新電力会社の電気料金の高騰、いわゆる「LNGパニック」は記憶に新しいところです。現在この騒ぎは収束した感もありますが、再び電気料金が高騰するリスクもあります。それに備えて、ここでは契約を避けるべき新電力会社のポイントを解説します。
LNGパニックの背景を整理:LNG不足で電力卸売価格が高騰
はじめに、新電力会社の電気料金の高騰、「LNGパニック」といわれた出来事を整理したいと思います。
2020年12月から2021年1月にかけて新電力会社の電力料金が高騰、利用者・利用企業の負担額が激増する事態が発生しました。原因は、寒波によって電力需要が高まったのに対し、火力発電所のエネルギー源となるLNG(液化天然ガス)の在庫不足などによって供給が不安定になったためです。
これにより、JEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格が高騰し、ここから電力を調達している新電力会社とその契約者に大きなダメージがありました。電力のスポット価格は2020年12月前半に1キロワットあたり10円程度で取引されていましたが、1月半ばに約25倍の250円超まで高騰しました。さらにこの高騰が利用者の電気料金に跳ね返りました。これが「LNGパニック」の背景です。
こんな新電力会社との契約は要注意!3つのポイント
本稿執筆時点の2021年3月中旬時点では、「LNGパニック」は収束した感があります。収束に至った理由には、「国が電力供給不足時の積算料金に上限を設定したこと(インバランス料金の上限設定)」と「LNG不足がおおむね解消されたこと」が挙げられます。
しかし、下記に挙げるような理由で、新電力会社の電気料金の高騰リスクが再び顕在化する可能性も考えられます。
- 大寒波や猛暑などによる電力需要の急増
- LNG輸送のタンカーが通るスエズ運河の遮断や停滞
- 中国の台頭による慢性的なLNG不足
電気料金の高騰リスクを考えると、「現在、新電力会社と契約している人」「これから新電力会社と契約する可能性のある人」は事業者選びに慎重になる必要があります。その際の注意ポイントは次の3つです。これらの事業者との契約には慎重になるのが無難です。
- 経営基盤が弱い事業者
- スポット取引の割合が高い事業者
- 料金プランが市場連動型の事業者
それぞれの中身を確認しましょう。
こんな新電力会社は要注意1:経営基盤が弱い事業者
新電力会社のなかには、電力卸価格の高騰によって多大な経営ダメージを受けた事業者も数多くあります。
この新電力会社の苦境を象徴するのが、2021年3月24日、新電力大手のF-Power(エフパワー・東京港区)の会社更生法の申請です。日本経済新聞・電子版2021年3月24日付では、「負債総額は200億円以上とみられる」と報じています。
また地域の電力を担ってきた中小新電力会社「かづのパワー(秋田県鹿角市)」も業務休止に追い込まれました。同社の電力提供サービスは、産業向け・家庭向けともに2月から休止となっています。
休止から1ヵ月以上経った本稿執筆時点(2021年3月25日)で、かづのパワーの事業再開は発表されていません。公式サイトには「弊社事業の継続につきましては、今後、株主と協議し……」と謝罪文が掲載されたままです。
今回は、かづのパワーの顧客を大手電力会社系の東北電力ネットワークが引き継ぐ形で利用者への影響を最小限にできました。とはいえ、生活やビジネスの根幹を支える電力会社の事業休止・倒産リスクは回避すべきでしょう。
その意味では、電力卸売価格の高騰などの理由で債務が膨らんだ際、すぐ立ちゆかなくなる財務基盤の弱い会社は避けるのが賢明です。
こんな電力会社は要注意2:スポット取引の割合が高い事業者
新電力会社には自前で「発電設備を持っている会社」と「発電設備を持っていない会社」があります。両者のうち、契約を慎重にする必要があるのは「発電設備を持っていない会社」のほうです。
発電設備を持っていない新電力会社の主な電力調達先は、「卸電力取引所」と「発電事業者」になります。このうち、「卸電力取引所(スポット価格)」から電力を調達する割合が高い事業者ほど価格高騰の影響を受けやすくなります。卸電力価格が高騰すると、電力を売るほど損失が膨らむ逆ザヤ状態に陥ってしまうためです。
こういった事情を踏まえると、新電力会社を選ぶ際は「自社で発電設備を持っているか」、持っていないとしたら「卸電力取引所(スポット取引)からの調達割合はどれくらいか」をチェックしたうえで契約するのが安全です。
補足をすると「発電設備を持っていない会社」でも、発電事業者からの調達が大半で長期的な調達価格を取り決めている新電力会社は電気料金の高騰リスクが低いと考えられます。
ご参考までに、自前で発電設備を持っている新電力会社はごく一部です。常葉大学・山本隆三教授がWEDGE Infinityに掲載したレポートによると、国内の新電力会社は約700社あり、そのうち発電設備を保有しているのは20社に1社程度しかありません。発電設備を持っていない事業者が大半を占めています。
こんな電力会社は要注意3:料金プランが「市場連動型」の事業者
今回のLNGショックで着目したいのは、すべての新電力会社の電力料金が高騰したわけではないという点です。つまり、LNGショックによって「電気料金が高騰した事業者」「電気料金がほとんど変動しなかった事業者」があるのです。当然ながら、利用者が避けるべきは「電気料金が高騰する事業者」です。
両者の違いは、卸売電力価格(スポット価格)と電気料金が連動しているか否かによります。両者が連動している「市場連動型プラン(※)」の場合、スポット価格が上昇すれば料金もその影響受けて高くなります。
一方、両者が連動していないプランの場合、スポット価格が上昇しても卸売価格と電気料金の逆ざや(損失分)は電力会社が吸収するので利用者への影響は限定的です。
ただし、市場連動型プランでない場合でも、「契約している新電力会社がどこから電力を調達しているか」については気にしたほうが無難です。契約している事業者が逆ざやを吸収すれば、経営が苦しくなります。それによって経営破綻のリスクが高まる可能性もあるからです。
あるいは、経営破綻まではいかなくても、経営が悪化することで将来の電気料が割高になる可能性もあります。こういったリスクを考えると、契約する電気料金が市場と連動していてもいなくても、本稿のポイント1で挙げた「事業者の経営基盤の確認」は重要です。
※電気料金のプラン名が「市場連動型プラン」となっているわけではありません。プラン名と関係なく、卸売電力価格(スポット価格)と連動している料金プランは高騰リスクがあります
新電力会社の信用力をチェックする方法は?
最後に、本稿のポイント1について補足したいと思います。経営基盤の弱い新電力会社は避けるべきといっても、「そもそもどうやって経営状況や財務内容を確認すればよいのか」と感じた人もいらっしゃるでしょう。
新電力会社が大手で上場していたり、未上場でも財務内容をオープンにしていたりする場合は、公開情報を確認するのがよいでしょう。とくに上場企業は、3ヵ月(4半期)ごとに発表される「四半期決算短信」をチェックすれば、直近の財務状況・キャッシュフロー・負債などがわかります。
問題は経営状況がオープンにされていない中小の新電力会社ですが、公式サイトの会社概要などで出資者(株主)構成をチェックしておきたいところです。
例えば、金融機関が出資している、有力な優良企業が出資しているなどであれば、(絶対破綻しないというわけではありませんが)安心材料になります。また、地域密着型の新電力会社であれば、住人の口コミを確認してみるのも一案です。(提供:Renergy Online )
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