温暖化ガスを削減するには、電気自動車の普及とともに「住宅のエネルギー消費削減」も鍵を握ります。政府が2020年末に示したグリーン成長戦略では、具体的に「新築の排出量を2030年ゼロ」という目標を掲げています。これを達成するには、戸建住宅に太陽光発電の導入が欠かせません。現段階の状況と今後の展望について解説します 。
2030年に「新築住宅で温暖化ガス排出ゼロ」が日本の目標
「2050年の温暖化ガス排出実質ゼロ」達成への取り組みとしては、電気自動車への転換がメディアでよく取り上げられている感もあります。しかし、住宅を含む建物のエネルギー収支もとても重要なテーマです。
はじめに「温暖化ガス排出実質ゼロ」 に向けて、戸建住宅がどのような環境にあるのかを確認したいと思います。政府が2020年12月に示した、温暖化ガスゼロ達成のロードマップである「グリーン成長戦略」において戸建住宅の目標は次のように設定されています。
2030年:新築全体で排出ゼロ
2040年:次世代対応太陽電池を搭載
最終的にはすべての建築物で排出ゼロ
(参照:日本経済新聞2020年12月25日付)
パッと見てわかるように「2030年:新築全体で排出ゼロ」をはじめ、かなり厳しい目標が設定されています。現実的にこれを達成するには、外皮を高断熱仕様にするなど「エネルギーを使わない住宅性能」と太陽光発電の導入などで「エネルギーを生み出す住宅性能」の両面からのアプローチが欠かせません。
戸建住宅の太陽光発電の普及率はどれくらい?
では、温暖化ガス排出ゼロに欠かせない「戸建住宅の太陽光発電の普及率」が、現時点でどれくらいかを確認しましょう。
戸建住宅の太陽光発電(10kW以上)の普及率は、2019年時点で全体の9%、10件に1件の導入割合です。全国の戸建住宅の総数は2,875万戸ありますが、そのうち267万戸で太陽光発電が導入されています。
(参照:太陽光発電協会「太陽光発電の状況 2020年10月資料」)。
目標達成に向けて心配なのは、戸建住宅において太陽光発電の導入件数のペースが、近年急激に落ちていることです。2012年の導入件数は年間約42万件でしたが、2019年は約15万件と半分以下に落ちています。
このような状況で「2030年:新築全体で排出ゼロ」のハードルを超えることができるのでしょうか。これは、新築住宅の導入件数だけにフォーカスすると光明が見えてきます。
太陽光発電の導入件数が落ちている最大の原因は、既存住宅の導入(太陽光発電リフォーム)の数が減っていることです。新築物件だけで見ると、太陽光発電を導入した新築住宅は、2012年も2019年も12万件台と一定数をキープしています。この一定数にさらに上積みをしていけば達成が近づくと考えられます。
戸建住宅の太陽光発電導入を左右するZEHとは
「2030年:新築全体で排出ゼロ」を達成する鍵になるのは、2014年から継続している国の補助事業であるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の認知向上と利用拡大でしょう。これは、次の3つの組み合わせで「エネルギー収支を実質ゼロ」にする住宅のことです。
- 高断熱性能
- 効率的なエネルギーシステム
- 太陽光発電+蓄電池などの導入
ZEHの基準を満たしている戸建住宅には、2020年段階で1戸あたり60万円の補助金が出されています(補助金名:ZEH支援事業)。ただし、ZEHは太陽光発電の費用に直接補助金が出るわけではありません。太陽光発電で生み出した電力を効率よく利用するための次の設備が対象になります。
[ZEHの対象になる設備]
・省エネ換気
・高効率空調
・高断熱窓
・高断熱外皮
・蓄電システム
・高効率給湯
[ZEHの対象にならない設備]
・太陽光発電
・日射遮蔽
・高効率照明
・HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)
ZEHを活用すれば、結果的に太陽光発電を導入した戸建住宅を安く購入、または建築することができます。さらに高度なエネルギー活用システムを備えた戸建住宅には、補助金が増額になる「ZEH+(補助額105万円〜)」「ZEH+R(補助額115万円〜)」もあります。
※なおZEH支援事業の対象は、新築住宅だけでなく既存住宅のリフォームも含まれます。
最近では、太陽光発電を無料提供する仕組みも広がる
このほか、各自治体でも太陽光発電を導入する戸建住宅の補助金を用意しているケースもあります。とはいえ、補助金があっても太陽光発電の導入には施主の負担が発生します。
このネックを解消する試みが、太陽電池メーカー、エネルギー関連企業、ハウスメーカーなどが続々と新規参入している「太陽光発電システム(パネル+蓄電池など)の無料提供」です。この仕組みは、「第三者所有モデル」「PPAモデル」とも呼ばれ、契約すると施主は負担0円で太陽光発電システムを設置することが可能です。国内では、2017年頃からマーケットが形成されはじめた新しいビジネスモデルです。
一例では、京セラと東京電力・中部電力のアライアンスによる「0円太陽光サービス」があります。この第三者所有モデルを利用すると、はじめの10年間は通常よりもお得な料金で電気を使うことができ、さらに10年後以降は太陽光発電システムを無償譲渡できます。
ほかの第三者所有モデル例としては、トヨタホームと東京ガスが連携した「ずっともソーラー×トヨタホーム」、東京電力グループのTEPCOホームテックが各社とアライアンスを進めている「ソーラーエネカリ」、静岡県内のガス会社・鈴与商事の「新築0円ソーラー」などがあります。なお、鈴与商事では2021年1月段階で約300件の施工実績があります。
太陽光発電システムを導入コスト0円で提供する仕組みは、提供企業側と利用者側の両方にメリットがあるため今後急増すると予想されています。シンクタンク富士経済の予測によると(※)、国内の第三者所有モデル市場は2019年の58億円から2030年の1,571億円と約27倍拡大すると見込まれています(非住宅系を含む)。
※富士経済「2030年度国内市場予測(2019年比)」
自宅の屋根でつくった電気でEVを充電できる戸建住宅も登場
戸建住宅と太陽光というテーマでは、今後、発電・蓄電システムをEV(電気自動車)の充電ができるシステムとして活用する動きも活発化すると予測されます。
この動きを先取りして、太陽光発電搭載の戸建住宅を得意にするセキスイハイムでは、2020年12月にEVの充電設備を装備した自給自足型の次世代型住宅を展示(岡山市の展示場)。2021年以降、各ハウスメーカーから同様の商品がリリースされると見られます。
今後は「ZEH」と「第三者所有モデル」の二極化が進む
この記事の冒頭では、日本が2030年までに「新築全体で温暖化ガス排出ゼロ」の目標を掲げていることをご紹介しました。そして、達成を後押しする2つの流れとして「国のZEH補助事業」と「民間企業の第三者所有モデル」があることをお伝えしました。
今後は、太陽光発電システムの導入コストを負担してもよいオーナーは「ZEH補助事業」の申請、導入コストを負担したくないオーナーは「第三者所有モデル」の利用という、二極化が進んでいくと考えられます。
第三者所有モデルについては、将来的に太陽光発電システムの導入コストが下がれば、マーケットが縮小するとの見方もありますが、過渡期には重要な役割を果たしそうです。
いずれにしても、ZEHと第三者所有モデルの両方が機能することで「新築住宅の温暖化ガス排出ゼロ」の目標が達成されます。住宅と温暖化ガスのテーマにアンテナを張る人は、両方をウオッチしていく必要がありそうです。(提供:Renergy Online)
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