株主優待は、株式投資の魅力の一つだ。今回は、株主優待で買い物がお得になる大手百貨店・デパート5社の優待内容や特徴を比較した。銘柄を選ぶ際のポイントや注意点についても紹介しよう。

1,百貨店・デパートの株主優待の特徴とは

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(画像=VadimGuzhva/stock.adobe.com)

まずは株主優待の仕組みと、百貨店の株主優待の特徴を簡単に整理しておこう。

株主優待とは

株主優待は株主還元制度の一つであり、安定株主となる個人を増やすことなどを目的として、企業が自社の商品・サービスなどを株主に提供するものだ。

株主優待を受けるには、それぞれの企業の「権利確定日」の2営業日前までに株を購入し、権利確定日時点で株主名簿に株主として記載されている必要がある。

株主優待の内容は金券類が最も多いが、自社商品や会社所在地の特産品、非売品の限定グッズといったなどユニークなものもある。

百貨店・デパートの株主優待の特徴

百貨店の株主優待は自社店舗での買物代金の割引のほか、飲食代金や施設利用料の割引、文化催事の入場無料などがある。該当の百貨店で買い物をしない人にとってはメリットが小さいが、大きな買い物をする人ほどお得になるのが特徴だ。

2,大手百貨店・デパート5社の株主優待内容一覧

以下の表は、大手百貨店5社の株主優待の内容をまとめたものだ。

銘柄名
(株式コード)
株価
(2020年
12月28日
終値)
最低
投資額
権利
確定月
優待概要 配当
利回り
【大丸・松坂屋】
J.フロントリテイリング
(3086)
794円 7万9,400円 2月
8月
・大丸・松坂屋お買い物
ご優待カード(10%割引)
・パルコお買い物ご優待券
3.40%
【三越・伊勢丹】
三越伊勢丹ホールディングス
(3099)
591円 5万9,100円 3月
9月
・株主様ご優待カード
(10%割引・グループ各店
利用料金5〜10%割引、
催事無料入場ほか)
1.52%
【高島屋】
高島屋
(8233)
845円 8万4,500円 2月
8月
・株主様ご優待カード
(10%割引)
2.84%
【阪急・阪神百貨店】
エイチ・ツー・
オー・リテイリング
(8242)
678円 6万7,800円 3月
9月
・株主ご優待券
(百貨店10%割引・
スーパー5%割引)
・「阪急キッチンエール」
新規入会株主優待券
3.69%
【近鉄百貨店】
近鉄百貨店
(8244)
3,110円 31万1,000円 2月
8月
・株主様お買物優待カード
(10%割引、催事無料入場ほか)
・株主様ご優待クーポン券
(レストラン街飲食代5%割引、
無料駐車1時間延長券、
近鉄グループ施設利用優待ほか)
0.32%
※各社IR情報より筆者作成(2020年12月28日時点)

店舗での買物や飲食代金が10%割引になるという内容は、すべての銘柄で共通している。最低投資額が10万円以下の、比較的投資しやすい銘柄が多い。

3,大手百貨店・デパート5社の株主優待の特徴を徹底比較

それぞれの銘柄には、どのような違いがあるのだろうか。大手百貨店の株主優待の特徴を、各社の概要や動向と併せて比較していこう(2020年12月28日時点)。

J.フロントリテイリング……老舗百貨店「大丸」「松坂屋」を主軸に「パルコ」「GINZA SIX」なども運営

J.フロントリテイリングは、1717年創業の「大丸」と1611年創業の「松坂屋」が2007年に経営統合して誕生した。2017年に「GINZA SIX」を開業、2020年には「パルコ」を完全子会社化するなど、百貨店事業以外の商業テナント施設や不動産事業を拡大している。

集客力・収益力の低下という課題を抱えている百貨店事業では、商品を仕入れて販売する従来の方式から、テナントと定期賃貸借契約を締結し賃料収入を得る方式への転換を図っており、コスト削減や売上向上などの成果をあげている。

・「大丸」「松坂屋」「パルコ」での買い物がお得になる株主優待

100株以上を保有する株主には、「大丸」「松坂屋」での買物代金が10%割引になる「大丸・松坂屋お買い物ご優待カード」と、「パルコ」での買物代金2,000円ごとに100円引きになる「パルコお買い物ご優待券」が進呈される。優待カードの提示により、本人と同伴者1名まで、大丸・松坂屋・パルコ各店で開催される有料文化催事に無料で入場できる優待もある。

優待カードの利用限度額は、保有株数に応じて決まる。3年以上継続保有すれば、長期保有特典として上限額が100万円引き上げられる。

保有株数
(2月末時点)
大丸・松坂屋お買い物ご優待カード
年間利用限度額(税込)
パルコお買い物ご優待券
3年未満保有株主 3年以上保有株主
100株以上 50万円 150万円 100円割引券
40枚綴り
※2,000円購入につき1枚の利用、現金支払いのみ
500株以上 100万円 200万円
1,000株以上 200万円 300万円
2,000株以上 300万円 400万円
3,000株以上 400万円 500万円
4,000株以上 500万円 600万円
※筆者作成

