「外貨MMF(マネー・マーケット・ファンド)」とは外国為替を扱う商品。ゼロ金利政策が長期化して銀行預金に期待できない状況が続いている今、注目されているのが投資対象のひとつだ。同じ外国為替を扱う外貨定期預金などとの違い、どのようなメリットやデメリットがあるのか?

1,外貨建MMFとは?3つのメリットを紹介 安定的運用や為替スプレッドなど

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(画像=RomanR/Shutterstock.com)

外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)とは外貨建投資信託の一種。投資対象が外国優良企業の短期金融商品や格付けの高い公社債などに限定されており、投資元本の維持や安定的な運用を目指した商品である。どのような魅力があるのだろうか?

メリット1、安定的な運用に好利回りが魅力

MMFには為替変動リスクはあるが、比較的リスクが低い投資信託であるため、定期預金に預ける感覚で投資できる。外貨建MMFの金利は各国の市場金利に連動しており、金利が高い国の通貨でMMFを購入すれば、日本の定期預金より好利回りの運用が期待できる。

2020年5月11日現在、ネット証券最大手SBI証券の外貨建MMFの平均年換算利回りは、豪ドル0.328%、NZドル0.474%、米ドル0.007~0.375%、カナダドル0.370%(早期償還決定のため、買付停止)、トルコリラ7.631%、南アフリカランド4.240%となっている。

外貨建MMFでは運用実績に応じて支払われる分配金が毎月末に再投資されるのだが、この複利効果で利回りがアップする点も外貨定期預金にはない大きな魅力だ。

メリット2、外貨定期預金に比べて為替スプレッドが安い

2020年5月13日現在、三菱UFJ銀行の外貨預金の米ドル/円為替手数料(片道)は窓口で1円、インターネットバンキングでは25銭である。

主要ネット証券の中では、auカブコム証券と松井証券の米ドル建MMFの米ドル/円為替スプレッドは片道20銭と最安値だ。またSBI証券、楽天証券、マネックス証券の為替スプレッドも比較的安く設定されており、米ドル/円(片道)は25銭である。

外貨建MMFは投資信託とはいえ、外貨定期預金同様に取引手数料は無料であるが、為替スプレッドは必ず発生するため、コストを抑える意味からも必ずチェックしておきたい。

メリット3、購入・売却がしやすい

買付単位は証券会社によって異なるが、米ドルMMFを少額で買付できるマネックス証券では、米ドル決済なら1,000円相当、円決済なら1,000円から購入できる。この程度の投資額であれば外貨建金融商品に対して不安がある人でもお試し感覚で投資を始められる。

外貨定期預金のように預入期間が定められていないのも、気軽に外貨建MMFに投資できる理由のひとつだ。毎月末に分配金が支払われるので、インカムゲインを確保しながら思い立った時にいつでも売却できる。

メリット4、「特定口座」(源泉徴収あり)ならば確定申告不要で損益通算も

税金面での煩わしさがないのも大きなメリットで、売却時の譲渡益や為替差益は申告分離課税の対象であり、原則確定申告が必要になる。

しかし外貨建MMFを証券口座の特定口座(源泉徴収あり)を指定して管理すれば、譲渡益や為替差益は源泉徴収される。譲渡損や為替差損が出た場合は、同じ特定口座内の上場株式の譲渡益や分配金などと自動的に損益通算されるので、税金の払い過ぎも避けられて手間もかからない。

2,外貨建MMFの買い方を3ステップでやさしく解説

このようにさまざまなメリットがある「外貨建MMF」だが、実際にどうすれば購入できるのだろうか?外貨で運用される商品なので、購入するにあたっては、まず外国株取引口座が必要になる。取引までの流れは以下のとおりだ。

ステップ1、外国株取引口座を開設する

まだネット証券に口座を開設していない場合は、証券総合口座を開設してから、外国株取引口座を開設する。ネット証券によっては、証券総合口座開設の申し込みの際に、外国株取引口座の開設を同時に申し込みできることもあるので、指示にしたがって手続きを進めよう。

