ウォーレン・バフェット率いる投資会社バークシャー・ハザウェイによる日本の5大商社株購入は、2020年の株式市場のトピックといえるでしょう。バフェットが5大商社に出資した理由は、資産価値に対する割安感と安定した配当といわれます。

ここでは別の視点で各社のESG活動をリサーチ。もっとも高評価の印象を受けるのは伊藤忠商事でした。その内容を中心に解説します。

伊藤忠商事のESG:バフェットとESGアワード、両方が高評価

バフェットが投資した5大商社株を「ESG投資」視点でチェックしてみた
(画像=MaksymYemelyanov/stock.adobe.com)

2021年3月時点で伊藤忠商事は「バフェットの評価」「国内外のESG関連アワードの評価」の両方において5大商社のなかで一歩リードしている感があります。その詳細をチェックしてみましょう。

バークシャー・ハザウェイが保有する上位15銘柄にランクイン

5大商社株のなかで購入後、バフェットがもっとも評価しているのが伊藤忠商事です。2020年末時点で彼が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが保有する伊藤忠商事の株は約23億ドル(約2,400億円)。これはバークシャー・ハザウェイが保有する上位15銘柄にランクインするほどの多さです。

ちなみにバークシャー・ハザウェイが2020年末で保有する上位15銘柄には、アップル、コカ・コーラ、アメックスなど、ブランド価値の高さで知られるグローバル企業が並びます(以下の表参照)。そのなかに日本の企業としてはじめて伊藤忠商事がランクインすることになりました。

バークシャー・ハザウェイが保有する上位15銘柄(2020年末時点/時価換算)

アップル1,204億ドル
バンカメ313億ドル
コカ・コーラ219億ドル
アメックス183億ドル
ベライゾン86億ドル
ムーディーズ72億ドル
USバンコープ69億ドル
BYD59億ドル
シェブロン41億ドル
チャーター34億ドル
BNYメロン28億ドル
アッヴィ27億ドル
メルク23億ドル
伊藤忠商事23億ドル
GM22億ドル

出典:日本経済新聞・電子版2021年2月28日付

国際的なサスティナビリティ・アワードを6年連続で獲得

伊藤忠商事はESGの先進企業としても国内外で高評価を受けています。国内の評価例では、2020年に環境省が開催した「第1回 ESGファイナンスアワード」の環境サステナブル企業部門で銅賞を獲得しています。商社でこのアワードを受賞したのは伊藤忠商事1社です。

国外の評価例では、「S&P Global Sustainability Awards 2021」のSAM Gold Classを6年連続で獲得しています。このアワードは全世界の大手企業約7,000社を対象に行われ、2021年度日本で受賞できたのは6社のみ。こちらも商社で受賞したのは伊藤忠商事のみです。

※ただし、評価によっては、ほかの商事会社が伊藤忠商事を上回ることもあります

伊藤忠商事のESG活動:180ページ超のレポートになるほどの枠組みや活動

伊藤忠商事は企業理念「三方よし」を創業のときから大切にしています。三方よしとは、「買い手よし、売り手よし、世間よし」の考えでこれはESGに通じるものがあります。そのため、もともとの企業風土がESGになじみやすかったといえるでしょう。

伊藤忠商事が自社の活動をまとめている「ESGレポート2020」のページ数は、180ページ以上にも及びます。そのため同社のESG活動の全貌を限られた文字数でお伝えするのは難しい面もあるため、今回はESGのE(環境)の活動の一部をご紹介したいと思います。

・東京本社ビル「雨水・雑排水の有効活用」「太陽光発電システム」

伊藤忠商事の東京本社ビルでは水資源の有効活用のため、ビル内の給湯室などから出る雑排水や雨水をトイレの洗浄水として使用しています。このシステムは同ビルが竣工した1980年から続くものです。

この東京本社ビルでは2010年から太陽光発電システムが導入されています。ビル屋上と隣接する伊藤忠ガーデンの屋根に太陽光発電パネルを設置。ここで発電された再生可能エネルギーは東京本社ビル内で活用されています。設置された太陽光パネルの発電容量は一般的な戸建住宅・約30軒分に相当する100kWとなっています。

