ニューラルポケット【4056・マザ】クラウド無しで解析する“エッジAI”注目株 低遅延強みにスマートシティで需要拡げる
種 良典取締役CFO

自動運転などで注目のエッジAIを用いて、スマートシティ向け独自サービスを展開するのがニューラルポケット(4056)だ。2020年8月には、創業から3期目にしてマザーズ上場を果たした。サービスの着想から開発、提供までをスピーディーに行うといった強みを生かしながら、次々に事業領域を拡げている。

種 良典取締役CFO
Profile◉たね・りょうすけ
2012年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、14年ベインキャピタル・アジアLLC入社。19年オヨテクノロジーアンドホスピタリティジャパン入社。20年4月ニューラルポケット入社、執行役員最高戦略責任者就任。同年12月同社取締役CFO財務管理部長就任(現任)。

3期目で東証Mに上場
スマートシティAIを展開

 同社の2020年12月期売上高は前期比144.9%増の7億6200万円、営業利益は1億7000万円。セグメントはAIエンジニアリング事業の単一セグメントだが、内容を細かくみると、①人流・防犯、②駐車場・モビリティ、③3D都市マップ、④サイネージ広告、⑤在宅勤務支援、⑥ファッション解析の6サービスを開発している。

 この6つは、全てがスマートシティを形成する要素になっている。スマートシティとは、ICT(情報通信技術)などを駆使しつつ整備や管理が行われる持続可能な都市または地区のことで、市場規模100兆~200兆円程と言われる分野だ。このスマートシティと相性が良く、かつ同社が強みを持つのが「エッジAI」である。

 AIは、解析処理をどこで行うかによって、クラウドAIとエッジAIに分けられる。開発が先行し、現在の主流となっているのは、学習や予測、判断などを全てクラウド上で行うクラウドAIだ。AI解析前の大量の映像やデータを大規模なサーバーに集約するやり方で、GAFAなどのサービスも多くがこのクラウドAIに属する。

 一方、18年頃から急速に開発が進んでいるのがエッジAIだ。「エッジ」とは、端末(エッジデバイス)のこと。学習、予測、判断は基本的に端末に搭載されたエッジコンピュータの中で行われ、サーバーに送信されるのはAI解析後の少量のデータに限られる。

 そのため、大規模サーバーが不要で通信コストも抑えられる点や、元データをクラウドに上げる必要がなく個人情報保護の面で優れている点、即時性が求められる場面で遅延が発生しにくい点、などが評価されている。

■エッジAI vs クラウドAI

株主手帳

スマートシティの実現
に欠かせない3要素

 エッジAIは、量が重く質が高度化したデータの処理が大量に必要となるスマートシティとの親和性は高い。

 たとえば自動運転車の場合、「1㎞走ると、10~50ギガバイト※くらいのデータを生成する」(取締役CFO・種良典氏)が、その大量なデータをしかもタイムラグを生まずにクラウドに送ることは不可能。また、走行中に急に飛び出してきたのが「人」なのか「標識」なのかを瞬時に判断して最適な解を出さなくてはならない、など瞬発力が求められる。このため、通信時間がかかるクラウドAIよりも、その場で判断できるエッジAIの活用が進んでいるという。

「スマートシティというのは、単にありふれたデータの利活用ではなく、張り巡らされたセンサーないしはカメラを通じて従来では検知が難しい物理空間の情報を使いながら人々の生活を便利にしていくことだと考えています。スマートシティの実現には、深層学習、エッジコンピューティング、そして安価で高度なハードウェア、という3つの要素が必要です」(同氏)

 ニューラルポケットは、18年の創業当初からエッジAIを用いる。AI全体としては後発の企業ながら、エッジAIの黎明期からサービス開発に取り組み関連特許を10件保有するど、独自のポジションを築いている(※21年2月現在、それ以外に11件を申請中)

クラウドAIから
エッジAIの時代へ

 同社の事業のうち、注目すべきサービスを2つ紹介する。 1つ目は「駐車場・モビリティサービス」だ。駐車場においては、従来型のシステムでは地面にセンサーを埋め込むかゲートで駐車券を発券する形で管理をしていたが、同サービスではAIを搭載した1台のカメラで数百台を一元的に管理。コスト削減効果に加え、リアルタイムで空車・満車を検知することで、「駐車場で空きスペースを見つけられず帰ってしまった」といったような、商業施設における機会損失を減らす効果がある。

 もうひとつは「リモデスク」。AI画像解析機能を付加した在宅勤務支援システムで、例えば在宅勤務中に顧客データをスマホで盗撮し情報を持ち出そうとした場合や、第三者による覗き見行為など、情報漏洩のリスクの高い行為が行われた場合、AIがそれを検知する。

 同サービスは、パソコンに内蔵されたシステムを使って解析し、解析後に画像はPC内で破棄する。このため、問題行動がない限り自宅内部や服装といった画像はPCの外部に送信されず、人間の目も介さないことから、働く人の心理的な負担は減らすことができる。

 リモデスクは、これまで情報セキュリティの面から在宅勤務ができないとされてきた業務に対するソリューションとして開発された。

「20年年5月頃に『こういうものがあったら良いのでは』ということになって1〜2週間でプロトタイプを作り、6月には顧客に見せて、10月には導入開始しています。着想してから製品化までのスピードも当社の強みのひとつですね」(同氏)

 種CFOは今後のスマートシティにおけるAIの在り様について、「将来的にはクラウドの役割はどんどん小さくなっていくだろう」と話す。前述のように、高品質かつ大量のデータのリアルタイムでの処理に加えて、今後IoTの世界に突入すれば、デバイスの数は数兆個レベルへと飛躍的に増大し、処理すべきデータ量も今よりさらに膨れ上がることになる。

「解決策はエッジにあります。エッジAIであれば、自動運転だけでなく、空飛ぶドローンを数十台飛ばして地図を作るというようなことも可能になります。そして、それはクラウドでは不可能。今後クラウドで担える役割が小さくなっていくことで、エッジが担う役割は必然的に大きくなっていくでしょう」(同氏)

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(提供=青潮出版株式会社