2021年時点でクリーンエネルギー自動車といえばハイブリッド車が主流となっています。今後さらなるスタンダードになると予想されるのが電気自動車(EV:Electric Vehicle)と燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)です。両者のメリットと直近のマーケットを比較したうえで、シェア争いにおいて考えられる3つのシナリオを解説します。

電気自動車と燃料電池自動車の「メリット・デメリット」比較

電気自動車と燃料電池自動車を比較 考えられる3つのシナリオとは?
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

はじめに電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)の仕組みを確認しましょう。一番の違いは燃料が「電気なのか」「水素なのか」といったことです。EVの仕組みは、車に搭載されたリチウムイオン電池などに電気をチャージし、そのエネルギーでモーターを動かして走行します。

出典:一般社団法人 次世代自動車振興センター「クリーンエネルギー自動車とは?」
出典:一般社団法人 次世代自動車振興センター「クリーンエネルギー自動車とは?」

一方FCVは車に搭載された燃料電池で水素と酸素を化学反応させ、そこで生まれた電気でモーターを動かして走行します。

出典:一般社団法人 次世代自動車振興センター「クリーンエネルギー自動車とは?」
出典:一般社団法人 次世代自動車振興センター「クリーンエネルギー自動車とは?」

どちらも走行するときに排出されるCO2はありません。さらに両者ともに電気モーターで走るため、走行音が静かで発進もスムーズです。このようにEVとFCVを比べると共通点もありますが、以下のような違いもあります。

電気自動車(EV)燃料電池自動車(FCV)
メリット・量産しやすい
・電気をチャージできる場所が多い
・チャージ時間が短い
・航続距離が長い
デメリット・チャージ時間が長い
・航続距離が短い
・量産体制を開発中
・水素をチャージできる場所が少ない
・水素の供給に環境負荷がかかる

一般社団法人次世代自動車振興センターが公表している「水素ステーション整備状況」によると、全国でFCVの水素をチャージができる場所は2020年12月時点で137ヵ所です。一方EVの電気チャージは、自宅でも設備があればできるようになりつつあります。このようにチャージ環境に大差があるため「FCVは淘汰される」との意見もありますが、EVは「チャージ時間が長い」という点がデメリットです。

これは現在のEVの電池を大きく上回るスペックを持つ「全固体電池」が実用化しても限界があるといわれています。また「航続距離でEVはFCVを上回れない」という見方が一般的です。チャージ時間と航続距離の2点でアドバンテージがあることがFCVの開発が進められている理由です。

電気自動車と燃料電池自動車の「直近のマーケット」比較

次に電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)の台数を比較してみましょう。2021年1月時点で、FCVがEVにシェア争いで遅れをとっていることは明らかです。ちまたを走っている車でFCVを見かけることはあまりありません。実際にFCVとEVではどれくらいの差がついているのでしょうか。グローバルの潮流をつかむため、世界の生産・販売台数で見ていきましょう。

電気自動車と燃料電池車の「現時点のマーケット」比較

2020年5~7月に矢野経済研究所が行った「xEV世界市場に関する調査」によると、2019年度における電気自動車やハイブリッド車などを含む「xEV(次世代車)タイプ自動車」の世界生産台数は682万1,000台(※バス、トラックなど商用車を含む台数)でした。このうちEVのみに限ると195万8,000台でxEVタイプ自動車の3~4台に1台は電気自動車ということになります。

一方FCVは、EVの規模より数百分の1に止まっています。SNEリサーチの調査では、2020年1~9月における世界のFCVの販売台数は6,664台しかありません。年間を通した生産台数であればさらに多い台数になりますが、それでもEVとFCVの間に圧倒的な差が開いていることに変わりはないでしょう。

電気自動車と燃料電池車の「2025年のマーケット」比較

では、このEV優勢の状況は今後約5年でどのように変化していくことが予想されるでしょうか。矢野経済研究所が行った同調査によると、ハイブリッド車などを含めた2030年の市場ベースにおけるxEVタイプ自動車の世界生産台数は2,029万9,000台、EVのみに限ると619万5,000台です。2019年と比較するといずれも約3倍のマーケット規模に成長しています。