バフェットが投資した5大商社株を「ESG投資」視点でチェックしてみた
(画像=引用:伊藤忠商事「ESGレポート2020」)

伊藤忠商事は、このほかにも国内外で数多くの再生可能エネルギー・プロジェクトを進めています。一例では、国内では愛媛・大分・岡山・佐賀の4か所でメガソーラー発電所(大規模太陽光発電所)を運用しています。また、海外ではドイツ北海沖で稼働する洋上風力発電所プロジェクトに共同参画。これはドイツの標準家庭37万戸分の電力量になる換算です。

・自ら荷主となる委託輸送の二酸化炭素排出量を削減

商事会社といえば、多種多様かつ大量のモノを国内・海外で流通させることで成り立つビジネスです。伊藤忠商事では、自ら荷主となる委託輸送の二酸化炭素排出量を削減する取り組みを進めています。

同社の委託移送によるCO2排出量は下記のグラフのように減少傾向にあります。9年間で約1万1,900トンのCO2排出量削減を実現しています。

バフェットが投資した5大商社株を「ESG投資」視点でチェックしてみた
(画像=引用:伊藤忠商事「ESGレポート2020」)

なお、伊藤忠商事の委託移送による二酸化炭素排出量を削減するための具体的な取り組み例は次の通りです。

  1. 鉄道や船舶の活用推進
  2. 効率的な積み込み
  3. 適正車種の選択
  4. 輸送ルートの工夫 など

伊藤忠商事の「ESGレポート」は、ESG投資を考える投資家のみならず、ESGを推進したい経営者や企業担当者にも参考になるものです。ご興味のある人は、同社の公式サイトからダウンロードできます。

ほかの大手商社4社のESG活動をチェック

もちろん、伊藤忠商事だけでなく、ほかの大手商社も経済界のリーダーカンパニーとしてESGを進めています。ここではESGのうちE(環境)の活動をご紹介します。

三井物産のESG:中国でニーズが高いエコ燃料を排ガスから製造

三井物産のESG活動で注目度が高いのは、排ガスからエコ燃料(エタノール)を製造する共同事業です。排ガスは中国の製鉄所から排出されるもので、これをもとに大量のエタノールを製造する予定です。

エタノールはCO2排出量が少ないことから、中国ではガソリンに混ぜて使うことを国が奨励しているようです。投資規模は約800億円、現地に10工場を整備するビッグプロジェクトになっています。

住友商事のESG:脱炭素エネルギー事業を強力に推進

直近の住友商事は、脱炭素エネルギー事業を強力に進める姿勢が鮮明です。この事業の成功は、同社の将来の発展に大きく関わってきそうです。

2021年1月22日には、オマーンの油田を水素製造の拠点にするため調査開始を発表。この調査発表の直後、1月25日には福島県浪江町と水素をテーマにした協定を結んでいます。この協定は、車・農機具・自転車などに水素を供給するステーションを町内に設置するものです。

これ以外にも、住友商事が検討している脱炭素エネルギー事業として、蓄電池を使った電力供給事業、船舶向けアンモニア事業などがあります。

丸紅のESG:イオンと組んで再生プラスティック容器を流通

2021年2月、丸紅はイオンとアライアンスを組み、使用済みペットボトルから新品のペットボトルをつくって再び流通させる「ボトル to ボトル」のプロジェクトをスタートさせています。

これはイオングループの各店舗で回収したペットボトルを、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」の飲料の容器として活用するものです(一部地域より順次拡大)。

三菱商事のESG:CDPの環境情報開示で高評価

三菱商事は、企業の環境情報開示などを評価するCDP(※)に2003年から参加しています。CDPにはいくつかのテーマがありますが、「気候変動」において2020年はA-評価(開示ステータス)を受けています。

※グローバルで環境改善を働きかけてきた2000年発足のイギリスのNGO(非政府組織)。日本法人は一般社団法人 CDP Worldwide-Japan

大変革の時代に対応できるかで5大商社の成長性が変わる

5大商社の活動をESG投資視点で見ると、とくに環境負荷の大きいエネルギーや物流などでビジネスの大転換が行われていることを感じます。この大変革の時代に対応できるか否かで、5大商社の中長期的な成長性が大きく変わりそうです。(提供:Renergy Online


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