コロナ禍による旅行需要の減少は、旅行業界に甚大なダメージを与え、旅行大手のHISも上場以来、初めて赤字に転落した。コロナ禍が収束しない限り状況の改善は難しいが、収束後の「リベンジ消費」の波をうまく取り込めれば、一気に業績が回復する可能性も出てくる。

HISの2020年10月期の通期決算の概要は?

リベンジ消費
(画像=kai/stock.adobe.com)

まずHISの現状を紐解いていこう。HISは2020年12月11日、2020年10月期の連結業績(2019年11月~2020年10月)を発表(※12月16日に一部の数字を訂正)した。

この1年間の売上高は前期比46.8%減の4,302億8,400万円で、営業利益は175億4,000万円のプラスから311億2,900万円のマイナスに、経常利益も170億8,900万円のプラスから312億8,300万円のマイナスにそれぞれ転落した。

最終損益も2002年に上場してから初の赤字となり、2020年10月期は250億3,700万円のマイナスとなった。前々期は110億6,700万円の黒字、前期は122億4,900万円の黒字を計上したことを考えると、過去2期で稼いだ利益がすべて吹っ飛んだ形だ。

新型コロナウイルスがHISに与えたダメージとは?

HISが赤字に転落した理由を、事業セグメントごとに分析していこう。HISの柱を担っている事業は「旅行事業」だが、「テーマパーク事業」や「ホテル事業」も展開しており、いずれの事業でも苦しい展開となっている。

旅行事業:インバウンド・アウトバウンド、国内旅行ともに大きな痛手

渡航制限措置によって、海外からのインバウンドと海外へのアウトバウンドの両方の旅行需要が消滅したことは、HISにとっては大きな痛手だ。国内旅行においても、政府の需要喚起策「Go Toトラベルキャンペーン」の効果が出るのが9月以降となったため、2019年11月~2020年10月を会計期とする2020年10月期においては、恩恵は一定程度にとどまった。

テーマパーク事業:ハウステンボスも苦境、休園の影響大

長崎県佐世保市にある「ハウステンボス」は、HISが買収したあと、見事な復活を遂げた。そのハウステンボスも新型コロナウイルスの影響を受けて56日間の休園を余儀なくされたこともあり、入場者数は前年に比べて大幅に落ち込んだ。

ホテル事業:コロナ禍により宿泊客が大きく減少

HISはホテル事業も展開している。天然温泉施設を付帯した「変なホテル 関西空港」などを新規開業するなど事業の拡大に努めてきたが、コロナ禍により宿泊者が大きく減少し、セグメント売上高は前期比68.5%減の86億8,500万円まで落ちた。

HIS復活の鍵は「リベンジ消費」で勝ち組になること!?

新型コロナウイルス向けのワクチン開発が進み、世界的に接種が広がっていけば、おのずと旅行需要や宿泊需要は回復し、徐々に各事業セグメントの売上高も回復していくはずだ。しかし、その自然回復にはある「罠」がある。

「リベンジ消費」では客の奪い合いが本格化するため、自然回復をのんびり待っていると、他の会社に客をごっそりと持っていかれかねないのだ。そのため、来たるリベンジ消費期に備え、キャンペーンやプロモーションなどの戦略を練っておくことが需要となる。

そもそも「リベンジ消費」と聞いてもピンと来ない人もいるかもしれない。リベンジ消費とは、外出自粛で抑制されていた消費がコロナ収束後に爆発する現象のことだ。「去年は我慢した海外旅行に行くぞ!」という消費意欲をイメージすると分かりやすいかと思う。

このリベンジ消費の波は確実に来るが、その際に当然起きることは旅行会社同士の客の奪い合いだ。各社が強気のプロモーションを早期に打ち出し始めると考えられるため、その波に乗り遅れた旅行会社はリベンジ消費の恩恵を受けきれないだろう。

旅行大手のHISだけにこのような視点については抜かりがないとみられるが、競争相手は国内の同業他社だけではないということも重要なポイントだ。消費が旺盛な中国人観光客に日本に多く来てもらいたいなら、海外の旅行代理店との闘いとなる。

回復シナリオ「2022年にはほぼ2019年の水準まで回復する」

HISは決算発表に合わせて今後の想定シナリオを明らかにしており、「2022年にはほぼ2019年の水準まで回復する」ことを見込んでいるという。旅行事業とホテル事業は2021年の早い段階で回復基調に入ると想定しているようだ。

一方で、2021年10月期の業績予想は「未定」としており、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を合理的に算定することは難しい、としている。つまり回復シナリオは描けているものの、まだまだHISにとって予断を許さない状況は続くわけだ。

ちなみにHISは「飲食」「ライフ&エンディング」「ホテル・旅館再生」「人材派遣」などの新規事業プロジェクトを進めていく方針も発表しており、中核ビジネス以外の事業で収益をあげていけるのかも注目点だ。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)