(本記事は、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の著書『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)

住宅ローンを抱えている家庭における家計防衛策とは?最近の状況を教えてください

住宅ローン,返済比率
(画像=Nishihama /stock.adobe.com)

三井住友トラスト・資産のミライ研究所は、2020年1月、全国の20〜64歳の男女1万人を対象に「住まいと資産形成」に関するアンケート調査を実施しました。

平成の時代はテクノロジーの急速な進化によって経済社会の仕組みも変わり、それに伴って新しいサービスが生まれました。一方で「人生100年時代」といわれるように社会で長寿化が進み、価値観やライフスタイルも大きく変化した時代だったといえます。

令和の新時代に入り、「人生100年時代」にあわせてさらに価値観やライフスタイルは多様化していくことと思われます。

今回、長寿化していく日本社会の各年齢層が、「住まいと資産形成」に関してどういう状況にあり、どんな意識を持っていて、どう行動していくのかを考察することを目的とし、世代比較を中心に調査を実施しました。

そのアンケート調査結果からいくつかの興味深い傾向が浮かび上がってきました。

●住宅ローン保有者は、案外、ローン返済に負担を感じていない

今回、住宅ローン返済中(返済完了者も含む)の2,957名に「住宅ローン返済額の負担感について率直な気持ち」を尋ねたところ、思いのほか「大きな負担」と感じていないとの結果が出てきました。

世代別にみても「まったく負担に感じない」「少し負担に感じる」を合わせた比率が6〜7割となっており、毎月の住宅ローン返済については「腹を括って払うと決めたら、所与のもの」ととらえていることをうかがわせる一方で、30歳代だけは「まったく負担に感じない」の比率が他の世代より低く、広い意味で「負担感をいちばん感じている世代」ではないかと考えられます(図表21-1)。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

また、今回のアンケート調査では「住宅ローン返済年額は世帯年収の何割か」も尋ねていますが、住宅ローン返済比率として相談を受けた場合、金融機関の一般的な回答としては「年収の2割台」を目安としているケースが多いのですが、30歳代は他の世代と比較して「年収の3割」「4割」の回答割合が高くなっており、他の世代よりも負担感を感じている層が多いことの背景の1つと考えられます(図表21-2)。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

●若い世代の住宅ローン保有者は、家計の工夫をスマートに実践、目的は教育費

今回のアンケート調査では、住宅ローン保有者(現在返済中)に「家計面で実行している努力や工夫」についても尋ねていますが、結果からは、若い世代の住宅ローン保有者の「スマートな工夫」が浮き彫りになってきています。

若い世代(20歳代・30歳代)の回答をみてみると、全世代平均に対して「ポイントやマイレージを積極的に貯める」「ふるさと納税など、税制の優遇措置を利用する」の回答比率が高く出ており、特に「ポイント・マイレージ活用」は10ポイント以上高い結果となっています(図表21-3)。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

2018年度のポイント・マイレージの発行額はすでに1兆円超の規模になってきていますが、2019年の消費税引上時のキャッシュレス還元策が追い風となって、クレジットカード、インターネット通販、航空での利用規模はいっそう拡大していきそうです。こういった環境を背景として、家計の防衛策として「ポイント・マイレージ活用で現金支出を抑える」行動が顕著になってきていると思われます。

アンケート調査では家計面での努力を行う最大の目的についても尋ねていますが、結果としては、20歳代・30歳代は共通で「日々の暮らしにうるおい・ゆとりを持たせるため」が高く出ている一方、30歳代では「子供の教育費の準備、支払いのため」が第1位となっており、「住宅ローンを返済しつつ、家計の努力をスマートに実践しながら、子供のための教育費を捻出していく」30歳代の家計への取組み方がみえてくる結果となりました(図表21-4)。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

まとめると、「若い世代の住宅ローン保有者の家計の工夫は“Smart Spending(賢い支払い方)”にあり。ポイント・マイレージを活用して、スマートに家計をサポート!」といったところでしょうか。

50歳代からの「資産形成」は手遅れですか?

