株式の信用取引には欠かせない「空売り」について、どれほど正確に理解しているだろうか。すでに株式投資を行っている人も、これから信用取引を始めたい人も、投資戦略としての空売りの仕組みと空売りに便利な証券会社に関する知見を深めておこう。

1,株の空売りとは?

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(画像=筆者作成)

最初に株式の空売りの仕組みや特徴を解説するとともに、空売りを利用するタイミングや利益の出し方についても分かりやすく紹介しよう。

「空売り」の仕組み――株式信用取引の「信用売り」とはどのような取引か?

株式の「空売り」とは信用取引の一種であり、「信用売り」または「売建て」とも呼ばれる取引手法の一つである。

同じ株式を対象とした取引でも現物取引には空売りの概念は存在しない。空売りは信用取引特有の手法であり、株価が下落局面にあっても利益を出せることが最大の特徴である。

投資家は証券会社に預け入れた保証金を担保に株式を借りて、下落局面にある、あるいは今後株価の下落が予想される株式を空売り(信用売り)する。株価が上昇した時点で売却し、証券会社に支払う貸株料を差し引いた金額を利益として受け取る。

これが、おおまかな空売りの仕方である。

信用取引には制度信用取引と一般信用取引の2種類がある。制度信用取引は、証券取引所が対象銘柄を選定し、金利などの条件も証券取引所が決定する。

制度信用取引では、証券会社が投資家に貸し出す資金や株式を十分保有していない場合、貸借取引契約を締結している証券金融会社から、資金や貸借銘柄の株式を借り入れできる(貸借取引)。

一般信用取引は投資家と証券会社との相対取引であり、対象銘柄の選定や金利、貸株料などの条件も証券会社が定める。

空売りの流れ――新規売り建ての発注から弁済まで

空売りを理解するために、空売りの新規の売り建て注文から弁済までの流れを確認しておこう。

空売りの際には、証券会社に現金や代用有価証券を委託保証金として差し入れて、委託保証金の約3倍の金額までの株を借りて、売り建てる。

制度信用の場合は最長6ヵ月後、一般信用の場合は証券会社が定める期限が返済期限となるので、期限内の、株価が下がったと判断される時点で株を買い戻す。

決済方法には2種類あり、差金決済(売り建玉を反対売買して出た差額を受け取る)、もしくは現渡し(品渡し:現物株式を証券会社に引き渡す)のいずれかを、状況に応じて選択できる。

反対売買による差金決済では、売り建てたときの約定代金と、買い戻したときの約定代金の差額から、貸株料などの各種手数料を差し引いた金額が利益となる。

現渡しでは、もともと所有している株式と、買い戻した株式が同じ銘柄で、その銘柄の株価が下げ止まらないと予想される場合に、買い戻した現物株式を証券会社に引き渡して、各種手数料を差し引いた現物株式の対価を受け取る。

これによって、保有する現物株式に発生する含み損をリスクヘッジができる。

2,空売りの3つのメリット

空売り(信用売り)は株式の信用取引だけに可能な売買手法であり、現物取引と最も大きく違う点である。空売りには現物取引にはない多くのメリットがある。その中から、主な3つのメリットを簡単に説明しておきたい。

メリット1,下げ相場でも利益を出せる

現物取引の場合、株価上昇時に「安く買って、高く売る」ことで利益を出すのが基本だ。株式投資初心者の場合、株価の下落局面では塩漬けになるリスクもあるため、新規買付やナンピン買いをせず、株価が底を打つまで静観する方が無難だ。

それに対して、信用取引では、買建てこそ、株価上昇時に値上がり益を狙うが、空売り(信用売り、売建て)は「高く売って、安く買い戻す」ことで利益を出すのが特徴だ。

空売りを利用できるのは、株価が下落局面にあり、しばらく反発を期待できない場合。もしくは、企業に関する悪材料のイベントやニュースが報道されたり開示されたりすることで、株価下落が見込まれる場合などが想定される。

メリット2,株主優待や配当金のためのつなぎ売りに使える

空売りは、株主優待や配当金を目的に長期保有している現物株式の、株価下落による損失リスクのヘッジに利用できる。このように保有する現物株式と同一銘柄を空売りする手法を「つなぎ売り」と呼ぶ。

株主優待銘柄または配当金狙いの銘柄の値下がりが予想される場合、現物株式を売却しないで株主権利を維持したまま、同じ銘柄を空売りする。

株価が予想通り下がったら、売り建玉を反対売買して買い戻せば、得られる差額で長期保有する現物株式の評価損を相殺できる。

空売り後に予想に反して値上がりしても、売り建玉の現渡しを選択して現物株式を証券会社に引き渡せば、損失も回避できる。

メリット3,眠っている株式を代用有価証券として活用できる

空売りを含めた信用取引では、保有しているものの塩漬け状態の現物株式や、長期間にわたって寝かせた状態の現物株式を、信用取引の委託保証金の代用有価証券として差し入れることができる。

もともと売買を予定していない現物株式を現金の代わりに利用できるので、新たな現金の資金を用意する必要がなく、資金効率も良くなる。

3,空売りのための証券口座選びの3つの注目ポイント

空売りには現物取引にはない返済期限のある取引である上に、手数料が発生する性質のため、空売りに適したネット証券を選んだ方がお得に取引できる。

空売りに適したネット証券口座選びで注目したいポイントは主に3つ、「一般信用の空売りができること」「貸株料やその他の手数料が安いこと」「一般信用の返済期限が無期限あるいは長期間であること」である。

以下で、注目ポイント4つについて分かりやすく解説する。

注目ポイント1,空売りできる株式を、自社で保有する証券会社を選ぶこと

自社であらかじめ空売り用の株式を保有し、一般信用取引の空売り注文に応じて、投資家に株式を貸し出せる証券会社はそれほど多くない。

自社で株式を保有していない証券会社では、制度信用の空売りを仲介することになる。制度信用の空売りでは、対象銘柄の株式が市場で人気が高く品薄であると、逆日歩が日次で発生してしまう場合がある。