8月末時点で新たに株主となった場合は、有効期間が約半年間、利用限度額が上記の半額の優待カードと、20枚綴りの優待券がそれぞれ進呈される。

三越伊勢丹ホールディングス……老舗百貨店「三越」「伊勢丹」「岩田屋」「丸井今井」を運営

三越伊勢丹ホールディングスは、1673年創業の越後屋を起源とする「三越」と、1886年創業の「伊勢丹」が2008年に経営統合して誕生した。2018年度のグループ売上高は1兆1,968億円で、日本の百貨店ではトップだ。

百貨店業界全体の売上減少という課題に対して、これまでに築き上げてきた信頼・ブランド・人材・店舗をベースに、デジタルを活用したオンライン販売やサービスを推進している。

・「三越」「伊勢丹」「岩田屋」「丸井今井」での買い物がお得になる株主優待

100株以上を保有する株主には、「三越」「伊勢丹」「岩田屋」「丸井今井」の各店舗での買物代金や飲食代金が10%割引になる「株主さまご優待カード」が進呈される。店舗のほか、オンラインストアでも割引を受けられるため、近くに店舗がない人でも利用しやすい。

優待カードの利用限度額は、保有株数に応じて以下のように変わる。300株以上を2年以上継続して保有すれば、長期保有特典として限度額が2倍になる。

保有株数
(3月末時点)
年間利用限度額(税抜)
2年未満保有株主 2年以上保有株主
100株以上 30万円 30万円
300株以上 40万円 80万円
500株以上 50万円 100万円
1,000株以上 100万円 200万円
3,000株以上 150万円 300万円
5,000株以上 200万円 400万円
1万株以上 300万円 600万円
※筆者作成

9月末時点で新たに株主となった場合は、有効期限が約半年間、利用限度額が上記の半額の優待カードが発行される。

この他に、三越劇場など百貨店およびグループ店舗でのサービスや施設利用の割引、有料催事の無料鑑賞、駐車場無料サービスの延長などの優待もあり、これらには利用限度額がない。

<10%優待>
・三越劇場(三越日本橋本店)、美容室、写真室、エステティックサロンなど ・ローマ三越

<5%優待>
・伊勢丹会館(レストラン、喫茶、美容室)、クイーンズ伊勢丹

<その他>
・買い物時の駐車場無料サービス1時間延長
・文化展、美術展など一部有料文化催事(三越・伊勢丹・岩田屋)の無料鑑賞
・三井記念美術館入館料の割引
・三越伊勢丹ニッコウトラベル指定ツアーの優待価格
・契約ホテル指定の食事代金、宿泊代金の優待価格(ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル(宿泊・食事)、ホテルニューオータニ東京(宿泊)、グランドニッコウ東京 台場(食事))

髙島屋……老舗百貨店「髙島屋」を運営

髙島屋は1831年に京都で創業した老舗百貨店だ。1952年に包装紙として採用されたバラの花は、それ以降髙島屋のシンボルとして親しまれている。

グループとして「まちづくり戦略」に取り組んでおり、百貨店やショッピングセンターを起点に、街のアンカーとして賑わいを生み出す商業開発事業を推進している。また「第3のまち」と位置付けるネットビジネスやオンラインストア・EC体制の構築、資産形成や承継をサポートする金融相談サービスの開始など、事業拡大による収益力向上を目指す。

・「髙島屋」での買い物がお得になる株主優待

100株以上を保有する株主には、「髙島屋」各店舗での買い物代金が10%割引になる「株主様ご優待カード」が進呈される。店舗のほか、「髙島屋オンラインストア」や「タカシマヤ通信販売」でも優待を受けられる。

500株未満の株主は年間30万円まで、500株以上を保有する株主は上限なしで割引を受けられる。

その他、優待カードの提示で、高島屋各店で開催される有料文化催事に無料で入場できる優待ある。3人まで無料なので、家族や友人と利用しやすい。

エイチ・ツー・オー リテイリング……関西を地盤に「阪急百貨店」「阪神百貨店」、食品スーパー「イズミヤ」など運営

エイチ・ツー・オー リテイリングは、関西を地盤に「阪急百貨店」「阪神百貨店」や、食品スーパー「イズミヤ」「阪急オアシス」を運営している。旗艦店である「阪急うめだ本店」は、西日本最大の売上を誇る。

オンラインとオフラインを融合させたビジネスモデルの構築を進めているほか、食品スーパー事業を有する強みを生かし、「日常生活から非日常のハレの日まで」をカバーする戦略により、関西圏でのシェアを拡大している。

