美術品の収集、クルージング、高級ワイン…富裕層向けの趣味にもいろいろありますが、その最たるものの一つに挙げられるのが「馬主(うまぬし)」です。個人で馬主になるには相応の資産を持つ必要があることや、1頭当たりにかかる経費(預託料)を考えると、一般人には手が届きづらいと言えるでしょう。ここでは、馬主になるための条件や、どのような恩恵があるのかについて紹介します。

年収1700万円、資産額7500万円以上が最低条件

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(画像= Bernd Leitner/stock.adobe.com)

競馬の歴史は古く、日本では奈良時代の日本書記に競べ馬(くらべうま)についての記述があるなど、競馬は歴史ある行事として親しまれてきました。また、1539年に英国北西部の都市チェスター(現チェスター競馬場)で世界最初の常設競馬場が誕生したとされています。

英国の故ウィンストン・チャーチル元首相が「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になることより難しい」とのセリフが有名ですが、これは後世の創作のようです。ただ、それがまことしやかに語られるほど、ダービー馬のオーナーになることは難しいということ。当然、馬主にもピンからキリまであるわけですが、馬主であることが社会的なステータスに関わるのは間違いないでしょう。

それでは、実際に「馬主」になるにはどうすればいいのでしょうか。馬主には、「個人馬主」、組合員が共同で所有する「組合馬主」、法人で所有する「法人馬主」という3つの種類があり、それぞれ馬主として必要な所得要件などが変わってきます。ここでは、馬主全体の約85%を占める「個人馬主」について述べていきましょう。

日本で開催される競馬は「中央競馬」と「地方競馬」の2つに分けられますが、中央競馬の馬主になるには、まずJRA(日本中央競馬会)に個人馬主としての登録申請を行う必要があります。申請書をはじめとした必要な書類を提出した後、所定の審査を通れば晴れて個人馬主として登録されるわけです。登録の要件としては「過去2年の所得がいずれも1700万円以上」、「継続して保有する資産額が7500万円以上」のほか、過去に重大な犯罪歴がないことなどが定められています。さらに、競走馬の購入費と飼育・調教にかかるコストを考えると、やはりそれなりの資産家でないと馬主にはなれないでしょう。

競走馬の半数以上は1勝もできずに引退!?

JRAによると、サラブレッド1歳馬の中間価格は453万円、最高価格は2億9160万円。また、馬を預ける厩舎によって差はありますが、1頭当たり月間で60~70万円程度の預託料(調教や飼料代など、馬の飼育管理にかかる費用)が発生します。その一方で、1頭当たりの年間収入は約723万円(いずれも平成29年度のJRAのデータによる)。あくまで平均の数字ではありますが、収入から預託料を差し引くと、年間の収益はほぼトントンになる計算です。

競馬は、競走馬の半分以上がレースで1勝もできないという話も聞かれるほど厳しい世界。レースで上位(本賞金がもらえるのは1着から5着、出走奨励金は6着から8着まで)に入る競走馬を所有できなければ、基本的には赤字になると考えてよさそうです。ちなみに、ここで紹介している数字は全てJRAのもの。地方競馬では、たとえば「年間の所得金額が500万円以上」などJRAに比べると要件を満たすハードルが低くなっています。

馬主になることで得られる数々の特典

では、馬主になって得られるメリットはなんでしょうか。JRAでは、馬主の特典として①各競馬場における馬主専用観戦席での観戦、②馬主専用駐車場の利用、③競馬場への入場無料、④パドック馬主エリアへの入場(所有場出走時)、⑤ウィナーズサークルでの記念撮影、⑥トレーニングセンターへの入場などを挙げています。また、競争馬の名前は馬主が決めることができるのも馬主にとっては嬉しい特典の一つでしょう。ちなみに、競走馬への出資を小口化して購入できる、いわゆる「一口馬主」では、これらの恩恵を受けることはできないようです。

気になるのは、レースの賞金です。賞金を得た場合、馬主が80%、調教師が10%、騎手5%、厩務員が5%という配分の割合になっています。たとえば著名レースの1つである「日本ダービー(東京優駿)」の1位の賞金は2億円。同レースに勝てば、馬主の懐には1億6000万円が入るわけです。

とはいえ、トップクラスのレースに勝つ競走馬の馬主となるのは簡単ではありません。JRAのアナリストが日本ダービー馬の馬主になれる確率をざっくり計算してみたところ、「18年間、毎年1頭ずつ競走馬を購入し続けて0.3%程度」とのこと。これを実際に行おうとすれば、馬の購入費用や維持費など莫大な資金が必要です。

財界や富裕層社会で一目置かれる存在に?

もう一つ馬主になるメリットを挙げると、やはり「社会的なステータスを得られる」ことです。大きなレースを勝ち、その競走馬や騎手と並んで一枚の写真に収まるような馬主ともなれば、メディアに取り上げられるのはもちろん、世間からは「高額の費用を長年にわたって競走馬に投じ続けられる人物」と見なされるでしょう。昨今、中東ではドバイをはじめ各地で競馬が盛んになっていますが、それも中東の王族たちが名誉を求め、莫大な資金を投じているからです。

冒頭でも触れたように、競馬発祥の地、英国ではダービーをはじめ、大きなレースを制した馬主になることは大きな名誉。貴族社会で認められる一因になりますし、「競走馬を持てば持つほど人気が上がる」とさえ言われているようです。日本では、演歌歌手の北島三郎さんや、元プロ野球選手の佐々木主浩さんなど、著名人が所有する競走馬がレースを勝った際に馬主が脚光を浴びる程度で、英国に比べると社会的ステータスは小さいかもしれません。ただ、財界や富裕層の世界において、馬主であることが一目置かれる要因となるのは間違いないでしょう。