SCREENホールディングスは、半導体製造関連装置など3部門で世界シェア首位に立つ。創業事業だった印刷製版用ガラススクリーン製造から「思考展開」の精神で業容拡大を続け、2020年3月期は年間売上高3232億円、経常利益116億円の企業へと成長した。半導体の需要が世界的に高まる中、今後の戦略を廣江敏朗社長に聞いた。
最高経営責任者(CEO)
廣江 敏朗
Profile◉ひろえ・としお
印刷業から発展したダイレクト製版機
商業用インクジェットプリンタも展開
同社は半導体洗浄装置、PCから印刷用の版を出力するCTP装置、そしてテレビやPCなどのディスプレー製造用コーターデベロッパーの3つで世界シェア1位となっている。同社は4つの事業部門を展開するが、その中でも創業事業は、印刷関連装置を製造・販売するグラフィックアーツ機器事業(GA)だ。2020年3月期のGA事業の売上は455億5300万円となった。
─社名の「スクリーン」は、もともとは印刷部材に由来しているそうですね。
廣江 新聞などに印刷された写真をよく見ると、細かい点の集まりでできています。この点を作り出すのが「スクリーン」という部材。スクリーンには微細なメッシュ模様が刻まれており、印刷の元となる版を作る工程で使うことで、画像を点に変換します。1934年に、当社の前身である石田旭山印刷所の石田敬三が写真製版用ガラススクリーンの国産化に初めて成功しました。ガラススクリーンを作るときには、表面に非常に薄い均一な膜を塗ったり、その上に精密に線を彫刻したりエッチングしたり、それらを張り合わせたりという技術を使っていた。その技術が、現在の当社の事業の基になっています。
─ CTP(印刷用刷版出力)装置は、世界シェアの33%を占めています。
廣江 以前は原稿をカメラで撮影し、それらを集めてフィルムで出力して、さらに印刷用の版に焼き付けていました。CTP装置はPCデータからダイレクトに版を作ることができるので、撮影もフィルムも不要。このCTP装置の普及によって、印刷の経費節減や大幅な工程短縮が実現しています。こちらは国内外の大手印刷会社向けに販売しています。
─その一方で2006年にはすでに、版が不要でPCから直接印刷できる、商業印刷向けインクジェット印刷機を発売していますね。こちらの将来性はどう考えますか。
廣江 当社は早くからインクジェット印刷機の開発に着手しており、印刷品質には高い評価を頂いています。最近は雑誌などの発行部数が減り、輪転機で印刷するとコストに見合わなくなったので、インクジェットで少量多品種を印刷するニーズが広がっています。また生活必需品である食べ物のパッケージやラベルの印刷も、今までの版を使った印刷から、少量多品種印刷できるインクジェットに代わってきています。
─6月には、ロール式高速フルカラーインクジェット印刷機「TruepressJetシリーズ」が高評価を受け、経済産業省認定のグローバルニッチトップ企業に選定されました。
廣江 このシリーズでは当社自身がインクも製造しており、装置の納入先にはインクもよく売れています。それによって、パーツやインク販売やメンテナンスなどのロングテールのビジネスも続いていきます。
▼GA事業インクジェット印刷機。GA事業では商業用インクジェット印刷機に注力。食品パッケージなどの「軟印刷」にも対応する
グローバルシェア45%の洗浄装置
年間約600台を世界に出荷
2020年3月期の部門売上が2305億100万円と、同社全体の7割を占めているのが半導体製造装置事業(SPE)だ。この事業では、薬液で半導体用シリコンウエハーを洗浄する「枚葉(まいよう)式洗浄装置」が45%、「バッチ式洗浄装置」が71%、そしてブラシで洗浄する「スピンスクラバー」が76%と、それぞれ世界ナンバーワンシェアを持っている。
─SPE事業の売上の約6割を占めるのが「枚葉(まいよう)式」の洗浄装置ですね。また「バッチ式」の装置も製造している。2つの違いはなんですか。
廣江 バッチ式はちょうどお風呂に入る時のように、薬液の入った槽に複数枚のウエハーをまとめてジャボンと漬けるもの。この方式では、ひとつのウエハーから出たゴミが別のウエハーに移ってしまう。またウエハーを引き上げるとき、薬液の表面に浮かんだゴミがくっつくこともありました。枚葉式は浴槽に入らずシャワーだけで上がるようなもので、一枚ずつウエハーの表面にフレッシュな液をかけ流す仕組みです。ですから、最近需要が拡大している高精細なウエハーの洗浄には枚葉式が向いています。
─ 半導体製造工程の中でウエハー上に回路を形成する「前工程」では、洗浄が全工程の30%近くを占めると聞きました。どのような技術で洗浄を?
