貸株サービスとは、投資家が保有する株を証券会社に貸し出して貸株金利を受け取る仕組みである。投資の運用効率を高めることができる手段だ。利用するネット証券会社によってサービス内容には違いもある。どの証券会社を選べば良いのか、各社の違いや特徴を比較してみよう。
1.貸株サービスとは?信用取引における「貸株」とどう違う?
貸株には、
① 信用取引で売建(空売り)を行うため、証券会社が投資家に対して株券を貸し出すこと
② 投資家が保有する株券を証券会社に貸し出すこと
という2つの意味がある。信用取引における貸株は①の意味、貸株サービスにおける貸株は②の意味で使われる。ここでは、後者の貸株サービスについて説明しよう。
貸株サービスの仕組み――保有する株を貸し出して貸株金利を受け取れる
貸株サービス(以下、貸株)の対象は、証券会社が対象外とする銘柄を除く国内上の貸株サービスを指す。株券を証券会社に貸し出すことで、投資家は証券会社から「貸株金利」を受け取ることができる。
貸株金利(貸株料)は、証券会社が株券を借り入れるために支払うレンタル料のようなものだ。銘柄や日によって変動し、中には年1%以上となる銘柄もある。証券会社は投資家から借り入れた株券を他の投資家などに貸し出し利益を得ており、その中から投資家へ貸株金利が支払われる。
貸株中の配当金を株主優待はどうなるのか?
貸し出されている株の名義は証券会社となるため、投資家自身は、株主としての権利である配当や株主優待、株主総会での議決権などは取得できなくなる。
貸し出し中の株に支払われた配当については、一般的に税金が源泉徴収された後、「配当金相当額」として証券会社から投資家に支払われる。
株主優待や議決権を得るためには、権利取得の基準日に株主であれば良い。つまり基準日に貸株を解除して株を返却してもらっておけば、それ以外の期間に貸株金利を受け取りながら、配当や株主優待、議決権なども通常通り取得できるのだ。
証券会社によっては、基準日に合わせて株を返却(貸株サービスを解除)し、権利取得後に再度貸し出す手続きを自動で行うサービスもある。
2.貸株サービスの5つのメリット
このような仕組みになっている貸株だが、
(1) 貸株金利(貸株料)を受け取れる
(2) 株を保有しているだけで利益を得られる
(3) 貸株している株も自由に売却できる
(4) 株の貸出期間を自由に決められる
(5) 手数料は無料
といったメリットがある。それぞれを詳しく見ていこう。
メリット(1)貸株金利(貸株料)を受け取れる
貸株の最大のメリットは、貸株金利(貸株料)を受け取れることだ。貸株金利(貸株料率)が高いほど、貸し出す株数(金額)が多いほど、貸出期間が長いほど、より多くの貸株金利を受け取れる。
メリット(2)株を保有しているだけで利益を得られる
株を保有しているだけで利益を得られるのも貸株のメリットだ。配当に加えて貸株金利を受け取れば、保有する株の運用効率を高められる。
メリット(3)貸株中も売却は自由にできる
貸し出している株は自由に売却できる。売却するときに株を返却してもらう手続きは必要ない。通常通りに売り注文を出せば、自動的に貸株状態が解消され、タイムラグがなく売却できる。
メリット(4)貸出期間を自由に決められる
株の貸出期間を自由に決められるのもメリットだ。貸株金利は日割りで計算され、貸出期間に応じて貸株金利を受け取れる。定期預金や個人向け国債のように満期がないため、途中解約によるペナルティもない(そもそも途中解約ではない)。
メリット(5)手数料は無料
貸株サービスは手数料がかからず、無料で利用できる。受け取った貸株金利は雑所得として総合課税の対象になる。そのため、原則確定申告が必要となる点は留意しておきたい。
3.貸株サービスにおすすめの証券会社6社を比較
貸株サービスは、ネット証券を中心に提供されており、サービス内容には各社違いがある。どのような違いがあるのか、貸株サービスを提供するネット証券6社のサービス内容を比較してみよう。
証券会社名 | 貸株金利 1%以上の銘柄数 |
権利自動取得サービス | 信用取引口座 | ||
株主優待 | 配当金 | 併用 | 代用有価証券 の貸株利用 |
||
SBI証券 | (国内株式) 546銘柄 (米国株式) 74銘柄 |
○ | × | ○ | × |
楽天証券 | 557銘柄 | ○ | ○ | ○ | ○ |
