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来春の米住宅ローン返済猶予失効で1ドル=100円割れも

明治安田アセットマネジメント チーフストラテジスト / 杉山 修司
週刊金融財政事情 2020年12月21日号

 4カ月前に本欄で「米金融システム激震の予兆」を主因に円高圧力を想定した。最近の米連邦準備制度理事会(FRB)の高官発言等でこの「激震」の確度が高まり、1ドル=100円割れの円高も視界に入ってきたと考える。景気回復期待でダウ平均株価が歴史的な3万ドル達成を目前にした11月19日、ムニューシン財務長官が新型コロナウイルス対策の緊急融資制度の未使用資金返還をFRBに求めた。FRBは異議を唱え、シカゴ連銀エバンズ総裁は翌日に「雇用情勢や景気の勢いを正確に判断するには来春まで待たねばならない」と述べた。なぜ「来春」なのか。

 まず新型コロナ対策の財政支援法(CARES法)は、金融機関等に家計や企業への返済猶予を奨励する。年末までの時限措置で、返済猶予しても正常債権のまま、貸倒引当金の計上も不要とした。このため来春(銀行等の2021年1~3月期決算)以降でないと延滞率が実勢を示さず、コロナ禍の打撃を把握できない。

 エバンズ発言の前日、地域金融担当のFRB高官は全米の住宅ローン市場について警告した。その内容は、同市場は低所得者層を主対象に、資金調達力の弱いノンバンク(ローン組成と集金回収の専門業者)が約50%を占める構造的な脆弱性を有する、というものだ。

 家計が返済不能に陥ると、ノンバンク専門業者が一時的に肩代わりして住宅ローン債権の投資家等へ支払いを続ける。FRBのゼロ金利政策で住宅市場が活況な現状では、新たなローン組成業務からの資金流入で、集金回収業務での資金流出をカバーできている。

 だが同法がノンバンク専門業者に義務付けた家計の返済猶予は12カ月間。来春3月にも失効する。その4カ月後、差し押さえ住宅物件の売却が一斉に始まれば、住宅市況は急落し、資金繰り破綻する専門業者が続出しかねない。専門業者に融資する地域金融機関へ波及し、金融システム不安となり得る。

 コロナ禍で失業した2,200万人の半数近くが復職できていない。感染拡大に歯止めがかからない現状で、全米280万世帯(米抵当銀行協会調べ)に及ぶ返済猶予の世帯数が大幅に減る見込みは薄い。こうした現状を市場が織り込み始める来年前半には、FRBの緩和強化に加え、株価の乱高下が予想され、逃避的円買いもドル下落を加速させそうだ。

 さらにドルの下支え要因は弱まっている。ここ数年間、本邦機関投資家の外債投資のドル買いが材料視されたが、FRBの大幅利下げで低調に転じた。日本政府高官から、104円台で7月に、103円台で11月に円高牽制の口先介入が相次いだが、スピード調整にすぎないだろう。

 以上から、来年央のドル円相場を展望すると1ドル=99~104円と円高方向を想定する。

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