蓄電池は、太陽光発電や電気自動車(EV)など、成長が見込まれる分野に大きな影響を与える技術です。2020年時点の蓄電池市場では「鉛蓄電池」と「リチウムイオン電池」が広く利用されていますが、将来的にスタンダードになるのはどちらでしょうか。徹底比較します。

蓄電池の進化が重要なのは、再エネとEVの分野

リチウムイオン電池
(画像=lightboxx/stock.adobe.com)

蓄電池とは、充電して電気を貯めれば繰り返し使える電池のことです。身近なものだとスマホのバッテリーやモバイルバッテリーなども蓄電池の一種といえるでしょう。蓄電池の技術革新は著しく、性能アップやコンパクト化、コストダウンが進んでいますが、大きな恩恵を受けるのは「再生可能エネルギー電源(太陽光発電)」と「電気自動車(EV)」の分野です。

「太陽光発電」で蓄電池が重要な理由

太陽光発電の普及をさらに拡大するには、高性能かつローコストの電力貯蔵用の蓄電池が必須です。蓄電池が進化することで太陽光発電の利便性や自由度が高まります。しかし太陽光発電は、天候によって発電量が左右されやすい傾向です。太陽光発電設備に電力貯蔵用の蓄電池を併用することで、需要以上の発電をしたときに電気をためておくことができます。

また、ピークシフトができたり停電が発生したときの非常用電源として使うことも可能です。これによりFIT(固定価格買取制度)期間後の太陽光発電の可能性も大きく広がるでしょう。

「電気自動車(EV)」に蓄電池が重要な理由

電気自動車の性能は、蓄電池が生命線といっても過言ではありません。蓄電池によりたくさんの電気をためられることで航続距離が大幅に伸びます。例えば電気自動車・日産リーフの蓄電池は、2010年段階で24の容量で航続距離は200kmでした。2019年段階では、62kWhまで容量が増え航続距離も570kmまで伸びています(いずれも@JC08の場合)。

鉛蓄電池とリチウムイオン電池のメリット・デメリット

2020年現在、主力の蓄電池には「鉛蓄電池」「リチウムイオン電池」などがあります。もともと広く使われていた蓄電池が鉛蓄電池で、その後リチウムイオン電池が普及しました。今後「再生可能エネルギー電源(太陽光発電)」と「電気自動車(EV)」の蓄電池市場で主力になるのはどちらでしょうか。まずは、両者のメリット・デメリットを整理しましょう。

鉛蓄電池のメリットは、リチウムイオン電池に比べると「価格が安いこと」「温度変化に強いこと」が挙げられます。デメリットは「重くて充電時間がかかること」です。一方、リチウムイオン電池のメリットは、鉛蓄電池と比べると「軽くてコンパクト」ということが挙げられます。デメリットは、「希少金属を使うのでコストがかかる」「発熱・発火のリスクがある」などです。

太陽光発電では、リチウムイオン電池と鉛蓄電池が混在

両者を比べるとリチウムイオン電池のほうが軽くてコンパクトな点が大きなメリットです。そのため電気自動車ではリチウム電池が積極的に採用されています。2020年に株式会社矢野経済研究所が行った「車載用リチウムイオン電池世界市場に関する調査」によると、車載用リチウムイオン電池の世界市場は2020年の12万4,921MWhから2030年の49万6,075MWhの約4倍まで成長する見込みです。

一方、太陽光発電設備を含む定置用蓄電池の市場は、リチウムイオン電池と鉛蓄電池が採用されている割合が高いです。株式会社富士経済の「ESS(電力貯蔵システム)・定置用蓄電システム向け二次電池の世界市場の調査結果」によると、太陽光発電・住宅用・産業用などの定置用蓄電システム向け二次電池(蓄電池)市場は、2019年の4,646億円から2035年の1兆2,381億円と約2.7倍に成長すると予測されています。

これから先、蓄電池市場で考えられる3つのシナリオ

前項の内容で確認できたように電気自動車用の蓄電池は、リチウムイオン電池が標準です。しかし太陽光発電を含む定置用蓄電システム向け蓄電池は、2020年現時点で「鉛蓄電池」「リチウムイオン電池」がバッティングしています。この状況は、将来的にどのように変わっていくのでしょうか。主に以下の3つのシナリオが考えられます。

