(本記事は、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の著書『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』きんざいの中から一部を抜粋・編集しています)
「人生100年時代」といわれますが、昔と比較してどのようにお金に関する悩みが変化しているのですか?
●核家族から単身世帯にシフトする世帯構成
「人生100年時代」の意味合いとしては「長寿化がさらに進んでいく時代」ということで使われていることが多いようです。お金の悩みについての今昔を考えるうえでは、寿命とライフスタイルの2つが大きな要素となってきます。
約50年前の1970年では日本人の平均寿命は男性69.3歳、女性74.7歳でしたが、2018年では男性81.3歳、女性87.3歳と12年ほど寿命が延びてきています。寿命が延びることで、生涯の生活費用も従来よりも多くかかる計算ですが、それを考察するうえでライフスタイル(世帯構成)の変化は重要です。
厚生労働省が2019年7月に発表した「核家族や単独家族など、内部構成別の世帯数推移」(2018年版「国民生活基礎調査の概況」に掲載)によると、日本の世帯数そのものは増加中ですが、それを支えているのは核家族(「夫婦のみ」「夫婦+未婚の子供」「父親か母親のどちらか一方+未婚の子供」の構成による世帯)と単身世帯であり、2018年における全世帯数に占める比率では、
「核家族世帯 60.4%」 「単身世帯 27.7%」 「三世代世帯 5.3%」 「その他 6.6%」
となっています。
この50年の世代間同居のあり方の変化をみてみると、「三世代家族(祖父母・父母・子(孫))」の比率は10%以上減少し、その分、単身世帯や核家族世帯が増加しています。
構成比でみると核家族世帯よりも単身世帯の増加率が大きく、未婚の人が増加しています。また、1990年以降は「単身世帯…漸増」「核家族世帯…横ばい」となり、1990年あたりを境に、世帯構成のトレンドが核家族から単身世帯にシフトしています。
背景として晩婚化、未婚化に加え、高齢者の単身世帯の増加といった、かつて「先進国病」といわれた社会構造上の変化が、このタイミングで顕著になってきたといえます。
この社会構造上の変化は、個人のライフプラン、マネープランにおいて、従来であれば「親のめんどうは(同居して、家計も一体化させて)子供がみるのが当然」であったものが、「親のめんどうは親世帯が自己完結させる、自分の世帯家計は自身で完結させる」というかたちへの変化を促し、世代をまたいで補完していた関係を希薄化させていると思われます。
つまり、「世帯の家計は世代間扶助を含めてまかなう」形態から「各世代が自身の家計に責任を持つ」形態へ変化させてきているともいえます。
●「自助努力」による備えが重要となる生涯生活費の増加分
この変化を、長寿化の進行に重ね合わせてみると、高齢期における個人のライフイベント面では、
「長生きによる生涯生活費用の増加」 「長生きによる医療・介護費用の増加」 「高齢者(65歳以上)人口の増加を前提とした公的年金給付額の減少」
によって、生涯生活費用の増加が見込まれます。その増加分への備えは「自助努力」での取組みが求められるようになるでしょう。現役期においては、企業や団体での働き方と収入の関係が、従来の「年功的な右肩上り」モデルから「同一労働同一賃金体系」がより色濃くなり、徐々に「将来の年収上昇」は既定のものではなくなっていくと思われます。
それは視点を変えてみると、企業や団体に属していてもフリーランス的な働き方や兼業・複業といった2足、3足のわらじ的働き方の比率が高まってくる、ということかもしれません。
そういうかたちで世の中が変化していくと、従来型の「企業や団体に就職したら、お金の面はすべて国と所属する組織の処遇・制度に任せておけば悪いようにはならない」という期待感・安心感を持ち続けるよりも、「働き方や年収の稼ぎ方は各人各様で、世帯構成も法制上の結婚だけでなく、パートナー選びも性別を超えて多様化していく」という前提で、「各人各様の(自分らしい)ライフスタイルを自ら築いていく」という考え方をするほうが時代にフィットしていくように思われます。
従来の「お金の悩み」のイメージは「世間平均と比べてどうか?」という視点が大きかったように思いますが、人生100年時代にあっては「人生の選択肢が増えていくなかで、誰と、どんなことをやりたいかを決め、必要なマネープランを一緒に考えていく」というかたちに進化していくものと思われます。具体的な取組みとしては、今後のライフイベントとそれに必要な資金見込み、それを準備するためのマネープランを「それぞれの世代」の実情に合うかたちで考え、上手に使えそうな金融サービスを利用することが重要です。
安心できるミライを過ごすために、どのくらいのお金が必要ですか?