余分な手数料の発生を避けるためには、自社に多くの銘柄の株式を保有しており、一般信用の空売りができる証券会社を選ぶことだ。

注目ポイント2,一般信用で返済期限を1日から無期限まで選択できること

空売りは売り建て注文と、売り建玉の決済注文(または現渡し)がワンセットの取引であり、基本的に決済期限が決められているのが特徴だ。予想に反して株価が値下がりせず様子見していても、決済期限に合わせて決済する必要がある。

制度信用であれば、決済期限は最長6ヵ月に定められている。それに対して、一般信用の返済期限はそれぞれの証券会社が定めることができる。

一般信用に限ると、返済期限が無期限であるか、返済期限までの期間が長ければ長いほど、相場が好転したタイミングを見計らって決済できる可能性も高くなる。空売りに使う証券会社を選ぶ際には、返済期限を選べることも条件の一つとして考えたい。

注目ポイント3,一般信用の空売り対象銘柄数が多いこと

制度信用の空売りであれば証券会社によって対象銘柄数に違いはないが、一般信用の空売りの場合、対象銘柄の選定基準が各社で異なるため、証券会社の対象銘柄数はさまざまである。

空売りできる銘柄の選択肢が多い方が投資機会も増えるので、一般信用の空売りができる証券会社間で、一般信用の空売り対象銘柄数も比較してほしい。

注目ポイント4,貸株料や取引手数料などが安いこと

空売りでは、証券会社から株式を借りるため、貸株料という名のレンタル料が発生する。貸株料は毎日発生するため、空売りにおける最大のコストになる。

空売りでは、貸株料以外にも、新規注文と決済注文時に取引手数料がかかる。制度信用を利用すれば逆日歩が発生することもある。こうした手数料が安い証券会社を選ぶと、運用コストを抑えて、利益率を上げられる。

4,空売りでおすすめのネット証券口座7つを比較

一般信用取引の空売り対象銘柄は証券会社独自の基準で選定された銘柄であり、制度信用取引の貸借銘柄から除外されているものも含まれる。そのため、空売りの予定なら、あらかじめ一般信用取引で空売りできる証券会社を選んでおくと選択の幅が広がるのでおすすめだ。

空売り戦略としては、一般信用取引で空売り可能な証券会社に信用取引口座を開設しておいて、自分の空売りしたい銘柄によって一般信用と制度信用を使い分けるのが理想的だ。

主なネット証券のうち、一般信用取引で空売りできるのは、SBI証券、松井証券、auカブコム証券、マネックス証券、楽天証券、SMBC日興証券、GMOクリック証券の7社である。該当する7社を対象にして、上述の注目ポイントを比較してみよう。

一般信用で空売りできるネット証券、空売りサービス返済期限の比較

まずは、対象のネット証券7社で、一般信用取引の空売りサービスの返済期限区分を比較してみよう(2021年1月16日現在)。

一般信用取引で空売り(売建)できるネット証券一覧と返済期限区分比較表

証券会社名 返済期限区分
SBI証券 ・日計り信用(買建と売建、デイトレード特化)
・HYPER空売り(日計り、売建のみ、HYPER料が発生)
・短期(売建のみ、返済期限が15日)
・無期限(買建と売建、返済期限が無期限)
松井証券 ・一日信用取引(買建と売建、デイトレード特化)
・プレミアム空売り
(一日信用、売建のみ、プレミアム空売り料が発生)
・プレミアム空売りゼロ(一日信用、売建のみ、制度信用銘柄)
・無期限信用取引(買建と売建)
auカブコム証券 ・売短(売建のみ、返済期限が最長13日)
・長期(買建と売建、返済期日は最長10年)
マネックス証券 ・スペシャル空売り
(売建のみ、返済は当日中、スペシャル空売り料が発生)
・ワンデイ信用(買建と売建、返済期限は当日中)
・短期信用(売建のみ、返済期限は15営業日)
・無期限
楽天証券 ・いちにち信用(買建と売建が可能、返済は当日中)
・特別空売り銘柄
(売建のみ、デイトレード特化、
新興市場銘柄対象、特別空売り料が発生)
・短期(売建のみ、返済期限14日)
・無期限(買建と売建)
SMBC日興証券 ・一般信用取引の返済期限は原則3年
(買建と売建、日興イージートレード信用取引口座開設が条件)
※空売り(売建)は、日興イージートレード
信用取引口座開設済みのダイレクトコースの顧客が対象。
さらに規定等の書面交付電子サービスに
同意している場合に限られる
GMOクリック証券 ・短期(売建のみ、期限は別途定める期日)
・無期限(買建と売建)

(※各社ホームページを元に筆者作成)

制度信用取引では、返済期限は一律で最長6ヵ月に定められている。それに対して、証券会社の一般信用取引の返済期限にはバリエーションがある。

買建と売建が可能でデイトレードに特化したサービス、返済期限が当日中でも新興市場銘柄などが対象の空売り専用サービス、つなぎ売りを目的とする短期の空売り専用サービス、返済期限が長期のサービスなどがある。

一般信用で空売りできるネット証券、空売り対象銘柄数の比較

一般信用で空売りできる証券会社とはいえ、一般信用の空売り対象銘柄には違いが見られる。以下の比較表で、各社の対象銘柄数をチェックしてほしい(2020年12月27日現在)。

空売り対象銘柄数の比較表

証券会社名 一般信用の空売り対象銘柄数
SBI証券 ・HYPER空売り銘柄:1,171
・日計り通常銘柄:1,801
・短期銘柄:147
・無期限銘柄:118
松井証券 ・プレミアム空売り銘柄:1,501
・プレミアム空売りゼロ銘柄(制度信用):10
・一日信用取引売建銘柄:964
・無期限信用取引対象銘柄:964
auカブコム証券 ・売短銘柄:746銘柄
・長期銘柄:1,764銘柄
マネックス証券 ・ワンデイ信用銘柄:非公表
・スペシャル空売り銘柄:77
・短期信用銘柄:非公表
・無期限信用銘柄:非公表
楽天証券 ・いちにち信用銘柄:3,602
(特別空売り銘柄を含む)
・短期銘柄:117
・無期限銘柄:1,448
SMBC日興証券 一般信用の売建対象銘柄:約2,000
(2020年2月現在)
GMOクリック証券 GMOクリック証券の貸借銘柄
(対象銘柄数は非公表)