廣江 ウエハーの上には微細なゴミが付いている。そのゴミが付いた原理を逆に利用して洗浄していきます。たとえばプラスとマイナスの電荷でくっついていたら反発する電荷を持たせる。金属のゴミであれば、その金属を溶かす液を流したりします。5ナノ(20万分の1ミリ)サイズで焼き付けられた回路パターンを壊さずにゴミを除去するのは困難で、高度な技術が必要です。
─ 高いシェアを持っている強みはなんでしょうか。
廣江 常に先の製品を顧客と共同開発していることです。たとえば現在は回路の幅が7ナノ、5ナノが量産レベルですが、当社はさらに幅の狭い3ナノの開発がほぼ終わっている。そして顧客によって出るゴミも違うので、共同開発することで微細な洗浄への要求を叶えた装置を作ることができるのです。
─ 装置の出荷台数と価格は?
廣江 出荷台数は、年によっても違いますが、約600台以上です。価格は1億円〜10億円です。日本のほか、北米、台湾、中国、ヨーロッパの半導体製造企業に向けて出荷しています。
▼半導体製造工程
▼SPE枚葉式洗浄装置。半導体ウエハーの枚葉式洗浄装置分野で世界最高水準の生産性を実現した「SU-3300」
大型有機ELパネル製造装置を研究
5G関連で基板描画装置が好調
ディスプレー製造装置および成膜装置事業(FT)の前期の売上は351億7900万円。液晶ディスプレーや有機ELディスプレー製造用のコーターデベロッパーが世界シェアの61%を占めトップとなっている。またプリント基板関連機器事業(PE)では、半導体チップの土台にあたるプリント基板に回路を描画する装置や検査する装置を製造。こちらの前期の売上は100億5400万円となっている。
─FT事業のコーターデベロッパーでは世界の過半数のシェアを持っています。
廣江 コーターデベロッパーとは、ディスプレーの基板となるガラス板に回路を焼き付けるための膜を塗布する装置。従来はディスプレー基板を高速回転させて膜を塗布していましたが、当社は膜をスリット状のノズルで塗布する技術を開発、ディスプレーの大型化にいち早く対応したことでトップシェアを築いています。
─スマホもテレビも有機ELディスプレーの使用が拡大していますが、今後の戦略は。
廣江 大型液晶テレビ関連装置への投資はほぼ終了しており、このところ有機ELのスマホ画面に向けて準備してきました。しかし、中国の大企業はまだ液晶製造ラインの減価償却が残っており、それが終わるまで世界的な生産の調整に入っているところです。ですから、今は有機ELスマホ画面の製造装置が中心です。─大型有機ELパネルの供給に関しては、韓国企業がほぼ独占状態です。具体的にはどのような取り組みを?