・「阪急百貨店」「阪神百貨店」「イズミヤ」「阪急オアシス」での買い物がお得な株主優待

グループ各店舗で買い物代金や飲食代金が割引になる「株主ご優待券」が3月末と9月末の年2回、100株以上を保有する株主に5枚、500株以上を保有する株主に10枚進呈される。500株以上を3年以上継続保有すれば、長期保有特典として1回あたり10枚追加され、計20枚になる。

「株主ご優待券」の店舗ごとの割引率は以下のとおりだ。

阪急百貨店・阪神百貨店の各店舗 10%
(食料品・レストラン・喫茶は5%)
阪急オアシス、イズミヤ、
デイリーカナート、カナート、はやしの各店舗
5%
フルーツギャザリング
(ビューティセレクトショップ)の各店舗
10%
※筆者作成

優待券は同じカードを繰り返し使う形式ではない使い切りタイプで、1枚あたりの利用限度額はない。買い物・飲食代金の割引のほか、優待券1枚につき2人まで、阪急百貨店、阪神百貨店で開催される有料文化催事に無料で入場できる。

この他に、食品宅配サービス「阪急キッチンエール(関西)新規ご入会株主優待券」が進呈される。新規入会時に優待券を利用すれば12ヵ月分の月会費が無料になり、阪急キッチンエールで利用できる2,000円相当のポイントがもらえる。月会費は523円(税込)なので、12ヵ月分は6,276円だ。

優待券はオンラインストアでは利用できず、利用できる店舗の多くは関西圏に集中しているため、それ以外の地域に住んでいる人は注意が必要だ。阪急キッチンエールの宅配範囲も京阪神エリアに限られる。

近鉄百貨店……大阪・奈良を地盤とする「近鉄百貨店」を運営

近鉄百貨店は大阪や奈良を中心に店舗を展開し、私鉄大手「近畿日本鉄道(近鉄)」を中心とする近鉄グループの一角を担う百貨店だ。中核店のあべのハルカス近鉄本店は、国内最大の売場面積を誇る。

業績は百貨店業界の低迷にコロナ禍が追い討ちをかけており、厳しい状況が続いている。その中で、地域のニーズに合った郊外店舗運営、地域産品の発掘・販売などによる「地域共創」、ネットショップの充実、人気物産展のオンライン開催など、業績向上に向けた取り組みを進めている。

・「近鉄百貨店」での買い物や近鉄グループでの食事・レジャーがお得な株主優待

100株以上を保有する株主には「近鉄百貨店」での買い物代金が10%割引になる「株主様お買物優待カード」と、近鉄百貨店、近鉄グループ施設・サービスを優待価格で利用できる「株主様ご優待クーポン券」が進呈される。保有株数による優待内容の差はなく、買物優待カードの利用上限額も、有効期限内(約半年間)につき300万円(税別)、年間600万円(税込)までと大きいのも魅力だ。

<買物優待カード・優待内容(100株以上・年2回)>
・近鉄百貨店の買い物代金10%割引(※CD・DVD・書籍などは5%割引)
・近鉄百貨店開催の有料文化催事への入場無料特典(2人まで)

<優待クーポン券・優待内容(100株以上、年2回)>
・近鉄百貨店レストラン街優待券(3,000円(税別)以上の飲食で5%割引)……5枚
・近鉄文化サロン入会優待券(入会金(5,500円)無料)……1枚
・近鉄パーキングビルおよび近鉄南駐車場 無料駐車1時間延長券……2枚
・近鉄百貨店オリジナルエコバック引換券……1枚
・あべのハルカス展望台「ハルカス300」入場優待券(大人200円・中高生以下100円割引)……2枚
・志摩スペイン村優待券(パルケエスパーニャパスポート料金20%割引、ひまわりの湯入湯料金25%割引)……各2枚
・ゴルフ場優待券……各コース1枚
・都ホテルズ&リゾーツ優待券……宿泊優待券5枚、婚礼優待券1枚
・近鉄レンタリース レンタカー料金割引券(10%割引)……2枚

4,百貨店・デパート優待カードの利用限度額別の必要投資額を比較

百貨店の優待カードの利用限度額を上げるには、いくら投資すればよいのだろうか。保有株数に応じて利用限度額が変わる4社について、利用限度額ごとに必要投資額・必要株数をまとめた。

<優待カードの利用限度額別 必要投資額・必要株数>

利用限度額 30万円 50万円 100万円 300万円
大丸
松坂屋
3年未満 7万9,400円
(100株)
39万7,000
(500株)
158万8,000円
(2,000株)
3年以上 7万9,400円
(100株)
79万4,000円
(1,000株)
三越
伊勢丹
2年未満 5万9,100円
(100株)
29万5,500円
(500株)
59万1,000円
(1,000株)
591万円
(1万株)
2年以上 5万9,100円
(100株)
17万7,300円
(300株)
29万5,500円
(500株)
177万3,000円
(3,000株)
高島屋 8万4,500円
(100株)
42万2,500円
(500株)
近鉄百貨店 31万1,000円
(100株)
※必要投資額は2020年12月28日終値ベースで計算、筆者作成