女性用アパレル、雑貨、化粧品・健康食品・旅行等のEC・通販事業(BtoC、BtoBtoC)およびEC・通販事業者へのソリューション事業を行うのがスクロール(8005)だ。通販事業、eコマース事業、健粧品事業、ソリューション事業、旅行事業、海外事業、グループ管轄事業の6つのセグメントを展開。ダイレクトマーケティングを中核的な能力として形成される複合通販企業体として、競合の多い業界での生き残りを賭けた熾烈な競争に挑んでいる。
毎週約850万部の
カタログを生協組合員に配布
スクロールの2020年3月期の売上高は726億円、営業利益は21億円、経常利益は23億円。最も売上比率の高いセグメントは全体の48.9%を占める通販事業で、次がeコマースの25.7%、そして、ソリューション事業19.5%の順だ。
主力の通販事業における最大の強みは、商品企画・販売・フルフィルメントを含めた一連のビジネス展開に加え、全国の生協との独自のネットワークによる安定した事業基盤を構築していることにある。
生協との取引開始は1971年。全国に127ある地域生協は、それぞれが独自性をもった個別のシステムを採用する。スクロールの場合は、長年個々の生協とシステム構築を行ってきたが、それは一朝一夕でできるものではない。
「常時カタログを配布する生協は80~90程ですが、近隣の比較的大きな地域生協に商品の供給支援を受けているところもあり、そうした生協にも我々のカタログは届いていますので、実質的には90数%くらいのカバー率になると思います。現在は、全国の生協組合員に毎週のべ800万~850万部のカタログをお届けしています」(鶴見知久社長)
ソリューション事業が
今後の成長ドライバーに
通販事業を除いた残りの売上をほぼ二分するeコマース事業とソリューション事業のうち、前者では、個人向けeコマース事業を展開する。運営するECサイトは専門性の高いものが多い。たとえば、海外ブランドファッションおよびファッション雑貨を扱う「AXES」、国内外のナショナルブランド化粧品および化粧品関連雑貨の「コスメランド」、かわいいお姫様系家具・雑貨「ロマンティックプリンセス」などだ。また、「ナチュラム」は、20万点以上を取り扱うというアウトドア・フィッシング・キャンプ用品等の通販サイトで、昨年からナチュラムの子会社となったミヨシの防災用品や備蓄品なども併せて販売している。一方の後者、ソリューション事業は、グループ内での成長ドライバーとして位置付けられている。同事業で行っているのは、EC・通販事業者へ展開する、長きにわたる通販ビジネスで培ってきたノウハウを生かしたシステム・サービスメニューだ。具体的には、受注・決済・物流業務の代行やBPOといったフルフィルメントサービス、EC・通販業務一元管理システムの提供を行うシステムサポート、売上拡大やCRM(顧客管理)の戦略を提案するマーケティングサポートなどがある。
その中で順調に成長しているのが、キャッチボール社が手掛ける「後払いドットコム」という後払い決済代行だ。EC利用者が急激に増加する一方、「カード払いはなんとなく不安だ」「商品が手元に届いてから代金を支払いたい」といった消費者の声に応える形で、利用者数を伸ばしてきた。後払い決済では新規参入業者も存在するものの、キャッチボール社の場合、蓄積されたノウハウをもとに与信管理や督促などをアウトソーシングすることなく自社で行い、コストを圧縮しているという。
ソリューション事業の売上のメインは物流代行だ。
「今年5月からは、茨城県つくばみらい市で新物流センターが稼働し、既に投資を完了しています。物流代行の取扱高は今後も伸びていくだろうと見ていますが、一方で、お客様の売上拡大に貢献するマーケティングサポートで収益を高めていきます」(同氏)
2010年以降M&A
により複合通販企業化
