大学在学時に起業を志し、薬剤師となって4年目の2017年に「今までにない薬局を作る」ため株式会社pharb(ファーブ)を、2019年に薬局の大きな課題を解決するため株式会社プレカルを設立。薬局の本分は医薬品を調剤して患者に提供すること。医療発展を心に誓う大須賀善揮さんはヒアリングを重ね、処方箋入力代行サービスによって本業に集中できるように負担を軽減すること、そしてIT化を推進することに大きな価値を見出した。さらに実業家として、特有のビッグデータとなる処方箋を活用した新たな事業展開も視野に入れる。
(取材・執筆・構成=安田勇斗)

プロフィール

大須賀 善揮(おおすが・よしき)
株式会社プレカル 代表取締役
1988年山梨県生まれ。北里大学卒。
親が薬剤師だった縁もあり、2014年に自身も薬剤師としてのキャリアをスタート。2017年に介護施設専門の調剤薬局を運営する株式会社pharb(ファーブ)を創業し、シードアクセラレータープログラムへの参画を経て、約2年半後の2019年7月に株式会社プレカルを設立した。主力事業である『precal』は、年間およそ8.4億枚発行されるという薬局最大の事務作業である処方箋の入力代行サービス。2021年夏までに100から200店舗の導入を目指す。

2019年に2度目の起業となる株式会社プレカル設立

ベンチャー企業最前線
(画像=株式会社プレカル))

――もともと薬剤師だったそうですが、目指したきっかけは?

親が薬剤師で、自分にとって身近な職業だったのが大きいです。何の抵抗も感じずに大学の薬学部に入り、そのまま薬剤師になりました。ただ在学当時から将来的に独立しようと思っていました。小さいお店ですけど、親が店舗を経営していたこともあり、起業を考えるようになりました。

――2014年に薬剤師として働き始め、2017年に株式会社pharb(ファーブ)を設立しました。

このときは薬剤師として起業することを考えていて、必然的に薬局が第一選択肢になりました。大学時代の友人2人と一緒に起業したのですが、いろいろと話し合った中で「今までにない薬局を作る」ことになりました。pharbで運営している薬局は一般的な薬局とは違い、介護施設専門で配達をメインにしています。

高齢化が進み、これから介護業界はより大変になってくるので、そこに薬局として関わっていきたい、という想いから立ちあげました。介護施設には、施設ごとに数百人の患者さんがいて、高齢者の方も多く、たくさんの薬を必要としており、効率面も考えてそれを一括で請け負わせていただいています。ただpharbは、今は一緒に起業した友人に任せています。

――pharbのサービスはかなり重宝されるように思いますが、介護施設の多くはどのような形で薬を受け取っているのでしょうか?

介護施設の職員が取りに行ったり、あるいは近場の薬局などで、自分たちと同じように施設まで届けているところもあります。Pharbがほかの薬局と違うところは、施設の看護師の業務を一部請け負ったり、より入りこんだ形で薬をお届けしているところです。

――pharbを起業して2年半後に、オンラインでの処方箋入力代行サービスをメインとする株式会社プレカルを創業しました。

pharbは「介護施設のサポート」と「薬局のIT推進」という2つの軸で進めていました。自分たちでプログラミングしながら自社内開発を行なっていたのですが、その延長で薬局全体を変えられるようなサービスを作っていきたいと考えるようになり、それならば、投資家の方々に支援していただき、大きな事業を展開していこうと、スタートアップ企業の支援を行っているシードアクセラレーターのプログラムに応募しました。そこで採択していただき、そのプログラム出身のSmartHRやラクマがどうやってビジネスを作りあげたのか、などたくさんのことを学ばせていただきました。その中でいかにニーズのあるものを見つけるか、課題を発見できるかが大事だと教わり、自分たちの仕事に照らし合わせ薬局の課題を探しました。実際に薬局からのヒアリングを重ね、挙がってきた課題が本当に重要なことなのかを突きつめて、辿り着いたのが処方箋入力代行のサービスでした。

――そこには、薬剤師としてのご自身の実体験から感じたことも含まれていたのでしょうか?

そうですね。やってみないとわからないことがかなりある業界で、自分が確信を持てた上で、ヒアリングした際に課題感が強かったものが処方箋の入力でした。その作業は基本的に店舗内で完結させていて、そのために多くの店舗で事務員を雇っています。処方箋入力の作業だけではないのでこれからも事務員は必要だと思いますが、例えば今2人いるところが1人でも仕事が回るように、各薬局をサポートしていければと思います。

――導入店舗は順調に増えているのでしょうか?

まだそれほど多くはないのですが、徐々に増加しています。もともとは事務員の負担を軽減することを想定していましたが、現時点では事務員を雇っていない店舗の導入が増えていますね。まだ始めたばかりのサービスですので、実際に利用してもらいながらフィードバックをもらい、サービス改良も進めています。

――プレカルはかなり安価なサービスに見えますが、利益はしっかりと出せる構造になっているのでしょうか?

現時点では利益率は高くありません。ただ、1店舗4万5,000円というプライシングのカスタマイズは考えておらず、というのも各店舗に価格についてヒアリングして設定した金額だからです。ですので、今は自分たちの業務をどんどん効率化していく戦略を立てています。作業のコストを下げていくことで利益を拡大していければと思っています。

薬局最大の事務作業をなくす
(処方箋入力代行サービス「precal」(画像=株式会社プレカル))

目標は来夏に100から200店舗のサービス導入

――会社を成長させていく上で課題に感じていることは?

今はそれほどなくて、ありがたいことに少し前にVCが入って資金調達が終わり、ファイナンス面は落ち着いています。また人員的な部分も現状問題に感じていることはありません。今はとにかくプロダクトに向き合うことに集中しています。入力代行サービスを推進していくにあたってスピードと正確性を一番のKPIに定め、より向上させるために懸命に取り組んでいます。

――事業拡大のフェーズにあるかと思いますが、現在はどれぐらいの規模で運営しているのでしょうか?

従業員は10人前後で、エンジニアが半数、入力チームが半数、それと総務周りの担当がいます。

――VCによる資金調達を行ってきた中で、将来的なIPOは考えていますか?

はい、IPOを行う視点で財務モデルを組んでいます。まだ先の話でこのとおりになるかはわからないですが、現状は2025年にIPOを実施することをイメージしています。

――今思い描いている目標などはありますか?

導入店舗数を100から200まで増やすことです。自分たちのサービスは1店舗4万5,000円という料金設定で、200店舗まで増えるとMRR(月次経常収益)が900万円になります。そこを次回の資金調達ラウンドの目標にしています。

それと店舗数とは別のフューチャープランとして薬局のデータ利用を考えています。薬局には重要なデータが溜まっていて、まずは処方箋の価値を再定義できればと。処方箋にはユニークな価値があるんですよ。患者さんが薬を受け取るたびに発行されるもので、患者さんの現状を表す特徴的なデータが記載されます。それが今は店舗ごとで管理されているのですが、一括管理できればと考えており、そのデータを医療発展のために研究などさまざまなニーズに合わせて提供できればと思っています。