いま、SDGsが株式市場の注目を集めています。SDGs関連セクターが今後成長余地の大きいセクターと考えられているからです。とくにエネルギー分野は経済的影響が大きいだけに、リーダーシップを狙う大国の争いも加速しそうです。米国、中国、ドイツ、日本の経済4大国のエネルギー政策を中心にSDGsの取り組み事情を探ります。

世界の投資家がSDGsに注目している

ESG投資は世の中にどれだけ浸透している?認知率、関心がある割合、投資との関連性
(画像=m-j/stock.adobe.com)

いまSDGsは、世界の投資家が投資を判断するときの重要な基準になっています。SDGs とは「Sustainable Development Goals」の略で、持続可能な開発目標を意味します。Goalsと複数形になっているように、全部で17の大きな目標を掲げる世界的なプロジェクトです。

17の目標のうち、ゴール7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とゴール13「気候変動に具体的な対策を」は、パリ協定の努力目標にもリンクしているテーマです。パリ協定では「産業革命前の水準から世界の平均気温を2℃より十分下方に保持することを長期目標にして、さらに1.5℃に抑える努力を追求する」という厳しい目標が掲げられています。

各国は温室効果ガス削減目標を5年ごとに提出・更新しなければなりません。目標の達成には化石燃料の比率を下げ、再生可能エネルギーの比率を高めることが不可欠です。

経済4大国のSDGsに対する現状

それでは現状はどうなっているのでしょうか。日本原子力文化財団が公表している「原子力・エネルギー図面集」に掲載されている、経済4大国の一次エネルギーの構成は下表のようになっています。再生可能エネルギーでは、再エネ先進国のドイツが群を抜いて高い比率になっているのが目立ちます。非化石燃料比率も4ヵ国で唯一20%を超えています。日本は非化石燃料比率がわずか11%で、輸入燃料に頼らざるを得ないのが実情です。

▽主要国の一次エネルギー構成

国名石油天然ガス石炭原子力水力再エネ
米国39%31%14%8%3%6%
中国20%8%59%2%8%4%
ドイツ34%23%22%5%1%15%
日本41%22%26%2%4%5%

出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」

では、経済4大国のエネルギー政策の今後の展開はどうなるのでしょうか。

バイデン新政権誕生で気候変動対策が加速する米国

米国は2020年の大統領選挙の結果、ジョー・バイデン氏が当選したことにより、大きな政策転換を迎えています。バイデン新政権は気候変動対策に前向きな政策を示しています。トランプ前大統領により米国は一時パリ協定から離脱していましたが、バイデン大統領に代わり早々に復帰を表明しました。

「BBC NEWS JAPAN」の報道によると、バイデン大統領は2021年1月27日に一連の気候変動対策に関する大統領令に署名しました。具体的な対策としては、公有地で石油や天然ガスの新たな掘削を禁止することや、2030年までに洋上風力発電を倍増させる計画が盛り込まれています。

さらにバイデン大統領は「気候変動危機に対する世界的な対応をアメリカがリードしなければならない」とする力強い発言も行っています。SDGsのリーダーになる意欲は十分と考えられます。

世界の覇権を狙う中国のSDGs事情

巨大経済圏構想である「一帯一路」を推進し、経済的に世界の覇権を狙う中国にとってSDGsの取り組みも大きな課題になっています。中国が真に世界から認められる一帯一路を推進するには、SDGsに協力する具体的な行動が必要だからです。

また、国内的にみても、大都市圏の深刻な大気汚染やへき地の貧困、衛生問題など課題が山積みです。SDGsの取り組みを強化すれば、これらの国内の課題の改善にもつながります。習近平政権にとって経済発展とSDGsへの取り組みをどう両立させていくか、難しい舵取りを迫られています。

