ヘッドウォータース【4011・マザ】AIを通し企業の経営課題を解決 立案から運用まで一気通貫で担当
篠田庸介 代表取締役

2020年9月にマザーズ上場したヘッドウォータースは、公開価格の11.9倍となる2万8560円の初値をつけ、初値上昇率は過去最高となった。この2月発表の20年12月期決算は売上高8.0%増、営業利益40.6%増と好調な滑り出し。AIを企業に導入する「AIシステムインテグレーター」の草分け的存在である同社に今後の戦略を聞いた。

篠田庸介 代表取締役
Profile しのだ・ようすけ
1968年東京生まれ。89年に大学を中退しベンチャー企業の立上げに参画。インターネットが世界を大きく変えていくことを見据えて99年にE-Learning事業を柱とするIT企業を設立。シリコンバレーの様にエンジニアが活躍し新しいビジネスを生み出す環境をつくるべく、2005年にヘッドウォータース設立、代表取締役(現任)。

AI導入の「駆け込み寺」
高い利益率が成長を支える

 少子高齢化が進む中、労働を担う生産人口の減少は確実となっている。その問題を解決する手段として注目されるのがAIの活用だ。同社は、企業向けにAIを取り入れたシステムやアプリの立案、開発、運用管理を担当する「AIシステムインテグレーション」を展開している。担当する企業の業種はメーカー、卸・物流、小売、医療、金融など幅広い。

 同社の事業にはAI、DX(デジタルを利用したシステム開発)、プロダクト、OPS(運用管理)の4つのセグメントがある。企業から依頼を受けるとまずコンサルティングチームが業務分析を行い、課題を絞り込む。AIを使用しなくても解決できる課題であればまずDXを勧め、将来AIを使うことを前提としたシステム作りを請け負う。 

 AIを使用する場合は実証実験を行った後にAIの周辺システムを開発。実用化した後も、安定的に稼働させるために運用管理を担当する。1社だけでAIシステムの立案、開発から保守まで行える企業は数少ないため、様々な企業のAI導入における「駆け込み寺」的役割も果たしているという。

 これまで、物理的な鍵を一切使わず顔認証でドアの開閉や宅配ボックスの受け取りが可能なサービス「FreeiD」(※1)や、冷蔵庫内やレシートを撮影するだけで料理レシピを提案するアプリ「うちレピ」(※2)など、生活を大きく変える可能性がある様々な製品への技術提供を行ってきた。現在、ひと月当たり30〜40件のプロジェクトが進行している。

「マイクロソフトやグーグルなどの大企業や、大学などの研究所が様々なAIエンジンを作っていますが、それを手に入れただけでは実用化は無理。当社は企業の抱える問題に合わせたシステムを構築し、現場でAIを実際に稼働させるところまで一気通貫でやりきれるのが強みです」(篠田庸介代表取締役)

 各セグメントの利益率は、AIが50%後半〜60%、DXが40〜50%、OPSは50%と高い。プロダクトでは、ライセンス提供の場合の利益率は90%、他社クラウドサービスなどを活用した場合は10〜20%となっている。

※1「FreeiD(フリード)」はDXYZ(ディクシーズ)株式会社が提供する顔認証IDプラットフォームサービス

※2「うちレピ」はサッポロホールディングス株式会社が提供するサービス

■AIソリューション事業の概略図

株主手帳

「ペッパー」アプリ開発が転機
AI事業への絞り込みを決断

 代表の篠田氏が同社を創業したのは2005年。当初はエンジニアを集めシステム開発、スマホゲーム開発、ITコンサル事業などを行っていた。また海外への展開も早く、インド、中国、ベトナム、カンボジアでも地元の人材を使ったシステム開発に取り組んでいた。

 大きな転機は、ソフトバンクが発売した人型ロボット「ペッパー」のプロジェクトに関わったこと。別の仕事で協業していた、お笑いの吉本興業からのオファーがきっかけだった。ペッパーと吉本の芸人で漫才をするため、芸人が書いたシナリオ通りにペッパーを動かすシステムづくりを同社が担当。この仕事が話題となり、発売元であるソフトバンクからペッパー用のアプリづくりを任せられることになった。

「ペッパーのような人型コミュニケーションロボットが、数千台も実用化された国は日本だけ。我々はその中で収益を上げながらたくさんのノウハウを積むことができた。非常についていました」(同氏)

 当時は世界の大企業がAIの開発にしのぎを削り、実用性のある製品が世に出はじめた頃。同社は顔認識AIサービスに焦点をあて、当時性能が一番高い製品を出していたマイクロソフトと協業。15年にはロボットを使った顔認識サービスをリリースし、AIとロボットを主力とした事業へと大きく方向転換した。

「AIの市場は急成長しており、22年には1兆2000億円に拡大するといわれています。当社はロボットに対するAIアプリで世界トップレベルの開発実績を持っているので、今後はAI×ロボット事業で拡大を図ろうと考え、海外の事業を売却して上場準備を始めました」(同氏)

■売上高拡大イメージ

株主手帳
株主手帳

フローとストックを半々に
年間10%の成長を目指す

 同社の収益は現在、フロー型であるAIとDXセグメントが8割強、ストック型であるプロダクト、OPSセグメントが2割弱となっている。将来的にはこれらを半々の割合まで伸ばしていく戦略だ。

「最新のAI技術を使って新しいものを作るフロー型の案件で得たノウハウが、やがてストック型であるライセンスの源泉になります。ストックで半分の収益を得ながら、一方で最新のAI技術に取り組んでいく。そして年間10%程度の売上高と利益の成長、社員の増加を実現していく。ぜひ今後の我々に注目してほしい」(同氏)

(提供=青潮出版株式会社