日本は、ESG(環境・社会・企業統治)の認知が海外に比べて遅れているといわれている一方で、コロナショック前後に、ビジネスパーソンや個人投資家のESG投資の意識が高まっているともいわれています。実際に、現時点でどれくらいの割合の人がESG投資を意識または重視しているのでしょうか?複数の意識調査をもとにトレンドを探ります。
「ESGの認知率」「ESG投資に関心がある割合」はどれくらい?
そもそもESG投資は、2006年に国連がESGに配慮した投資を推奨する「責任投資原則(PRI)」を打ち出したことをきっかけに全世界に広まりました。流れ的には各国の運用機関が署名し、その後海外の企業や投資家が賛同、そして日本でも徐々に認知が高まっています。なお日本の年金運用をになうGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2015年に署名しています。
ESGの認知率は26.7%、1年前調査から約5%の伸び
はじめに、そもそも「ESG」というキーワード自体が日本国内でどれくらい認知されているのかについて確認します。
企業広報戦略研究所が20〜69歳の男女・約1万人を対象に行った「2020年度ESG/SDGsに関する意識調査」(2020年6月実施)のESGの認知率では、「ESGを詳しく知っている(5.5%)」「聞いたことはある(18.2%)」の合計は 26.7%です。1年前の同調査から5.4%伸びているものの、「大多数が知っている」というレベルまで達していません。
「ESG投資に関心がある」割合は全体の2〜3割程度
次に、「投資をしている、していない」に関わらず、生活者のどれくらいの割合が「ESG投資」を意識しているかを確認してみます。参考にするのは、野村アセットマネジメントが約1万人を対象に行った「ESG投資に関する意識調査」(2020年7月実施)です。
「ESG投資にどの程度関心がありますか」の問いに対して「ある(※1)」と回答した割合は30%です。
※1:「関心がある(3%)」「どちらかというと関心がある(27%)」の合計
ただし、この設問では、「環境や社会問題、企業のあり方などを考慮して投資をおこなうことをESG投資といいます」というコメントを付け加えた上で、ESG投資の関心を確認しています。そのため、回答者が「もともとESG投資のことをどこまで知っていたか」については、割り引いてデータを見る必要があるかもしれません。
ESG投資への関心を聞いたほかの意識調査(QUICK資産運用研究所「個人の資産形成に関する意識調査2020」)では、「ESG投資に関心がある(※2)」と回答したのは全体の17%でした。この調査も5,000人以上を対象にしたものなので確度のある情報と考えられます。
※「2:関心がある」と「どちらかというと関心がある」の合計
両方のデータを考慮すると、「ESG投資に関心のある生活者の割合は2〜3割程度」といえます。
ESGのうち「E(環境問題)」に関心がある人が突出して多い
野村アセットマネジメントの調査では、ESGのうちE(環境問題)、S(社会問題)、G(企業のあり方=企業統治)のうち、どのテーマに関心があるかについても聞いています。もっとも選択された割合が高かったのは「環境問題」で全体の33%です。さらにESG投資関心層に限ると「環境問題」を選んだ割合は49%まで高まります。
「社会問題」や「企業のあり方」を選択した人と比べ「環境問題」を選択した人が突出していることを考えると、「ESG=環境問題」という捉え方をしている人も多いと考えられます。
投資に興味のある人はESGをどれくらい重視する?
さらに、投資をしている人、投資に関心がある人が「どれくらいESG投資に関心があるか」「ESG投資を重視するか」について確認します。
投資に興味がある人はESGに関心を示す割合が20%以上高い
野村アセットマネジメントの意識調査では、「証券投資(株式と投資信託)の保有率」「証券投資の関心」とESG投資の相関関係についてリサーチしています。
まず、「証券投資(株式と投資信託)の保有率」では、「現在保有している=個人投資家」と回答した人の52%が「ESG投資の関心層」です。先ほど見たように、生活者全体のESG投資の関心層は30%でした。個人投資家はこれを22%も上回っているわけですから、ESG投資と個人投資家の親和性が強いことがわかります。
合わせて、「証券投資(株式と投資信託)の関心」で「関心あり」と回答した人の58%が「ESG投資の関心層」です。つまり、現時点で株式や投資信託を持っているか否かにかかわらず、投資に興味のある人の半数以上はESG投資に関心があるわけです。
投資に関心ありの約8割が「投資時にESGを考慮する」
同様のテーマで別の意識調査も見てみましょう。企業広報戦略研究所の意識調査では、投資意識「興味あり」の人のうち、「投資時はESGに対する取り組みを考慮する」と答えた割合が77.6%となっています。個人の間でもESG投資を意識する層が着実に増えていることを感じされる結果です。
DC加入者の約3割がESG投資の運用を希望している
確定拠出金制度(DC)加入者が「ESG投資を自分でも運用したい」と考える割合も確認してみましょう。確定拠出金制度とは掛金を自分で運用する年金制度です。企業型年金と個人型年金(iDeCo)があり、iDeCoは自分で掛金を拠出するものです。
野村アセットマネジメントの意識調査では、約1万人のうち確定拠出金制度(DC)加入者は635人です。そのうち31%が「ESG投資を自分でも運用したい」と考えています。
確定拠出金制度(DC)の約3割がESG投資を考えていることは、国内のESG投資市場を拡大させる原動力のひとつになる可能性があります。
ESG投資信託の新設ラッシュ?厳しく精査するのが賢明
最後に、この記事のハイライトを振り返ります。本稿の冒頭では「ESGの認知率」「ESG投資に関心がある割合」を確認しました。ESGに対する2020年段階の認知率は約27%です。1年前から約5%伸びていますが、いまだ低い割合です。
「ESG投資に関心がある」生活者の割合は、ひとつ目のデータが全体の30%が関心あり、ふたつ目のデータでは17%が関心ありでした(いずれも2020年調査)。なお、ESG(環境・社会・企業統治)のうち、もっとも関心が高いのはE(環境)で全体の33%に選択されました。
投資に興味のある人(現在やっている人・興味のある人)の半数が、ESG投資に関心のある人たちです。この結果は今後、ESG投資が投資の主流になっていく可能性を大いに感じさせます。確定拠出金制度(DC)の加入者の3割がESG投資をしたいと考えていることも、ESG市場拡大のプラス材料といえます。
各データが示すように、投資に関心のある層を中心にESGの意識は着実に高まっています。そのニーズに応えるように、2020年にはESGに関連する投資信託が数多く新規設定されました。
2020年の1年間で設定されたESG関連の投資信託は36本で、前年の19本から倍近くまで増えています(QUICK資産運用研究所調べ)。個人投資家や投資の潜在層がESG投資に高い興味を持っていることを考えると、ESG投資信託の新設ラッシュは2021年以降も続きそうです。投資をするときには厳しい目で精査するのが賢明です。(提供:Renergy Online )
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