ZEH(ゼッチ)は経済産業省、国土交通省、環境省が推進する、消費エネルギーを実質ゼロにする「ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称です。さまざまな基準をクリアしたZEHは、経済性だけでなく住み心地や健康面にも優れた効果が期待できます。このZEHとは、どのような住宅なのか、補助金制度などとともに解説します。
ZEHとは何か
経済産業省 資源エネルギー庁ではZEHを以下のように定義しています。
「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」
出典:経済産業省 資源エネルギー庁
簡単に言うと高気密高断熱の作りで、高効率エアコンやLED照明などの省エネ設備や、太陽光発電などの再生可能エネルギーを備えた住宅です。
具体的な基準は主に以下の4つがあります。
強化外皮基準
外皮とは家の中と外を分ける部分のことで、主に外壁や窓、床、屋根あるいは天井などを指し、これらに断熱性能の高い材料を使います。また地域区分ごとに定められた強化外皮基準(UA値)をクリアする必要もあります。再生可能エネルギー等を除く一次エネルギー消費量を省エネ基準から20%以上削減
再生可能エネルギーを導入
再生可能エネルギー等を加えて一次エネルギー消費量を100%以上削減
※寒冷地や低日射、多雪地域ではNearly ZEH(75%以上削減)でも申請可
※都市部の狭小地や多雪地域ではZEH Oriented(再生可能エネルギーを加味しない)でも申請可
政府がZEHを推進したい理由
政府はなぜ熱心にZEHを推進するのでしょうか。まず日本は2050年までに、国際社会の流れでもある温室効果ガス排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現したい目標があります。住宅のエネルギー消費を抑えることで、発電で発生するCO2も減らせるからです。
特に家庭のエネルギー消費は、1973年と比べ2017年は約2倍と大きく増加しています。これは省エネを進めたい政府にとって大きな課題です。
また、エネルギーミックスが掲げる「2030年度に最終エネルギー需要を対策前比5,030万kl程度削減」という見込みに対し、2017年時点で運輸、家庭、業務、産業の4分野のうち家庭の進捗率が最も遅れている点も影響しているでしょう。
ZEHの住み心地と経済効果
では実際にZEHは住む人にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。ZEHには主に次の4つのメリットがあると考えられます。
- 住み心地
- 健康
- 経済効果
- レジリエンス
住み心地
住み心地については、経済産業省の資料で次のような一例が紹介されています。
冬場に夜暖房を消したときに20度だったとすると、一般的な住宅(H4年省エネ基準レベル)では夜間に室温が10度以上低下し、翌朝5時には8度前後となります。しかしZEH相当レベルの部屋では室温の低下を大幅に低減できるため、同じ時間帯で13度程度となります。
朝に部屋の温度が5度程度違うというのは、体感では非常に大きな差ではないでしょうか。
健康
住宅の断熱性が低いと、暖房をつけている部屋と暖房をつけていない脱衣室や浴室との温度差が大きくなります。そのような温かい部屋から暖房のついていない寒い部屋へ急に移動すると、温度差によってヒートショックと呼ばれる負荷が体にかかります。
このヒートショックは、心筋梗塞や脳出血などを発症させる恐れがあります。実際に家庭での死亡事故の多くが寒い時期の入浴中に発生しており、多くがヒートショックが原因と想定されています。
断熱性の高い住宅なら、暖房をつけている部屋と暖房をつけていない脱衣室や浴室の温度差が小さく、こうしたヒートショックが抑えられる可能性があります。
経済効果
家庭のエネルギーコストでもZEHには大きなメリットが期待できます。一般社団法人 環境共創イニシアチブが行った「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業 調査発表会2019」の資料では、次のようなZEH居住者へのアンケート結果を伝えています。
年間エネルギー購入額 137,905円
年間太陽光発電の売電額 162,704円
平均エネルギーコスト収支 24,799円/年・戸
このように2019年時点では、年間コストを削減できるだけでなく、太陽光で発電した電気の余りを売却することで、収支がプラスになるという結果になりました。
レジリエンス
レジリエンスとは災害への対応力です。例えば、台風や地震などの災害で停電が起きても、ZEHでは太陽光発電や蓄電池を使えば電気を供給できます。近年は自然災害の被害が多くの地域で発生しているため、ZEHは省エネ性だけでなく非常時の備えとしても注目されています。
2021年度 ZEHの補助金制度
2021年度のZEHに関連する国からの補助金は、以下のように予定されています。ZEHの他に、より高性能なZEH+、V2H(以下に詳細)や蓄電システムなどの普及を目指す次世代ZEH+という区分も設けられ、それぞれより多くの補助金が用意されています。
区分 | 補助額 |
ZEH | 60万円 |
ZEH+ | 105万円 |
次世代ZEH+(実証事業) | 105万円 |
※1戸あたり
ZEH+
ZEH+はより高性能なZEHを目指す区分で、以下の条件を満たしている必要があります。
- 強化外皮基準(ZEHと同等)
- 太陽光発電を除く一次エネルギー消費量を省エネ基準から25%以上削減(ZEHは20%以上削減)
- 再生可能エネルギーを導入
- 再生可能エネルギーを加えて一次エネルギー消費量を100%以上削減
さらに以下のうち2つ以上を実施することも条件です。
外皮性能のさらなる強化
前述の(1.)よりさらに高いUA値基準をクリアする必要があります。高度エネルギーマネジメント(HEMSなど)の導入
HEMS(ヘムス)は「Home Energy Management System」の略で、家庭で使うエネルギーを確認・管理できるシステム機器です。他にヒートポンプ給湯器や高効率エアコンなどの省エネ設備も対象です。電気自動車への充電設備
次世代ZEH+実証事業
前述のZEH+の基準から、さらに太陽光発電など再生可能エネルギーの自家消費拡大を目指したものが次世代ZEH+です。現時点では将来のさらなる普及のため、有効性や経済性を確認する実証事業として設けられています。
次世代ZEH+は、ZEH+の条件に加えて以下のいずれかを導入する必要があります。
V2H設備
V2Hは「Vehicle to Home」の略で、EV(電気自動車)に搭載されている電池から住まいに電気を供給する仕組みです。節電や非常用電源としての効果が期待できます。蓄電システム
燃料電池
太陽熱利用温水システム
蓄電システムの補助金利用
このZEH+関連の補助金で注目したいのが、2021年度の計画に盛り込まれている蓄電池の補助金で、予定では2万円/kWh(上限額20万円/台)となっています。現在蓄電池単体での国の補助金はありませんが、ZEHと併用することで補助されます。
自然災害で発生する停電にはさまざまなリスクがありますが、それらを回避する手段として蓄電池が注目を集めています。必要性を感じながら金額がネックになっていた方は、ぜひ利用したい補助金でしょう。
太陽光発電によって活かされるZEH
冒頭でも触れたようにZEHは消費エネルギーをゼロにする住宅ですが、その前提は再生可能エネルギーを備えることです。一般家庭が導入できる再生可能エネルギーは太陽光発電が現実的なため、ZEHは太陽光発電によって活かされると言えます。
またZEHのようにエネルギーを使わない住宅は、太陽光発電のメリットをより大きなものにしてくれます。これから住宅を建てるならZEHと太陽光発電を組み合わせることで、それぞれの良さを最大限に活かせるでしょう。(提供:Renergy Online )
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