すでに、ネット証券の証券総合口座を開設済みであれば、ネット証券のサイトにログインしてから、各社の手順にのっとって外国株取引口座を開設する。

ステップ2、必要な資金を入金する

外貨建MMFの資金の入金方法としては、証券口座の日本円をそのまま使う「円貨入金」と、外貨のまま入金する「外貨入金」の2つの方法がある。

円貨入金、外貨入金が可能なネット証券

円貨入金と外貨入金から選択 SBI証券、楽天証券、マネックス証券
円貨入金のみ可能 松井証券、auカブコム証券

・「円貨入金」の場合――証券口座の買付余力で購入する
円貨入金で外貨建MMFを購入する場合、ユーザーは証券総合口座に買付余力があれば、そのまま外貨建MMFを購入できる。買付余力が十分でなければ、ログイン後に通常通りの手順で、即時入金などによって証券口座に日本円を入金するだけでよいので簡単だ。

買付注文が受け付けられると、ネット証券の適用為替レートで自動的に外貨に為替取引される。自分で為替取引を行わなくてよいのが円貨入金の特徴だ。

「外貨建MMF」を取り扱っているネット証券であれば、どこでも円貨入金で購入は可能だ。

・「外貨入金」の場合――外貨を入金して、外貨で購入する
銀行に外貨預金がある場合は、外貨をそのままネット証券の外国株取引口座に入金して、外貨で外貨建MMFを購入することができる。外貨をそのまま入金するので、為替レートに左右されずに取引できるのがメリットだ。

なお、SBI証券、楽天証券、マネックス証券では、外貨建債券の償還などで外貨の預り金があれば、為替取引を行わずに、外貨預り金をそのまま使って外貨建MMFの購入が可能だ。

ステップ3、外貨建MMFの買付注文を出す

まずネット証券サイトにログインして、外貨建MMFページの画面上で注文ボタンを押 す。次のページに遷移したら、掲載されている目論見書を閲覧すると、注文ページに遷移することができる。

円貨決済と外貨決済のどちらも可能なSBI証券、楽天証券、マネックス証券では、決済方法として「円貨決済」あるいは「外貨決済」を選択して、購入金額を指定すれば買付注文は完了だ。

3,ネット証券各社の外貨建MMF手数料を比較 SBI、楽天、マネックスなど

ネット証券の主要通貨為替スプレッド(片道)比較

ネット証券名 米ドル/円 豪ドル/円 NZドル/円 南アフリカ
ランド/円
トルコリラ/円
SBI証券 0.25円 1.00円 1.00円 0.30円 1.50円
楽天証券 0.25円 0.70円 0.70円 0.30円 1.50円
マネックス
証券
0.25円 0.70円 0.70円 0.30円 1円
auカブコム
証券
0.20円 0.60円 0.60円 0.25円 2.00円
松井証券 0.20円

※2020年12月8日現在のネット証券各社のホームページで、外貨建MMF取扱通貨の為替スプレッド(手数料)を参照して、上記比較表を作成した

2020年12月8日現在、SBI証券、楽天証券、マネックス証券で取引できる外貨建MMFは、米ドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドル、南アフリカランド、トルコリラの5通貨である。

松井証券では、米ドルのみを取り扱っている。

※カナダドル建MMFは繰上償還決定のため、各社で買付停止となっている。

4,ネット証券各社の外貨建MMF手数料を比較 SBI、楽天、マネックスなど

2020年12月8日現在、ネット証券で購入できる外貨建MMFは、前述のとおり米ドル建て、オーストラリアドル建て、ニュージーランドドル建て、南アフリカランド建て、トルコリラ建てのMMFである。