メルケル首相引退でドイツの気候変動対策はどうなるのか

再エネ先進国ドイツは、これまで強いリーダーシップで気候変動対策を進めてきたメルケル首相が政界からの引退を表明しました。今後気候変動対策が順調に進むかは、後任の首相がメルケル路線を引き継ぐかどうかにかかっています。2021年1月16日にはメルケル氏が所属する最大与党「キリスト教民主連盟」の党首選が行われました。

メルケル路線を継承するとみられるラシェット氏(ノルトライン・ウェストファーレン州首相)と、反メルケルとして知られる保守派のメルツ氏(元院内総務)が争い、結果ラシェット氏が当選しました。メルケル首相としてはとりあえず安堵する結果になりましたが、2021年9月に行われるドイツの連邦議会選挙で連立与党が勝利するまで油断はできません。

脱炭素社会に向けスタートした日本

一方日本国内に目を向けると、菅首相が2020年10月26日の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という、脱炭素社会実現への決意を述べました。2021年1月28日に成立した2020年度第3次補正予算案では、脱炭素社会に向けた基金を創設し、イノベーションに挑戦する企業を10年間継続して支援するための費用を2兆円計上しています。

また、脱炭素に取り組む重点分野の1つに「自動車産業・蓄電池」を挙げています。政府の計画では2030年代半ばまでにすべての新車を電気自動車(EV)にするのが目標です。電気自動車の購入、利用、維持に必要なコストを2030年までにガソリン車並みまで引き下げるとしています。

再生可能エネルギーの普及に関しては、経済産業省が2030年度までに洋上風力発電を計10GWの発電能力まで整備することを目指しており、すでに長崎、秋田、千葉が候補地として名前が挙がっています。

世界のSDGs達成状況から見る4大国の現状

では、経済4大国のSDGs達成状況はどのようになっているのでしょうか。世界各国との比較でみてみましょう。最新の「Sustainable Development Report 2020」によると、達成率トップ10と経済4大国の順位は下表のようになっています。

▽世界のSDGs達成率ランキング2020

順位国名達成率
1スウェーデン84.72%
2デンマーク84.56%
3フィンランド83.77%
4フランス81.13%
5ドイツ80.77%
6ノルウェー80.76%
7オーストリア80.70%
8チェコ80.58%
9オランダ80.37%
10エストニア80.06%
17日本79.17%
31米国76.43%
48中国73.89%

出典:Sustainable Development Report 2020

欧州勢が上位を占め、ドイツも経済発展とSDGsの取り組みを両立させ 5位と、欧州のリーダーらしい成果を上げています。一方、米国とアジア勢は進捗の遅れが目立ちます。いずれも80%に達しておらず、さらなる対策が求められます。

SDGsのリーダーになるのはどの国なのか

さて、SDGsで世界のリーダーになるのはどこか?についてですが、現状ではバイデン政権に変わって気候変動対策の強化を打ち出した米国が一歩リードしている感があります。

ドイツが欧州勢のリーダーであることは衆目の一致するところです。連邦議会選挙という不透明要因はあるものの、メルケル路線の継承が明確になれば、さらに存在感を増す可能性もあります。

経済発展を優先させる中国はSDGs達成率が低く、リーダーとなるには少なくとも米国と同じ水準になる必要があるでしょう。

最後に日本はあとわずかで80%に達するところまできており、10位のエストニアとの差も大きくありません。政府が打ち出した政策が効果を上げ、トップ10に入ることができれば中国を抑えてアジアのリーダーとして世界に認識される期待は十分に持てるでしょう。

SDGs達成には経済が重要なポイント

ここまで経済4大国のSDGsへの取り組みについてみてきましたが、SDGsの目標をすべて達成するには巨額の投資が必要になります。株式市場でも開発や技術革新に関するセクターが今後相場のテーマとして脚光を浴びる可能性が高いと考えられます。

SDGsのゴール7に「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」という目標があるように、太陽光や風力など クリーンエネルギーの普及が必要な点では、世界が共通の認識を持っています。巨額の資金が動く経済4大国のSDGsへの取り組みは、今後も世界の投資家から注目を集めそうです。(提供:Renergy Online


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