  1. 電力貯蔵用は鉛電池、EVはリチウムイオン電池が主流
  2. 電力貯蔵用、EVともにリチウムイオン電池が主流
  3. どちらでもない新しい技術が台頭する

どのシナリオが現実化する可能性が高いでしょうか。それぞれのシナリオの背景を見ていきます。

シナリオ1:電力貯蔵用は鉛電池、EVはリチウムイオン電池が主流

「重くて充電に時間がかかる鉛蓄電池は淘汰されるのでは?」とイメージする人も多いかもしれません。業界関係者の間で鉛蓄電池は「枯れた技術」という声もあるようです。しかし2020年6月に古河電気工業株式会社と古河電池株式会社が高性能とコストパフォーマンスを両立する新・鉛電池「バイポーラ蓄電池」の開発を実現したと発表しました。

実用化されれば設置面積あたりのエネルギー量でリチウムイオン電池を上回り、設置時のトータルコストがリチウムイオン電池の半分以下になる見通しです。同社では、新・鉛蓄電池の用途を電力貯蔵用に想定しており、この用途に合うよう新・鉛蓄電池ではピークシフトに対応しやすい規格が採用されています。

もし新・鉛蓄電池がシェアをとれば太陽光発電など電力貯蔵用は鉛蓄電池、電気自動車はリチウムイオン電池と二極化が進む可能性があります。新・鉛蓄電池は、2021年にサンプル出荷、2022年に製品化となる計画です。今後の市場の反応に注目しましょう。

シナリオ2:リチウムイオン電池がEVと電力貯蔵用の両方で主流

電気自動車メーカーと知られる米テスラの動き次第では、電気自動車だけでなく電力貯蔵用の蓄電池もリチウムイオン電池が主流になる可能性もあります。2020年現在テスラが注力しているのがリチウムイオン電池のコストダウンです。リチウムイオン電池に使う希少金属のコバルトをニッケルに見直し、さらに内製化を進めることで「コストを現在よりも約6割カットする」との方針を打ち出しています。

これによりまずは電気自動車用として低コストのリチウムイオン電池を実用化し、リチウムイオン電池を電力貯蔵用の市場にも広げていく戦略です。この動きが本格化していけば世界の蓄電池市場がテスラなどを中心とする海外メーカーに一気に抑えられる可能性も十分あります。ちなみに前出の富士経済のレポートでは、長期的に見ると電力貯蔵用もリチウムイオン電池が大きくシェア拡大すると分析しています。

シナリオ3:新たな技術「ナトリウムイオン電池」が台頭

リチウムイオン電池を超える性能を期待されているのが「ナトリウムイオン電池」です。リチウムイオン電池は電気自動車に利用するときに「充電時間がかかる」「発火リスクがある」「希少金属が利用されているためコストがかかる」などのデメリットがありました。しかしナトリウムイオン電池は、これらすべてを解消する可能性があります。

ただしナトリウムイオン電池には、リチウムイオン電池と比べたときに「エネルギー密度が低い」という決定的に劣る点があり実用化には至っていませんでした。しかし2020年12月14日に東京理科大学と岡山大学が従来のナトリウムイオン電池よりも高い容量を示す「ハードカーボン合成に成功した」と発表。実用化に一歩近づいたといえるでしょう。

ただハードカーボン合成を採用すると製造コストが高くなる課題もあり、これをクリアできるか否かが普及のカギを握ります。

古河電池でリチウムイオン電池事業を承継する計画も

3つのシナリオのうち現時点で可能性が高いのは「シナリオ2:リチウムイオン電池がEVと電力貯蔵用の両方で主流」でしょう。しかし古河電気工業株式会社と古河電池株式会社の新・鉛蓄電池が市場にどのような影響を与えるかにも注目したいところです。勘違いしたくないのは、仮にリチウムイオン電池が電力貯蔵用蓄電池の主流になっても国内メーカーにとって必ずしもマイナスではありません。

例えば古河電池株式会社でもマクセルのリチウムイオン電池事業を承継する計画を進めています。またパナソニックはリチウムイオン電池に強いメーカーです。いずれにしても蓄電池の世界に技術革新が起こるのは間違いありません。蓄電池業界の動向の変化に注目しましょう。(提供:Renergy Online


【オススメ記事 Renergy Online】
太陽光発電投資の利回りとリスク対策、メリット、儲かる仕組みを解説
セブン-イレブン、スタバなど企業の紙ストロー導入が意味するもの
Googleが取り組む再生可能エネルギー対策とは
RE100とは?Apple、Google、IKEAなど世界的企業が参画する理由と実例
ESG投資とは?注目される理由と太陽光発電投資との関係性