(※各社ホームページを元に筆者作成)

制度信用取引の空売りでは、取引所が選定した銘柄が対象になっている。一方、各証券会社が選定する一般信用取引の空売り銘柄は、制度信用の貸借銘柄には含まれない新興市場銘柄やIPO銘柄なども対象になっているのが特徴だ。

一般信用で空売りできるネット証券、貸株料の比較

信用取引では、証券会社から借りる株式や資金に対して、それぞれ貸株料と金利が毎日発生する。貸株料や金利は証券会社各社が自由に設定できるので、信用取引候補の証券会社間で比較して、より低い金利の証券会社を選ぶとよい。

以下の比較表は、2021年1月16日現在の各社の通常金利等を比較したものである。

貸株料と金利比較表(年率)

証券会社名 制度信用取引 一般信用取引
貸株料 買方金利 貸株料 買方金利
SBI証券 1.15% 2.80% ・日計り
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・日計り
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・短期:3.90%
・無期限:1.10%
・期日超過:1.80%
・日計り
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・日計り
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・短期:―
・無期限:2.80%
・期日超過:1.80%
松井証券 1.15% 3.1% ・一日信用
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・一日信用
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・無期限信用:2.0%
・一日信用
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・一日信用
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・無期限信用:4.1%
au
カブコム証券
1.15% 3.98%
(大口優遇金利は
1.34%~2.68%)
・売短:5.85%
・長期:2.25%
3.79%
(大口優遇金利は
1.15%~2.49%)
マネックス
証券
1.15% 2.80% ・ワンデイ信用/
スペシャル空売り:1.80%
・短期信用:3.90%
・無期限信用:1.10%
・ワンデイ信用:1.80%
・無期限信用:3.47%
楽天証券 1.10% 2.80%
(優遇金利は2.28%)
・いちにち信用
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・いちにち信用
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・短期:3.90%
・無期限:1.10%
・いちにち信用
(1注文の約定代金
100万円以上):0%
・いちにち信用
(1注文の約定代金
100万円未満):1.80%
・無期限:2.80%
(優遇金利は2.10%)
SMBC日興証券
(2020年
2月現在)
1.15% 2.50% 1.40% 3.00%
GMO
クリック証券
1.10% 2.75%
(VIPプランは
1.80%)
・短期:3.85%
・無期限:0.80%
・無期限:2.0%

(※各社ホームページを元に筆者作成)

一般信用で空売りできるネット証券、取引手数料の比較

空売りを含む信用取引の取引手数料は、一般的には現物取引手数料に比べて低く設定されている。さらに、証券会社各社とも、一定額以下の約定代金の取引手数料無料、大口優遇など、信用取引の取引手数料が安くなるサービスも各種提供している。

下表は、一般信用で空売りできる証券会社7社について、松井証券を除く6社は1注文当たりの取引手数料を、1日定額制手数料のボックスレートのみの松井証券はボックスレートを記したものである(2021年1月16日現在)。

信用取引手数料比較表

証券会社名 約定代金と取引手数料(税込)
SBI証券 10万円以下 20万円以下 50万円以下 50万円超 大口優遇
99円 148円 198円 385円 無料
・一般信用「日計り信用」や、国内上場のETF、ETN、
REITは約定代金にかかわらず、取引手数料無料
松井証券
(ボックス
レート)
50万円以下 100万円以下 200万円以下 100万円
増えるごとに
1,100円加算
1億円超
無料 1,100円 2,200円   上限11万円
・一日信用(デイトレ)は約定代金にかかわらず、取引手数料無料
・無期限信用取引のうち、「日計り取引片道手数料」と
「保有期間6ヵ月超の返済手数料」は無料
auカブコム証券 0円
マネックス証券 10万円以下 20万円以下 50万円以下 100万円以下 150万円以下 200万円以下 200万円超
99円 149円 198円 385円 660円 880円 一律1,100円
・ワンデイ信用、スペシャル空売り、ETF、ETN、REITの取引手数料は無料
楽天証券 10万円以下 20万円以下 50万円以下 50万円超 大口優遇
99円 148円 198円 385円 約定代金に
かかわらず、0円
・取引手数料の1%をポイントバック
・いちにち信用、ETF、ETN、REITの取引手数料は無料
SMBC日興証券 0円
GMO
クリック証券
10万円以下 20万円以下 50万円以下 50万円超 VIPプラン
97円 143円 187円 264円 0円

(※各社ホームページを元に筆者作成)

5,空売りがおすすめのネット証券7社の特徴は?

一般信用取引で空売りできるおすすめのネット証券7社の特徴やメリット、デメリット、基本情報などを紹介する。

おすすめネット証券1,SBI証券:No.1ネット証券が提供する充実した信用取引サービス

・SBI証券の空売りの特徴・メリット――HYPER空売り銘柄が豊富、充実の信用取引サービス

一般信用取引の日計り信用(デイトレード専用)銘柄の中でも、HYPER空売りはSBI証券の空売りサービスを象徴する人気サービスだ。制度信用の貸借銘柄から除外された新興市場銘柄やIPO銘柄などが対象になっており、銘柄数も豊富なので、別途HYPER料が必要であるにもかかわらず、人気が高い。

さらに、SBI証券は信用取引の取引手数料全体が業界最安水準、それ以外の各種手数料も安く、現物株式だけでなく信用取引でも低コストで運用できる。SBI証券の空売りを含む信用取引では、以下のようなサービスも利用できる。

