この記事では「将来的に起業したい」というサラリーマンに向けて、開業資金に使える3種類の公的融資制度(政府系金融機関、地方公共団体、信用保証協会の保証融資)の特徴やメリットをお伝えしていきます。これを読めば「開業資金をどのように準備すればよいのか」を具体的にイメージしやすくなるはずです。
副業をしながら起業準備するサラリーマンが増えている
はじめに、起業したいサラリーマンの最近の傾向を見てみましょう。トレンドとしては、副業をしながら起業準備をする人が増えています。いきなり起業するよりも、副業というステップを踏むことでムリなく起業しやすくなっているといえます。
まず、マイナビが発表した「働き方、副業・兼業に関するレポート2020年」によると、企業の49.6%が副業・兼業を認めています。「将来的に副業・兼業を認める・拡充する」という企業を合わせると、約6割が副業・兼業をポジティブに捉えていることから、最近の働き方改革によって「副業することを自由に選べる」環境が整いつつあるといえます。
そして、「2020年度版 中小企業白書」内のデータで見ると、副業をしながら起業を準備する人が増加傾向にあります。副業起業準備者(下記のグラフの右側)は2007年〜2017年の10年間で8.3ポイントも増加しています。
開業資金を準備するための選択肢…ハードルが低いのは公的融資制度?
さて、これから起業したいサラリーマンが超えなければならないのが「開業資金の準備」です。パソコンとスマホだけで起業でき自宅がオフィスという人以外は、それなりの開業資金がかかります。
具体的に、開業資金を集める方法には、次の4つの選択肢があります。
- 貯金をする
- 身内や友人などに借りる
- クラウドファンディングをする
- 公的融資制度を利用する
これらのうち、大半の起業希望者にとって現実的なのは、「4. 公的融資制度を利用する」ではないでしょうか。
「1. 貯金をする」は目標金額を貯めるのに期間がかかるケースも多いですし、「2. クラウドファンディング」は広く共感してもらえるビジネスモデルが必須になります。また、「3. 身内や友人などに借りる」はビジネスがうまくいかなかったときに人間関係が壊れるリスクもあります。
開業資金に使える公的融資制度には、次の3つの種類があります。
・政府系金融機関
・地方公共団体の制度融資
・信用保証協会の保証融資
仮に起業するのはまだ先だとしても、開業資金の鍵を握る公的融資制度については前もって知っておくのが賢明です。それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説していきます。
公的融資制度の種類1:政府系金融機関(日本公庫、商工中金)
政府系金融機関とは、国が株式を保有している金融機関のことです。具体的には「日本政策金融公庫(略称:日本公庫)」と「商工組合中央金庫(略称:商工中金)」があります。
比較すると、利用しやすいのは商工中金よりも日本公庫
起業資金の融資で利用するなら日本公庫と商工中金のうち、「日本公庫」の方がスムーズに借り入れられる可能性が高いです。なぜなら、同じ政府系金融機関でも日本公庫は対象者が幅広く設定されているからです。両者の融資対象者は次の通りです。
【日本政策金融公庫の融資対象者】
・従業員を雇う形で新たに事業をはじめる人
・現在勤めている会社と同じ業種で起業する人 など
※「新規開業資金」の場合の条件
※「新規開業資金」はこれから起業する人だけでなく、事業開始後おおむね7年以内の人も対象
【商工組合中央金庫の融資対象者】
(下記の組合の構成員の人)
・中小企業団体
・協業組合
・商店街振興組合・同連合会
・酒造組合
・酒販組合 など
ただし、今は上記団体の組合員でなくても、融資の時点で中小企業団体の構成員になることで融資を受けることも可能です。
日本公庫のメリット
※下記は起業する人向けの「新規開業資金」の内容です
日本公庫は下記のようにメリットの多い金融機関です。ほかの公的融資制度や民間金融機関の融資と比べて起業希望者にとってアドバンテージがあります。
・低金利で融資を受けやすい
・固定金利なので金利上昇リスクがない
・融資限度額が大きい
・返済期間を長めに設定しやすい
・融資と併せて経営アドバイスも受けられる