松井証券 | 59銘柄 | ○ | ○ | ○ | ○ |
マネックス証券 | 47銘柄 | ○ | ○ | ○ | ○ |
auカブコム証券 | 200銘柄 | ○ | × | ○ | △※ |
GMOクリック証券 | 657銘柄 | ○ | × | ○ | × |
株主優待自動取得サービスや信用取引口座との併用は、各ネット証券会社が対応しており、差はない。サービス内容の違いは、主に「貸株金利」「配当金自動取得サービス」「代用有価証券の貸株利用」にある。
4.貸株サービスにおすすめの証券会社6社を徹底解説
貸株サービスにおすすめの証券会社6社について、サービス内容を詳しく見ていこう。
SBI証券……米国株式を貸株できる「カストック(Kastock)」も利用可能
SBI証券の貸株サービスでは、国内上場銘柄を対象とした貸株サービスの他、米国株式を対象とした米国貸株サービス「カストック(Kastock)」も利用できる。米国株式・米国ETFを貸株できるのはSBI証券だけだ。
<SBI証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.10%〜14.0% 最高金利の上限なし |
|
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 546銘柄 | |
貸株対象銘柄数(非対象銘柄を除く) | 3,973銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | × | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | × | |
対象銘柄 | 非対象銘柄を除く国内金融商品取引所上場銘柄 | |
非対象銘柄 | ・SBIホールディングス(8473) ・外国株式(米国株はカストックによって可能) ・証券保管振替機構非取扱銘柄 ・単元未満株 ・ETN ・NISA口座保有銘柄 ・その他SBI証券が定める銘柄 |
<SBI証券米国貸株サービス・カストック(Kastock)の基本情報>
貸株金利 | 0.01%〜2.0% |
貸株金利1%以上 (年率・税引前)の銘柄数 |
74銘柄 |
貸株対象銘柄数 (非対象銘柄を除く) |
3,642銘柄 |
対象銘柄 | 非対象銘柄を除く米国金融商品取引所上場銘柄 (米国ADR、米国ETF含む) ※銘柄ごとの貸出(一部貸出(株数指定)は不可) |
非対象銘柄 | ・米国以外の金融商品取引所上場銘柄 ・OTC銘柄 ・その他SBI証券が定める銘柄 |
国内株式の貸株金利の水準は高く、貸株金利1%以上の銘柄数は500を超える。一方で配当金の自動取得設定や代用有価証券の貸株利用はできない。米国株式の貸株金利の多くは0.01%であり、国内株式に比べて見劣りする。他社では利用できないサービスであり、米国株投資をしている人は利用を検討してみると良いだろう。
<SBI証券で貸株をするメリット>
・対象銘柄・貸株金利の高い銘柄が多い(最高金利の上限なし)
・米国株式や米国ETFも貸株できる
・株式取引手数料が安い
そもそも株を保有していなければ貸株はできないため、株を購入する際の手数料の安さも重要だ。
<SBI証券で貸株をするデメリット>
・配当金の権利自動取得サービスがない
・代用有価証券は貸株できない
配当金の権利自動取得サービスが用意されていないため、権利確定日付近には手間がかかってしまう。
<SBI証券の貸株サービスがおすすめの人>
SBI証券の貸株サービスは、次のような人におすすめだ。
・米国株式や米国ETFを貸株したい人
・より多くの貸株金利を得たい人
楽天証券……金利優先コースでは、権利確定日の貸株金利が通常の5倍にアップ
楽天証券の貸株サービスでは、株主優待や配当金の受け取り方の希望に応じて、「金利優先」「株主優待優先」「株主優待・予想有配優先」の3つのコースを選択できる。金利優先コースでは、権利確定日も貸株を継続した場合の貸株金利が5倍にアップするのが特徴だ。
<楽天証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.10%〜14.0% | |
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 557銘柄 | |
