スリランカが世界的に広がりつつある「パーム油のバッシング」に加わった(参考)。

ラージャパクサ・スリランカ大統領がアブラヤシを栽培している企業などに対して、段階的に木を取り除くように命じたのだ。

(図表:アブラヤシの果実)

知られざる植物油を巡る暗闘と「退場」するパーム油
(出典:Wikipedia)

4月5日に発表された公式声明によれば、毎年10%の木を根こそぎ取り除き、ゴムなどの環境にやさしい作物に畑を置き換えると発表された。さらにアブラヤシの栽培は完全に禁止されてゆくだろうとも付け加えられた。スリランカの関税局長はパーム油貨物の通関を控えるようにとまで助言されている。

「パーム油」は世界で最も消費量の多い植物油脂でアブラヤシから生産される。

冷凍食品、インスタント・ラーメン、チョコレートやスナック、クッキーなどのお菓子、パン・焼き菓子などに使われるマーガリン、またシャンプーや化粧品の原料にもなっている。

現在、世界全体のパーム油の約8割がインドネシアとマレーシアで生産されている。

日本はパーム油の最大の輸入国の一つでもある。日本のパーム油輸入量は2014年の598,500トンから2019年には778,600トンへと大幅に増加している(参考)。

消費量が世界最大の植物油/植物油脂であることから投資家からの注目度も高い。他の植物油脂に比べてヘクタール当たりの収量が多く、生産効率が良いため価格面で優位なのである。このため、近年前例のない成長を遂げてきた。

今回のスリランカにおける動向は昨今の世界の動きと連動しているものだ。

先進国ではパーム油「排斥」の動きが広がっている。

米国は世界第2位の生産国であるマレーシアからの入荷を強制労働の疑いで停止している。そして欧州(EU)は大規模プランテーションで生産されるバイオマス発電の燃料としてのパーム油を「持続不可能(unsustainable)」なものと分類した。今後、段階的に廃止する計画が立てられている。

今後、供給が減ることが予想されるからか、パーム油の価格は現在、昨年(2020年)5月からおよそ2倍になっている。

(図表:パーム油の価格)

知られざる植物油を巡る暗闘と「退場」するパーム油

他方でスリランカはココナッツ油のトップ生産国であり、パーム油はライバルでもある。

しかし、世界貿易機関(WTO)の加盟国は適切な正当性がない限り輸入を禁止することはできないことになっており、今回の動きは厳密には(technically)問題がある。一時的な輸入禁止はできても、「無差別」がWTOの基本原則のため永久的な輸入禁止はできないのだ。

インドネシアのパーム油生産企業のトップは「穀物メジャー」としてグローバル社会全体において圧倒的な影響力を誇る米カーギル(Cargill)だ。1974年以降、インドネシアに多くのパーム油プランテーションを持つ。その売上は2016年に1,070億ドルを突破し、2017年末には1,100億ドルとなっている。

パーム油の使用は5000年前にまで遡ることができる。紀元前3000年頃の古代エジプトの神話に登場するオシリス神復活の地とされるアビドスの墓でパーム油が使われていたことを示す証拠が発掘されている。

産業革命の時代にはパーム油は機械の工業用潤滑油として使用され、最も人気のある商品となった。石けんの製造に広く使われるようになった初期のパイオニアは現在のユニリーバを代表するレバー兄弟であった(参考)。

不健康だということで、かつて主流だった脂肪に取って代わり、安価であるためアジア諸国でも広く採用され前例のない成長を遂げ、世界全体に浸透してきたパーム油は消されつつあるのだろうか。

世界の植物油を巡る地殻変動は起こるのか、引き続き注視して参りたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す

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