「貯蓄から投資へ」のスローガンの下、NISA(少額投資非課税制度)が設けられたのが2014年。周囲にも「投資の一環としてNISAをはじめた」という話を耳にする機会も増えてきたのではないでしょうか。一方、まだNISAを利用していないという場合には、自身の投資スタイルにあった口座選びが重要となります。NISAで失敗しない口座選びのポイントをみていきましょう。

NISAとは?

金融
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

まず金融機関での口座開設を検討する前に、NISAとはどのような投資制度なのかについて理解を深める必要があります。NISAを利用できるのは、日本国内に在住する20歳以上の方です。

NISA口座内で取引される株式や投資信託などから得られる配当金、分配金さらには売却した際の譲渡益が非課税となります。通常、こうした配当金や分配金、譲渡益には20.315%の税金が課せられます。NISA口座では、毎年120万円の枠が設けられ、最長5年間、つまり最大で600万円の投資枠が非課税で利用できるということになります。

現行では、NISAの投資可能期間は制度がスタートした2014年から2023年までと定められています。従って、株や投資信託などの金融商品の購入をNISA口座で実施できるのは2023年までとなっており、2023年に購入した金融商品を5年後の2027年まで非課税でNISA口座に保有することができるという制度です。

NISA口座は1人1口座

税制面でのメリットが魅力的なNISA制度ですが、当然ながらNISA口座を開設して取引を開始しなければ、そのメリットは享受できません。また、開設できるNISA口座は1人1口座と限定されているため、どの金融機関で開設するかを慎重に検討する必要があります。

NISA口座は、銀行、証券会社、ネット証券など各金融機関で開設が可能です。金融機関を変更する場合は、1年単位で手続きをする必要があるため、注意が必要です。

まず、NISA口座を開設するにあたり、まずはご自身の投資スタイルについて、自己分析をすることが大切です。例えば、これまでの投資経験が豊富で、株、投資信託、外貨預金などさまざまな金融商品の取引を実施したことがあり、NISAで税制優遇のメリットを最大限に活用したいと検討しているケースに該当するか、あるいは、これまでの投資経験は浅いけれども、NISA制度を契機として投資をスタートさせたいと考えているのか、自らの投資に対するスタンスをまずは整理したいところです。

その上で、NISA口座を開設する金融機関を選定するにあたり、各機関がNISA口座において、どのような投資商品を取り扱っているかを確認しましょう。どの金融機関でNISA口座を開くのかを決めるのは、それからでも遅くありません。

幅広い投資商品ラインアップ、証券会社のNISA口座が充実

NISA口座を取り扱う金融機関を大きく分類すると、メガバンクを中心とした銀行では、投資信託のみの取り扱いとなります。従って、投資経験が浅く、どの商品に投資すればよいのかを自身で決定することが困難な場合は、銀行でNISA口座を開設するのも一案です。投資信託はプロによって株や債券、不動産などの投資対象が絞り込まれているうえ、1万円前後の少額投資からスタート可能です。投資の初心者にとっては特に、安心して利用できるのではないでしょうか。

一方、すでにある程度の投資経験があり、リスクを適切に管理したうえで、NISA口座において株式にも投資を検討するのであれば、証券会社でNISA口座を開設すれば、より幅広い選択肢を得られます。証券会社でのNISA口座では、投資信託に加え国内外の株式も取り扱っています。また、ネット証券では、幅広い商品ラインアップに加え、取引に係る手数料が割安なのも特徴です。

国内株から外国株、海外上場投資信託までNISAで取引可能

充実した投資対象商品のアップ、割安な手数料をNISA口座に対し提供しているネット証券ですが、各社によってさまざまな特徴があります。1人1口座の制限がある中、自身に最適な会社を選択するためにも、各社のサービスをよく比較しましょう。

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ネット証券
会社名
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米国株取引に強み 50万円まで
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証券会社 SBI証券 楽天証券 マネックス証券 松井証券
国内株式手数料 無料(買付・売却いずれも) 無料(買付・売却) 無料(買付・売却) 無料(買付・売却)
投資信託 取り扱い数 2,575本 2,621本 1,152本 1,183本
外国株式 米国、香港など9カ国 米国、中国、アセアン(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア) 米国、中国 取扱なし
海外ETF 買付手数料無料 買付手数料キャッシュバック 買付手数料キャッシュバック 取扱なし

