東日本大震災から10年。その間にも、日本国内各地で大きな地震がたびたび発生しています。さらには南海トラフ地震も危惧されるなか、「地震保険」は備えておきたいことの1つです。ただし、木造住宅に比べて強固な建築物であるマンションの場合「地震保険は必要ない」と考える方が多いのが現状です。
当記事では、マンションにフォーカスし、地震保険の概要を知ることで、必要性や加入方法、選ぶためのポイントをお伝えします。
目次
地震の発生するリスク
日本は世界有数の地震大国として知られています。いつ大地震が発生するかわからないなかで、リスクを正しく知っておくことは心構えとして重要です。
その参考になるのが、文部科学省管轄の地震調査研究推進本部事務局が公表する予測地図です。下図では、今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率を色で示しています。
▽今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を示す地図
地震大国といわれる日本では、これまでも大きな地震により甚大な被害が発生してきました。統計やプレート、地形などをもとにさまざまな研究がなされています。国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)が提供する「地震ハザードステーション」では、お住まいの地域について、地震だけでなく、津波などの発生リスクを簡単に知ることができます。
【参考】防災科学技術研究所「地震ハザードステーション J-SHIS Map」
地震により想定されるリスク
地域によりリスクに程度はあれど、日本で暮らす以上は、こうした地震リスクと向き合っていかなければなりません。万が一の際に何も対策をしていなかった場合、多額の財産を失ってしまう可能性があります。
それはマンションで暮らしている方も同様です。免震構造のマンションが増えてきているとはいえ、倒壊のリスクは全くなくなるわけではありません。また、倒壊しなかったとしても、地震を原因とする火災も多く、リスクのひとつとして考慮しておきたいものです。
また、揺れにより食器棚が倒れ食器類が割れる、物が落ちる、壊れるなど家財の被害も考えなければなりません。住まいは無事だったとしても、家財への被害が大きかった場合、元の生活に戻るために多額の出費が発生してしまいます。
地震保険のしくみ
リスクには、保険で備えることができます。地震保険は、「居住用の建物」と「家財(生活用動産)」を対象とした地震災害専用の保険です。ここでいう居住用の建物には、マンションも含まれます。マンションは大きく“共用部”と“専有部”にわかれますが、前者についてはマンション管理組合が地震保険に加入することが多く、個人で加入を検討する場合は後者の“専有部”の地震保険となります。
地震保険では、地震や噴火、また津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失によって生じた被害に対して補償されます。なお地震による火災は、火災保険では補償されないことにも注意が必要です。
地震保険の保険金額は、火災保険の契約金額(保険金額)の30~50%の範囲内で設定します。ただし、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度額です。なぜ保険金額が火災保険に比べて低めに設定されているかというと、そもそも地震保険の目的は「被災後の生活再建」であり、火災保険のように損害を補填することを趣旨としていないからです。
地震保険は、法律に基づき、国と損害保険会社が共同で運営しているため、保険料は、都道府県や建物の構造、築年数により異なりますが、どの保険会社でも一律です。また、建物の建築年や免震・耐震性能に応じた10~50%の割引制度があります。
被害が発生した場合、状況により全損、大半損、小半損、一部損のいずれかに認定され、支払われる保険金が決定されるしくみです。火災保険とセットで加入する必要があり、火災保険に中途付帯で後から追加することも可能です。
▽地震保険の損害程度による区分と認定基準
被害状況 | 支払われる 保険金額 | 建物 | 家財 | |
土地・柱・壁など 主要構造部の損害 | 焼失・流失した部分の面積 | 損害額 | ||
全損 | 地震保険金額の100% (時価が限度) | 時価の50%以上 | 延床面積の70%以上 | 家財全体の80%以上 |
大半損 | 地震保険金額の60% (時価の60%が限度) | 時価の40%以上50%未満 | 延床面積の50%以上70%未満 | 家財全体の60%以上80%未満 |
小半損 | 地震保険金額の30% (時価の30%が限度) | 時価の20%以上40%未満 | 延床面積の20%以上50%未満 | 家財全体の30%以上60%未満 |
