炭酸
(画像=PIXTA)

我が国の厚生労働省が先月(1月)15日、新型コロナウイルスに対するワクチンの接種及び供給体制について明らかにした(参考)。
我が国政府は年内に7200万人分のワクチン供給を受けることで米ファイザー社と契約したが、同社のワクチンはマイナス75度前後での保管が必要となる。政府はワクチン保冷用のドライアイスを一括調達し医療機関に供給するとしている。

ここで問題となるのがドライアイスである。
上記の温度でのワクチンの輸送にあたってはドライアイスの需要急増が予測される。
すでにワクチンの接種が始まっている米国勢ではワクチンの輸送に伴うドライアイス需要の急増により食品をはじめとする他の物流にも影響が出ることが懸念されている(参考)。

ドライアイスや炭酸飲料に使われる液化炭酸ガスは主に原油の精製過程で副産物としてでる気体の二酸化炭素を利用して作られる。「脱炭素化」などによるエネルギー需要の変化を受けて従前より液化炭酸ガスの原料不足が指摘されていた(参考)。

我が国においても2010年代初頭より液化天然ガスの供給不足が懸念されてきた。これに対処するため、工場で大気中に排出している炭酸ガスを回収することによる液化炭酸ガスの製造(日本触媒)やアンモニア製造過程で複製する炭酸ガスを原料とした液化炭酸ガスの製造(宇部興産)といった方策が模索されてきた。
しかし昨年(2020年)にもこうした傾向は変わらず、同年8月にはドライアイスと同じ液化炭酸ガスを原料とする炭酸飲料の供給への影響が報じられている(参考)。

(図表:ドライアイス)

ドライアイス
(出典:Wikipedia)

加えてドライアイス自体の生産について我が国では「ドライアイスメーカー会」に参加する8社のみによって担われている。さらにドライアイスはマイナス79度を上回ると気化してしまうため備蓄にはコストがかかることからそもそも在庫がほとんど存在しない点も特徴である。

政府が年内に供給を予定している7200万人分のワクチンを輸送するためには我が国における年間生産量のおよそ30万トンを数万トン超える量のドライアイスが必要とされる。これまで供給不足分については韓国からの輸入に頼ってきたものの、ワクチンの輸送のために大量のドライアイスを必要とする状況は同国においても同様であり、したがって我が国への輸出量は大幅に減少する可能性があるだろう。

こうした中でワクチンの輸送手段として我が国はどういった手段をとるのだろうか。
パナソニック社はマイナス70℃の環境を最長18日間保持できる真空断熱保冷ボックスの開発を発表している(参考)。冷却にはドライアイスが必要であるものの、同社の従来開発品と比較して保冷能力は30パーセント向上しているという。
低温輸送容器を製造するスギヤマゲン社もドライアイス20キロでマイナス70度以下を約12日間保持できる断熱ボックスを開発している。ワクチンの輸送には通常製造に特殊な機械を必要とする粒型のドライアイスが使われるところ、同社の輸送容器ではより一般的な角形のドライアイスが使用可能である点に特徴がある。

今後ワクチン・マーケティングの進展により、ドライアイスや低温輸送機を巡り更なる需要の高まりと開発が進められることになるのか、引き続き注視していきたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す