貸株対象銘柄数(非対象銘柄を除く) | 4,018銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | ○ | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | ○ | |
対象銘柄 | 非対象銘柄を除く国内金融商品取引所上場銘柄 | |
非対象銘柄 | ・楽天(4755)およびグループ会社株式 ・証券保管振替機構非取扱銘柄 ・東証外国株市場銘柄 ・東証プロ向け市場上場銘柄 ・上場新株予約権証券 ・ETN/ETFS ・単元未満株 ・整理銘柄 ・NISA口座保有銘柄 ・その他楽天証券が定める銘柄 |
権利自動取得設定は、株主優待と配当金の両方に対応し、代用有価証券の貸株にも対応している。貸株金利1%以上の銘柄数も500を超え、貸株金利の水準は高めだ。
<楽天証券で貸株をするメリット>
・対象銘柄・貸株金利の高い銘柄が多い
・配当金の権利自動取得サービスを利用できる
・代用有価証券を貸株できる
・権利確定日の貸株金利がアップする(金利優先コースのみ)
・株式取引手数料が安い
<楽天証券で貸株をするデメリット>
貸株サービスに共通するリスクはあるが、「楽天証券の貸株サービス」のデメリットといえるものは特にない。
<楽天証券の貸株サービスがおすすめの人>
・配当金の自動取得サービスを利用したい人
・代用有価証券を貸株したい人
・株主優待や配当より貸株金利を優先したい人
・より多くの貸株金利を得たい人
楽天証券の貸株サービスは、SBI証券に比べて米国株が対応していないという欠点はある。しかし配当金の権利自動設定があり、国内株式にだけ関していえば、SBI証券よりも手間が省ける。
松井証券……貸株金利が最低0.2%と高い
松井証券の貸株サービスでは、貸株金利が最低0.2%と他社よりも高いのが特徴だ。ただし、対象銘柄が松井証券の指定銘柄に限られるため、貸し出せる銘柄はやや少ない。
<松井証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.20%〜2.0% 最高金利の上限なし |
|
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 59銘柄 | |
貸株対象銘柄数(非対象銘柄を除く) | 1,439銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | ○ | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | ○ | |
対象銘柄 | 国内金融商品取引所上場銘柄のうち、 松井証券が指定する銘柄(非対象銘柄を除く) |
|
非対象銘柄 | ・松井証券(8628) ・外国株式 ・インフラファンド ・ベンチャーファンド ・ETN ・単元未満株 ・NISA口座保有銘柄 ・その他現物取引の非取扱銘柄 |
権利自動取得設定は、株主優待と配当金の両方に対応し、代用有価証券の貸株にも対応している。最低金利は0.2%と他社に比べて高いが、対象銘柄数はやや少なく、貸株金利1%以上の銘柄数も限られる。
<松井証券で貸株をするメリット>
・最低金利が高い(0.2%、最高金利の上限なし)
・配当金の権利自動取得サービスを利用できる
・代用有価証券を貸株できる
・少額であれば、株式取引手数料が安い(1日あたり約定金額50万円まで0円)
<松井証券で貸株をするデメリット>
・貸株対象銘柄が他社に比べて少なめ
・高金利銘柄の取り扱いが少ない
<松井証券の貸株サービスがおすすめの人>
松井証券の貸株サービスは、次のような人におすすめだ。
・配当金の自動取得サービスを利用したい人
・代用有価証券を貸株したい人
・他社では0.1%の金利しか適用されない対象銘柄に投資したい人
マネックス証券……単元未満株の貸株も可能
マネックス証券は、他社では貸株対象外となっている単元未満株も貸株できるのが特徴だ。
<マネックス証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.10%〜13.0% | |
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 47銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | ○ | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | ○ | |
