ESG投資が徐々に注目を集めるようになりましたが、日本では企業によって取り組みに差があるのが現状です。しかし今回のコロナウイルス感染拡大によってESG投資に新たな流れが加わる兆しがあり、日本の技術力を活かしESG投資を活発化できる可能性があります。

ESG投資とは

コロナ以降のESG投資の流れと日本企業の課題とは
(画像=phonlamaiphoto/stock.adobe.com)

ESGとは環境(Environment)社会(Social)企業統治(Governance)の3つに対する企業の取り組み姿勢です。これからの持続可能な社会に適応し長期的に存続する企業のあり方として、近年特に評価されるポイントになっています。

そして従来の評価基準である財務情報に加え、このESGを評価基準とした投資姿勢がESG投資です。国連が責任投資原則(PRI)においてESGの3要素を重視した投資を呼びかけたことで、世界の機関投資家などに急速に普及しました。

特に国連加盟国によって採択された地球温暖化対策のパリ協定の存在もあり、企業として温室効果ガス削減に取り組むことは世界的な流れになっています。

日本におけるESG投資の課題

各国のESG資産保有残高は増加傾向にあり、日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積極的なESG投資への取り組みもあって急速な増加を見せています。しかし日本で投資家が保有する総運用資産に占めるESG資産の割合は、2018年時点で18.3%と欧米地域の50%前後という数字に比べかなり開きがあります。

日本でESG投資が活発化しない原因

日本でESG投資がいまひとつ活発化しない原因の一つに、すでに世界へ展開している大企業と地方のESG投資に対する温度差が考えられます。

環境省が2020年4月に発表した「ESG地域金融(都市銀行、大手信託銀行、地方銀行、信用金庫など)に関する取組状況について」を見ると、ESGの基準に取り組む投融資を評価していると答えた地域金融は31%、実際にESG関連の金融商品を提供している地域金融は34%となっています。

同じ調査で75%の地域金融が、ESG金融は成長領域と答えているものの、未だ7割近い地域金融は様子見であることが分かります。

地方や中小企業へ広まるかが課題

資本力のある大企業なら、自社のストックから将来を見越して太陽光発電のような設備投資を行えます。しかし中小企業の多くは関心があっても融資を受けなければ実現できないのが現状です。

その頼みの綱である地域金融がESG投資に懐疑的であれば、地方で実際にESGに取り組む企業が増えていくことは困難です。日本経済新聞のインタビューで小泉進次郎環境大臣は、地方や中小企業にいかにESG投資を広げるかが今後の課題であると答えています。

確かにESG投資は長期的な企業の成長や安定的な継続を期待するものであり、短期に大きなリターンを生む投資ではありません。そうした投資に地域金融が積極的になれないのは当然とも言えます。今後さらなる日本のESG投資拡大には、行政などの支援を得ながら幅広い地域への普及が必要でしょう。

コロナ以降のESG投資の流れ

これまでESG投資ではどちらかと言うと「環境」や「企業統治」が注目をされ、「社会」はなかなか企業価値に反映されないという意見が多くありました。しかし今回の新型コロナウイルス感染拡大により、この「社会」にも評価の意義があるとして注目を集めています。

次に紹介するようなさまざまな企業の社会貢献への取り組みは、将来的な企業価値を高める可能性が十分にあるのではないでしょうか。

トヨタ自動車

トヨタ自動車及びトヨタグループ各社は、コロナウィルス感染拡大の抑制や医療現場の支援に向けて、医療用フェイスシールドを3Dプリンターなどで製作し医療機関へ提供しています。また医療機器メーカーによる人工呼吸器などの増産に対し、トヨタ生産方式のノウハウを提供し生産性向上にも協力するとしています。

他にも東京都内など感染拡大地域において、感染者を医療機関や待機施設などに移送するタクシー運転手への感染を防ぐため、車室内の飛沫循環を抑制する方法も検討しています。

日産自動車

日産自動車も新型コロナ対策支援の一環として、医療用フェイスシールドや医療用ガウン、人工呼吸器などを製造し医療機関や自治体に納品しています。トヨタ同様3Dプリンターを活用し、日本以外にもアメリカ、イギリス、スペインなどで制作されました。

医療用ガウンは医療現場で早急に求められているため、材料調達のスピードを考慮して同社の物流で使用している梱包シートを素材としています。他にも人工呼吸器をパートナー企業と協力してスペイン工場で生産するなど、国内にとどまらずグローバルな体制で支援に取り組んでいます。

ソニー

ソニーでは1億ドルにのぼる「新型コロナウイルス・グローバル支援基金」を立ち上げました。医療関連ではWHOなどを通じ1,000万ドルの寄付を行い、教育関連では教育関係者と協力しながら外出制限や学校の休業などで学習機会が制限されている子供たちに、ソニーのテクノロジーを使った教育支援をするとしています。

さらに音楽や映画、ゲームなどのクリエイティブコミュニティ領域では、コンサートや映画製作などの中止によって大きな影響を受けている、新進のクリエイターやアーティスト、エンターテイメント業界を支えるさまざまな職種の人たちに支援を行うとしています。

経済復興の指針「グリーンリカバリー」

ESGの「環境」面でコロナウイルスの影響から経済復興する指針として注目されるのが「グリーンリカバリー」です。これは現在の経済的ダメージから復興する際に、今までのような大量生産・大量消費の社会に戻るのではなく、脱炭素社会へ向かって資金を投じて復興しようという考えです。

グリーンリカバリーはESG投資のチャンス

例えばEUでは「次世代EU」と呼ぶ経済復興策を打ち出し、このグリーンリカバリーを柱としています。再生可能エネルギーの普及や電気自動車へ転換するためのインフラ支援などが盛り込まれ、さらに航空会社への支援では、列車などの代替え手段がある2時間半以内の国内線は縮小することを条件にするなど、さまざまな脱炭素への取り組みを行っています。

これは一定の指針や規制がないと経済復興が加速した際に、CO2排出量が一気に増えてしまうことを懸念してのことです。CO2を排出しない技術は分野によってはまだ途上にあるものも多く、復興の勢いに乗って旧来のCO2排出量の多い技術が使われてしまう可能性があるからです。

EUは2050年までに「温室効果ガスの排出を実質ゼロ」にするパリ協定を実現するためにも、この逆境を持続可能な社会へ転換する大きなターニングポイントと捉えています。そしてこのグリーンリカバリーは環境に配慮した取り組みをしている企業や、貢献できる技術をもつメーカーなどにとってESG投資で資金を集めるチャンスとも言えるでしょう。

技術を活かしてESG投資を呼び込む

日本からも環境負荷を減らす技術などを提供し、コロナウイルス以降の経済復興へ貢献できる企業が現れるかもしれません。特に中小企業の中に高いものづくり技術で参入できる企業があれば、グリーンリカバリーの流れは大きなビジネスチャンスとなるでしょう。

さらに今後は「社会」においてもしっかりと貢献する姿勢を見せることが、ESG投資の評価を高めることになりそうです。

これらの流れに大小問わない多くの日本企業が取り組めば、より多くのESG投資の資金が集まり日本のESG投資市場もさらに活況となるのではないでしょうか。(提供:Renergy Online


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