家電用のリモコンに目を付け、家庭用スマートリモコン『Nature Remo(ネイチャーリモ)』を販売したNature株式会社。すでに実売数が20万台を超えており、確実にユーザーの心をつかんでいる。

「目指しているのは再生可能エネルギー100%で回る世界を作ることです」
この壮大な目標を掲げるのは、Nature株式会社 代表取締役社長 塩出晴海(しおで・はるうみ)氏。

しかし疑問に思うのは、なぜ「スマートリモコン」だったのかという点だ。スマートリモコンとは、家庭内のさまざまな家電を1つだけで操作できるリモコンのこと。

「再生可能エネルギー100%の世界」とスマートリモコンがいったいどのように結びつくのだろうか。『Nature Remo』を発想したきっかけや、どのようにビジネスで世界を変えていくイメージを持っているのかなど、塩出氏に伺った。

塩出 晴海
塩出 晴海(しおで はるうみ)
Nature株式会社代表取締役社長。13才の頃にインベーダーゲームを自作、2008年にスウェーデン王立工科大学でComputer Scienceの修士課程を修了、その後3ヶ月間洋上で生活。三井物産に入社し、途上国での電力事業投資・開発等を経験。2016年ハーバード・ビジネス・スクールでMBA課程を修了。ハーバード大在学中にNatureを創業。

GoogleやAmazonのスマートスピーカーとセット販売も

家庭用スマートリモコンから目指す、再生可能エネルギー100%で回る世界
(画像=THE OWNER編集部)

スマートリモコンさえひとつあれば、リモコン式の照明やTV、エアコンなどを操作できるようになる。また、スマホを通じて家の外からエアコンを操作したり、起床時間に合わせてTVを付ける設定にしたり、スマートスピーカーにつなげれば、声でエアコンの温度を調整したりもできる。

「Nature Remo はGoogleやAmazonのスマートスピーカーと連携でき、声で家電をコントロールできます。スマートスピーカー単体では、これができません。

最新式のエアコンやTVであれば連携機能が元から付いているものもあるのですが、スマートスピーカーと直接接続するためだけに、わざわざ買い換えないですよね。当社のNature Remoなら今お持ちのエアコンやTVのままでも通信と操作ができる点が、最大の特徴です」

さらに現在は、GoogleやAmazonのスマートスピーカーとのセット販売を展開しており、量販店やAmazonサイトなどでもセットで買えるのだ。

製品自体の見た目もスタイリッシュなNature Remoだが、開発段階では特にデザインにこだわったそうだ。ユーザーから得られる反応や売れている理由にはデザイン性の高さが挙げられるという。

ただし、「デザインにこだわった」とは何も表面的な「かっこよさだけ」を指しているのではない。UI・UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)の文脈で、「操作性や形状で使いやすさを具現化し、課題を解決する」意味でのデザインだ。「使い勝手」や「使い心地」も含んだ言葉である。

「Nature Remoの開発前に類似商品を探したら、『学習リモコン』と呼ばれる製品がありました。家電が発する赤外線信号を1つずつ読ませて覚えさせなければならず、とても手間がかかり、操作が分かりづらかったんです。

私たちは、ピッとかざすだけで自動的に家電を認識・設定してくれる手軽さを追求し、その簡便さを必須デザインにし、実装しました。ユーザーには手間を極力かけさせず、使用中の製品自体の存在感が消えることをコンセプトにしていました」

一方、当時は赤外線が透過しやすいなどの理由で黒いボディカラーの製品が多かったそうだ。

「私たちは白いボディカラーにこだわりました。家の中でインテリアとして馴染むようにするためです。白い色にするだけで半年から1年ほどかかり、開発が遅れて会社が潰れそうになったこともあります。それだけ、理想とするデザインの実現にこだわりました」

開発できそうな範囲内から始めると、創造性に「ガラスの天井」ができてしまう。そうではなく、まずは「ユーザーが欲しいもの」を定義し、どんな技術やデザインの製品ならそれを実現できるのか。そこにこだわって商品を開発したという。

自然との共生をテクノロジーの力でドライブする

Nature Remoから再生可能エネルギーの話に至るには、まず彼の原体験をお伝えする必要がある。

塩出氏は三井物産に入社後、途上国での電力事業投資・開発を経験した。再生可能エネルギーに興味をいだいた原体験は、大学時代にあったという。

彼の父親がコンピューターエンジニアとして起業してその現場をまざまざと見せつけられたことから影響を受け、塩出少年は小学5年生時点ですでに将来は起業する夢を描いていた。