それぞれの直近の利回りや取扱ネット証券などを、以下の表でチェックしておこう。

外貨建MMF5選の比較

通貨 銘柄名 利回り※1 買付単位(当初) 取扱ネット証券
米ドル ブラックロック・
スーパー・
マネー・
マーケット・
ファンド
0.066%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10米ドル以上
0.01米ドル単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
ノムラ・
グローバル・
セレクト・
トラスト
0.126%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10米ドル以上
0.01米ドル単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
ゴールドマン・
サックス・
マネー・
マーケット・
ファンド
0.007%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10米ドル以上
0.01米ドル単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(円貨)
1万円以上
1円単位
松井証券
ニッコウ・
マネー・
マーケット・
ファンド
(米ドル)
0.109%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10米ドル以上
0.01米ドル単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(外貨)
1,000円相当以上
(円貨)
1,000円以上
マネックス証券
豪ドル ニッコウ・
マネー・
マーケット・
ファンド
(豪ドル)
0.000%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10豪ドル以上
0.01豪ドル単位
(円貨)※
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(外貨)
1,000円相当以上
(円貨)
1,000円以上
マネックス証券
NZドル ニッコウ・
マネー・
マーケット・
ファンド
(NZドル)
0.099%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10NZドル以上
0.01NZドル単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(外貨)
1,000円相当以上
(円貨)
1,000円以上
マネックス証券

アフリカ
ランド
ホライズン・
トラスト・
南アフリカ
ランド・
マネー・
マーケット・
ファンド
2.565%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10南アフリカランド
以上
0.01南アフリカランド
単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(外貨)
1,000円相当以上
(円貨)
1,000円以上
マネックス証券
トルコ
リラ
マルチ・
ストラテジーズ・
ファンド・
トルコリラ・
マネー・
マーケット・
ファンド
10.82%
(2020年
12月8日現在)
(外貨)
10トルコリラ以上
0.01トルコリラ単位
(円貨)※2
5,000円以上
1円単位
SBI証券
楽天証券
(外貨)
1,000円相当以上
(円貨)
1,000円以上
マネックス証券

※1、「利回り」は直近7日間の年率換算利回り(税引き前)
※2、円貨による買付単位の記載はSBI証券のもの。楽天証券では円貨による買付単位の記載なし

5,外貨建MMFのデメリットは為替変動と金利変動リスク

これまでメリットや買い方、代表的なファンドなどを紹介してきたが、デメリットについても把握しておきたい。外貨建MMFは外国為替を利用した商品なので、為替変動の影響が避けられず場合によっては投資元本を割り込むリスクがある。

さらに投資信託の性格上、組み込まれている公社債の値動きや金利の下落、発行者の財務状態悪化などによる信用力の低下によって基準価額が下がり、投資元本割れが生じることもある。

ローリスクのMMFを利用した金融商品ではあるが、為替変動と金利変動、信用リスクには注意を払う必要があるだろう。

リスクを避けるには購入・売却を問わず相場環境が悪い時期の為替取引を避けて、相場の好転を待ってから取引をする。売却時期に円高水準にあれば外貨決済にして、外貨のまま他の外貨建金融商品を購入する。円安傾向になってから円に交換する、あるいは為替変動リスクを分散させるために外貨建MMFを月々の積立で購入するなどの対策が必要だろう。

6,資産保護の対象でもある「外貨建MMF」は安定的に着実に増やしたい人の選択肢

外貨普通預金や外貨定期預金は銀行の預金保険の対象外であり、銀行破綻時には保護されない。一方、外貨建MMFは証券会社での分別管理が定められており、証券会社が破綻した場合には、上限1,000万円まで日本投資者保護基金によって補償される。万が一の場合でも資産が保全されるので安心して購入できるのだ。

超低金利の銀行預金から元本保証まではいかなくとも、リスクを抑えながら好利回りで着実に資産を増やせる金融商品に乗り換えたいのならば、外貨建MMFは非常に現実的な選択肢のひとつ。将来的な資産形成の大きな転機になるかもしれないので、ぜひ投資対象のひとつとして、一度検討してもらいたい。

執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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