一方でデロイト トーマツ コンサルティングによると、2025年のFCVの販売台数は約176万台で「EVの約3分の1の台数」という予測です。この段階でもEVのシェアが圧倒的に優位ですが、2020年以降、FCVの普及が一気に進むと分析されています。なお世界におけるFCVの販売台数約176万台のうち、日本が占めるのは約20万台の見込みです。

これを多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれそうですが、政府や各自治体のバックアップにより、さらなる台数の上積みが可能と考えられます。

デロイト トーマツ コンサルティング「FCVの世界予測」
出典:デロイト トーマツ コンサルティング「FCVの世界予測」
※1:米国・欧州・日本を合わせたマーケット予測です。中国で普及が進むと、この数値よりも増加すると見込まれます。
※2:EVやFCVのマーケット予測にはさまざまなデータがあります。こちらで取り上げたのはあくまでも一例です。

電気自動車と燃料電池車のシェア争い 3つのシナリオ

ここまでの内容でEVとFCVの特徴や、マーケットについては理解できたでしょうか。具体的に将来のマーケット展望で考えられる3つのシナリオについて解説します。

シナリオ1:電気自動車がシェアを圧倒する

1つ目のシナリオは、EVがクリーンエネルギー自動車の大きなシェアを占めるというもの。きっかけとしては、現在のEVで主流である「リチウム電池」を格段に上回る性能を持つ「全固体電池」の実用化です。早ければ全固体電池の第1世代は2022~2024年には登場するともいわれています。これによりEVのウィークポイントであった「チャージ時間の長さ」「航続距離の短さ」の2点が解消され、一気にEVのシェア拡大に弾みがつく可能性があるでしょう。

国内で見ると、政府が基金を活用して全固体電池の開発を後押しする方針を示していることは好材料です。

シナリオ2:燃料電池車がシェアを奪う

圧倒的なシェアを誇っていたEVがどこかの段階でFCVにとって替わられる……これは、現時点のEVの勢いを考えればイメージしづらいシナリオです。しかし、1970年代後半~1980年代にかけての「ビデオデッキのVHSとベータの規格争い」のような大逆転もあるため、ゼロとはいい切れません。ビデオデッキの規格としてはVHSが後発で初期段階ではベータが圧倒的な優勢を誇りました。

それが1978年にVHSにシェアを逆転されて以降、ベータの生産台数が伸びず1988年には年間生産台数のシェアが1%以下まで落ち込みました。このようなFCVの大逆転を起こすきっかけになり得るのは、燃料電池車の量産化体制が構築され、水素がチャージできるスポット数が増加することです。国内で見ると政府が2020年末に示したグリーン戦略では「2050年に水素の消費量を約2,000万トンまで拡大」することを目標としていることが好材料と考えられます。

シナリオ3:電気自動車と燃料電池車のすみ分けが進む

「近距離はEV」「長距離は燃料電池自動車」のような、用途によりすみ分けが進むシナリオです。具体的には、近場のショッピングはEV、長距離トラックやバスなどの商用車や一部の乗用車はFCVのような具合となります。これは現実的に十分あり得るシナリオです。なぜなら現時点でもEVとFCVのすみ分けの流れがあるからです。

一例では、トヨタは1回の充電で150キロメートルを走れる近距離用の2人乗りEV「C+pod(シー・ポッド)」の発売を2021年に予定しています。法人と自治体へ先行販売、一般販売は2022年からが目標です。また海外では、2020年12月にダイムラー・トラックなど大手5社が燃料電池トラックの普及に向けた団体を立ち上げ、注目されています。ダイムラーは、燃料電池トラックの量産体制の構築を発表しています。

上記3つのシナリオのうち、どれが現実化するにしてもクリーンエネルギー自動車が全盛になることは間違いありません。クリーンエネルギー自動車をライフやビジネスに取り入れて、カーボンゼロ時代にふさわしいスタイルを確立しましょう。(提供:Renergy Online


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