廣江 国産の有機ELパネルを製造する「JOLED(ジェイオーレッド)」という会社があり、SCREENも出資しています。JOLEDでは、発光材料をガラス基板に印刷する方法で有機ELディスプレーを製造している。そこでSCREENはインクジェットの技術を使って印刷する装置を製造し、パナソニック プロダクションエンジニアリングと3社でテレビ用の大型有機ELパネル製造関連に取り組んでいます。
─PE事業では基板にレーザーで回路を描く「直接描画装置」に力を入れています。
廣江 こちらは、前期はスマホ関連投資の停滞によって売上が伸び悩みました。しかし期の後半には、5G関連の投資に支えられ前四半期比で増収となっています。
創業150年で新たな挑戦
新しい事業の柱を育てる
同社は2018年に、前身である石田旭山印刷所の創業から150年を迎えた。印刷用スクリーンを通して培った「表面処理技術」「直接描画技術」「画像処理技術」の3つのコア技術を発展させて現在に至っているが、これまでは半導体やディスプレーといったエレクトロニクス関連事業に注力してきた。ここ10年ほどは多角化をはかるため、さまざまな分野の事業を模索している。
─新たに「ライフサイエンス」「検査計測」「エネルギー」の3つの事業領域の展開を発表しましたね。
廣江 歴代の社長は「思考展開」「脱本業・拡本業」という言葉と共に業容を拡大してきました。しかし、これまでは「拡本業」に偏ってきた。違うエリアで事業を考えていこうと、ここ10年ほどさまざまなチャレンジをしています。
─3つの事業領域の具体的な取り組みを教えてください。
廣江 「ライフサイエンス」では創薬・再生医療分野に向けての検査装置を販売しています。細胞を培養し、成長していく過程を生きたまま観察する。これは画像処理の技術を応用するものです。また、インクジェットで錠剤に直接印刷する装置なども販売しています。「検査計測」は、高齢化が進んで生産ラインでの省人化ニーズが強まるだろうということで、検査計測の自動化装置を販売しています。もともとは自動車生産ラインでの検査のために開発を進めていましたが、省人化という切り口でさらに応用をはかります。「エネルギー」では次世代型リチウムイオン電池や燃料電池の電極を作る装置を開発。こちらは顧客企業と共同開発をしており、完成後は我々の装置を使ってもらえれば。これらの中から、事業の柱となる新しいセグメントを生みたいと考えています。
売上高4000億円は達成可能
効率を追求し最高益更新を狙う
7月末に発表された同社の第1四半期の決算発表と同時に、4年間の中期経営計画を打ち出した。2023年に向け「イノベーションの創出と持続的成長サイクルによる企業価値向上」「収益性と効率性を追求し、利益に見合うキャッシュの創出」「サステナブル企業に向けたESGへの取り組み」を基本戦略に掲げている。
─今期の売上高予想は3135億円と前期比3%減を見込んでいます。今期スタートした4年間の中期経営計画「Value Up 2023」で、最終年度の24年3月期に売上高4000億円、営業利益率15%と目標を打ち出しましたが、あと4年ほどで達成するには、ちょっと高すぎる目標では?
廣江 いや、達成する気は満々です(笑)。今期のSPEの売上予想は2315億円。さまざまな団体や企業が世界の半導体市場の予測を出していますが、それを見ると、いちばん低い予測であっても、5GやIoTの拡大によって年率7%で成長するだろうと言われています。そうすると4年後には、市場と同じ率で成長すると売上は2800億円になる。さらに頑張って洗浄装置のマーケットシェアを伸ばしていくことで、3000億円の売上を作れると思っています。
─GAは、今期の売上予想は350億円と、前期の455億円を下回っていますね。コロナの影響を受けやすい分野なのでは?
廣江 足元では若干ダメージを被るものの、4年後には売上高450億〜500億円を達成できると考えています。またインク販売やメンテナンスなどのリカーリングビジネスも上がってくれば、収益率も上がってくるだろうと期待しています。
─最終年度のFTの売上目標も450億~500億円となっていますね。
廣江 FTの今期の売上予想は345億円。先ほどお話したように今年と来年は苦戦するでしょうが、そのあとでテレビ用有機ELパネル製造関連装置が売上を伸ばすと思っています。PEの今期予想は105億円ですが、基板の高密度・高精細化ニーズに応える高性能な後継機を出すことで、マーケットシェアを上げ、120億〜140億円の売上は可能だと考えています。4つのセグメントを合わせると4000億円を超えられる。だから、それほどアグレッシブな数字というイメージは持っていません。
─半導体業界の企業は、3年〜5年ごとに業績が浮き沈みする「シリコンサイクル」といわれる現象がありますね。業績安定のために考えている方策は?
廣江 半導体業界は、昔のように売上の急な落ち込みは減ってきています。それだけマーケットの裾野が広がっている。その中で業績が安定しないのはマネージメントの問題です。今回の中期経営計画ではROIC(投下資本利益率)の考え方を導入して、効率性を追求していきたい。そして2019年3月期の売上高である3642億円、18年3月期の営業利益427億円の過去最高記録を更新したいと考えています。
(提供=青潮出版株式会社)