先端技術を活用して企業支援するBtoBベンチャーのユーザーローカル(3984)が、二桁の増収増益を維持して好調だ。創業以来のコアプロダクトであるビッグデータ解析ツールや、AIを活用した顧客サポートシステムをSaaS型で省庁から大手企業まで提供する。近年は、AIの画像認識技術や音声認識技術などを応用し、「人物分析AI」や「カンニング抑止AI」といった新商品を積極開発する。
アクセス解析ツールで
ユーザーの行動を可視化
同社は、伊藤将雄社長が早稲田大学大学院時代に開発した「インターネットユーザーのアクセス履歴の解析及び可視化技術」を用いたサービスを展開するベンチャー企業。①アクセス解析ツール「ユーザーインサイト」、②ソーシャルメディア解析ツール「ソーシャルインサイト」、③業務効率化システム「サポートチャットボット」の3つを省庁・自治体から大手企業まで千数百社の多様な顧客にSaaS型のライセンス販売で提供している。
1つ目の「ユーザーインサイト」は、PCやスマホ、タブレットなどのサイトのUX(ユーザーエクスペリエンス:ユーザーがサイトを通じて得られる経験)を解析し、顧客のマーケティング施策に必要なインサイト(人を動かす隠れた心理)を提供するサービスだ。従来のWEBアクセス分析ではアクセス数やPV数などは把握できたが、ユーザーが何に興味を持っていたり、そのページを最後まで読んだかといった行動まではわからなかった。同社のプロダクトは、ユーザーの閲覧頻度やクリック個所などを暖色から寒色までの直感的なヒートマップとして可視化することで、ユーザーのページ内行動を解析。月額5万円から提供する。
「カーソルやスクロールの動きから、ユーザーの視線を予測し可視化します。例えば、ある写真を境に読むのを止めてしまう人が多ければ、その写真に問題があることがわかります。より良いコンテンツ制作の支援にしたいと研究したのですが、それがビジネス参入のきっかけとなりました」(伊藤将雄社長)
AIによるチャットボット
人材不足の解消に貢献
2つ目の「ソーシャルインサイト」は、ツイッターなどのSNS上のクチコミ分析や特定アカウントのファンの増減、反響などを分析し、顧客のソーシャルマーケティングを支援するサービスだ。同サービスも月額5万円から提供している。
「2011年の東日本大震災発生時に、情報収集・発信手段としてSNSが注目され、使用者が急速に増加しました。それに伴い、自社製品がどう評判されているかを知りたい、また企業としてアカウントを持って情報発信したい、といったニーズが高まったため、翌12年に販売を始めました」(同氏)
3つ目は17年に発表した、AIを活用した顧客サポート自動化チャットボット「サポートチャットボット」。WebサイトやLINE、フェイスブックなどにチャットボット(自動会話プログラム)を常駐させ、問い合わせなどに24時間リアルタイムで対応することで、省人化・業務効率化を図るAIツールだ。同サービスは月額10万円から導入できる。
「企業のユーザーサポートは若手社員が対応することが多いと思いますが、少子化による慢性的な人手不足や働き方改革などが社会問題になっています。サポート業務を自動化できたら、企業も、またユーザー側にもメリットは非常に大きい。問題解決になるのではないかと商品化しました」(同氏)
ここで開発されたAI技術は、既出の分析ツールにフィードバックすることで過去データから未来を予測し精度を上げるほか、同社の顧客サポートの現場でも利用されている。
新製品は基本無償も
営業利益率は40%超え
20年6月期の売上高は前年同期比25・0%増の16億6700万円、営業利益は29・7%増の6億8700万円、経常利益は同24・2%増の6億5800万円。コロナ禍の今期も二桁の増収増益を見込んでいる。また、同社の営業利益率は41・2%と高い。プロダクトがSaaS型であるため、基本的に一度システムが作られればコストをあまりかけずに、安定収益がストックとして積み重なっていくビジネスとなっている。
「仮にお客様が10倍増えても、コストは1・5倍から2倍くらいで済むことも多いので、利益が出やすい体質だと思います」(同氏)
同社は年間2〜3アイテムを積極的に無償提供している。無償とする理由のひとつは、同社の知名度を上げるプロモーションとして。また、若手社員のアイデアを事業化するためのトレーニングでもあるという。
「当社は現在社員数70名、平均年齢27・8歳ととても若い会社で、その4割がエンジニアです。彼らに自由な発想で開発してもらい、一度無償で出してビジネスになるかを見極めてからリリースすることが多いですね」(同氏)
時代のニーズに応じた
プロダクトを様々開発
同社が開発した「チャットボット」は、AIの「自然言語処理(テキスト解析)」をメインとしたサービスだが、既に画像分析や音声認識などのAI技術を応用した商品開発も進められている。
例えばコロナ禍でオンライン試験が増加するのを受け、20年4月にカメラを使用して不正行為を自動検出する「カンニング抑止AI」を開発。同プロダクトは実際の検定試験などで採用されるなど、既に運用段階に入っている。また、21年1月には人物の写真から姿勢や視線、顔の向き、表情、性別・年齢などを推定する「人物分析AI」の無償提供を開始した。
「AIの画像分析では、骨格や表情などから男女や年齢を判定したり、今であればマスクの着用を判定したり。また音声認識では声から感情を読み取るなど、無限の可能性があります。もちろん基礎技術だけで勝てる分野ではないので、それらをバラバラに使うのではなく、当社で培ったビッグデータ解析技術などと組合せ、パッケージして便利に使っていただけるように考えています」(同氏)
(提供=青潮出版株式会社)