スクロールグループは、様々な変遷を経て今の業態に進化してきた。創業は1939年、元はミシン6台による縫製業で、戦後の日本が貧しかった時代に服の上から羽織るトッパーというヒット商品を生み出し、全国の婦人会ルートでの直販を始めた。1980年代後半には、現行の通販シェルパProに代表されるシステム( 業務一元管理システム) の提供からソリューション事業を開始。1989年には高丘センター(現在のSLC浜松西)を建設した。1990年代初め頃までは、訪問販売、カタログ個人通販、生協という三本柱でビジネスを展開するも、その後、まず訪販が斜陽化し、カタログも成熟期へと移行していくことになる。そこで2000年代からは、急速に普及してきたインターネット通販に取り組んだが、それまでとの業態の違いから、自前でのネットビジネス運営は難航した。
そして、前身のムトウから現・スクロールへと社名変更した翌年の、2010年には、イノベート社(現・AXES)を買収、M&Aによりグループ入りさせたネット専業通販企業を起点にEC事業を拡大するという新たなフェーズに移行する。これ以降は、売上高600億円台へと徐々に回復、2019・2020の両年度は、1990年代以来となる700億円台に乗せている。
同グループでは「DMC複合通販企業戦略」を掲げる。DMCはダイレクト・マーケティング・コングロマリットの略で、ダイレクトマーケティングという中核的能力をもって、あらゆる環境変化、マーケットニーズに対応することで、常に進化する高収益企業体のことだ。前述のキャッチボール社は2013年、ナチュラム社は2018年にスクロールの傘下に入った。現在は、主力の通販事業と、ソリューション、eコマースのほかに、健康食品や化粧品の販売、旅行などの事業で構成、スクロール単体の他に20社が連結した体制をとっている。
「ダイレクトマーケティングコングロマリットは、変化の厳しい環境のなかで生き抜くための術です。過去のインターネットの出現を含めた変化の激しい環境において、複数の事業を有していたため、変化に対応できました。例えば通販事業だけの一本足打法というのは、我々の将来を考えると非常に大きなリスクです。今、伸ばしていこうというものの筆頭としてソリューション事業が出てきましたが、将来に向けた布石、チャレンジがなければ、こういった事業も出てこなかったと考えています」(同氏)
「STEP」「SMS」の
2つの経営手法を採用
同グループを支える二大経営管理手法に「STEP経営」と「SMS経営」がある。
まず「STEP」はSmall Teams Earn Profit のことで、ビジネスを形成する最小のユニット単位で損益管理をするやり方だ。課の下に数名~10名規模のユニットを置き、各ユニットに、利益予算の数字を課している。ユニット毎の業績は日次ベースで把握しつつ、月次を締めてから3営業日目にユニット長が前月の業績報告を行う決まりだ。現在はグループ全体で約60のユニットがある。
「STEPは我々の経営管理手法としては中心のど真ん中にあります。いわゆる幹部経営層だけでなく現場も、この仕組みがないと成り立ちません。言ってみれば、日々の決算ができるわけで、数字に対する意識が強まります」(同氏)
一方、「SMS」はScroll Mission Standardの略。原点は業務基準書の構築にあったが、現在では、事業ミッションや組織機能、プロフィットスケール(※)の管理を行うなど、進化している。経営指標の計画と実績との間に生まれるギャップを再分析し次の手を考える手立てとしている。
同グループでは、3年間の中期経営計画を1年ごとに更新するローリング方式を採用しているが、2020年度から3年間の中期経営計画においては、20年度中に、収益力のあるDMC複合通販企業(第一次)の完成を目指し、22年度までには、同企業としての再成長戦略を推進していきたい考えだ。
「現在の中核事業である通販事業では利益率を高め、ソリューション事業を成長ドライバーと位置づけ、国内において唯一無二の事業体へと進化していきます。現中計では、21年度で売上高800億円、22年度で850億円を掲げており、過去最高売上高の765億円を上回る計画です」(同氏)
※目指すべきビジネスモデルの状態の売上を100とした場合の各PL科目を百分率で示したもの
(提供=青潮出版株式会社)