ネット証券のNISA口座の特徴の1つでもある国内株式の取り扱いですが、気になるその取引にかかる手数料については、大手ネット証券は売買ともに手数料を無料に設定しています。従って、投資経験のある方であれば、手数料を気にせず、NISA口座で国内株式をポートフォリオに加えることも可能です。

NISA口座で株式を購入する際に注意したい点は、120万円の枠組みです。税制の優遇が受けられるのは1年間でこの額に定められているため、例えば単元数の100株を購入するのに120万円以上の投資資金が必要な企業の株を購入すると、この1社への投資だけで120万円の税制優遇枠を使い切ってしまうことになります。分散投資の観点からすると、株式投資も1社だけというよりは、数社に分けて投資する方がリスクを管理しやすくなるため、最低必要投資額を各社ごとに分析する必要もあります。

単元未満株もNISAで利用可能

通常の株式投資では、100株、1,000株などといった具合に、銘柄ごとに投資する最低単位の単元数が決められています。しかし、S株といわれる単元未満株の場合、10分の1単位で取引が可能になります。このS株を活用すれば、多額の費用が必要な銘柄も、少額から取引が可能となり、分散投資が実現します。注意しなければならない点は、手数料です。

ネット証券各社ではNISA口座における株取引は手数料を無料に設定していますが、S株は手数料無料の対象外です。従って、単元数で株式を購入する場合、少額で分散投資ができる反面、手数料の負担を受け入れなければなりません。手数料の一例として、約定代金の0.5%(税込み0.55%)、最低手数料が50円(税込み55円)となっています。大手ネット証券のSBI証券と楽天証券、マネックス証券、松井証券ではいずれも、NISAでのS株を取り扱いしています。このうち松井証券では、ネット経由でNISA口座におけるS株の取引においては手数料が無料に設定されています。

投資信託取扱数は2極化

これまでの投資経験や金融知識が豊富であれば、各企業の決算書やマーケットの動向を読みながら投資対象の企業を絞り込み、NISAで投資をすることで税優遇の措置を受けられます。一方、投資経験や金融知識には個人差があり、リスクをともなう投資には慎重な姿勢を取る方も多いのが実情です。

そのような場合、様々な指標に目を通してもどの会社の株に投資してよいのか分からないまま、結局NISAを活用せず、税の優遇措置のメリットを受けられないという事態に陥りかねません。しかし、その場合は無理に株式投資に執着する必要はないでしょう。なぜならば証券各社ではNISAでも投資信託を対象としているからです。

投資信託では、国内外の株、債券、不動産、コモディティなどといった分野を対象に、プロのファンドマネージャーによって目利きがされています。従って、自分で各企業の動向を調べて、NISAでその会社の株式に投資することに自信がない場合は、プロの目で選定された投資信託を活用することが代替案の1つとなります。

投資信託は1万円前後からの少額投資からスタートできるため、120万円という税制優遇の枠組みが設定されているNISAにおいては、分散投資を実施する観点からも有効な選択肢の1つでしょう。投資信託からの分配金や値上がりした投資信託を売却した際の譲渡益が非課税となります。

ネット証券各社がNISAで取り扱う投資信託の本数をみると、SBI証券と楽天証券はいずれも2,500本を超え、マネックス証券と松井証券が1,000本台となっており、2極化しています。投資信託と一口にいっても、投資対象は様々で、株など特定の金融商品に投資するものから様々な金融商品を組み合わせたものまで幅広いラインアップが揃えられています。そのバリエーションの豊富さもNISA口座を選択するときの1つの参考とすることも重要でしょう。

海外株式ではネット証券でも差

NISAを活用する際、投資信託を通じて海外の株や債券、不動産に投資するだけでなく、海外企業の個別株に直接投資をしたいと考える方もいるかもしれません。ネット証券では、そうした投資家の要望にも応えるべく、海外企業への投資にもNISA口座で門戸を開いています。