SBI証券の信用取引、便利なサービス

貸株サービスの併用 代用有価証券を委託保証金に差し入れながら、
貸株サービス(眠っている現物株式をSBI証券に
貸し出して金利を受け取るサービス)を併用できる
投資信託の活用 委託保証金の代用有価証券として、
現金と現物株式だけでなく、投資信託も
差し入れることができる
追加保証金等
自動振替サービス
住信SBIネット銀行と口座連携すれば、
建玉に追加委託保証金の差し入れが
必要になったとき、もしくは委託保証金率が
20.2%に回復するまで、不足額が
「SBIハイブリット預金」から自動的に振り替えられる
HYPER SBIの
無料利用
信用取引口座の開設で、通常月額9,980円(税込)の
利用料がかかる高機能取引ツール
「HYPER SBI」の利用料が無料になる

(※SBI証券のホームページを元に筆者作成)

空売りをはじめとする信用取引サービスでは、SBI証券は業界随一の充実度といってよいだろう。

・SBI証券の空売りのデメリット――建玉管理費が必要になる

新規建玉の約定日から1ヵ月を経過すると、建玉の管理費が建玉に対して発生する。この管理費が無料の証券会社もある中で、SBI証券は有料だ。

デイトレードや短期には関係ないが、決済期限が長期や無期限では無視できない金額になる。この点が、SBI証券の空売りにおける唯一のデメリットといえるだろう。

注意点としては、一般信用の日計りで空売りをする際には、新規建てを行った当日中の決済を義務付けること。翌日に持ち越すと強制決済されるか、そうでない場合も、大口取引であっても以降は1.80%(年率)の貸株料がかかってしまう。コストが気になる人は十分注意してほしい。

・SBI証券の空売りがおすすめなのはどんな人?

SBI証券は低コストで空売りできる証券会社の代表格だ。対象銘柄も豊富なので、とにかく低コストで取引したい人や、多くの銘柄の中から、そのときの興味や企業の動向にあわせて銘柄を自由に選びたい人にはピッタリだ。

・SBI証券の空売り基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
計3,176銘柄
信用取引手数料(税込) スタンダードプラン(1約定ごとの手数料)
  約定代金10万円以下 約定代金20万円以下 約定代金50万年以下 約定代金50万円超
※1
3,000万円未満
99円 148円 198円 385円
※1
3,000万円超
0円
アクティブプラン(1日定額手数料)
  1日の約定代金合計100万円以下 1日の約定代金合計200万円以下 以降、100万円増加ごとに
※1
3,000万円未満
0円 964円 440円ずつ増加
※1
3,000万円超
0円

※1,「約定日の前営業日までの未決済建玉代金合計」または「約定日の前営業日の新規約定代金合計」
※2, 一般信用「日計り信用」と、国内上場のETFやETN、REITは、約定代金にかかわらず取引手数料無料
※3,日計り信用が期限までに返済、あるいは現引き・現渡しされなかった場合、SBI証券の任意で強制決済される。強制決済時の手数料はコールセンター手数料となる
(※SBI証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.15%
買方金利 2.80%(大口優遇2.28%)
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
  日計り信用(HYPER空売り銘柄を含む)※ 短期 無期限
貸株料 100万円超:0%
100万円以下:1.80%
3.90% 1.10%
買方金利 100万円超:0%
100万円以下:1.80%
2.80%
(大口優遇2.10%)
HYPER料 HYPER空売りには、1日当たり・1株当たりで所定の手数料が上乗せされる
現引き・現渡し手数料 無料
その他 ・貸株サービス併用可能

※日計り信用では、当日中に建玉が返済されなかった場合、約定代金にかかわらず、翌日以降は1日に付き買方金利1.80%(年率)または貸株料1.80%(年率)が発生する
(※SBI証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券2,松井証券――一日信用と無期限信用の草分け

・松井証券の空売りの特徴・メリット――デイトレ空売りが業界最安水準のコスト

一般信用取引として、証券業界で初めて一日信用と無期限信用サービスを始めた草分け的証券会社。とりわけ、一般信用取引の一日信用(デイトレード)のコストは業界最安水準。約定代金にかかわらず、取引手数料は全て無料だ。1注文の約定代金が100万円以上のプレミアム空売りとプレミアム空売りゼロの貸株料は0%、現渡し手数料も無料になっている。

一日信用の買建も、1注文の約定代金が100万円以上なら、買方金利も0%だ。一般信用取引の無期限信用のコストも安い。1注文の約定代金が100万円以上ならいつでも取引手数料無料、無期限信用の日計り信用なら片道取引手数料無料、保有期間が6ヵ月超の返済手数料も無料だ。

松井証券の一般信用なら、デイトレードの空売りから無期限信用まで、うまく使えばコストを最小限に抑えられる。松井証券はデイトレコストだけでなく、デイトレ専用の空売り銘柄(プレミアム空売り銘柄)の数も業界No.1であることは特筆すべきだろう。

・松井証券の空売りのデメリット――一日信用銘柄を当日中に返済しないと強制決済

松井証券の一日信用による空売りはコスト的には魅力が高いが、当日の大引けまでに反対売買あるいは現渡ししないと、翌日以降は建金額にかかわらず1.8%(年率)の貸株料が発生してしまう。

もしくは翌日に会社の任意で決済されることもあり、その場合には、1注文当たり3,575円(税込)の手数料も発生する。松井証券の一日信用の空売りでは、そのメリットを最大限に享受するには、当日中の返済が絶対であることを覚えておきたい。

・松井証券の空売りがおすすめなのはどんな人?

