11月
(画像=株主手帳)

 ティーケーピー(TKP)のビジネスモデルが転換期に差し掛かっている。このほど発表した2021年2月期上期決算では、新型コロナの影響で、主力の企業向け会議・研修事業の需要減により減収減益となった。一方では新たな需要も発生しており下期は営業黒字を見込む。同社はウィズコロナ時代に向けて新たな成長戦略を描いている。

河野 貴輝社長
河野 貴輝社長

Profile◉かわの・たかてる
1972年生まれ。大分県出身。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事を経て、日本オンライン証券 (現カブドットコム証券)設立に参画、イーバンク銀行(現楽天銀行)執行役員営業本部長等を歴任。2005年8月同社設立、代表取締役就任、現在に至る。

2021年2月上期は売上減だが
日本リージャスが業績に寄与

 同社の2021年2月期上期の売上高は、前年同期比15.4%減の205億4400万円、売上総利益は同48.9減の50億6200万円となった。

 同社はビルの空き室を借り上げ、会議室や研修室として貸し出すビジネスビジネスモデルで成長。2020年2月期の売上高は前期比53.0%増の543億4300万円となった。年間2万5000社以上が利用し、うち上場企業が2000社以上、売上上位500の年間利用施設数が1社当たり100施設、85%がリピーターだ。貸会議室数は全国で2000カ所以上にものぼる。

「しかし、新型コロナによる緊急事態宣言の影響で、貸し会議室の予約キャンセルやイベント等の開催時期の変更が相次いだ」(河野貴輝社長)

 主力の貸し会議室事業の月次売上高はキャンセル料含めて、4月が前年度30億6500万円から18億4400万円、5月は同26億3300万円から8億300万円へと大幅に減少した。6月以降は徹底した感染対策やウェビナー需要などで、「徐々に回復基調にある」(同氏)とは言うものの、どこまで前年度並みに回復できるかは依然として不透明だ。

 代わりに存在感を増しているのが、昨年子会社化したリージャスだ。同事業は世界最大級のレンタルオフィス事業を展開するリージャスの日本法人と台湾法人。現在リージャス日本と台湾合わせて、コミュニティ型からハイグレード型まで、6ブランド合計177施設15万㎡超のオフィススペースを提供している。

 リージャスの顧客の契約期間は平均1年から1年半と貸会議室と比較して長く、6月以降もコロナの影響は殆ど発生せずに顕著に推移している。

 上期の売上高は88億3100万円、買収に伴うのれん償却費を加味したのちも約4.4億円の営業黒字となった。

 同事業は平均約8〜12カ月で損益分岐点に達し、その際の稼働率は45%程度。約18カ月で巡航速度の稼働率65%に達する。中長期的に借りるケースがほとんどで市況に左右されづらく、長期に安定稼働が続くサブリース型のストックビジネスだ。

「日本リージャスへの問い合わせはコロナ禍でも減少していません。内見や新規契約者数は、緊急事態宣言下では落ち込んだものの、現在はコロナ発生前の水準まで回復しています」(同氏)

 同社は貸し会議室をニーズに応じて多目的化することで、飲料、ホテルなど複合的なマーケットの取り込みを図ってきた。リージャスもその一つ。これがコロナ禍でも確実な需要獲得に繋がっている。

「企業のオフィス改革が進む中、縮小移転先やオフィス機能の集約先として需要が集中しており、日本リージャスの新規契約の契約期間は増加傾向にあります」(同氏)

ブライダル大手と資本提携で
大型施設の出店抑制とCS向上

 ウィズコロナ、アフターコロナ時代で、人々の暮らしや働き方のニューノーマルとしてソーシャルディスタンスの確保が必要となる中、スペースの利活用にも変化が起き始めている。そこで同社では新たな一手を打った。これが挙式・披露宴の企画・運営等を展開している東証一部上場企業エスクリとの資本業務提携だ。

「当社の施設は今後、一人当たりの必要面積の増加や中小規模会場への分散利用が増加することなどから、今後の需要拡大への対応としてスペースの確保が必要不可欠となります。エスクリとの提携により新たな需要創出が期待できる」(同氏)

 エスクリのブライダル事業は、繁忙日となる土日祝日の需要は回復傾向であるものの、 挙式あたりの利用人数は減少傾向にある。このため平日利用の増加が課題だ。一方で「駅近」「ビルイン型」「開放的な天井高や窓」など、装飾が施された国内33拠点63バンケットをビルインモデルで好立地に出店している。これがシナジー効果をもたらすと期待している。

「当社の施設と立地的なシナジーが得やすいこと、また両社が相互に必要としている要素を双方が持ち合わせており、それらを補完し合うことができる」(同氏)

 TKPのネットワークに加えることで、これまで宴会を伴う需要を主に取り込んでいた施設の出店を抑制することができ、低コスト化と顧客満足度の向上を同時に図ることが可能になる、という訳だ。

宿泊施設との相乗効果で
複合マーケットを獲得

 同社ではコロナ禍収束までの施策として、これら事業の「選択と集中」を進めていく。

 同社は貸し会議室やレンタルオフィスのフレキシブルオフィスをコア事業とし、ホテル・旅館の宿泊施設、イベントプロデュース、人材派遣など周辺事業を準コア事業、ノンコア事業と区別。コア事業に注力し選択と集中を実施する。周辺事業はコア事業との組み合わせで、例えば宿泊と研修をパッケージにした施設の提供など、企業の需要に合わせたサービスを提案していく。

「主力の会議室事業は、ウェビナーなど利用スタイルやコロナ対策備品など、オプション需要が大きく変化しました」(同氏)。第2四半期のウェビナー受注件数は第1四半期と比べて2・5倍に急増。このため高品質なサービスを提供するパッケージプランの販売を強化していく考えだ。

 新型コロナをきっかけにしたオフィス環境の変化は、同社にとって追い風になる。今後新規の単独出店はリージャスが中心となり、TKP会議室はアライアンスを積極的に推進し、2030年には国内で1施設平均825㎡、約1500拠点まで増やしていきたいという。

 また、ビル1棟型のコワーキングスペース「SPACES」を新たに展開する。既に新宿で1棟をオープンしており、来期には更に2棟をオープンさせていく計画だ。

 企業向けの研修サービス市場は5000億円以上あるといわれている。ここを軸にホテル・料飲・広告市場を加えれば同社がターゲットとするマーケットは2兆円超になるという。

「当社はこれまで進めてきた事業のポートフォリオによって、今後も社会的環境の変化に適したビジネスモデルを構築していきたい」(同氏)

(提供=青潮出版株式会社