(本記事は、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の著書『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)
主な資産の運用対象(預貯金、債券、REIT(リート)、株式など)や、その特徴、リスクやリターンの関係について教えてください
●リスクは「危険」という意味ではなく、「振れ幅」のこと
「リスク」という言葉を聞いて、どのような印象を持つでしょうか。なかには、「危険」「損をする度合い」などが頭に浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。「リスク(risk)」は「危険の生じる可能性」「危険度」と直訳されますが、資産運用や投資の世界では、意味合いが少し変わってきます。図表11-1のとおり、資産運用の世界では、「リスク」は「振れ幅」のことを指します。そのため、価格が下落したときだけでなく、上昇したときも「リスク」ととらえ、振れ幅が大きければリスクが大きい、振れ幅が小さければリスクが小さい、と認識されています。
リスクと表裏一体で考えたいのは、「リターン」です。「収益性」と訳されますが、投資対象を考えていくうえで、このリスクとリターンの関係は最初に押さえておきたいポイントです。
●主な運用対象資産とリスク・リターンの関係
運用対象資産の特徴をリスク・リターンの観点からみていきましょう(図表11-2)。
預貯金は、元本が保証されているものであり、リスク(振れ幅)はほとんどありません。ただ、現在の低金利環境化では、利息はほぼゼロに近く、リターンも相対的に小さくなっています。
いわゆる投資対象として、リスクがありながらも、相応にリターンが見込めるのが、続く「債券」「REIT(リート)」「株式」です。
それぞれの大きな違いとして、その収益の源泉を押さえておきましょう。
●債券の特徴
債券は、債券を購入し保有している間は利子が定期的に受け取れ、満期になったら元本が返ってくる、という仕組みになっています。そのため、満期まで保有すると受け取れる「額面金額」(元本またはあらかじめ約束した金額)や、保有期間中受け取れる「利子」が魅力です。また、基本的には途中で売却することも可能です。
安定した利子収入が得られる点などから、図表11-2で比較的左下のほうに位置している債券ですが、発行体の信用力によって、リスク(振れ幅)の大きさはさまざまです。
国が発行する国債であっても、信用力の高い国とそうでない国であったり、企業が発行する社債も、その発行する企業によって信用力(格付)、利回りはさまざまですので、目的(到達したいリターン、許容できるリスク)に応じて投資する債券種別などを考える必要があります。
また、債券の価格は、原則、市場金利などと関連づいて日々変動しています。債券の価格が変動することにより、債券に投資したことにより得られる投資収益(利回り)も変わってきます。金利が上昇すれば債券価格は下落し、金利が低下すれば債券価格は上昇することも押さえておきましょう。
●株式の特徴
株式投資で期待した運用成果が得られるかどうかは、株式の価格の変動によって決まります。株価は、会社の業績や、景気、金利、為替などの経済の動きに加え、投資家の行動によっても変動します。株式の値上りによって得られる「値上り益」、会社が得た利益を株主に還元する「配当金」、また会社の製品やサービスの提供を受けられる「株主優待」が魅力です。
また、株式市場で株式を購入することで、会社に出資し資金面で応援する人(資金の出し手)を「株主」といいます。株主になると、その発行会社に対して出資額に応じた権利、すなわち「株主権」を持つことができます。
株式の実際の売買は、国内であれば図表11-4のような、証券取引所で行われます。上場基準や規模に応じて取引所は異なってきます。
●REIT(リート)の特徴
もともと、REITという仕組みは米国で生まれ、「Real Estate Investment Trust(不動産投資信託)」の略でREIT(リート)と呼ばれています。これにならい、日本では頭にJAPANの「J」をつけて「J-REIT」と呼んでいます。J-REITは、多くの投資家から集めた資金を、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産に投資し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する投資信託です。
REITと不動産投資の違いとして、通常、不動産投資は数百万円から数億円の資金を必要としますので、個人が不動産投資を検討しようと思っても、金銭面でネックになることもあります。一方で、REITを活用することで、1万円から投資が可能なため、気軽に不動産投資のメリットを享受することができます。いわば、「1万円で複数の不動産の大家さんになれる」というものです。
なお、これまで記載した、株式や債券、REITなどの投資対象以外にも、分散投資の1つとして「金(GOLD)」を選択する方もおられるでしょう。金は、純金積立などの方法以外にも、金価格に連動するETF(上場投資信託)を通じて購入することも可能となっています。
●投資信託の特徴
運用を始めようとする方のなかには「自分の運用は自分でやる」派もいれば、「運用のイロハは理解したが、実際の運用は専門家に任せたい」派もいると思われます。
投資信託は、「専門家に任せたい」というニーズに応える仕組みの金融商品です。具体的には、多数の投資者から集めた資金を1つの大きな資金(信託財産)として管理し、資産運用の専門家が株式や債券などに投資・運用します。そして、投資額に応じて、一定の費用(信託報酬)を差し引いた運用成果(利益)が投資家に還元される金融商品です。
個別の株式や債券を購入するには、それなりの金額を準備する必要がありますが、一般的に、投資信託であれば1万円程度から始めることができます。また、「集めた資金をどのような対象に投資するか」は、投資信託ごとの運用方針に基づき専門家が行います。1 つの商品のなかで複数の資産や地域に分散投資できるため、少額での投資でも、分散投資を行うことが可能です。
●パッシブ運用とアクティブ運用
投資信託の運用スタイルには、大きく「パッシブ運用」「アクティブ運用」「マーケット・ニュートラル運用」「ロング・ショート運用」「スマートベータ運用」などがあります。ここでは、そのなかでも代表的な「パッシブ運用」と「アクティブ運用」について説明します。
