環境省が実施した国内金融機関のESG投資に対する調査結果を見ると、その大半が事業用太陽光発電に投資されていることがわかりました。なぜ事業用太陽光発電が優位なのか、さらに国内のESG投資を牽引すべき金融機関の課題を解説します。

金融機関の投融資は太陽光発電が大半

ESG投資
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

環境省が2020年4月に発表した「ESG地域金融に関する取組状況について」によると、アンケート調査に回答した192の金融機関(都市銀行、大手信託銀行、地方銀行、信用金庫など)のうち89%が2019年度に再生可能エネルギー発電事業向けの投融資を実施したと回答しています。

しかしその内容を見るとおよそ45%が事業用太陽光への投融資であり、2番目に多い木質バイオマス発電への投融資の約3.7倍になっています。この報告の中で環境省は、事業用太陽光以外の再生可能エネルギーへ投融資拡大することが課題としています。

ESG投資は世界的な流れ

環境省の調査の表題にもなっているESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの要素を意味します。そしてこのESGを投資先の評価基準に加える投資姿勢のことをESG投資と呼びます。

ESGに力を注ぐ事業は将来的な成長と安定、リスク回避が期待できる優良な投資先と判断されます。これは国連が2030年に達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)とも重なる、世界金融市場の大きな潮流となっています。

太陽光発電が主流な理由

再生可能エネルギー事業はESG投資の評価基準において特に環境に貢献する度合いが大きく、有望な投資先として注目されています。再生可能エネルギー事業には太陽光発電の他にも木質材やごみなどを使ったバイオマス発電や風力発電、水力発電などがあります。

しかし日本では先ほど紹介したように太陽光発電が主流であり、その他のエネルギー源がまだまだ一般化していません。これはどのような部分に問題があるのでしょうか。

太陽光以外は取り組む事業者が少ない

太陽光発電以外は発電コストが高く、取り組む事業者が少ないという事情があります。太陽光発電は早い時期から国の電力買取価格固定による後押しがあったことや住宅用太陽光パネルの普及が重なり、設備投資の初期費用が他の再生可能エネルギーに比べ安価に済むようになっています。

電力の買い取り価格が下がってきている現在でも事業用を中心に太陽光発電は未だ活況であり、金融機関としても投資先が豊富に存在する状態なのです。

太陽光発電以外の再生可能エネルギーの課題

一方で太陽光発電以外の再生可能エネルギー事業自体に課題はないのか、代表的な再生可能エネルギーで見てみましょう。

木質バイオマス発電の課題

太陽光発電に次ぐ2番目に多い投融資を受けている木質バイオマス発電ですが、課題や将来性はどのようになっているでしょうか。

燃料調達の将来的な不安

木質バイオマス発電の1番の課題は燃料調達の将来的な不安です。使われる燃料は林地伐採や製材、建築などで発生する廃材ですが、これが今後も安定して供給されるのかという懸念があります。

燃料供給源の1つである林業では国内の山林から木を切り出すのは伐採コストがかかってしまうため、木材を使う建築や製造の現場で輸入材が主流になっているという現実があります。国産材が活発に利用されなければ廃材も調達できないことになり、燃料供給の大きな不安となっています。

さらに社会全体が廃棄物を減らすという流れもあるため、今後は燃料調達自体が難しくなるのではという声も多く聞かれます。

高コスト体質の問題

木質バイオマス発電の燃料は、供給元から回収し運搬する費用が思いの外かかります。廃材が出るところは複数にわたる上に広範囲に散らばっており、しかも安定して大量の廃材が出るわけではなく少ない量をこまめに集めていく場合もあります。また発電所自体も少ないため長い距離を運ぶこととなり、運搬費用が大きな負担となります。

さらに集めた廃材を使うまで保管し管理するコストもかかります。もちろんまだ広く普及している発電ではないため施設自体も建設費用が割高という面も加わり、運用全体が高コスト体質となっているのです。

風力発電の課題

風力発電は今回の調査では太陽光、木質バイオマスに次ぐ3位の融資実績があります。しかし事業として取り組むにあたっては立地と必要資金という大きな2つの課題があります。

設置場所の確保が困難

風力発電は風が年間を通じて安定して吹き、周りにさえぎるもののない立地が必要です。具体的には沿岸部や山の上などになるのですが、さらに音や景観の問題で地域住民の理解が得られる場所という条件も加わります。そのため実際に風力発電が設置できる場所というのは非常に限られてしまいます。

既存の風力発電を買い取るならまだ良いのですが、新たに事業として設置するとなると場所探しが非常に困難であり、この点が風力発電新設の大きな課題になっています。

コストが非常にかかる

風力発電をメディアなどで目にする機会は増えましたが、まだまだ広く普及しているとは言い難く導入コストが非常にかかるのが現状です。

仮に中型500kwのものなら本体システムだけで1億〜1億5,000万円ほどかかり、この他に土地代や設置場所と搬入路の造成整備費用などもかかるため、数億円規模の事業になることもあります。この導入コストの高さも新設事業参入のハードルとなってしまっています。

金融機関側はESG投資の環境面に消極的

太陽光発電に投融資が多い要因は、金融機関側がESG投資の環境面への評価が消極的であるという点が考えられます。

冒頭の環境省の調査では金融機関自身がESGの要素を考慮した案件を実施しているかという質問もしており、およそ半数の56%の金融機関が何かしらの取り組みをしていると回答しています。しかし案件の内容を見てみるともっとも多いのが起業塾やビジネスコンテストの開催、次が自治体と連携して支援策を整備となっており、ESGのS=社会の部分に偏っています。

つまり金融機関自身が環境に対する案件に積極的に取り組んでいる様子は希薄で、一般的な認知の進んでいる太陽光発電事業以外に関心を寄せているとは言い難い状況です。

金融機関はESG投資自体を様子見

さらにこの調査の回答で気になるのが、ESGの要素に考慮した投融資の評価を実施していると答えた金融機関が31%、ESG関連の金融商品を提供している金融機関が34%である点です。つまりそれぞれ7割近い金融機関がESGを考慮した投融資の評価を行っておらず、ESG関連の金融商品も扱っていないことになります。

多くの金融機関で事業収益の評価しやすい太陽光発電には投融資するものの、それは環境貢献による将来性というESG投資の本質部分ではないことが考えられます。75%の金融機関がESG金融は成長領域と答えているものの、まだまだ様子見であることがうかがえます。残念ながら現在の金融機関側のスタンスでは太陽光発電以外の再生可能エネルギー事業への投融資は厳しい状況と言えます。

幅広い再生可能エネルギーの投融資に期待

活況を呈しているイメージのある再生可能エネルギーですが、太陽光発電事業とそれ以外には大きな隔たりがあります。その一因は太陽光発電以外の発電方法に資金や運用環境の問題もあるのは事実でしょう。しかしそうした問題を解決するための技術開発や環境整備に対しても、金融機関の投融資での後押しが必要です。

金融機関側ではESG自体に今後大きな可能性を認識しているものの、その実現に向けて取り組む事業への投融資には残念ながら消極的です。さらに太陽光発電以外が普及するには金融機関の理解と積極的なESGの環境部分へ投融資が必要であり、今後の取り組みに期待したいところです。(提供:Renergy Online


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