アドバンスト・メディア【3773・マザ】使いやすさ・精度の高さでシェア5割 医療・オンライン会議など需要高まる
大柳伸也取締役

日常生活で広く使われているAI技術のひとつが、人の声を言語として認識しテキスト化する音声認識技術。会議の議事録やコールセンターでの通話書き起こし、医療のカルテ作成など様々な分野で利用が広がっている。この音声認識分野で国内シェア5割超とトップを走るのがアドバンスト・メディア(3773)だ。

大柳伸也取締役
Profile◉おおやなぎ・しんや
1975年生まれ。2008年アドバンスト・メディア入社、14年同社CTI事業部長就任。取締役事業本部長兼CTI事業部長などを経て、19年取締役事業本部長就任(現任)。

強みはエンジンの汎用性
多分野で導入進む

 音声認識とは、人間が話した声をコンピュータが読み取り、文字にする技術のこと。煩雑な書類作成や記入業務などが省力化される上、タイプミスや記入漏れも軽減されることから、近年様々な分野での導入が進んでいる。

 音声認識市場は2019年に804億円、24年には6800億円に伸びると予測される成長分野※だ。グーグルやIBM、マイクロソフトなど大手が対象とするのはBtoCだが、アドバンスト・メディアの主戦場はBtoB。コールセンターや医療、建設といった業界向けに書き起こしサービスなどを提供する。

 同社の取締役・大柳伸也氏はその仕組みについて、こう説明する。

「音声認識ではコンピュータが音声をひとつひとつ音素に分解し、音の並びと前後の脈絡から検索エンジンが一番適切な言葉を判断し、文字に変換します。そのため、音声を書き起こしたデータをまず機械に学習させる必要があります」

 同社が展開するサービスの核となるのが、独自の音声認識エンジン「AmiVoice」だ。同エンジンにそれぞれの業界に合わせた専門用語を入れ込むことで、業界に特化したエンジンを作り上げる。また、コールセンターであれば電話の音声に特化したチューニングを行う、工場向けのエンジンであれば騒音に強い音響モデルを使う、など音声以外での調整も加えている。

 他にも、取引先からの声を活かした使い勝手の良さや、リーズナブルな価格などを実現。国内シェアは業界トップの51.4%を誇る。

▼事業領域

株主手帳

BSR1が売上の8割弱
コールセンター事業が主力

 同社は、アメリカの大学で人工知能の研究に携わり、国内AIベンチャーでの勤務経験もある鈴木清幸会長兼社長が1997年に創業。翌98年に、業界に先駆けてAmiVoiceをリリースした。

 2020年3月期の売上高は前期比11.5%増の47億4700万円、営業利益は同4.0%減の6億9500万円。現在は、創業以来注力してきた事業を包括する「BSR1」と、新規事業・連結子会社事業を含む「BSR2」の2つの成長エンジンを展開している。

 総売上高の8割弱を占めるのは、コア事業が中心のBSR1。コールセンター向けの「CTI事業部」、議事録作成支援システムを軸にした「VoXT事業部」、医療のカルテ入力などを行う「医療事業部」、プラットフォーム型で時間に応じた利用が可能な「STF事業部」の4事業で構成される。

 なかでも売上の38.4%を占め、前期比30%超の伸びを記録したのがコールセンターに特化したCTI事業部だ。現在、325社と契約する。

「多くの経営者の方々がコールセンターを単なる注文受付や問題解決の場としてだけでなく、お客様との大事なコンタクトポイントだと考えています。音声認識技術によって業務効率化を図るのはもちろんですが、通話内容をリアルタイムで文字化することで実はもっと多くのことが行われています」(同氏)

 アドバンスト・メディアの技術を導入すると、まず顧客の声を可視化できる。また“会社の顔”ともいえるオペレーターが顧客に寄り添った対応ができているか、NGワードを言っていないかなどを確認したり、オペレーターの教育に利用したり、といった応対品質向上にも活用が可能。更に、一歩進んだ対応を画面上でアドバイスする機能もあるという。

株主手帳
▲オペレーターの対応確認や教育にも活用できる

オンライン会議向け
サービスで注目集める

 売上比率の13.4%を占めるVoXT事業は、コロナ禍で大きく伸びた事業だ。同事業部は地方自治体での議会の議事録作成を目的として、03年から展開。取締役会や営業会議など民間企業での利用も視野に、書き起こし製品の開発を重ねていた。

「20年6月にはオンライン会議で利用できる『AmiVoice ScribeAssist』を急遽リリースしたところ、1カ月で400件以上の引き合いが来て、まさに期待を上回る事態となりました」(同氏)

 また医療事業部でも、対面診療・オンライン診療など多様な診療スタイルでの会話を文字化する音声認識サービス「AmiVoice IC─Support」を21年1月末にリリース。「医療がひっ迫する今こそ、我々にとっては役に立つ新しい技術を磨く時」だと大柳氏は話す。

コア4事業をけん引役に
25年度に売上高200億円へ

 アドバンスト・メディアはこれまで、AmiVoiceを応用したBtoB向け製品の開発に注力してきた。しかしその一方で、より多くの人に自社の技術を様々な用途で使ってもらい、可能性を拡げたいという思いもあった。そこでSTF事業部では、19年末にサブスクリプション型の音声認識プラットフォーム「AmiVoice Cloud Platform」をリリースした。

「クラウド上に音を投げると、サーバーでテキスト化してお返しするシステムです。エンジン利用料だけ徴収しますが、後は皆さんに自由な発想で使ってもらい、良いものを作ってもらいたい。それで良い社会を作ることができればと思います」(同氏)

 同社はこうしたクラウドサービスをはじめ、BSR1の4事業部を成長のけん引役として育てる予定。22年度に売上高80億円・営業利益22億円、25年度には売上高200億円を目指す。

(提供=青潮出版株式会社