主なネット証券のうち、海外株式を取り扱っているのはSBI証券、楽天証券、マネックス証券です。さらに、取り扱う国別の数でみると、最多なのはSBI証券で、米国、香港、韓国、ロシア、ベトナム、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアの9カ国の株式への投資が可能です。SBI証券に続くのが楽天証券で、米国、中国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアの株式を取り扱いしています。この2社以外に海外株式を取り扱うのがマネックス証券で、米国と中国の株式をNISAの投資で提供しています。

主要なネット証券のNISAにおける国内株式の売買手数料は無料に設定されていますが、海外株式の手数料については事情が異なります。ネット証券のうち最多の国の株式に投資ができるSBI証券のケースでは、海外株式投資には委託手数料が発生します。この委託手数料は、それぞれの国ごとに異なり、米国のケースでは約定代金の0.45%(税込み0.495%)、中国株式は0.26%(同0.286%)、韓国株式0.9%(同0.99%)、ロシア株式1.2%(同1.32%)、ベトナム株式2%(同2.2%)などとなっています。このうちロシア株式とベトナム株式については、電話で注文した際には手数料が割高に設定されている点に注意が必要です。

楽天証券の手数料は、米国株式が約定代金の0.45%(税込み0.495%)、中国株式は0.5%(同0.55%)、アセアン株式(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア)はそれぞれ1%(同1.1%)となっています。SBI証券との比較では、米国株式の手数料は両社とも同率に設定されていますが、中国株式についてはSBI証券の手数料が割安に設定されています。

海外株式の取り扱い国数では、SBI証券と楽天証券にやや水をあけられているマネックス証券ですが、手数料においては投資家にとっては喜ばしい措置を打ち出しています。マネックス証券における米国株式の国内取引手数料は約定代金の0.45%、中国株式は0.25%となっていますが、株を買い付ける際に発生するこの手数料についてはキャッシュバックの措置が適用されるため、手数料は実質無料となります。この措置はNISA制度が継続する間、恒久的ということです。手数料も積もればそれなりの負担となるため、こうしたキャッシュバック制度は投資家の好感を呼びます。

国内同様、個別企業の株式は、投資家として十分な知識を持ち合わせていないため、手が出しにくいけれど、海外市場でも取引を希望するという場合には、海外の証券取引所に上場している投資信託である「海外ETF」に、NISAを通して投資することも可能です。

NISAで海外ETFを取り扱いしているSBI証券、楽天証券、マネックス証券は、いずれも買い付け手数料を無料あるいはキャッシュバック措置を実施しているため、海外投資にかかる手数料負担を避けたい投資家であれば、個別の企業株よりも海外ETFへの投資も検討に値するでしょう。手数料では実質無料で横並びの3社ですが、取り扱うETFが上場している市場が異なります。SBI証券は米国、中国、韓国、楽天証券は米国、中国、シンガポール、マネックス証券は米国と中国に上場する海外ETFを取り扱いしています。

一口に大手ネット証券のNISA口座といっても、各社で特色があり、ご自身の投資スタイル、手数料、投資したい国の株式を取り扱っているか等、各社のサービスを比較してNISA口座を開設する会社を絞り込んでいくことになります。

原則1人1口座 金融機関の変更は可能

通常の金融機関における口座は、メガバンク、地銀、証券会社、ネット証券など各社で開設手続きが可能で、複数の口座を保有することは可能です。しかし、NISA口座は1人1口座という制限があるため、通常の口座のように複数の口座を開設することはできません。ここまで、手数料や取り扱う金融商品が相対的に多いネット証券を中心に、どの金融機関においてNISA口座を開設するべきかを比較、検討してきたのはそのためでもあります。

金融機関もこれまで投資経験のない人たちを新しい顧客として取り囲むべく、様々なサービスを提供しています。しかし、こうしたサービス内容や取り扱う金融商品は常に変化しており、一旦はA社でNISA口座を開設したものの、その後B社でNISAの取引を実施したいというようなケースも発生してくるでしょう。