自身も小学校の時に模試の算数で満点をとって全国1位になったり、BASIC言語で簡単なプログラムを組んで自作ゲームを作るなどする理系少年だった。のちにスウェーデンの大学でコンピューター・サイエンスを学ぶに至る。

そんな大学在学中に、父親とともに乗ったヨットの旅がのちの運命を決定づける。沖縄の宜野湾から奄美大島へ向けて3ヵ月間、夜通しでセーリングを行ったのだという。

「今でも覚えている光景です。雲ひとつなく、赤い水平線。波も凪いでいました。陽が沈み、風に呼応して進むヨット。父は寝ていて、真っ赤に染まる海の中で感じた強烈な自然との一体感・高揚感が今でも心に残っています。

その時感じた高揚感から、『人間というのは、自然を感じたい生き物なんだ』と痛感しました。つまり人間は、本来は自然の中にいることが心地良いと感じる動物なんです。しかし現代の私たちはその感覚から離れてしまっています」

なにか自然のためにできることはないか。思考を深め、自然や環境保護のためになることをビジネスでドライブさせたい。「自然との共生をテクノロジーでドライブする」――これをミッションに定め、彼は起業した。

Nature Remoは、電力の需要サイドに関わるための一歩目

自分に何ができるのか。塩出氏が着目したのは「電力」だった。

三井物産時代の経験に加え、再生可能エネルギーへ舵を切る流れが世界的に加速している。しかし、送配電事業に関わるのはスケールが大きすぎてベンチャーが参入するのは難しい。

一方で、さまざまなものがネットワークにつながり始めていた。自身はかつてコンピューターネットワークを専攻。何か親和性がありそうだと考えた。

電力には「需要と供給のバランスの問題」がつねにつきまとっている。これまで、供給側は電力会社が一手に引き受けてコントロールしてきた。ところが、太陽光パネルなどを一軒家の屋根に設置するなどして、再生可能エネルギーを個人で供給できるようになった。すると、これまでのように、電力会社の調整能力だけに頼るのでは、需給コントロールの担い手が足りなくなる。

塩出氏曰く、「再生可能エネルギーが増え、電源が分散化されると、需要側を上手くコントロールする必要が出てくる」というのだ。逆に言えば、需要サイドと供給サイドのお互いを上手くバランスさせて均すことができれば、日本や世界全体で必要な総電力量を減らすことができる。そのためには蓄電池などによる課題解決も出てくるが、いったん塩出氏は「どう自分たちが需要をコントロールするか」に着目した。

「需要サイドを考えた際に、家庭向けのエアコンが面白いと思いました。日本国内で電力需要の3割が家庭向けです。さらにその中で最大の電力がエアコンに使われています。特にピーク電力はエアコンに使われている比率が5割を超える。

そのエアコンを私たちが制御できるなら、面白いことができる。Wi-Fiでインターネットにつながって、エアコンと通信するために赤外線機能があるものを作れないか。そこから『Nature Remo』の発想が生まれました」

もちろん、塩出氏の掲げる壮大な理念を理由にユーザーがNature Remoを買ってくれるわけではない。

「ネットにつながるリモコンが消費者にどうベネフィットを与えられるかを考えました。それが先述の、室外からエアコンをコントロールできること、スマートスピーカーと連携して声で家電をコントロールできること、でした」

これからの日本はエネルギーマネジメントが鍵を握る

Nature株式会社の設立は2014年末だが、実質、プロジェクトを本格的に開始したのは2015年末からだ。現在はメンバー30名ほどの規模まで成長した。

開発はファブレス(工場を持たない)で、設計とデザインは内製し、製品の量産は中国で行っている。次の展開はもちろん、すでに考えているという。

「『電気の世界』にもう一歩踏み込んでいきたいと考えています。実は2021年3月1日より電力小売サービス『Natureスマート電気』を提供開始しました。電力の需要供給に応じて電気代が変動するプランを採用しており、ユーザーの方はマイページから翌日の電力量料金単価を確認できます。電気代が安い時間に消費電力の大きい洗濯機や乾燥機を使うことで、電気代を節約できるかつ電力需要のピークを分散できるので、火力発電所が不要に稼働することもなく、温室効果ガスの排出削減につながります。今年の5月にはNature Remoと連携し、電気代をトリガーとした家電操作機能の提供も予定しています。」