低金利では具体的に基準金利(1.11〜2.20%程度・担保ありの場合)を基本に、さまざまな条件に該当すればさらに低金利になります。なお、融資限度額は7,200万円(このうち運転資金の限度額は4,800万円)、返済期間は設備資金20年以内、運転資金7年以内となっています。
担保・保証人が必要かは「新規開業資金」ではケースバイケースですが、「新創業融資制度」を組み合わせることで不要になることもあります。
※金利は2021年2月1日現在の年利です
日本公庫のデメリット
日本公庫の融資審査は、提出書類の多さで知られます。書類作成が苦手な人にはこの部分がネックになるでしょう。「なぜ、こんなにたくさんの書類が必要なのか……」という気持ちになる人もいるかもしれませんが、ビジネス経験のない人、取引先がまだない人などにも融資を可能にする制度と考えれば仕方ない面もあります。
公的融資制度の種類2:地方公共団体の制度融資
地方公共団体の制度融資は、各都道府県や市区町村で個別に設定しているため条件はケースバイケースです。ご自身がお住まいのエリアの制度融資を確認したいなら「自治体名+開業 融資」などのキーワードで検索してみましょう。
一例として、東京都の制度融資「創業」のメリット・デメリットは次の通りです。
東京都の制度融資「創業」のメリット
東京都の制度融資「創業」の特徴は金利の選択肢があり、低金利なことです。日本公庫の場合は固定金利のみでしたが、東京都の制度融資「創業」だと、固定金利と変動金利から選択できます。
固定金利の場合の利率は、融資期間によって変わってきます。例えば5年超7年以内の金利は2.1%以内(責任共有制度※の対象企業は2.3%以内)となっています。
※責任共有制度とは、信用協会だけでなく金融機関も一定のリスクを負担するものです
また、変動金利の場合の利率は「短期プライムレート(短プラ)+0.7%以内」の設定です。短プラとは金融機関が最優良と考える企業に融資をするときの優遇金利(プライムレート)のうち、1年以内の短期貸出の場合の金利のことです。
さらに特例を利用することで、上記の固定金利・変動金利から0.4%優遇されることもあります。
東京都の制度融資「創業」のデメリット
東京都「創業」制度融資と日本公庫の「新規開業資金」の融資限度額を比較してみると、かなり差があります。そのため、大きな金額の融資を受けたい人は日本公庫を選択したほうがよいでしょう。
日本公庫「新規開業資金」 | 東京都「創業」制度融資 | |
---|---|---|
融資限度額 | 7,200万円 (うち運転資金4,800万円) | 自己資金+1,000万円の範囲内 例:自己資金300万円なら1,300万円以内 |
補足 | - | 創業前(会社設立前)の融資対象者の場合 |
公的融資制度の種類3:信用保証協会の保証融資
信用保証協会の保証融資(保証付き融資)は、法人や事業者が融資を受ける際に協会が保証人になることで借入れをしやすくする仕組みで、数多くの金融機関が利用しています。金融機関からすると、融資先が破綻しても残債の大半(あるいは全額)を協会が弁済(肩代わり)してくれるため融資をしやすくなります。
一方で、この制度を利用する場合、融資を受ける法人や事業者は信用保証協会に対して保証料を支払います。信用保証料がいくらかは保証料率などで大きく変動するため一概にいえません。くわしく知りたい人は東京信用保証協会/公式サイトの計算例をご参照ください。
日本公庫とほかの金融機関の条件を比較して最終決定を
最後に、この記事のハイライトです。開業資金の準備に使える公的融資制度には次の3つがありました。
・政府系金融機関
・地方公共団体の制度融資
・信用保証協会の保証融資
政府系金融機関には「日本公庫」と「商工中金」がありますが、対象者が広く設定されているのは日本公庫です。そのため一般的には、日本公庫が創業資金の融資先の第一候補になるでしょう。
ただし、地方公共団体の制度融資や、信用保証協会の保証融資を絡めた金融機関の融資もあります。金利や返済期間などの条件を、日本公庫と比較しながら最終的に決定するのがよいでしょう。(提供:Renergy Online )
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