松井証券は、空売りのデイトレード中心に、新興市場銘柄や値動きの大きな銘柄を使って、徹底した低コストで効率よく利益を出したい人にピッタリの証券会社だ。

信用取引やデイトレード自体が初めてで、業界で最も信用取引の歴史と実績がある証券会社で安心したトレードをしたい人にもおすすめだ。

・松井証券の空売りの基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
2,475銘柄
(一日信用、無期限信用)
信用取引手数料(税込) 一日信用(プレミアム空売り、プレミアム空売りゼロ銘柄を含む)
・約定代金にかかわらず、全て無料
制限信用、無期限信用(ボックスレート)
1日の約定代金合計
50万円以下 100万円以下 200万円以下 100万円増えるごとに1,100円加算 1億円超
0円 1,100円 2,200円 11万円
(上限)

※一日信用のうち、プレミアム空売りにはプレミアム空売り手数料がかかるが、プレミアム空売りゼロは空売り手数料無料
※一日信用銘柄が当日中に返済されない場合、翌日以降は毎日金利または貸株料が発生し、場合によっては松井証券の任意によって決済されることもある(1注文当たり税込3,575円の手数料が発生)

(※松井証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.15%
買方金利 3.1%
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
  一日信用 無期限
貸株料 100万円超:0%
100万円以下:1.80%
2.0%
買方金利 100万円超:0%
100万円以下:1.80%
4.1%
プレミアム空売り料 プレミアム空売りには、1日当たり・1株当たりで所定の手数料が上乗せされる
現引き、現渡し手数料 無料
その他 ・貸株サービス併用可能

(※松井証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券3,auカブコム証券――大口取引なら断然有利な証券会社

・auカブコム証券の空売りの特徴・メリット――信用取引の取引手数料は全て無料

auカブコム証券を利用する最大のメリットは、信用取引の約定代金や返済期限に関係なく、全ての取引が手数料無料で、とにかく分かりやすいことだろう。一般的には、信用取引の取引手数料は約定代金ごとに定められている。大口取引もしくはデイトレードで手数料が無料になる証券会社もあり、手数料体系が複雑で分かりにくい。

それに対して、auカブコム証券は手数料を考える煩わしさが一切ないので、空売り銘柄の選択などに神経を集中できるのでありがたい。

さらに、auカブコム証券では代用貸株サービスを利用できるのも独特だ。委託保証金の代用有価証券として差し入れた有価証券そのものを貸し出せて、それによって貸付還元料を受け取れる。

他の証券会社の「貸株サービス併用可能」とは、信用取引をしながら、別途手持ちの有価証券を貸し出せるというもの。それに比べると、1つの有価証券を同時に委託保証金と貸し付けに利用できるauカブコム証券の代用貸株サービスは効率的だ。

・auカブコム証券の空売りのデメリット――貸株料が高く、大口取引でないと手数料が割高

取引手数料は無料だが、それ以外のコストの高さが目に付く。大口優遇の適用外だと、空売りの際に支払う貸株料や買建で支払う金利は高めだ。

現引き・現渡し手数料も有料だが、大口優遇が適用されると無料になる。一般的な個人投資家だと、決済方法として現引き・現渡しを気軽に選択できるとは言い難い。

・auカブコム証券の空売りがおすすめなのはどんな人?

一般的な個人投資家でも、手持ちの有価証券を効率的に利用して、信用取引のコストを圧縮したいと考える人には真っ先におすすめしたい証券会社だ。

あるいは、1ヵ月間の預り資産評価額が2億円以上、1ヵ月の建玉残高が3億円以上になるような大口顧客や個人事業主、法人にもおすすめだ。auカブコムの大口優遇が適用されるので、貸株料や金利などを抑えられてお得感を感じられるだろう。

・auカブコム証券の空売りの基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
売短:746銘柄
長期:1,764銘柄
信用取引手数料 全て無料

(※auカブコム証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.15%
買方金利 3.1%
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
  売短 長期
貸株料 5.85% 2.25%
買方金利 3.79%
大口優遇 買方貸方金利を最高2.64%優遇
現引き、現渡し手数料
(税込)
10万円以下:99円
10万円超~20万円以下:148円
50万円超~60万円以下:592円
60万円超~70万円以下:691円
70万円超~80万円以下:790円
80万円超~100万円以下:836円
100万円超~200万円以下:1,034円
200万円超~500万円以下:1,210円
500万円超:1,320円
その他 ・代用貸株サービス利用可能

(※auカブコム証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券4,マネックス証券:信用取引初心者でも使いやすい

・マネックス証券の空売りの特徴・メリット――低コストのスペシャル空売りが便利

一般信用取引のデイトレード専門サービス、「スペシャル空売り」(売建のみ、新興市場銘柄などに特化)と「ワンデイ信用」は1約定が100万円以上なら取引手数料が無料、貸株料や金利も無料、さらに現引き・現渡し手数料も無料なので、コストを一切気にせず、デイトレードできる。

マネックス証券では、信用取引初心者向けサービスにも積極的だ。リスクが限定される買建のみ、建玉上限が500万円までの「スタート信用」や、信用取引の損切りに慣れていない初心者に最適な自動決済発注サービス「みまもるくん」(無料)も利用できる。

・マネックス証券の空売りのデメリット――一般信用の空売り対象銘柄が多くない

マネックス証券の空売りは総体的には使いやすい印象であるが、空売り対象銘柄が他社に比べて明らかに少ないことはデメリットだ。一般信用で空売りできる銘柄は、ワンデイ信用、スペシャル空売り、短期、無期限を合わせて約1,000銘柄程度。今後、空売り対象銘柄が一層増えることを期待したい。

もう一つのデメリットは、ワンデイ信用とスペシャル空売りが当日中に返済されないと、返済の繰り延べはなく、翌日強制決済されることだ。

強制決済は株価や相場環境とは無関係に執行されるので、できれば回避すべきだ。ワンデイ信用やスペシャル空売りで取引するなら、できるだけ早めに返済できるように心がけたい。

・マネックス証券がおすすめなのはどんな人?

