大丸、松坂屋、PARCO、GINZA SIXなどの百貨店を傘下に収める持株会社J.フロント リテイリング株式会社。そのグループ企業として『大丸松坂屋カード』などの金融部門を担うのが、JFRカード株式会社だ。
JFRカードは、グループ全体の方針と歩調を合わせて「ESG」に力を入れている。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス・企業統治(Governance)」を意識した取り組みのことを指す。サステナブル=企業の長期的・持続的な成長を可能とするために重視すべき指標として、世界中の企業が取り入れ始めている考え方だ。
ESGへの取り組みが評価され、J.フロント リテイリングは第24回環境コミュニケーション大賞で「優良賞」を受賞している。「統合報告書2020」および「サステナビリティレポート2020」において、ESG情報が網羅的かつ豊富に記載されていることなどが評価されたためだ。
その中で、JFRカードでは具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。JFRカード代表取締役社長 二之部守氏に、ESGに力を入れている理由などを伺った。
カード会社がESGに力を入れる理由
ESGを含むサステナビリティ、企業活動や社会の持続可能性に関して、J.フロント リテイリンググループとしての方針はかなり細かく定められている。
中でも特に重きを置いているのは7つのマテリアリティだという。「脱炭素社会の実現」「お客様の健康・安全・安心なくらしの実現」「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」「ワーク・ライフ・インテグレーションの実現」「地域社会との共生」「サプライチェーン全体のマネジメント」「サーキュラー・エコノミーの推進」。この7つを優先事項として取り組んでいるそうだ。
マテリアリティにはそれぞれ2030年までのKPI(重要業績指標)が定められていて、例えば「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」なら「女性管理職比率50%(連結)を目指す」「70歳定年を目指す」とあり、数値目標が具体的だ。積極的に取り組んでいる姿勢が伝わってくる。
▼J.フロント リテイリンググループ 7つのマテリアリティ
https://www.j-front-retailing.com/sustainability/materiality02.php
しかし一方で、カード会社は、例えば自動車メーカーなど重厚長大産業などに比べて、エネルギーの排出量がもともと大きいわけではない。なぜ、ESGに力を入れているのだろうか。
二之部氏は「当社はカード会社を超えて、グループの中で決済・金融事業をどう展開していくかのミッションを負っています」と話を切り出した。
「そのためには、モノ・コトを売るだけの百貨店を超えて、リアルの世界でいかにお客様に日々の暮らしを楽しんでいただくかが重要です。決済や金融事業は、そのもの自体にあまり意味がありません。お客様のご相談に乗り、将来の不安を少しでも減らす。そのためのツールです」
あくまで顧客の生活をより豊かにするために、カードのポイント制度や金融・保険商品があると捉えているのだという。
「その考えのベースの上で今後、百貨店はどうなっていくべきか。旧来型の百貨店のビジネスモデルはすでに終焉を迎えています。また、当社は小さなカード会社のため、なおのこと過去の手法を変えないと生き残っていけない。つまり、変革の必要性は、危機感の裏返しでもあるんです。信頼に基づく百貨店の顧客基盤を強みとして残しつつ、新しい変革やチャレンジを推し進めていきたいと考えています」
時代の変化に合わせて、百貨店が生き残るために新しい価値を提供していきたい。そのために必要な要素の1つが「組織の多様性」なのだそうだ。
「サステナビリティやESGは大きなテーマだと私は捉えています。その中で、特に推進すべき大きな柱が組織の多様性で、組織の多様性を当社の強みとしていきたい。
組織は人なり。企業が成長して新しい価値を提供し成長していくためにも、組織の要である人の多様性を高めることが必要不可欠だというのだ。
新メンバーが30年来の常識を覆すこともある
二之部氏は「組織の多様性という言葉には、いろいろな意味が含まれます」と続ける。
「『活躍したいと考えている女性が、もっと活躍できる社会を作る』ことも多様性です。当社は社員の6割強が女性で、リーダー以上の管理職は女性が40%強。女性が活躍できている会社だと自負しています。
