「アフタヌーン・ディップ」は午後2時頃になると眠気を感じる生理現象です。睡魔と戦いながら仕事や勉強を続けても効率が落ちるので、可能であればパワーナップ(仮眠)をとることがベストな対応策ですが、昼寝の長さが認知症の発症率に影響するとの報告もあります。では、適切な仮眠時間とはどのくらいなのでしょうか。

アフタヌーン・ディップの原因

金融
(画像= sawitreelyaon/stock.adobe.com)

昼食後の時間帯(午後2~4時)に眠気を感じるアフタヌーン・ディップは「満腹中枢が刺激されて眠くなる」という説があります。しかし、最近の調査からは「昼食を食べても食べなくても眠気を感じる人は感じる」ということも明らかになっており、人間に備わった自然な睡眠覚醒プロセスと捉える傾向が強まっています。

米国立睡眠財団(NSF)によると、人間の体温は午後2~4時にかけて自然に低下し、メラトニンと呼ばれる自然な眠りを誘発するホルモンの放出を引き起こすとしています。また「炭水化物の多い昼食」「何時間も同じ姿勢でデスクに向かっている」「水分不足」なども、アフタヌーン・ディップの原因となるとレポートしています。

長時間のパワーナップは認知症発症のリスクを上げる?

午後の眠気を解消する方法としてパワーナップの有効性が挙げられます。しかし仮眠をとる場合には、適切な長さを見極めなくてはなりません。なぜなら、さまざまな研究によって「仮眠時間の長さ」と「認知症の抑制・発症の関連性」が指摘されているからです。

ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のアダム・スピラ教授らは、1991~2000年に昼寝の習慣に関するアンケートに回答し、約16年後に脳スキャンを受けた124人のデータを分析。その結果、長時間昼寝をする習慣のあった回答者は、認知症の発症に関連性があるとされている「ベータアミロイド」が蓄積されるリスクが、2.75倍高かったことが明らかになりました。

理想的なパワーナップの長さは?

認知症の発症リスクを高めるあるいは抑制する、具体的なパワーナップの時間については、異なる研究結果が発表されています。

ジョンズ・ホプキンス大学などの研究者が、2016年に発表した研究結果によると、対象となった65歳以上の中国人2,974人のうち、30~90分の昼寝を習慣にしている人は30分未満や90分以上昼寝をする人、まったく昼寝をしない人に比べ、認知力が高く、図形描画力なども優れていることが明らかになりました。

一方、帝京大学医学部などの研究者が2000年に発表した研究結果では、60分以内の昼寝はアルツハイマー病の発症を抑制する効果が見られたのに対し、60分以上の昼寝は発症率を高める影響が見られました。

夜間の睡眠の妨げにならない程度に

こうした異なる結果を比較すると戸惑いを感じますが、ジョンズ・ホプキンス睡眠障害センターのシャーリーン・ガマルド医学部長はパワーナップを推奨する一方、「90分を超える昼寝は2度目の睡眠に匹敵する可能性がある」と指摘しています。

つまり、日中に過剰に休息することで夜間の睡眠の質が低下し、それが認知力を低下させる原因の1つとなるというわけです。そう考えると、パワーナップは夜間の睡眠の妨げにならない30~60分程度にとどめておくことが、業務効率アップや認知症の予防にもつながっていきそうです。

文・Allan
国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、ファイナンシャルライターに転身。現在は欧州を基盤に、多数の大手金融メディアで執筆活動中。国際経済から投資、資産運用、FinTech、ビジネス、行動経済学まで、広範囲に渡る「お金の情報」にアンテナを張っている