信用取引のデイトレードで値動きの大きな銘柄に投資したい、なおかつ可能な限りコストダウンして利益を増やしたいと考える人には、マネックス証券のワンデイ信用やスペシャル空売りは最適な選択だ。

損失リスクが心配な信用取引初心者の人も、マネックス証券なら、無理のない範囲でリスク管理しながら取引できるのでおすすめの証券会社である。

・マネックス証券の空売りの基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
・ワンデイ信用銘柄:非公表 ※1
・スペシャル空売り銘柄:77 ※1
・短期信用: 非公表 ※2
・無期限信用:非公表
※空売り対象銘柄数は1,000以上
信用取引手数料
(税込)
取引ごと手数料
10万円以下 20万円以下 50万円以下 100万円以下 150万円以下 200万円以下 200万円超
99円 149円 198円 385円 660円 880円 一律1,100円
・ワンデイ信用、スペシャル空売り、ETF、ETN、REITの取引手数料は無料
一日定額手数料(信用取引と現物取引の約定代金合計ごと)
100万円以下 550円
100万円超、以降300万円ごとに 2,750円

※1,ワンデイ信用とスペシャル空売りは、当日中に返済されない場合、翌営業日の前場寄り付きで強制決済される
※2,短期信用は期限までに返済されない場合、15営業日目の前場寄り付きで強制決済される
(※マネックス証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.15%
買方金利 2.80%
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
貸株料
※1
ワンデイ信用
スペシャル空売り
短期信用
(売建のみ)
無期限
1.80% 3.90% 1.10%
買方金利
※2
ワンデイ信用 無期限
1.80% 3.47%
スペシャル
空売り料
新規建て当日から決済完了まで、スペシャル空売り料が毎日発生する
現引き、現渡し手数料 無料
その他 ・スタート信用口座サービスあり(買建専用、建玉上限500万円)
・無料の「みまもるくん」(信用取引自動決済発注サービス)を利用可能

※1,約定代金100万円以上のスペシャル空売りは貸株料無料
※2,約定代金100万円以上のワンデイ信用は金利と貸株料無料
(※マネックス証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券5,楽天証券――信用取引手数料が安い楽天グループのネット証券

・楽天証券の空売りの特徴・メリット――業界最安水準のコストと1%のポイントバック

1注文ごとの取引手数料はSBI証券と同じく業界最安水準だ。さらに、取引手数料1%分のポイントバックもあるので、楽天ポイントユーザーならばお得に空売りをはじめとした信用取引ができる。

空売りの際に発生する貸株料や買建玉に発生する金利も、SBI証券や松井証券、マネックス証券とほぼ同水準である。唯一、制度信用取引の貸株料のみ、楽天証券は1.10%で最安になっており、他の3社の1.15%を下回っている。

・楽天証券の空売りのデメリット――いちにち定額手数料はSBI証券より高め

一日定額手数料では、楽天証券はSBI証券に比べると、若干高めの設定だ。楽天証券の期限が設定された建玉は全て、最終返済日までに返済または現引き・現渡しされなければ、翌日楽天証券によって強制決済される。

SBI証券はHYPER空売り銘柄の建玉がHYPER料の上乗せで翌日に持ち越されることもあるが、それに比べると楽天証券の期限付き建玉の未返済に対する措置は厳しい。不要な損失を出さないためにも、期限前の決済を徹底する必要がある。

・楽天証券がおすすめなのはどんな人?

空売りを含む信用取引の条件において、SBI証券や松井証券、マネックス証券と大きく異なる点は見つからない。

取引手数料に対して楽天ポイントが付与されるサービスは、楽天グループの証券会社だからこそのメリットだ。楽天ポイントユーザーなら、空売りも信用取引も、楽天証券なら他社よりお得に利用できるだろう。

・楽天証券の空売りの基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
・いちにち信用銘柄:3,602(特別空売り銘柄を含む)
・短期銘柄:117
・無期限銘柄:1,448
信用取引手数料(税込) 超割コース
10万円以下 20万円以下 50万円以下 50万円超 大口優遇
99円 148円 198円 385円 約定代金にかかわらず0円
・取引手数料の1%をポイントバック
いちにち定額コース(現物取引と信用取引の約定代金を合算)
100万円以下 200万円以下 300万円まで 以降、100万円増えるごとに1,100円ずつ加算
0円 2,200円 3,300円
・いちにち定額コースで日計り取引をした場合は片道分無料

※1,いちにち信用、国内上場のETF、ETN、REITの取引手数料は無料
※2,返済期限のある建玉が、最終返済日までに返済あるいは現引き・現渡しされなかった場合、期日当日に楽天証券の任意で強制決済される
※3,楽天証券によって強制決済される際の手数料は、選択している手数料コースが定める手数料になる。いちにち信用取引の場合の強制決済手数料のみ、オペレーター取次手数料+消費税である
(※楽天証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.10%
買方金利 2.80%(大口優遇2.28%)
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
貸株料
※1
いちにち信用
(特別空売りを含む)
短期
(売建のみ)
無期限
100万円超:0%
100万円未満:1.80%
3.90% 1.10%
買方金利
※2
いちにち信用 無期限
100万円超:0%
100万円未満:1.80%
2.80%
(大口優遇2.10%)
特別空売り料 ・新規建て当日から決済完了まで、特別空売り料が毎日発生する
現引き、現渡し手数料 無料

(※楽天証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券6,SMBC日興証券:独自性の高い信用取引サービスを提供

・SMBC日興証券の空売りの特徴・メリット――取引手数料や管理費が無料、シンプルな商品設計

SMBC日興証券のオンライン専用口座「ダイレクトコース」では、インターネット取引を行う「日興イージートレード信用取引」によって、空売りを含む全ての信用取引の取引手数料が無料になる。

さらに、SMBC日興証券特有のメリットとして注目されるのが、通常は1ヵ月以上建玉を保有することで発生する管理費が無料であることだ。建玉の保有が長期になればなるほど、建玉に対して月々にかかる管理費も負担に感じるようになる。長期の信用取引を考える場合にはコスト削減効果が高い。

もう一つのSMBC日興証券のメリットは、一般信用取引の商品設計のシンプルさだ。一般信用取引を行う際には、店舗口座ではなく、ネット取引専用のダイレクトコースでインターネット取引を行い、あらかじめ書面の電磁的交付や差し入れの同意が前提となる。

準備さえ整えば、どのような新規の売建または買建注文でも、返済期限は原則3年、一律の貸株料や金利で取引できるので分かりやすい。

・SMBC日興証券の空売りのデメリット――一見すると、貸株料や金利が高い印象を受ける

SMBC日興証券の空売りで、気になるデメリットは見当たらない。しいていうなら、総合証券であることに敷居の高さを感じる、あるいはコスト高に対する不安がある程度だ。

注意したいのは貸株料や金利だ。一般信用の貸株料は一律1.40%、買方金利は3.00%で、一見すると他社に比べて若干高い印象だ。

他社のようにデイトレード専用銘柄を設定したり、金利が格安の大口優遇制度を設けたりしていないため、金利の安さが強調されないだけで、実際には、SMBC日興証券ダイレクトコースで空売りして、コストが負担になることはないだろう。

・SMBC日興証券がおすすめなのはどんな人?