一部損 | 地震保険金額の5% (時価の5%が限度) | 時価の3%以上20%未満 | 小半損に至らない建物が床上浸水 | 家財全体の10%以上30%未満 |
【参考】財務省「地震保険制度の概要」
※筆者作成
保障は限定的
地震発生リスクの高まりが叫ばれるなか、国は、地域ごとのハザードマップの公表や燃えにくい街づくりなどの推進、地震保険の共同引受など対策を進めています。
それでも、大地震による被害は、広範囲かつ甚大な被害が起こりうる可能性が高いと見込まれ、補償額は損失を補填するのに十分とは言えません。なぜなら、地震による火災で建物が全焼し、保険金額が100%支払われたとしても、その保険金額は火災保険の保険金額の30〜50%の範囲と低めに設定されており、建物自体を元通りにするためには自己負担もしくは新たなローンの組入れが必要だからです。
また、上記表中の被害状況に応じた4つの認定基準のうち一部損以上に該当しなければ、保険料は支払われません。
リスクと保険料のバランスで考える
発生リスクをもとに算出される保険料は、ここ数年は毎年改定され、年々引き上げられています。2021年1月1日から改定された保険料は、前年に比べ全国平均で5.1%アップとなりました。補償内容とともに保険料負担を考慮した場合、地震保険の加入を躊躇する方が多いのも理解するところです。
また、以下のような加入する際の基準や価値観は個人により異なり、正解はありません。自分自身が納得できるリスク対策を検討したいものです。
▽地震保険に加入する際の考え方例
・大地震の発生リスクをどう捉えるか
・マンションが倒壊するほどの大地震を想定したリスクに備えるべきか
・地震による火災リスクに備えるべきか
・頻発する地震による家財の損害に対するリスクに備えるべきか
また、地震保険に加入する際には、自分にあった保険金額を設定することが重要です。地域や建物によっても、地震のリスクは異なりますし、人によっては保険料を高いと感じることもあるでしょう。
その点、地震保険では「建物」「家財」それぞれを対象とすることが可能ですので、建物に加入せず、家財のみ加入することも選択肢です。建物の倒壊や地震による火災リスクには補償されませんが、転倒や損壊した家財は補償されます。家財全体としてどのくらいの被害があったかについては、建物への損害に関係なく認定されます。実際に2016年の熊本地震の際には、支払実績も多く「助かった」という声が多く聞かれました。
地震保険料控除で税負担を抑える
地震保険加入において支払う保険料は、一定の所得控除を受けることができます。地震保険料控除は、所得税で最大5万円、住民税で最大2万5,000円が控除されます。課税所得金額を抑えられ、結果として税負担を抑えられます。効果はそれほど大きくありませんが、負担軽減に繋がりますので、年末調整もしくは確定申告では忘れずに申告したいものです。
知っておきたい公的支援制度
ここまで地震保険の保障について見てきました。ただし、場合によっては保険金額は心もとないことも考えられるため、こうした自助努力と合わせて国や自治体の公的支援も考えられるとよいでしょう。
具体的には、被災者生活再建支援金をはじめとする公的支援制度も、いざという時の支えとなります。「給付」のほか、「減額・免除」「融資・貸付」「現物支給」など生活再建のための制度に加えて、災害で住宅や家財に損害を受けた場合、災害減免法により所得税が軽減免除(所得制限あり)も利用したいものです。
多くの場合、申請の際には「罹災(りさい)証明書」が必要となります。自治体(市区町村)に申請し、被害状況や程度の判定により発行されます。避難所や地域集会所などに申請窓口が設置されることも多いのですが、被害範囲や件数が多い場合には職員の手が回らず、調査が遅れることもあります。
自己判断で片付けや修復を進めてしまい、被害状況の判定ができないケースもありますので注意が必要です。スマホ等で撮影した写真での判定が認められるケースもありますので、記録を残しつつ、情報等にアンテナを張っておきたいものです。
マンションにおいても地震保険は有効な対策
マンションに居住中でも、地震大国と言われる日本において、地震保険で「起こりうるリスク」へ対策しておくに越したことはありません。ただし、どのように備えるか、どこまで備えるかについて自分自身の判断基準で検討する必要があります。
生命を守ることを優先しつつ、その後の復興にむけての一歩が踏み出せる対策を考えておきましょう。
ゆめプランニング URL:https://fp-yumeplan.com/
(提供:JPRIME)
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