺産承継対策の全般にわたってのアドバイスも行っています。遺言信託は、作成された遺言を執行するところまでをサポートする総合サービスです。

●〈参考〉遺留分とは?

遺留分制度とは、一定の相続人(以下、「遺留分権利者」といいます)について、相続財産の一定割合を相続することが民法により保障されている制度です。遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することができます。

贈与や遺贈によりこの遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(かかる請求権を、以下、「遺留分侵害額請求権」といいます)。遺言が遺留分を侵害する内容であっても遺言が無効になるわけではありませんが、争いを避ける意味からも、遺言する段階で遺留分を侵害しないよう配慮しておくほうがよいでしょう。

なお、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った日から1年間行使しないとき、または相続開始の時から10年間行使しないときは消滅します。

遺留分権利者は、配偶者、子(直系卑属)、直系尊属(両親など)に限られ、兄弟姉妹には認められていません。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)
安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A
三井住友トラスト・資産のミライ研究所
三井住友トラスト・資産のミライ研究所は、人生100年時代において、一人ひとり が将来を安心して過ごすための資産形成・資産活用のあり方について、中立的な 立場で調査・研究し発信することを目的として、2019年9 月三井住友信託銀行に 設置された組織です。

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