空売りだけでなく、信用取引自体が初めての人には、SMBC日興証券のイージートレード信用取引はシンプルで低コストなので、安心しておすすめできる。

一般信用取引で空売りできる銘柄も約2,000あり、期限も3年と長いことから、株主優待のつなぎ売りに活用できるのはいうまでもない。中上級者でもさまざまな活用方法や収益機会を得られるだろう。

・SMBC日興証券の空売りの基本情報(2020年2月現在)

一般信用取引
空売り対象銘柄数
約2,000銘柄
(2020年2月現在)
信用取引手数料 全て無料

(※SMBC日興証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.15%
買方金利 2.50%
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
貸株料 1.40%
買方金利 3.00%
返済期限は原則3年
現引き、現渡し手数料 無料
その他 一般信用取引の利用条件
・ダイレクトコース利用
・日興イージートレード信用取引口座開設済み
・規定等の書面交付の電子化サービスに同意

(※SMBC日興証券のホームページを元に筆者作成)

おすすめネット証券7,GMOクリック証券:空売りのコストが業界屈指の安さ

・GMOクリック証券の空売りの特徴・メリット――取引手数料や貸株料などが最安水準

GMOクリック証券の空売りは、制度信用あるいは一般信用、短期か無期限かを問わず、取引手数料、貸株料が業界トップクラスの安さを誇る。

デイトレード専用コースや新興市場銘柄コースこそ設定されていないが、GMOクリック証券の基準を満たせば、新規上場銘柄も上場初日から一般信用の空売り銘柄の対象になる。無期限の一般信用を利用すれば、取引手数料と貸株料を最低限に抑えて空売りすることも可能だ。

・GMOクリック証券の空売りのデメリット――定額手数料コースの対象が信用取引のみ

一日定額手数料を設けている証券会社の多くは、現物取引と信用取引の約定代金を合計して手数料の算出根拠としている。それに対して、GMOクリック証券では、制度信用と一般信用だけが一日定額手数料のベースだ。

GMOクリック証券では、現物取引と信用取引を合算して効率的に定額手数料を抑えられない。この点を人によっては不便に感じることもあるだろう。

信用取引のデイトレードコースも用意されていないため、デイトレードに特化して、取引手数料0円で取引したい人にも不向きだ。

・GMOクリック証券が向いているのはどんな人?

株主優待獲得のためのつなぎ売り、株価下落時の利益狙い、保有する現物株式の株価下落時のリスクヘッジ、ときにはデイトレードも行うなど、柔軟な返済期日と目的で空売りしたい人には、満遍なく低コストで使いやすい証券会社だ。

・GMOクリック証券の空売りの基本情報(2020年12月28日現在)

空売り対象銘柄数と取引手数料

一般信用取引
空売り対象銘柄数
空売り対象銘柄はGMOクリック証券の貸借銘柄
(対象銘柄数は非公表)
信用取引手数料
(税込)
1約定ごとプラン VIPプラン
10万円以下 20万円以下 50万円以下 50万円超
97円 143円 187円 264円 0円
一日定額プラン
10万円以下 50万円以下 100万円以下 200万円以下 300万円以下 300万円超、100万円ごと加算 VIPプラン
0円 220円 440円 880円 1,320円 440円 0円
・制度信用取引と一般信用取引の約定代金合計額で一日定額手数料を算出する

(※GMOクリック証券のホームページを元に筆者作成)

貸株料、金利など

制度信用取引
(年率)
貸株料 1.10%
買方金利 2.75%(VIPプラン1.80%)
逆日歩 発生する場合がある(銘柄によって異なる)
一般信用取引
(年率)
貸株料 短期
(売建のみ)
無期限
3.85% 0.80%
買方金利 無期限
2.0%
現引き、現渡し手数料 無料
その他 ・貸株サービスの併用可能

(※GMOクリック証券のホームページを元に筆者作成)

6,空売りの4つの注意点・デメリット

現物取引にはないメリットのある空売りであるが、信用取引には「買いは家まで、売りは命まで」という投資の格言もあるほど、空売りがリスクを伴う投資手法であるのも事実だ。

空売りのリスクやデメリットについても正しく理解し、十分配慮した上で、空売りを新たな投資機会として活用することが何より重要だ。

注意点・デメリット1,損失が無限大になるリスクがある

信用買いでは、買い建てた金額以上の損失が出ることはない。それに対して空売りでは、建玉保有中にストップ高を連日更新し続けるような株価急騰が起こった場合には、理論上、売り建てた金額の何倍もの損失が生じる、あるいは損失が無限大に膨れ上がる可能性もある。

信用取引は基本的に返済期限のある取引なので、しかるべき対応をとっておかないと、返済期限にこのような損失を抱えたまま決済しなければならないケースも想定される。

空売りをする際には、レバレッジを低めに設定する、例えば最大約3倍のところを2倍程度に抑える、もしくは逆指値注文を出して損失拡大を防ぐなどの建玉管理を怠らないよう、十分配慮しなければならない。

注意点・デメリット2,追証がある

空売りを含めた信用取引は委託保証金を担保にしたレバレッジ取引であるため、委託保証金の維持率が設定された水準を下回ると、追証(追加委託保証金)が発生する。

追証発生後は期限までに追証を解消しなければ、建玉は強制決済され、差し入れた委託保証金の一部、あるいは全額を失ってしまう可能性もある。

空売りする際には、売り建てたら、反対売買あるいは現渡しまで、こまめな建玉チェックを行い、追証や強制決済にならないように注意を払い、ときには損失が拡大しないように適切に損切りする必要もある。