▼『Natureスマート電気』について
https://nature.global/press/release/4320/

現在のメイン事業、Nature Remoは2021年から数年内に100万台の販売数突破を目指しているという。現在は日本が中心だが、海外展開も視野に入れている。

「スマートリモコンの次の手は、蓄電池や太陽光発電設備、スマートメーター(デジタル式電力メーター)などと連携できるデバイスで、すでに発売しています。Nature Remoに接続できる機器をどんどん増やし、いずれEV(電気自動車)用の給電ステーションや給湯器などへもつなげていきたい」

ビジョンに掲げて目指しているのはあくまで「再生可能エネルギー100%の世界を築くこと」。自然との共生につなげるためには、既存の仕組みを大きく変える必要があると考えているのだ。

「近年、太陽光パネルの値段が劇的に下がってきました。世の中の住居の半分は戸建てですから、日照条件によりますが、その屋根すべてに太陽光パネルを載せたらインパクトは大きい。それを、EVを使って電力を貯めることができれば、地域内でエネルギーをマネジメントできるようになる。これまでと全く異なる仕組みが始まる時代にきており、ベンチャーにとっては大きなチャンスです」

ここで必要になるのが「エネルギーマネジメント(以下、EM)」の発想だ。家単位から地域単位まで「電力エネルギーをどう効率的に需給ギャップの量をコントロールするか」がEMと呼ばれる概念である。

「今後は地域のEMが家庭向けの電力会社のサービスの中核になる」と塩出氏は見立てる。再生可能エネルギー100%の世界を築くための前提条件が、EMの仕組みなのだ。

そんなEMに関わる事業を目指す一歩目として、スマートリモコンNature Remoから始めたというのが、これまでのストーリーだ。

もっと企業は「自然と人間が寄り添う世の中」を目指すべき

「商社の社員時代に、インドネシアの炭鉱をたくさんみてきました。地面がえぐられるほど掘られていますが、地球資源は有限で、化石燃料はやがて枯渇する。もうこの状態は長く続きません。再生可能エネルギーや分散化した電源で人類の営みを回していく仕組みを早急に作る必要があります。

代替エネルギーとして「水素エネルギー」もありますが、そこへスイッチするのにもエネルギーが必要です。発電のエネルギー源の大元を考えると、再生可能エネルギーが中心になっていくのではないでしょうか。

最近ようやく日本でも意識が変わってきましたが、まだまだヨーロッパの国々よりも自然環境に対する危機感が少ない。経営に必要な使命のひとつとして、企業には環境を守る取り組みをもっと広げてほしいです」

塩出氏は今でも趣味でヨットに乗ることがあるという。「ヨットに乗る人が増えれば地球がもっと良くなると思うんですよ。本当に真面目にそう思っています」

それほど、みなが自然環境へ関心を向け、ありがたみを感じられれば「自然を大事にする気持ちをもっと育めるのではないか」と真剣に考えているのだ。

「ニュージーランドの観光地の小さなある島のホテルでは、パンフレットなどには注意書きで『この島はクリーンエネルギーをエネルギー源に使っているため、停電になる場合があります。ご了承ください』と書いてある。

日本人の感覚だと、停電になったら残念に思うかもしれませんが、ニュージーランドでは自然とともに共生しているのが当たり前なんです。みんなが自然の中で時間を過ごし、自然と暮らし、自然に寄り添える世の中になってほしいです」

そう願う彼の夢は、ヨットでの世界一周の旅だという。もちろん動力源は、自然に吹く風のみだ。

<会社情報>
社名:Nature 株式会社 (Nature Inc.)
所在地:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町14-13 宇田川町ビルディング4F
ラボ/保養所:〒259-0304 神奈川県足柄下郡湯河原町宮下698-15 Smart Enegy Lab
事業内容:Nature Remoシリーズの開発・製造・販売、及びそれを用いた電力事業
設立:2014年12月10日
代表者名:塩出 晴海(しおで はるうみ)
従業員数:31名(アルバイト、インターンを含む)
連絡先:info@nature.global
URL:https://nature.global/

(提供:THE OWNER