対象銘柄 | 非対象銘柄を除く国内金融商品取引所上場銘柄 | |
非対象銘柄 | ・マネックスグループ(8698) ・外国株式 ・証券保管振替機構非取扱銘柄 ・優先株式 ・上場新株予約権証券 ・子会社連動配当株式 ・プロ向け株式市場「TOKYO PRO Market」上場銘柄 ・ETN ・NISA口座保有銘柄 ・その他マネックス証券が定める銘柄 |
権利自動取得設定は、株主優待と配当金の両方に対応している。また2020年11月から信用取引口座との併用が可能になり、代用有価証券の貸し出しもできる。高金利の銘柄も取り扱うが、貸株金利1%以上の銘柄数は他社に比べてやや少なめだ。
<マネックス証券で貸株をするメリット>
・単元未満株の貸株が可能
・配当金の権利自動取得サービスを利用できる
・代用有価証券を貸株できる
<マネックス証券で貸株をするデメリット>
・高金利銘柄の取り扱いが少ない
<マネックス証券の貸株サービスがおすすめの人>
マネックス証券の貸株サービスは、次のような人におすすめだ。
・単元未満株を貸株したい人
・配当金の自動取得サービスを利用したい人
・代用有価証券を貸株したい人
auカブコム証券……代用貸株®︎を利用すれば代用有価証券の貸株も可能
auカブコム証券の貸株サービスでは、「代用貸株®︎」を利用すれば代用有価証券も貸し出せる。auカブコム証券は、信用取引売買手数料が誰でも無条件で0円なのも魅力だ。
<auカブコム証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.02%〜13.0% | |
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 200銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | × | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | △ ※代用貸株®️を利用すれば可 |
|
対象銘柄 | auカブコム証券口座に保有している現物株式(非対象銘柄を除く) | |
非対象銘柄 | ・単元未満株(プチ株®︎) ・整理銘柄 ・auカブコム証券が定める銘柄(停止銘柄一覧) |
権利自動取得設定は、株主優待のみ対応している。貸株金利は原則0.02%からとなっており、他社に比べて貸株金利の水準が低い。
<auカブコム証券で貸株をするメリット>
・「代用貸株®︎」を利用して代用有価証券を貸し出せる
・信用取引売買手数料が無条件で0円
<auカブコム証券で貸株をするデメリット>
・配当金の権利自動取得サービスがない
・貸株金利の水準が他社に比べて低い銘柄が多い
<auカブコム証券の貸株サービスがおすすめの人>
auカブコム証券の貸株サービスは、信用取引と貸株を併用したい人は検討してみると良いだろう。
GMOクリック証券……貸株金利1%以上の銘柄数は6社の中で最多
GMOクリック証券の貸株サービスは、高金利銘柄の多さが特徴だ。
<GMOクリック証券貸株サービスの基本情報>
貸株金利(年率) | 0.10%〜10.0% | |
貸株金利1%以上(年率・税引前)の銘柄数 | 657銘柄 | |
貸株対象銘柄数(非対象銘柄を除く) | 3,937銘柄 | |
権利自動取得設定 | 株主優待 | ○ |
配当金 | × | |
信用取引口座 | 併用 | ○ |
代用有価証券の貸株利用 | × | |
対象銘柄 | 非対象銘柄を除く国内金融商品取引所上場銘柄 | |
非対象銘柄 | ・GMOインターネットグループ(9449) ・外国株式 ・証券保管振替機構非取扱銘柄 ・ETN ・上場新株予約権証券 ・単元未満株 ・整理銘柄、監理銘柄 ・NISA口座保有銘柄 ・コーポレートアクションなどで GMOクリック証券が貸株申込に制限をかけている銘柄 |
貸株金利の水準は高く、貸株金利1%以上の銘柄数はネット証券6社の中で最も多い。一方で、配当金の自動取得設定や代用有価証券の貸株利用はできない。
<GMOクリック証券で貸株をするメリット>
・貸株金利の高い銘柄が多い
<GMOクリック証券で貸株をするデメリット>
・配当金の権利自動取得サービスがない
