途上国の子どもが貧困などにより教育機会を失っていることが大きな問題になっています。途上国の教育問題は、貧困や男女不平等などSDGsのいくつかの目標が複合的に絡んでおり解決への道は険しいのが現実です。そこで今回は、世界における教育の現状はどうなっているのか、JICAや慈善団体・企業の取り組みとあわせて紹介します。

SDGsの複合的目標になる途上国の教育問題

教育問題
(画像=panitan/stock.adobe.com)

途上国の教育問題は、SDGsにおいて以下の4つの目標にかかわっています。

・ゴール1:「貧困をなくそう」
・ゴール4:「質の高い教育をみんなに」
・ゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」
・ゴール10:「人や国の不平等をなくそう」

世界におけるこれら4つの課題に対してどのような問題が立ちはだかっているのか、一つ一つひも解いていきましょう。

世界の教育現場の現状

まずゴール4「質の高い教育をみんなに」とゴール10「人や国の不平等をなくそう」を見るうえで「世界の教育現場の現状がどうなっているか」について確認します。日本ユネスコ協会連盟によると世界には貧困や紛争、近くに学校がないなどさまざまな理由で学校にいけない6~14歳の子どもが約1億2,100万人いるとのことです。

そのうち初等教育を受けられない子どもは約5,900万人もいます。教育を受ける機会がないまま育ち大人になった結果、読み書きができない人が約7億7,300万人いるのが世界の教育現場の現状です。世界には、教育格差があり識字率の国による格差も大きくなっています。識字とは、読み書きができる能力のことです。

ユニセフの「世界子供白書2019」によると2010~2018年における若者(15~24歳)の世界の識字率は、男性が92%、女性は88%と高い数字です。しかし開発途上国の中には、若者の識字率が極端に低い国もあります。特に識字率が低い国は以下の通りです。

国名男性の識字率女性の識字率
ニジェール49%32%
チャド41%22%
マリ61%39%
中央アフリカ共和国49%27%
アフガニスタン62%32%
ギニア57%37%

学力の基本である識字率の向上は喫緊の課題だといえるでしょう。

貧困で教育機会を失う

教育機会を失う原因の一つがSDGsのゴール1にかかわる「貧困」の問題です。貧困の家庭では、子どもが働きに出るケースがあります。国際労働機関(ILO)の調べでは、5~14歳の子どものうち約1億2,000万人が働きに出ざるを得ない状況に置かれているため、子どもたちは学校へ行く時間もない状態です。貧困で問題になるのは、以下のような教育における負の連鎖です。

・収入が少ないため、教育を受けられない
・教育を受けられないから識字率が悪くなり安定した職業に就けない
・その結果収入が少なくなる

このような悪循環が続いているのです。

教育にもある男女不平等

もう一つの重大な問題が教育機会における男女不平等です。これは、ゴール5の「ジェンダー平等を実現しよう」という目標に反するもので理由の一つは宗教や伝統・慣習にもとづく差別です。「女の子に教育は必要ない」という思想もその一つでしょう。さらに女性用のトイレがない学校もあり思春期の子どもが退学してしまうケースもあります。

慈善団体ワールドビジョンでは、女の子が学校に通えない原因として以下の3つを挙げています。

・貧困により家事労働をさせられる
経済的余裕のない家庭では、男の子の教育を優先する傾向があります。その結果、女の子は学校よりも家事労働に従事することが多くなってしまいます。5~14歳で週21時間以上家事労働を行っている女の子が3,400万人いるといわれ、通学や勉強に悪影響を与えています。

・児童婚および出産
女の子が18歳未満で結婚と出産を経験する「児童婚」も大きな問題です。女の子が学校に通えない原因になっていますが、世界ではこれまでに6億5,000万人の女の子や女性が18歳未満で結婚していると推定されています。

・教育環境の劣悪さ
教育環境が整っていないのも学校に通えない原因の一つと考えられます。通学路が危険であったり学校内での差別があったりするともいわれているのです。

今後女の子の就学率を上げるには、これらの課題に対し世界が改善への支援に取り組まなければならないでしょう。

JICAが取り組み成果を挙げた「みんなの学校プロジェクト」

世界の教育支援の中で就学率を上げるモデルケースといえる事業があります。JICA(独立行政法人国際協力機構)が2012年5月23日~2016年5月22日までの4年にわたり行った「みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクト」がその取り組みです。多くの教育機会のない子どもたちを支援しました。どのような取り組みだったのでしょうか。

「みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクト」は、世界最貧国の一つであるアフリカのニジェールにおける低い就学率を改善させるプロジェクトです。就学率が低くなってしまう原因の一つに親の教育に対する意識が低いことが挙げられます。JICAは、地方行政と地域住民による学校運営という支援モデルを通して親の教育への意識に変化を与えました。

その結果、ニジェールにある全国の小学校1万4,000校でプロジェクトが行われるようになったのです。このように就学率の低い貧困国をピンポイントで支援する事業が今後も行われるのかが注目されます。

世界の教育支援活動

では、世界の教育に対する支援活動はどのような状況なのでしょうか。慈善団体や民間企業による代表的な教育支援活動を紹介します。

ユネスコ世界寺子屋運動

世界寺子屋運動は、基本的人権として誰もが教育の機会を得られるようにユネスコ協会連盟が1989年から行っているコミュニティ活動です。寺子屋は年齢や宗教、性別にかかわらず、誰でも平等に学べる場を目指しています。運営しているのは地域に暮らす人自身で、基礎教育や職業訓練だけでなく図書館やお祭り、ボランティア活動なども行っています。

現在活動を行っている地域は、カンボジアやアフガニスタン、ネパール、ミャンマーなどです。最近では2020年10月5日にアフガニスタンで17件目になる「バグラミ寺子屋」がオープンしています。このように寺子屋プロジェクトが各地で順調に拡大しているのは喜ばしい限りです。

ワールドビジョン「チャイルドスポンサーシップ」

ワールドビジョンは、「チャイルドスポンサーシップ」という取り組みで支援地域の子どもたちに教育の機会を与えています。スポンサーになった会員が子ども1人に対し毎月4,500円の継続支援を行う仕組みです。ワールドビジョンは、地域のリーダーや保護者に教育の重要性を伝え子どもたちが学べる環境を整えます。

教育施設や備品を整備するほか教師へのトレーニングも行っています。教育を受けた子どもが成長し自立して生きていけるようになったら支援期間は終了です。

リコー「インド教育支援プログラム」

民間企業では、精密機器大手のリコーがインドの子どもたちを対象にした「リコーインド教育支援プログラム」を行っています。12億人を超えるインドの人口のうち、18歳以下の子どもは約4億7,000万人と3分の1以上です。この中で学校に通えない子どもや中退してしまう子どもがたくさんいます。リコーは、2011年からセーブ・ザ・チルドレンと協働プログラムをスタートさせました。

2014年4月からは、同社の技術を活かしプロジェクター・デジタル教材を利用して子どもたちが楽しく学べる環境を提供しています。

途上国を中心に世界には、まだまだ教育の機会に恵まれない子どもはたくさんいます。教育は、本来誰でも受けられなければいけないものです。貧困や男女不平等の問題を改善し質の高い教育を誰もが受けられる世界を築くためにSDGs目標達成へのさらなる取り組みが求められます。(提供:Renergy Online


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