日本で生活をしていると感じにくい問題ですが世界には今も貧困と飢餓に苦しんでいる国や地域があることは周知の事実です。国際的な慈善団体や企業もさまざまな取り組みを実施し、1人でも多くの生活困窮者を助けようと活動を行っています。SDGsでも大きな目標の一つに掲げられている貧困と飢餓をなくすために必要な取り組みとはどんなものなのでしょうか?
貧困と飢餓はSDGsが1、2番目の目標に掲げる重要課題
SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は17の大きな目標を定めていますが1と2番目に掲げているのが貧困と飢餓の問題です。「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロに」という文言ですがいずれも貧困と飢餓に苦しむ人をなくす目標で共通しています。もう少しテーマの目標を詳しく掘り下げてみましょう。
- 貧困をなくそう:あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる
- 飢餓をゼロに:飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を推進する
出典:外務省
SDGsでは、目標1に対して7個のターゲットを設定しています。そのうち1.1と1.2では以下のように具体的な目標が示されています。
- 1.1:2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる
- 1.2:2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる
出典:外務省
同じく目標2に対しては8個のターゲットを設定しており1.1と1.2では以下のように具体的な目標が示されています。
- 2.1:2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする
- 2.2:5歳未満の子供の発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う
出典:外務省
国際的な目標だけにこれらのターゲットを達成するのは容易ではないでしょう。
世界の貧困の現状
では、世界の貧困の現状はどのようになっているのでしょうか。世界銀行の公式サイトによると世界銀行は2015年10月時点で貧困の国際的な基準を2011年の購買力評価に基づいて1日1.9米ドル(1米ドル105円換算で約200円)に設定。2015年10月以前は1.25米ドル(同レート換算で約131円)だったことから若干の数字の改善が見られます。
また貧困率は1990年の36%から2015年には10%、貧困層の数も1990年の18億9,500万人から2015年には7億3,400万人にそれぞれ減少傾向です。データの数字から見た貧困の状態は改善していることがうかがえます。
世界の飢餓の現状
一方、世界の飢餓の現状はどのようになっているのでしょうか。ユニセフ(国連児童基金)の公式サイトによると飢餓に苦しむ人の数は2019年の時点で6億9,000万人に上っています。膨大な人数ですが改善されるどころか2018年より1,000万人、5年間で6,000万人増えているというのです。飢餓人口が最も多いのは意外にもアジアで次いで飢餓のイメージが強いアフリカとなっています。
特にアフリカは、急速に飢餓が拡大している傾向です。ユニセフでは、新型コロナウィルスの問題にも触れ「コロナのパンデミックにより2020年末までに1億3,000万人が慢性的な飢餓に陥る恐れがある」と分析しています。
・数字で見る世界の飢餓の現状
地域 | 栄養不良人数 | 栄養不良の割合 |
---|---|---|
全世界 | 6億9,000万人 | 8.9% |
アジア | 3億8,100万人 | 8.3% |
アフリカ | 2億5,000万人 | 19.1% |
中南米およびカリブ海諸国 | 4,800万人 | 7.4% |
※2019年時点、ユニセフ公式サイトの報告内容から表を作成。
最も栄養不良の割合が高いアフリカは、アジアや中南米・カリブ海諸国の2倍以上の数値です。ユニセフでは、このままの状態が続くと2030年までに慢性的な飢えに苦しむ人口の半分以上をアフリカが占めると分析しています。
貧困と飢餓をなくすために活動している国際団体
このような現状に対し貧困と飢餓をなくすために活動している国際的な慈善団体もあります。
ワールドビジョンジャパン
「チャイルドスポンサーシップ」制度で知られる国際NGO(非政府組織)です。チャイルドスポンサーシップ制度は、毎月4,500円(1日150円の支援)の会費を払い支援地域に住む子どものスポンサーになることができます。支援する子どもたちからは、成長報告書が届き手紙のやりとりや「支援地訪問ツアー」に参加して直接会うことも可能です。
日本全国で6万人の個人と、約3,000の法人・団体から支援を受けています。
日本国際飢餓対策機構
貧困・飢餓と闘いながら生きている人たちを支え飢餓のない世界を実現するために「ハンガーゼロ」運動を展開する一般財団法人です。公式サイトによるとアフリカ北東部では1,300万人もの人々が過去60年で最悪の食料不足に陥っています。同機構では、3つのパートナー団体と協力して緊急食料パックや小麦粉の配給、予防接種などの緊急援助活動を行っているのが特徴です。
募金には、サポーター制度による継続募金や一時募金、緊急募金の3種類があります。
貧困と飢餓をなくすために取り組んでいる企業の3つの事例
慈善団体だけでなく貧困と飢餓をなくすための取り組みを実施している企業もあります。各社公式サイトの活動報告から3つ紹介しましょう。
日清食品ホールディングス株式会社<2897>
日清食品ホールディングス株式会社は、CSR活動「百福士プロジェクト」を定期的に実施しています。2018年に行った「はたら着かた改革NISSIN BAZAAR」では、社員が不要になったスーツや日用品などを出品しバザーに参加した社員に販売しました。テーマの「はたら着かた改革」とは、カジュアルな服装で勤務する週2回の「カジュアルデイズ」に合わせスーツの着用機会を減らす取り組みを表しています。
同社ではバザーの売り上げを子どもの貧困対策を行っている「子供の未来応援基金」に寄付しています。
伊藤忠食品株式会社<2692>
伊藤忠食品株式会社は、貧困や飢餓を撲滅する活動への支援を主に2つ実施。1つ目は「WFP国連世界食糧計画」の公式支援窓口の認定NPO法人国連WFP協会評議員になっているということです。同協会が国内主要都市で開催している「WFPウォーク・ザ・ワールド」というチャリティイベントにも参加し参加費用の一部は国連WFP協会が取り組んでいる「学校給食プログラム」の支援に役立てられています。
2つ目は「フードバンク活動」への支援です。この活動では、同社が株式を保有する企業から贈られた株主優待品や展示会出展メーカーから贈られたサンプル品、規格外品を、フードバンク活動を行っているNPO法人を通して生活が困窮した人々を支援する団体や児童養護施設に寄付しています。
株式会社チュチュアンナ<非上場>
アパレルメーカーの株式会社チュチュアンナは、世界各地の難民や自然災害を受けた地域に支援を行っています。苦しい生活を余儀なくされている人たち対し義援金や食料、水、自社商品を送付するなど貧困・飢餓対策にも積極的です。また先に紹介したワールドビジョンジャパンと協力して熊本地震や東日本大震災の被災地にも義援金や自社商品(靴下、インナーなど)を贈っています。
やはりCSR(企業の社会的責任)を果たす意味で事業内容の性格から飢餓・貧困対策に取り組むのは食品メーカーが多い傾向です。近年は、食品ロスが社会的問題になっているだけに飢餓の状態にある人たちのために廃棄になる食品をうまく活用できれば社会的にも有意義といえるでしょう。また食料以外でも株式会社チュチュアンナの例のように衣料品を贈って生活の向上に役立ててもらう支援方法もあります。
世界の飢餓や貧困は他人事ではない
2019年時点で世界では、貧困や飢餓に耐えて生きている人たちが約6億9,000万人もいるのが現状です。日本での生活では実感しにくい社会問題ですが、個人でもさまざまな形で飢餓や貧困を支援することができます。個人と企業それぞれができることに積極的に取り組み、SDGsが目指す貧困と飢餓をなくす取り組みがより一層広がることを期待したいところです。(提供:Renergy Online)