「CBDC」という中央銀行のひそやかな企て
(画像=PIXTA)

中国が「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関するグローバル・ルールを提案した旨の報道がなされている(参考)。
中国は去る2014年来、世界に先駆けた中央銀行デジタル通貨(デジタル人民元)の導入に注力してきた。これを推進する中国人民銀行(PBOC)のデジタル通貨研究所局長が国際決済銀行のセミナーにおいて中央銀行デジタル通貨発行に関わる一連のルールを提案したのである。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)導入の議論は世界的に活発に行われている。しかし特に資本主義国においてはその導入により中央銀行以外の民間銀行の地盤沈下を招くといった問題が懸念されており、実現には至っていない。

こうした中、我が国の中央銀行である日本銀行(以下「日銀」)は去る(2021年)3月26日、「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会」を新たに設置すると発表した(参考)。
日銀は直近での中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行は予定していないものの、将来的にこうした決済システムが世界のスタンダードとなる可能性から「準備をしておくことが重要」である旨、同「連絡協議会」冒頭あいさつにおいて日銀総裁が述べた(参考)。
また中央銀行デジタル通貨(CBDC)の決済システムを担うのが民間企業となることなどから、今月(2021年4月)開始予定の中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験の円滑な実施に資するよう、民間事業者との情報共有を図ることが同「連絡協議会」の目的であるとする。

では日銀はどのような中央銀行デジタル通貨(CBDC)を構想しているのだろうか。
昨年(2020年)7月2日、日銀は「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」と題したレポートを発表した。
ここでは中央銀行デジタル通貨(CBDC)が現金と同等の機能を持つために「ユニヴァーサル・アクセス(電子端末へのアクセスが難しい子どもや高齢者の考慮)」と「強靭性(地震等の災害時にも利用できるオフライン決済機能)」が要件とされる。さらに同レポートではブロックチェーンを含む分散型台帳技術(DLT)の活用が示唆されている。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)はもともと、デジタル化の中キャッシュレス社会が推進されるとともに是非が議論されてきた。ビットコインをはじめとする多くの仮想通貨はブロックチェーンをその取引データ(トランザクション)の技術的基盤としている。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)が世界規模で発行されその特性が最大限活かされるためには、各中央銀行デジタル通貨(CBDC)インター・オペラビリティ(相互互換性)が重要となる。こうした観点から中央銀行デジタル通貨(CBDC)がもし発行されるとすればブロックチェーンを基盤としたものとなる可能性が高い。

ブロックチェーンは「ハッシュ関数」と呼ばれる取引データの暗号化技術などを用い、改ざんされることはないとされていた。ところが去る2018年には国産仮想通貨である「モナコイン」が大規模攻撃を受けブロックチェーンの書き換えにより1000万円以上の損害を受けた(参考)。また翌2019年にはビットコインやイーサリアムでもデータの書き換えによる二重引き出しといった手法でのハッキングが行われた(参考)。これらの実行された手口に対しても現状対抗策は出されていない。

加えて今年(2021年)2月末から我が国のメガバンクのひとつであるみずほ銀行ではシステム障害が相次ぎ、通帳がATMに取り込まれるなどといった事例が相次いでいた。
民間企業が中央銀行デジタル通貨(CBDC)全体の決済システムを担うとき、こうしたトラブルが起これば決済システムは機能するのであろうか。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入への動きは、デフォルトへのカウントダウンとなるのだろうか。引き続き注視していきたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す