注意点・デメリット3, 決済が延びれば延びるほどコストがかさむ

信用取引の取引手数料は、どの証券会社も低く抑えられている。一定条件を満たすと取引手数料が無料、あるいは大口取引の取引手数料が無料といった証券会社もある。

ただし、信用取引は、貸株料や金利、ときには逆日歩、配当落調整額などの取引手数料以外の費用が発生する取引でもある。空売りで注意を要するのは貸株料である。貸株料は建玉を返済するまで必ず払い続けなければならない費用だ。

一般信用取引で空売りできる証券会社を選ぶ際には、少しでもコストを抑えられるように、信用取引の貸株料や金利の低い証券会社に注目することをおすすめしたい。

コストを抑える方法としては、返済までの期間をできるだけ短くする、あるいは日計り信用を活用するなどの対策も考えられる。

注意点・デメリット4,空売りには「空売り価格規制」がある

空売りは、金融商品取引法および金融商品取引法施行令で定めた、いわゆる「空売りの価格規制」の対象である。空売りは、株価の意図的な下落を目的に乱用された過去があり、空売り価格規制はこのようなマーケットの混乱を未然に防止する目的で設けられた。

トリガー抵触銘柄(前日終値より株価が10%以上下がった銘柄)に該当する場合は、株価の上昇局面では直近公表価格未満、株価の下落局面では直近公表価格以下の価格による、51単元以上の空売りが禁止されている。

空売り規制は、制度信用だけでなく一般信用も対象だ。一般信用で値幅の大きなデイトレード専用銘柄などを大口で空売りする際には、トリガー価格に抵触していないかを確認して、合計で51単元を超えないように発注する必要がある。

規制に抵触すると、30万円以下の過料処分が課せられることがあるので気を付けてほしい。

7,信用取引で出てくる頻出用語を解説

最後に空売りをはじめとする信用取引の新規建てから弁済に至るまで、投資家が知っておくべき重要事項や発生する費用については用語を紹介していこう。

委託証拠金

信用取引の取引金額の30%以上を、申込日から2営業日目の正午までに、現金または代用有価証券によって、証券会社に差し入れる。

代用有価証券の評価額は、差し入れる株式や債券などの時価に、証券会社が定める一定率(代用掛け目)を掛けて算出する。

委託保証金率

信用取引の約定代金のうち、差し入れる委託保証金の割合のこと。信用取引では、委託保証金率は30%以上に定められている。

委託保証金には、現金の他、有価証券(現物株など)を差し入れることもできる。

委託保証金率(%)=約定時の委託保証金(現金+代用有価証券評価額)÷建玉約定代金×100

委託保証金維持率

買建玉または売建玉の約定代金のうち、含み損が発生して目減りした委託保証金が占める割合のこと。

信用買いした後に値下がりした場合、あるいは信用売り後に値上がりした場合に、買建玉あるいは売建玉に評価損が発生する。

委託保証金維持率の算出の際には、委託保証金から評価損相当額が差し引かれ、建玉に占める減額後の委託保証金の割合を計算する。

委託保証金維持率(%)=確認した時点の委託保証金(委託保証金-評価損)÷建玉約定代金×100

最低委託保証金維持率、追証(おいしょう)

建玉を維持できる委託保証金維持率の最低水準のこと。最低委託保証金維持率を下回ると、追証(追加委託保証金)が発生する。

追証が発生したら、最低委託保証金維持率を上回るまで委託保証金を追加で差し入れる、もしくは建玉を返済して決済することで追証を解消する必要がある。

いったん発生した追証は、株価が反転するなどによって委託保証金維持率が回復しても、不足金額が減額される、あるいは追証が発生しなかったことにはならない。

一般信用取引の最低委託保証金率は、証券会社ごとに定められている。

貸株料

空売り(信用売り)のために、証券会社から株を借りる際に発生する証券会社に支払う株のレンタル料のこと。

金利(買方金利)

信用買いのために、証券会社から資金を借りる際に発生する証券会社に支払うべき金利のこと。

逆日歩(品貸料)

制度信用取引のみで発生する費用。証券金融会社が貸し出す貸借銘柄の株式が市場で不足する場合に発生する品貸料のこと。

空売りの際に支払いが必要になることがある一方、信用買いの際には、品貸料を受け取れる場合もある。

配当落調整額

権利確定日をはさんで建玉を保有する場合に、配当金相当額として調整処理される。制度信用の空売りでは「配当金額-源泉徴収相当額」を、一般信用の空売りでは「配当金と同額」を支払う必要がある。

信用買い(制度信用、一般信用)では「配当金額-源泉徴収相当額」を受け取れる。

権利処理等手数料(名義書換手数料)

権利確定日をはさんで買い建玉を保有する場合に支払う費用のこと。

権利処理等手数料は、個別銘柄については売買単位当たりで50円(税抜)、ETFまたはETNについては1売買単位当たり5円(税抜)に定められている。

管理費

信用新規建の約定日から1ヵ月経過すると、1ヵ月ごとに建玉に対して発生し、決済時に精算される。

管理費を徴収する証券会社は、以下のような手数料額を設定している。
・1ヵ月、1株当たり11銭
・1ヵ月の建玉ごとの管理費下限は110円、上限は1,100円
・売買単位が1株の場合は1株110円

8,空売り活用の極意、リスクを十分理解した上で利益を狙うこと

空売りは、株価下落時でも利益を出せる、株主優待のつなぎ売りにも利用できるなど、使い方さえ身に付ければ便利な取引手法である。その一方で、損失が拡大するリスクも信用買いを上回る。

空売り活用テクニックを学ぶとともに、損失が発生するメカニズムとリスクを正確に理解すれば、株式投資の幅を広げながら、収益も増やせる。恐れるだけでなく、リスクを知ってチャレンジすることも、株式投資に必要なスタンスではないだろうか。

執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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