また、カルチャーの違いや言語、宗教、LGBTの観点での多様性・ダイバーシティもあります。その中で当社は、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集っている。それ自体が、組織の多様性を示す大きな特徴として挙げられると言えるでしょう。
当社には、国際ブランドと呼ばれるVISA、MasterCard、JCB、AMEX、Dinersの出身者が揃っている。また、銀行や保険会社の出身者もいて、小さくて古くからある企業としては多様性において群を抜いている組織だと言える。これは、小さな自慢です」
JFRカードの経営陣はこれまで百貨店の出向者が大部分を占めていた。一方、二之部氏のケースは異なり、取締役会議長の山本良一氏から要請を受けて社外から招聘され、社長に就任した。
二之部社長自身が、国際ブランドカード企業の日本法人代表を務めるなど、幅広い経験と異色の経歴を持っている。つまり、二之部氏自身が、多様性の象徴なのだ。
JFRカードがすでに多様性のある組織になっているのは、そんな二之部社長が就任して以降、組織を大胆に変革してきたことも大きいという。
「改革を通じて会社を変えていこうとしています。現在はまさにその真っ只中。その想いに共感してくれた人たちが業界の内外を問わず集まってくれました」
多様性、ダイバーシティの推進が企業の生産性を高め、今までに無いアイデアをもたらしてくれると信じているのだ。
「ここ数年、これまで金融やカード会社の経験がないメンバーも入社してくれています。彼ら彼女らの視点は新鮮です。業界人とは異なる純粋な顧客目線から意見してくれるので、多くの気付きをもたらしてくれます。
私が30年以上もこの業界で当たり前に思ってきたことに対して質問や疑問点を出してくれることで、私は原点に立ち返り、発見を得られる。同様に、チームや会社単位でこれまでの当たり前を見直す機会を得られることは、当社にとって大きなプラスがあるのです」
ペーパーレス化を推進しWeb明細化率が35%にまで増加
組織の多様性の他にも、ESGに関して、JFRカードでは特に「紙の削減」を重視して取り組んでいるという。
「低炭素化・脱炭素化社会を目指して、CO2をどれだけ削減できるか、グループを挙げて取り組んでいます。店舗内の照明機器のLED化はもとより、CO2排出量の削減に最もつながる取り組みとして、紙の削減に力を入れています」
カード会社は日々大量に明細書を発行している。まずはそこから着手したのだという。「ただ、百貨店のカード会員は50代以上が約半分を占めます。ご高齢のお客様は紙での明細書をご希望される方がまだまだ多い。その中で、昨年より紙の発行量を約10ポイント削減し、2021年現在は全体の35%がWeb明細書に移行しています」
「社会(Social)」で鍵を握るのは、地域との連携だ。地域のお店をJFRカードの加盟店として獲得し、地域周辺の仲間を増やしていくとのこと。
「当社の店舗だけでなく、地域としてお客様に街そのものを楽しんでいただける街づくりを行っていく。地域と共生することがソーシャルにおける大きな取り組みです」
「ガバナンス・企業統治(Governance)」においては、透明性をより高めて、情報発信を強化していくことを謳っているのだという。その取り組みが評価されて受賞したのは、先述の通りである。
コロナ禍の逆風の中でも楽しむことを忘れない
百貨店は緊急事態宣言時の時短要請の対象になることもあり、非常に厳しい経営環境にあることは間違いない。それでも二之部氏の表情は決して暗くない。その秘訣を聞くと、
「仕事をしている1人として、大事にしていることがあります。それは『仕事は楽しく』を貫くことです。コロナ禍で百貨店も例外なくお客様の客足が遠のき、大変な状況にあります。それでも、楽しくいることを貫こうと、社員にも話しています。
楽しさには3つあります。
1つは、価値をご提供してお客様に喜んでいただけること。その結果、感謝されて笑顔をいただけば、仕事は楽しい。これは経営者も同じです。
2つ目は、結果を出すこと。「目標を達成した」「プロジェクトを成功させた」。そうした達成感を味わえるよう努力すること。
3つ目は、成長することです。「去年の私とは違う」「成長を実感する」。1年前より今日の自分のほうが良いと、社員一人ひとりが思える会社にしたいですね。
この3つの楽しさを追求していればきっと結果も出るし、社員もお客様も関わるみんながハッピーになると信じています」
サステナビリティやESGについて、明確に言語化がなされていることに何より驚いた。カード会社の枠を超えて、世の中を明るくしてくれることを期待したい。
<会社情報>
JFRカード株式会社
〒569-8522
大阪府高槻市紺屋町2-1
https://www.jfr-card.co.jp/corporate/
(提供:THE OWNER)