佐藤 直浩社長
佐藤 直浩社長

 アセンテック(3565)は、企業に対し「仮想デスクトップ」に関わる製品やサービスを提供、安全で利便性の高いテレワークの普及を後押しする。近年の働き方改革、今年のコロナ禍で需要が急拡大したことにより、足元の業績は堅調。時価総額も約280億円と、この1年間で大幅に増加している。

佐藤 直浩社長
Profile◉さとう・なおひろ
1958年生まれ。日本テキサス・インスツルメンツ、日本アイ・ビー・エム等を経て、2009年2月アセンテック代表取締役に就任(現任)。

手元端末でデータ操作可能に
PC紛失や感染をリスクヘッジ

 同社は2021年1月期通期業績予想を上方修正。売上高は62億円と変わらないものの、営業利益は期首の5億500万円から5億6800万円へ、経常利益も同5億500万円から5億8800万円を見込んでいる。

「仮想デスクトップ」とは、PCの代わりに、データをサーバに保存し、画面を転送させることで、端末にデータを保存することなく、操作できるようにするもの。PCだけでなくスマートフォンでも操作が可能で、自宅の端末で職場と同じ作業ができるようになる。データは全てサーバに保存されるため、端末からの情報漏洩リスクもない。

「一般的なPC環境は、データはPC本体に保存されるため、紛失や盗難、感染などPCを持つこと自体がリスクとなります。しかし『仮想デスクトップ』は、端末にデータを保存させず、手元の端末はあくまでもデータを遠隔操作するために使います。従って利便性や安全性が確保できるのです」(佐藤直浩社長)。

 官庁や金融機関に採用されるケースが多かったこのシステムが、注目を集めたのは、2011年の東日本大震災だった。被災した企業はもちろん、出社がままならないビジネスマンが続出し事業が継続できない事態が起こった。しかし「仮想デスクトップ」ならば、手元に端末さえあれば、出社しなくても遠隔操作ができ、BCPの観点から一般企業にも徐々に普及し始めたのだった。近年は、働き方改革の一環としても注目を集めてきた。

 仮想デスクトップ市場は2020年には約6600億円にも上り、ここまでの成長率は年間約8%。この分野で競合する大手企業はいくつかあるが、同社の強みは、クラウドサービスも提供することで、中小企業でも月額費用で利用できること。そのため、クライアント企業は大企業はもちろん中小企業まで幅広い。

「これまでは、PCの入れ替え時期に合わせて当社のシステムを導入するケースが多かったのですが、新型コロナウイルスのインパクトは大きく、一気にテレワークが進み、当社のシステムを利用する企業が増えました」(同氏)

 先日発表した2021年1月期第2四半期決算では、売上高32億200万円で前年同期比マイナス3.7%だったものの、経常利益3億5200万円で同33.3%増加となった。

「新型コロナウイルス感染症拡大により、一部のプロジェクトで遅延が発生するなどの影響はあったものの、『仮想デスクトップ』関連製品の『Resalio Lynx』などがテレワーク需要で急速に伸びたことに加え、サブスクリプションによる継続収入が利益増に寄与しました」(同氏)

サブスクで継続収入確保
自社製品拡大が成長ブースター

 同社の事業セグメントは、「仮想デスクトップ」「クラウドインフラ」「クラウドサービス」の3つ。主力の「仮想デスクトップ」は、売上高の60%以上を占める。「クラウドインフラ」は約35%、「クラウドサービス」が約0.2%。 同社が成長戦略として掲げているのは自社製品による継続収入の拡大だ。

「現在継続収入売り上げは、2020年1月期が5億800万円で全売り上げに占める割合は約10%程度です。これを2021年1月期には22%増にしていきたい」(同氏)という。

「仮想デスクトップ」関連製品では、既存PCをシンクライアント化するOS「Resalio Lynx」シリーズの開発を推進、これまで複数の金融機関で採用されるなど着実に実績を重ねてきた。同社はこのシステムの継続収入に注力。契約ID数は、2020年1月期現在、3万超で、2021年1月期は150%増を見込んでいる。

 この4月には、同シリーズの「Resalio Lynx700」が三菱UFJ銀行に採用された。本部勤務の行員を中心に展開し、在宅勤務などの仕事環境にとらわれない新しい働き方を後押しする。

 一方、大手クラウド事業者などが購入するサーバーやオールフラッシュストレージなどの販売を行っている「クラウドインフラ」事業の中で期待されているのが、仮想デスクトップ製品「リモートPCアレイ」だ。同製品は、サーバに20台のPCを集約、仮想デスクトップシステムの価格を抑え、導入期間も短縮させた。このためこれまで価格がハードルとなっていた中堅企業での導入が増えた。

 5月にはこの製品をバージョンアップ、ウェブ会議やオンライン研修、動画再生といった負荷の高い映像系アプリケーションでも快適な利用が可能なった。これにより、ナレッジワーカー等対象ユーザーが広がり、案件の大型化が期待されている。

 前期の累計出荷台数は310台、今期は66%増の約500台超を目標にしているという。

 9月にはパナソニックインフォメーションシステムズとの協業を開始。国産RPAソリューション「アシリレラ」を「リモートPCアレイ」上に実装することで、運用負荷を軽減し、セキュリティーを向上させることを可能にする。アシリレラの「ロボオペレータ」は、IT知識が不要で、シンプルな操作で簡単にロボットを作成できる純国産のデスクトップ型RPAソリューション。今回の協業により、より多くの企業への拡販を狙っている。

 事業拡大に向けての戦略的投資については、「ITインフラがクラウドにシフトしていく中で、3つのセグメントの拡大を目指し、パートナーとの資本・業務提携等、戦略的投資を実行し、自社ビジネスの拡大を図っていきたい」(同氏)

 この施策の1つとして同社は5月に福岡Qボード上場のピー・ビーシステムズと業務提携、テレワーク関連ビジネスの強化のほか、九州の拡販を狙う。

(提供=青潮出版株式会社