●60歳〜100歳までの家計収支は約2,000万円の支出超過
「安心できるミライ」をイメージするうえで、まず、現時点で人の一生において、どのくらいのお金が必要になるのか考えてみましょう。
図表4-1は、総務省の家計調査報告の「既婚・自宅保有・ローン返済あり世帯」データから算出した各世代の支出と収入の平均額です。お金の問題をシンプルにとらえる観点で「支出」と「収入」の2つに着目して考えてみます。
今後、65歳以降でのリタイアが一般的になってくると思われますが、現状では60歳をリタイア年齢とおいて、それ以前を現役世代、以降をシニア世代として位置づけ、「人生100年時代」ということで100歳までを射程に置いてみます。
俯瞰しますと、既婚・自宅保有・ローン返済あり世帯の生涯収支は、人生を100年間として、
・使う系(支出)で約3億円
・稼ぐ系(収入)で約3.6億円
・現役世代は、「収入>支出」で20歳〜50歳代までの差分合計では約8,000万円の収入超過
・シニア世代は60歳代以降「収入<支出」となり100歳までの差分合計では約2,000万円の支出超過
という概算値が出てきます。
●50歳代の保有金融資産額の平均は1,641万円
単純に生涯支出と生涯収入の差分だけみると「約6,000万円のプラス」となっていますので、「これなら“ミライ”は大丈夫」といいたいところですが、これは集計上、現役世代(20歳〜50歳代)の収支差分合計が約8,000万円のプラスとなっていることが寄与しています。そこで、同じ『総務省家計調査報告』の「50歳代の保有金融資産額(平均)」をみてみると、1,641万円となっており、先ほどの8,000万円と大きく乖離しています。
これは、住宅購入時の頭金や諸費用、引越し費用、教育費(入学金、受験費用など)、車などの購入費など、月々の平均支出を大きく上回る支出が現役世代でライフイベントとして生じたことから、「50歳代のリアルな保有資産」はシニア世代での支出超過2,000万円をまかなえる水準までには至っていない、というのが実態です。
では、シニア世代に入る直前で、家計の保有金融資産が2,000万円あれば「安心できるシニア世代」といえるのかというと、そこにも考慮すべき点があります。
1つ目は、将来のインフレ(物価上昇)です。インフレはモノの値段が上がることですので、言い換えるとお金の価値が目減りすることです。老後のライフプランを考える際に「将来、これぐらいの資産はあるだろう」と思っていてもインフレが進むと資産の目減りのピッチが早くなることに注意が必要です。
2つ目は、少子高齢化に伴い、年金収入(国からの年金)も減少する可能性があることです。現在、国の年金制度では、年金制度の将来にわたる維持を図る目的で「マクロ経済スライド」により調整を行っています。これは、年金制度維持に関する将来の現役世代の負担が重くなりすぎないように、年金給付の水準の伸び率を物価の伸び率よりも低く抑える仕組みです。
したがって、上記のインフレが進行すると「手持ちの金融資産」の価値が目減りするだけでなく、公的年金の給付水準が物価の上昇に追いついていかない、という事態も出てくるということです。
3つ目は、シニア世代の収入面の柱である「公的年金」の受取額は現役時代のライフスタイルや働き方で幅がある、ということです。こういった話題でよく「夫婦2人世帯の年金額はどうなるのか」という情報がありますが、現時点の公的年金制度に今から加入するとした前提でケース別に試算してみたのが図表4-2です。同じ夫婦2人世帯であっても「共働き」か「片働き」か、厚生年金受給か国民年金受給かによっても年金額が異なってきます。
こういった点をふまえると、将来の「安心」をかたちづくる要素として、物量面・金銭面の大きさやゆとりも重要ですが、心配の種が少ない、ハラハラドキドキしない、といった点の重要度が高まってくるものと考えられます。加えて、どんな世代においても「自分で選べる選択肢や可能性があり、自ら決定していくことにワクワクできる」という要素も大切になってくると思われます。
各個人、各世帯における「安心」をイメージしたうえで、それを維持するための支出がどれくらい必要なのかを具体化し、必要な支出よりも収入(シニア世代においては「年金収入」+「自分で保有している老後資金からの取崩し」)が、安定的に上回っていくように計画を立てていくことが重要です。
安心できるミライを過ごすために、「資産形成」をどのように考えていけばよいのですか?