・代用有価証券は貸株できない
・(信用口座未開設の場合)数量を指定しての貸株(一部貸株)はできない
<GMOクリック証券の貸株サービスがおすすめの人>
GMOクリック証券の貸株サービスは、より多くの貸株金利を得て、資金効率を上げたい人にはぴったりだろう。
5.貸株サービスを利用する証券会社の5つの選び方
貸株サービスを利用する証券会社を選ぶポイントとしては、「使い勝手の良さ」「株式取引手数料の安さ」「対象銘柄」「貸株金利」「配当金自動取得サービス」「代用有価証券の貸株利用」が挙げられる。
選び方1,使い勝手の良さや株式取引手数料の安さで
貸株サービスは、あくまで保有している株を有効活用する方法であり、取引のしやすさや使い勝手の良さ、株式取引手数料の安さは証券会社を選ぶ重要なポイントだ。
選び方2,貸株サービスの対象銘柄数
貸株サービスの対象銘柄は証券会社ごとに違い、国内上場銘柄のほとんどを対象とする証券会社もあれば、指定する銘柄に対象を絞っている証券会社もある。貸株したい銘柄が対象となっているか、少なくとも対象銘柄と非対象銘柄は確認しておきたい。
選び方3,貸株金利の高い銘柄数
同じ銘柄でも貸株金利は証券会社によって違うこともある。貸株金利の高い銘柄を多く扱う証券会社が、保有している銘柄に高い金利が適用される可能性は高い。ただし、適用される金利は変動する。高い金利が適用される銘柄でも、金利が引き下げられることは注意しておきたい。
選び方4,配当金自動取得サービスの有無
配当金を株式などの譲渡損失と損益通算したい人、配当控除を受けたい人、総合課税となる配当金相当額での受け取りを避けたい人などは、配当基準日に貸株を解除しておく必要がある。
このような人は、配当金自動取得サービスのある証券会社を選ぶと便利だ。
選び方5,代用有価証券の貸株利用の可否で選ぶ
貸株を取り扱う主な証券会社では、信用取引口座と貸株の併用が可能となっている。しかし、信用取引の代用有価証券(担保)となっている株を貸し出せる証券会社は限られており、信用取引と併用を考えている人は、それが可能な証券会社を選びたい。
代用有価証券の貸株利用ができない証券会社でも、信用取引の委託保証金(担保)として必要な株(信用建玉の約30%)以外は貸し出せる。ただし、貸株している株は代用有価証券として利用できない。そのため、委託保証金が減り、信用余力(新規建余力)が少なくなったり、委託保証金維持率が低下したりといった影響が出る。信用取引への影響なく貸株を利用したい人は、代用有価証券も貸株できる証券会社を選ぶと良いだろう。
6.貸株サービスを利用する際の6つの注意点
自分の所有している株の資金効率を高めることができるのが、貸株サービスの最大のメリットだ。しかし、
(1) 貸株によって株主優待を受けられなくなることがある
(2) 貸株金利は雑所得として原則確定申告が必要
(3) 配当金は配当金相当額としての受け取りになる
(4) 貸株は証券会社が破綻すると戻ってこない恐れがある
(5) 貸株金利が高い銘柄は、リスクが高い傾向にある
(6) NISA口座で保有している銘柄は貸株できない
という6つの点には特に注意しておきたい。
注意点1,貸株によって株主優待を受けられなくなることがある
貸株中の銘柄は株主優待を受けられない。株主優待を受けるには、自身で貸株を解除するか、貸株の自動返却サービス(株主優待自動取得サービス)を利用して、株を返却してもらい、株主優待の権利確定日までに自身の名義に戻しておかなければならない。
株主優待自動取得サービスは便利なサービスだが、権利確定日などが直前に変更され、情報の更新が間に合わなかった場合には、貸株の返却が行われず、株主優待を受けられなくなってしまうこともある。めったにないことではあるが、確実に受け取りたい株主優待があるなら、自身でも変更がないかを確認しておくと安心だ。
また株主優待には、1年以上あるいは3年以上といった長期の継続保有が優待条件になっていたり、長期保有すると優待内容がアップしたりする銘柄もある。このような銘柄では、権利確定日だけ貸株を解除しても継続保有要件を満たせないことがある。長期継続保有とみなされる要件は銘柄によっても異なるため、優待を行う企業のサイトやIRなどで個別に確認が必要だ。
優待取得に必要な株数以上の株を保有している場合は、優待取得に必要な株数は貸株せず、残りの株だけ貸株すれば、銘柄に関係なく継続保有の要件を満たせる。受け取れる貸株金利は減ってしまうが、確実に株主優待を受け取るためには有効な方法だ。