●「手遅れなのか?」「間に合うのか?」

まず、「手遅れ」なのか「間に合うのか」を、総務省/家計調査報告の統計値(世代ごとの実支出、実収入の平均額)で眺めてみます。

シンプルに、「50歳時点で家計における老後生活資金は“ゼロ”、ただし家計の実支出以外の収入分(余剰)はすべて『老後生活資金準備』に注ぎ込む」ことにすると、図表22-1の(3)のように50歳代の10年間で2,160万円が用意でき、これを60歳以降の40年間の収支の不足分に充当していくと資金ショートを起こさずに何とか100歳まで到達できる計算です。

(注)住宅ローンを返済中の方は家計の余剰からローン返済されるので「余剰をすべて老後生活資金準備に」とはなりません。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

しかし、病気や住まいの住替えなどシニア世代のイベントコストが発生したときに、お金の余裕がまったくない、という事態も想定され「ハラハラドキドキ」感が漂います。同じ家計調査報告でみますと「40歳代の保有金融資産(平均)」は1,074万円ですので、この資産をイベントコストへ充てると考えれば、気持ちが少し穏やかになるかと思います。

ただ、「もう少しシニア世代のイベントへの備えをしっかり考えておきたい」というケースや、「すでに50歳代も半ばなので、今からだと手遅れ」と思われるケースもあります。これらのケースについて考えてみましょう。

一般的に、企業や団体等にお勤めの方は定年退職時に退職金(平均的には大卒〜定年退職まで勤め上げて1,000万〜2,000万円の規模)が支給されるケースが大宗なので、これを老後生活資金としてしっかり取り分けます。ですので、リタイア直後の保有金融資産は少し厚みを持つことが多いと思われます。

次に、現在、企業、団体等の定年年齢は60から65歳への引上げに向かっています。従前の「60歳定年」から5年間現役時代が長くなり、5年分シニア世代が短くなりますので「定年後の収入累計額が大きくなり」「定年後の支出累計額が小さくなり」「(60歳時点での)老後生活資金を取り崩し始める時点が5年後ろ倒しできる」効果が生まれます。

また、住宅を自己保有されている世帯であれば、「(金融資産での)老後資金準備がそれでも心細い」と思われる場合、「住まい」の「資産価値」に着目して、「リバース・モーゲージ」や「リース・バック」といった「住まいに住み続けながら(家を担保として)老後生活資金を調達する」手段を選択肢として検討することができます。

これらの要素を図表22-1に加えたのが図表22-2になります。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

現役世代を「A:50歳代」から「B−(1):60−64歳」まで延ばしています。ただし、この5年間の実収入はAの期間と同じ水準ではなく「Aの4割」で見込んでいます。それでも就労継続した効果で、60−64歳では収入と支出がほぼトントンとなっていますので、老後資産の取崩し開始期を65歳以降に後ろ倒しできています。結果、この概算では50歳から取り組み始めた老後生活資金準備(自助努力)を柱として、480万円の家計資産を持ちつつ100歳到達を見込むことができました。

これをベースに考えますと、(4)の家計での保有金融資産や(5)の退職金(場合によっては(6)の住まいを活用した老後資金)は、65歳から100歳の間に生じるシニア世代のライフイベントや、毎月収支における不測の出費などに充当していくイメージです。

しかし、「50歳代は、家計の実支出以外の収入分(余剰=18万円/月)をすべて『老後生活資金準備』に注ぎ込むのはいくらなんでも……」という場合は、「お金自身に働いてもらう=運用」を資金準備計画に加えていただくことで、手元から拠出する「老後資金準備額」を抑えることができます。

●考慮の余地ある「お金自身に働いてもらう」方策

たとえば、毎月8万円を積立運用した場合の期間ごとの資産額を図表22-3に示していますが、65歳まで積立運用することを想定すると今50歳の方なら15年後、今55歳の方なら10年後が目標になります。

月18万円を10年間(120ヵ月)積み立てると65歳時点で2,160万円となりますが、毎月8万円を給与天引きや口座自動引落型の「積立投資」で15年間、有価証券や投資信託などに定時定額投資を続けた場合、仮に年平均3.0%の運用ができたとすると、拠出総額1,440万円が65歳到達時点で1,810万円になる計算です。

少額でも継続的に投資を行い複利効果で「お金に働いてもらう」ことで、家計からの「老後資金準備への注ぎ込み」を効率的にすることができそうです。

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(画像=『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』より)

こういったいくつかの取組みを組み合わせて実施することをイメージいただければ、気持ちが「手遅れ」から「間に合いそう」に切り替わってくると思われます。

安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A
三井住友トラスト・資産のミライ研究所
三井住友トラスト・資産のミライ研究所は、人生100年時代において、一人ひとり が将来を安心して過ごすための資産形成・資産活用のあり方について、中立的な 立場で調査・研究し発信することを目的として、2019年9 月三井住友信託銀行に 設置された組織です。

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