菅義偉首相は、1月4日に記者会見を行い、南関東の4都県で緊急事態宣言を再発令することを検討すると語った。特措法の改正案も通常国会に提出するとしている。仮に、2021年1~3月に昨年4~6月と同様の個人消費を中心とした減少が起こるとすれば、1都3県での実質個人消費(除く帰属家賃)は50日間の想定で▲2.1兆円の減少幅、実質GDP全体では▲2.8兆円の減少幅になると予想される。痛恨の事態は何とか避けたい。

緊急事態宣言
(画像=PIXTA)

目次

  1. 巨大な経済損失が再びか
  2. 2020年4~6月との違い
  3. ワクチンと東京五輪

巨大な経済損失が再びか

政府は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の4都県知事から緊急事態宣言の要請を受けた。菅首相は1月4日に記者会見を行い、政府が緊急事態宣言を検討していると語った。発令されるならば、1月4日の週内とされる。仮に、2020年4月7日~5月25日にかけて実施された緊急事態宣言と同様に、個人消費を中心に押し下げることになれば、2021年1~3月の実質GDPを▲2.8兆円ほど減少させることになるだろう(内需への効果)。医療崩壊は何としても避けなくてはいけないが、かといって昨年と同じような緊急事態宣言を実施すると、たとえ4都県に限った範囲であっても、経済的打撃は大きい。政府にとって、医療の事情とバランスを取りつつも、経済全般を停止させるという判断は厳しいものになる。

試算の根拠を示しておこう。総務省「家計調査」からは、日次の消費支出の動きがわかる。2020年4月7日~5月25日までの49日の消費支出の前年比は▲17.2%であった(図表)。さらに、5月26日以降も、大きな消費減退が続き、12日間は平均▲9.1%で推移した。この減少幅と同様のマイナスが、2021年1~3月も個人消費(除く帰属家賃)で起こり、それと連動して実質GDP(内需)がどのくらい下がるのかを計算した。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

※緊急事態宣言の発令期間は50日間、余波は12日間にかけて継続するという前提。

1都3県では、実質家計最終消費(除く帰属家賃)が▲2.1兆円となり、実質GDPは▲2.8兆円となった。ただし、1都3県の経済規模は、全国の約1/3を占めていて、残りの約2/3にも波及する可能性がある。仮に、1都3県以外は50%の連動率になると仮定すると、内需の落ち込みは約2倍の▲5.6兆円になる計算だ。当然のことながら、全国の1/3を占める都県の経済が停止したときは他の2/3も甚大な悪影響は免れられない。

2020年4~6月との違い

緊急事態宣言を昨年に実施したときは、4~6 期の実質GDP 季節調整値で前期比年率▲29.2%も落ち込んだ。これは、非常に深刻だと受け止められた。しかし、先の家計調査の日次データを調べると、緊急事態宣言明けの6月は一時的に消費がプラスになることがあった。おそらく、特別定額給付金12.7兆円が支給された効果が効いたのであろう。ならば、この1~3月に緊急事態宣言が実施されたとき、同様の家計支援がなければ、落ち込みが2020年4~6月期よりも厳しいものになる可能性もある。

筆者は、仮に緊急事態宣言が行われたならばどうなるかを、周囲の事業者に尋ねると、「今度やったら終わりだ」とか、「もうもたない」という意見を耳にした。前回は、まだ収益基盤が比較的強かった時期であり、持ちこたえるための余力があった企業も多い。しかし、次に緊急事態宣言を行えば、痛烈な第二撃になると考えられる。特に、サービス業などは疲弊した状況下で、さらに厳しい打撃を受けるからだ。

製造業などでは12月の日銀短観にみられるように、生産回復を受けて業況判断が改善に向かっていた。そうした回復の流れも、場合によっては腰折れしてしまう可能性もある。極めて憂慮すべき事態になりそうだ。

ワクチンと東京五輪

2021年にかけて筆者は経済回復が進むことへの期待感があった。菅首相によれば、ワクチン接種が2月下旬から開始されるとした。報道では、一般国民にも4月頃には受けられるという。ワクチン接種を期に経済が急回復するという期待感はかなり萎んでしまった。さらに心配なのは、ワクチン接種が行われた後の東京五輪の開催である。筆者は、五輪開催がたとえ規模縮小になるとしても、実施されて国民のマインドを上向かせるとみていた。それに対して、仮に緊急事態宣言が1~3月のうちに終結したとしても、緊急事態宣言による経済打撃が大きくなって、五輪の開催によって経済が浮揚する勢いは小さくなってしまう可能性がある。五輪後の9月以降の景気情勢は、現在まで予想されているよりもさらに緩やかなものになるだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生