技術的進化に対応した法整備は、社会全体のデジタル化を促進する上でも非常に重要な役割を担っています。

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

現在、多くの中央銀行に関する法律は中央銀行デジタル通貨(CBDC)発行を想定して策定されていないことから今後は法改正によって法的根拠を明確化する必要があり、最近では国際通貨基金(IMF)がワーキングペーパー「Legal Aspects of Central Bank Digital Currency: Central Bank and Monetary Law Considerations」を発表。

この中でIMFは、CBDCの発行を法改正によって明確に定義することは可能であるとする一方、法定通貨にペッグされた民間企業発行のステーブルコインに関しては違法性を示唆しています。

将来的には法整備とともにCBDCによる新たな金融秩序が創出されることが考えられ、本稿では中国で行われるデジタル人民元の最新事例を紹介し、安全な利活用に向けた制度設計について考察していきます。

目次

  1. 中国蘇州市・デジタル人民元の無料配布計画を発表
  2. CBDCの安全な利活用に向けて
  3. まとめ

中国蘇州市・デジタル人民元の無料配布計画を発表

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

中国では今年1月に暗号法が施行され、各省においてブロックチェーン技術を最新技術と組み合わせたインフラの構築計画が発表されるなど、市民生活の利便性向上に向けたブロックチェーン技術の利活用が進行。

キャッシュレス決済サービスAlipayやWechatPayが普及し、1つのアプリにECサイトやローン機能が統合されたスーパーアプリが人々の生活インフラとして活用されてきた歴史が中国にはあり、今後はデジタル人民元の普及が見込まれています。

中国蘇州市ではネット通販の商戦日である12月12日(双12)にあわせてデジタル人民元を抽選式で無料配布(エアドロップ)する計画を発表。

深センでは5万人が参加したデジタル人民元のパイロットテスト「紅包」が開催され、抽選で当選した95%の人々が実際の利用を行ったとされています。

今回の中国蘇州市におけるデジタル人民元の無料配布では、オフライン決済の実証も予定しているとされ、スマホをぶつけ合い送受金を実現する世界初の事例が誕生すると考えられます。

各国において新たな通貨システムへの対応が求められる中、デジタル人民元の普及は基軸通貨である米ドルを脅かすとも考えられていますが、現在のところ「内需拡大」「国内銀行を介した通貨システムの維持」を目的としているとされ、2022年北京オリンピックでの本格運用を目指した取り組みに今後も大きな注目が集まることでしょう。

CBDCの安全な利活用に向けて

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

米国ではデジタル商工会議所のイベントにおいてCBDCの基本設計について議論が交わされ、個人情報の保護は重要な検討課題として認識が広がっています。

法整備によってデジタルに対応した金融/通貨システムの構築を促進するためには、大前提として本人確認/個人情報保護のあり方を検討する必要があり、今年10月に発表されたG7共同声明においてはCBDCの透明性が確保されない場合には国際金融システムに大きな悪影響を及ぼすといった懸念も示唆されていました。

中国各省におけるパイロットテストにおいては、デジタル人民元アプリを使用する際に携帯電話の番号登録が必要とされ、本人確認を実施した上で利活用が行われる仕組みが施されています。

現金での決済の場合には、誰がどの店舗でどれくらいの支払いを行ったのかを管理することは多くの手作業が必要になるために困難でありましたが、今後は中央銀行/民間銀行が個々人の経済活動をデジタルなデータとしてデジタル人民元アプリを介して監督することも可能であると考えられます。

民間企業が提供するキャッシュレス決済サービスは、これまで人々の行動/消費データを活用することでサービスの拡充を図り、顧客体験のクオリティ向上を実現してきましたが、近年では個々人が自分自身のパーソナルデータの管理/共有をコントロールする「自己主権型アイデンティティ」の考えが社会全体に広がっています。

このことからCBDCの安全な利活用に向けては、本人確認/個人情報保護のみならず「自己主権型アイデンティティ」を意識した制度設計が必要であると考えられます。

まとめ

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

CBDCに対応した法律の整備をはじめとして安全な利活用に向けた制度設計など様々な検討が実用化に向けては必要であることがわかりました。

中国においても実際に市民がデジタル人民元の利用をパイロットテストの環境下で行うのは今年になって始まったばかりであり、今後も様々な技術検証を行うと考えられます。

12月12日の蘇州市における無料配布などを通じて市民生活への浸透を目指すと同時に、匿名性やプライバシー保護についても議論の活性化が望まれます。

一方で、データエコシステムを活用した高速改善によって様々な産業分野で各企業が市場競争力を獲得してきた事例もあり、個々人が共有を許可するデータのみを収集するCBDCの設計の検討など多くの議論が必要であると考えます。(提供:STOnline