注意点2,貸株金利は雑所得として原則確定申告が必要
先に解説したが、貸株金利の受取分は雑所得として課税の対象で、原則確定申告が必要だ。ただし、一定の条件を満たす給与所得者、または年金受給者で、給与所得・退職所得、公的年金などの収入以外の所得合計が20万円以下の場合、確定申告が不要となるケースもある。
確定申告をしないで済む範囲で取引をしていた人にとっては、手間が増えることになってしまう。
注意点3,配当金は配当金相当額としての受け取りになる
貸株中の銘柄の配当は、源泉徴収される税額を差し引いた「配当金相当額」として投資家に支払われる。
貸株をしても配当に相当する利益は得られるが、配当金相当額は税区分上の「雑所得」として、総合課税の対象となり、原則確定申告が必要となる(一定の条件を満たす場合は確定申告が不要となる場合もあり)。配当金相当額は支払時に所得税が源泉徴収されているが、雑所得としても所得税・住民税がかかり、二重で課税されることになる。 総合課税では、雑所得の他、給与所得や事業所得などの所得を全て合算し、課税所得金額の多い人ほど高い税率が適用されるため、所得の多い人ほど税負担が増える。
また、配当金相当額は配当所得ではないため、配当控除の対象とならず、株の譲渡損失と相殺(損益通算)もできない。配当控除や損益通算による利益(課税所得)の圧縮ができなくなれば、税負担が増える要因になる。
このようなデメリットを避けるには、配当基準日に貸株を解除しておけば良い。証券会社によっては、配当基準日に自動的に貸株を解除するサービスがある。
配当基準日は株主優待の基準日と重複していることも多く、この場合は株主優待の自動取得サービスを利用しても、配当を配当金として受け取れる。
ただし、株主優待は年1回(例:基準日3月31日)、配当は年2回(例:基準日9月30日(中間配当)、3月31日(期末配当))といった銘柄や、配当と株主優待の基準日が違う銘柄では、株主優待に関係ない基準日(例では9月30日)に貸株が解除されない。この場合は自身で貸株を解除しておかなければならない。
注意点4,貸株は証券会社が破綻すると戻ってこない可能性もある
証券口座で保有する株は、原則証券会社の資産とは区別して管理され、投資者保護基金によって保護されているため、たとえ証券会社が破綻しても投資家側には影響はない。
しかし、貸株で貸し出した株には分別管理義務がなく、投資者保護基金の対象とならない。投資家が証券会社の信用リスクを負うことになるため、証券会社が破綻してしまうと、貸し出している株が戻ってこない恐れがある。確率は低いが、このようなリスクがあることは理解しておくべきだろう。
注意点5,貸株金利が高い銘柄はリスクが高い傾向にある
貸株は、証券会社が他の投資家に貸し出す株を調達する手段。証券会社から他の投資家に貸し出される株は、信用取引の売建のために売却されるケースも多い。貸株金利が高いことは、コストを多く支払っても証券会社がその株を調達したい、つまりはその株を借りたい(売りたい)投資家が多いと考えられる。売りたい投資家が多い銘柄の株価は下がりやすく、値動き(ボラリティ)も大きい。リスクは高い傾向だ。
貸株金利が高いという安易な理由で株を購入してしまうと、株価の下落によって貸株金利以上の損失が出てしまう恐れもある。貸株はあくまで保有している株を有効に活用する方法であり、貸株金利を目当てに株を購入するのはおすすめできない。
注意点6,NISA口座は利用できない
貸出対象銘柄であるかにかかわらず、NISA口座で保有している銘柄は貸し出すことができない。
証券会社を選ぶ際は貸株サービスの内容もポイント
貸株サービスは、保有している株を通常通りに運用しながら利益を上乗せできる仕組みであり、株式投資をするならうまく活用したいサービスだ。利用する証券会社は、メインとなる運用のしやすさ、手数料の安さなどを重視するのはもちろん、貸株サービスの有無や内容も考慮して選びたい。
執筆・竹国弘城(ファイナンシャルプランナー)
証券会社、保険代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®︎
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