●まずはライフイベント別の必要費用の把握を
家計では、「通常生活の支出」と「ライフイベントに関連する規模の大きな支出」があります。日々の支出よりも日々の収入が大きければ、生計は安定的に推移していくはずですが、ライフイベントのなかには、ひと月の収入をはるかに上回る規模のイベントへの支出もあります。
図表5-1をみると、そのような支出規模が大きいライフイベントについても、発生が「予測できる」ものと「予測できない」ものがあることがわかります。予測できるものについては、毎月の収入と支出の差分(余剰)を取り分けておいて、それをイベント発生時にイベント費用に充当する、という「準備してから支出する」という手順がフィットします。具体的には、結婚費用や車の購入費用、住宅購入費用のうちの頭金などです。
予測できるもののうち、「(金額が大きくて)支出を準備するまでに時間がかかり過ぎるもの」については「先に支出しておいて、後で支出の穴埋めをしていく(ローンでの返済)」というかたちが用いられます。これは、準備⇒支出の順番を逆にして、支出⇒穴埋めとすることなので、仕組み的には一緒といえます。つまり、「将来の収入の一部を前借りして、(まとめて)支出する」ということです。
「先に支出し、後で穴埋め」に合いそうで合わないのが教育関連費用です。たしかに、幼稚園から大学までかかる学費をまとめると千万円単位になりますが、ローン支払いになじまないことから、家計的には日々のフローから教育関連費用を捻出していくスタイルが一般的です。
か既婚子あり世帯が40歳代に突入すると、子供の学齢が中高大に差しかかり、住宅ローンの支払いと教育関連費用が通常の家計支出フローに相まって生じてきますので、この世代は「支出の負担を重く感じる」世代といわれています。
予測できない支出規模の大きなライフイベントには、「(家計の稼ぎ手の)死亡・就労不能」「所有不動産(家屋・土地)の災害による毀損」などがあります。予測できなければ積み立てておくこともできませんし、金額的にも対応がきわめてむずかしいことから、「共助」ということで、金融的には「たくさんの人々が少しずつ出し合って、お互いのリスクをカバーし合う」行動をとります。
これが、「共に助け合う:共済」という仕組みがベースにある各種の保険になります。これらのライフイベントへの備えは、「保険」の特性がぴったり合うといえます。
●「資産形成」に取り組む際の3つの考え方
このように、家計における「資産形成」とは、「将来のライフイベントに関する支出を準備するために、通常の家計収支の余剰分を計画的に取り分けて管理していくこと」といえます。家計の収入は「稼ぎ手」が働かないと入ってきませんので、資産形成を進めようと思うなら、まずは「お金を稼ぐ方向性」と「お金を殖やす方向性」で、整理して考えてみるとよいでしょう。
1つ目は、家計の余剰を大きくすることです。「(1)収入をアップさせる」「(2)支出を抑制する」「(3)そのどちらも行う」の選択肢があります。
2つ目は、家計を支える稼ぎ手の数を増やすことです。具体的には「片働きから共働きへ」という取組みが一般的です。
3つ目は、取り分けて管理しているお金自体に働いてもらうこと、つまり「資産運用」です。運用先は「預貯金」でも「株式・債券」でも「投資信託」でもよいのですが、将来的な支出イベントの大きさとその属性に合った運用先を選択できるように、少しだけ金融リテラシーを習得したうえで取り組むことが望まれます。
具体的には「何年後に発生するイベントに対して、これくらいの資産準備をしておくために、収益見込みとしてこれくらいを運用先に投資する」ということを決めておくとよいでしょう。それを計画・実行する場合は、独学でもよいですし、具体的な目標イメージを金融機関やFP(ファイナンシャル・プランナー)に相談することも良い方法です。
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