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長期上昇傾向が続く預貸ギャップ額の総資産構成比

(日本銀行「民間金融機関の資産・負債」ほか)

トリグラフ・リサーチ 代表 / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年12月21日号

 今年度に入って預貸金と日銀取引残高が急拡大した結果、国内銀行国内店銀行勘定の総資産残高は、上期中に68.9兆円(5.9%)も増加した。銀行バランスシートにおける主要項目の構成比推移を追うことは、銀行業界の役割やビジネスモデルの変化を確認する上で極めて有用である。

 図表1は、リーマンショック直後である2008年9月末以降の預貸金、日銀取引、有価証券残高の総資産構成比(存在感)の半期ベースの推移を示している。今年9月末の水準は、①預金70.2%、②貸出金44.8%、③日銀当座預金22.5%、④有価証券18.8%、⑤日銀借入金が6.9%だ。08年9月末対比の変化幅は、それぞれ①▲1.8ポイント、②▲9.9ポイント、③21.4ポイント、④▲5.0ポイント、⑤6.0ポイントである。

 預金の総資産構成比は70%前後の水準で安定しているが、対照的に貸出金は長期低落傾向が続いている。有価証券は12年3月末の32.1%をピークに低下局面に入り、17年3月末以降は20%を下回る水準で推移している。代わって存在感を高めたのは日銀当座預金であり、17年9月末には、当座預金が有価証券を初めて上回った。構成比1%台後半から3%台半ばで推移していた日銀借入金は、今年3月の日銀「コロナオペ」導入を契機に一気に存在感を高めている。

 図表2では、預貸ギャップ額と日銀純取引残高の総資産構成比推移を示した。預貸ギャップ額は16年3月末以降「再拡大期」を迎え、今年9月末には25.4%と過去最高水準を更新した。これは銀行の金融仲介機能が十分に発揮されていないことの証左である。日銀純取引残高の構成比は13年の異次元金融緩和策導入後、預貸ギャップ額を上回るペースで上昇を続け、17年3月末以降は15%以上の高い水準でほぼ推移している。17年3月末以降は、有価証券の構成比が20%以下の水準で安定推移した期間でもある。預貸ギャップ(余資)の受け皿が、有価証券運用のみではなく対日銀取引に向かった構図が浮かび上がる。

 このような銀行のバランスシートの構造変化は、果たして、わが国経済の活性化に資する方向性にあるのだろうか。筆者は疑問と懸念を抱かざるを得ない。

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(提供:きんざいOnlineより)