「パッシブ運用」では、市場の値動きを指数化した日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)等のインデックスの値動きに連動することを目指す運用手法です。インデックスファンドという括りで銀行や証券会社で紹介されており、運用中にかかる費用(信託報酬)はアクティブ運用のファンドと比べて安く設定されています。
一方で、「アクティブ運用」は、ファンドマネージャーが独自の調査見通しに基づいて資産配分や銘柄の選択などを行い、市場の平均的な投資収益率以上の運用成果の獲得を積極的に目指す運用手法のことを指します。相対的に、インデックスファンドよりも運用中にかかる費用(信託報酬)は高い設定となっています。
初めて投資をされる場合は、まずは耳なじみのある指数に連動したインデックスファンド(たとえば、日経225やNYダウなど)から始められる方が多いのではないでしょうか。もしくは、自身の関心の高いテーマ(たとえば、AIやCSRなど)や国・地域をもとに、アクティブファンドを選ばれる方もいると思います。
商品が多く選択に困っているという方は、まずは日常的に利用している銀行などのホームページで「投資信託」と検索し、シミュレーションページなどで自身の「リスク許容度」をみてみるのもよいでしょう。たとえば、日本証券業協会が作成した「基本から、きちんと知りたい人のための『投資の時間』」というサイトでは、金融商品相性診断チャートがあります。まずはこうした便利ツールを活用しながら、ご自身の資産形成の選択肢を広げてみることをお勧めします。
「投資」を始めるにあたり、理解しておくべき最低限のルールや留意点があれば教えてください
●投資目的、投資金額、投資期間が大切
投資をする際に、まず、その投資の「目的(何のため)」「金額(どれくらい)」「期間(いつまで)」を考えることから取り組んでみましょう。
身近な例をライフプラン、マネープランに当てはめて考えてみると、「今年結婚したので、5年後には自宅を購入したい。少なくとも500万円くらいは頭金として準備したい」と考えていた場合には、「目的:住宅取得、金額:500万円、期間:5年」が投資の前提条件と整理することができます。
前提条件の具体化ができると「自身のリスク許容度」が明確になってきます。「リスクをとって、できる限り大きなリターンを追求したい」という方もあれば、「リターンはそこそこでいいので、できる限りリスクを抑えたい」という方もあり各人各様と思われます。
しかし、投資の前提条件と突き合わせて考えてみると、「5年後に頭金として500万円」の目標に対して、「リターンは+20%ぐらいあるかもしれないが、同じくらいマイナスになる可能性もある投資」と、「リターンは+2%程度ではあるものの、マイナスになる確率も大きくない投資」のどちらが目的に適っているか、検討しやすくなると思われます。
どちらを選んだとしても、日々の経済活動により相場が変動するなか、価格の振れ幅を表すリスクをゼロにすることはできません。ただ、リスクを抑えながら、リターンを追求していくことは、次の3つの工夫によって実現可能です。
●「投資」における3つの工夫とは?
工夫1:資産分散・地域分散
値動きの異なる資産や地域に分散して投資を行うことで、リスクの低減を図ることができます。値上り益を追求する株式と、安定的な利子収入が見込める債券とを組み合わせて持つということや、株式のなかでも米国株・欧州株・日本株と地域を分ける方法もあります。
投資の有名な格言に、「卵は1つのかごに盛るな」という言葉があります。1つのかごに持っている卵をすべて入れてしまうと、そのかごを落としたときに卵はすべて割れてしまいますが、卵を入れるかごを分けておくことでかごの1つを落としてしまっても残りのかごの卵は無事、というものです。1つのものに投資をする方法もありますが、リスクを抑えながら運用するには、「ポートフォリオ」(資産配分)を考えることが大切です。
工夫2:時間(タイミング)分散
投資をするタイミングを複数回に分散することで、リスクの低減を図ることができます。
代表的なものは、定期的に定額で購入していく「ドル・コスト平均法」です。図表12-1は、10万円ずつ5回、合計50万円、投資信託に投資した場合のイメージ図です。基準価額(投資信託1万口の価格)は1ヵ月目が10,000円、2ヵ月目が8,000円、などと推移しています。一括購入の場合には、1回で50万円購入しているので、購入単価は10,000円、50万口の購入になり、追加・解約などしない限り変わりません。
一方、ドル・コスト平均法の場合には、毎月の購入額は10万円ですが、基準価額の変動により購入口数と平均購入単価が変わります。基準価額がいちばん高い10,500円の時(3ヵ月目)には約95,000口、基準価額がいちばん安い7,000円の時(4ヵ月目)には約140,000口の購入ができ、その結果として、5ヵ月間を通して平均購入単価は8,708円となり、一括で購入するより安く購入できたことになります。
これがドル・コスト平均法の特徴で、基準価額が上がっているときには購入口数を少なく、価額が下がっているときには多く購入することができ、購入単価が平準化され、高値つかみのリスクを軽減することができます。
工夫3:長期投資
投資タイミングを計ることはプロでもむずかしいですが、「時間を味方にすることができる」のが個人投資家の最大の強みです。国や企業などは年度ごとに決算があり、1年単位での成績を取りまとめますが、個人投資では、こういったルールはありません。投資期間を長くすることで運用成績の悪い時期と良い時期がならされ、1年あたりの平均的な収益率は安定する傾向があります。
留意しておきたいのは、リーマンショックや、2020年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行などで大きく市場が下落したときに、とにかく売却をしてしまう(いわゆる“狼狽売り”という行動をとってしまう)ことです。マーケットに参加し続けないことには、値下がり後の反発も享受することができません。“Stay in the Markets”を心がけることが大切です。
また、3つの工夫とは別に、投資に際しての手数料やコストについても確認し、比較することを習慣づけるようにしておくことも、実質的なリターンを把握するうえで大切なことといえます。
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