Amazonの共同創設者兼CEOジェフ・ベゾス氏が、2021年第3四半期にCEOの座を退き、取締役会長に就任する。Amazonを小規模なオンライン書籍ストアから、時価総額1兆6,500億ドル(約173兆7,436億円)規模の国際企業へ成長させたカリスマCEO、ベゾス氏が第一線から退くことで、同社の経営戦略などに及ぼす影響が懸念されているが、CEO交代後も「Amazon帝国」の果てしなき野望は継続するものと予想される。

CEO交代の影響は限定的?

「Amazon帝国」が世界を制する?自律走行型ロボタクシー、ラグジュアリー市場、キャッシュレスストア事業…今後の展望を予想
(画像=wolterke/stock.adobe.com)

ベゾス氏の後任は1997年の入社以来、AWS(Amazon Web Service)を立ち上げ引率してきたアンディ・ジェシー氏が引き継ぐ。

ベゾス氏は退任後、2000年に設立した民間宇宙航空企業Blue Origin(ブルーオリジン)や2013 年に買収したワシントンポスト紙のほか、自ら100億ドル(約1兆530億円)を投じて立ち上げた気候変動対策基金(ベゾス・アース・ファンド)」、貧困問題に取り組む「Bezos Day One Fund (ベゾス・デイ・ワン・ファンド)」での慈善事業活動に専念する。

とはいうものの、Amazonの重要なプロジェクトには引き続き従事するなど、多方面で積極的に同社の経営に関わり続けることは自他共に認めている。少なくとも当面の間は、CEO交代がAmazonの経営やブランド戦略に及ぼす影響は極めて限定的だと予想される。

コロナ禍で加速するAmazonの野望

Amazonは、事業を凄まじい勢いで多様化することで、一大帝国を築いた企業である。事業はEコマースからクラウドサービス、ヘルスケアまで広範囲に及び、近年は空輸ネットワークや自動運転車配車サービスへと発展している。その勢いは、コロナ禍も衰えるどころかますます加速し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

直近では、2020年6月に買収した自律走行配車サービススタートアップ、Zoox(ズークス)による、完全自律走行型ロボットタクシーを12月に発表した。最大時速75マイル(120Km)、1回の充電で最大16時間走行可能で、双方向性の車両や対面式の乗客シート、ボックス型の車体が特徴的だ。同じく自律走行型配送ロボットを開発するAlphabetやゼネラルモーターズ(GM)、トヨタ、Tesla、Uberなど、ライバル社と激戦を繰り広げることは間違いない。

一方、2021年1月にはデルタ航空から7機、ウェストジェット航空から4機、合計11機のボーイング767-300型機を購入する計画を発表した。オンライン注文の急増を受け、宅配システムの効率化を図る意図で、2021~2022年にわたり運用を開始する。

同社はすでに80機以上の改造貨物機をリースしており、「リース機と自社専用輸送用航空機を組み合わせて使用することで、空輸ネットワークの適切な運用と管理が可能になる」と同社の国際空輸部門Amazon Global Airのヴァイスプレジデント、サラ・ロードス氏は述べている。

今後の予想

会長に退くとはいえ、ベゾス氏の野望は尽きることはない。今後はさらなる多様化を目指し、以下の分野を強化すると予想されている。

キャッシュレスストア「Amazon Go」「Go Grocery」

新型コロナの影響でキャッシュレス決済が加速している今、キャッシュレスコンビニ「Amazon Go」や生鮮食品を取扱う「Go Grocery」を拡大する可能性が高い。いずれも店内に設置された重量センサーとカメラが商品を認識し、専用アプリを利用して決済を行うシステムだ。

すでに同社は、シアトルやカリフォルニア、ワシントンなど全米各地に「Go Grocery」の店舗をオープンする計画を進行させている。一方、2016年にシアトルに第一号店をオープンした「Amazon Go」は、2020年7月の時点で全米に26店舗ある。

同社がパンデミック以前から、キャッシュレスストア事業の強化を計画していたことは、一部のメディアが報じていた。ブルームバーグの2018年の報道によると、大手傘下スーパーチェーン、ホールフーズ・マーケットやショッピングモール内にあるキオスク87店舗を閉鎖し、2021年までにキャッシュレスストアを3000店舗に拡大する計画だった。

ラグジュアリーグッズのオンライン販売

現在、Amazonは高級ブランドと提携し、米国の一部のプライム会員を対象とする「Luxury Stores (ラグジュアリーストア)」を展開している。専用WEBサイトからアクセス許可をリクエストし、承認されたプライム会員だけが利用できるVIPサービスだ。有名高級ブランドの最新作を、自宅にいながらインタラクティブな360度画像でチェックし、購入できる。ブランド側にとってもAmazonという巨大な媒体を通して、より幅広い層の消費者にアクセスできるというメリットがある。

デロイトのデータによると、世界各国でロックダウンや外出自粛が相次いだ2020年上半期、オンラインによる世界のラグジュアリーグッズの売上高は大幅に増加し、4月には前年比209%増に達した。アフターコロナでも、消費のデジタル化が定着すると予想されていることから、「Luxury Stores」のラインナップ強化や顧客開拓がAmazonに新たなチャンスをもたらすかも知れない。

インド市場への投資拡大

Amazon帝国の拡大を目指して来たベゾス氏にとって、インドのeコマース市場は急成長中で、非常に魅力的な市場の一つだ。2027年には2018年の4倍に値する2,000億ドル(約21兆581億円)に達すると統計サイトStatista (スタティスタ)は予想している。

Amazonはかつて、インド最大のeコマースFlipkart(フリップカート)の買収をめぐり、米大手スーパーチェーンWalmart(ウォルマート)に敗北した苦い過去がある。しかし、そのような経験を糧に「長期的な視野でインドへの投資を続ける」意向だ。

2019~20年度は、大半のインド事業で損失を記録したにも関わらず、決済(Amazon Pay)や卸売事業(Amazon Wholesale)を含むインドの市場に総額1,140億ルピー(約1,653億1,297万円)以上を投資した。さらに2020年1月には、インドの中小企業のオンライン化を支援するために10億ドル(約1052億9,649万円)を投じる計画を発表している。

狭まる規制当局の包囲網 どこまで健闘できるのか?

Amazonにとって目下の頭痛の種は、ベゾス氏退任の理由の一つとも推測されている、欧米を中心とする規制当局の包囲網だろう。GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple4社の総称)によるデジタル市場の独占や租税回避、ユーザーのプライバシー侵害などに対し、各国の規制当局が取締りを強化している現在、今後の事業展開にネガティブな影響をおよぼす可能性も指摘されている。

法的逆風が吹き荒れる中、Amazonが世界制覇を目指してどこまで健闘できるのか?退任後のベゾス氏の活動や新生Amazonの動きと共に注視したい。(提供:THE OWNER

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)