NISA口座はA、B社でそれぞれ口座を保有することは認められず、NISA口座をA社からB社に移行することになります。2014年にNISA制度がスタートした時点では、一旦開設した口座を、別の金融機関に変更することは認められていませんでしたが、2015年より変更が可能となりました。金融機関を変更する際に注意しておきたいポイントは次の通りです。

NISA口座の金融機関を変更する際の手続き方法は、新たにNISA口座を開設したい金融機関と現在のNISA口座を開設している金融機関に対し、必要な書類を請求します。現在のNISA口座を開設している金融機関には勘定廃止通知書か非課税口座廃止通知書を請求します。前者は、年単位でNISA口座を変更する場合、後者はNISA口座を廃止し、再開設する場合の手続きに必要となります。新しいNISA口座の開設先の金融機関からは非課税口座開設届出書を請求し、本人確認書類と、現在利用している金融機関から取り寄せた勘定廃止通知書あるいは非課税口座廃止通知書を、新たな金融機関に提出します。金融機関側で書類の確認、税務署への申請を経て、NISA口座の異なる金融機関への移行が完了します。

この書類手続きを実施する際には、申請する時期に注意しなければなりません。2020年分のNISA口座を別の金融機関へと変更を希望する場合、2020年1月以降、NISA口座にて株や投資信託などの買い付けが一度もなければ、2020年の9月末までに申請すれば、2020年分から変更が可能となります。一方、2020年1月以降に現在の金融機関のNISA口座で買い付けがあった場合は、2020年分の金融機関の変更ができないため、翌年の2021年分から変更することになります。この場合、手続きは2020年10月から申請を受け付けています。

次に注意したい点がロールオーバーです。ロールオーバーとは「乗り換え」を意味する金融用語です。NISA制度がスタートしてはや5年以上の月日が経過し、非課税期間である最初の5年間の満期を2018年12月末に迎えたという投資家も多数いました。2014年に購入して非課税となっていたNISA口座の金融商品をそのまま2019年の非課税枠に移行、つまりロールオーバーできる制度です。移行された資産は2023年までの5年間、再び非課税の優遇措置を受けることができます。

非課税期間中の5年間に金融機関を変更したり、あるいは最初の5年間の非課税の優遇措置が終了した時点で金融機関の変更を検討したりする方もいるかもしれません。しかし、ロールオーバーができるのは同一の金融機関内でのみ認められているため、注意しなければなりません。5年の非課税期間が終了し、それを期に金融機関を変更した場合、新たに5年の非課税期間をロールオーバーすることはできなくなってしまうため、金融機関を変更するメリットと、同一の金融機関でロールオーバーを適用するメリットを比較して検討しなければなりません。

条件に当てはまる人は多くないかもしれませんが、NISA制度のスタート時から口座を開設した、投資を始めたという人は念のためチェックしておいたほうが良さそうです。

非課税という優遇措置は投資家にとっては非常にメリットが大きく、120万円5年間と限定されているものの、NISA口座は投資手段の1つとして十分検討に値するでしょう。

ただ、繰り返しになりますが、各金融機関によって取り扱う金融商品の種類、数、手数料は異なります。また、1人1口座という制限があるなかで、慎重に自分にあった金融機関を選択する必要があります。まずは、自身のこれまでの投資経験、投資スタンス等をしっかりと見極める必要がありそうです。

その上で、各金融機関が提供する金融商品、手数料などを比較し、自身の投資目的やスタンスに最適な金融機関でNISA口座を開設することになります。

ただし、提供されるサービスや手数料などは変更の可能性もあるため、一旦NISA口座を開設したらそれで終わりということではなく、常に情報のアップデートが求められます。比較的乱高下が少ない商品を選択したとしても、自身の資産を投じて投資を行っていることには変わりありません。自身が購入した商品の運用状況を定期的にチェックする程度のことは行っておくに越したことはありません。

また、投資スタイルも人生のライフスタイルが変化すれば、それに適応することも必要であり、NISA口座を開設している金融機関を変更するという選択も視野に入る可能性もあります。非課税制度が魅力的なNISAでは、失敗しない口座選びから投資をスタートしていただきたいものです。

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