2020年8月にマザーズに上場したティアンドエス(T&S、4055)は、企業や半導体工場向けシステムの受託開発や保守・運用を手掛けるITコンサルティング企業だ。東芝など大手3社との安定した取引が全売上の76%を占め、昨今の半導体需要増で業績は好調。こうした盤石な経営基盤のもと、AIアルゴリズムの研究開発支援や東北大学と次世代半導体技術の共同開発を行うなど、新領域進出に力を入れている。
大手顧客3社が売上の8割弱
営業利益は過去最高を更新
T&Sは、システムの受託開発や保守運用などのサービスを手掛けるITコンサルティング企業だ。1996年に創業した前身のテックジャパンが85年創業の同業・シナノシステムエンジニアリングと合併し、2016年に誕生した。20年11月期の売上高は前期比1.3%減の22億6600万円だが、営業利益は同12.9%増の3億400万円となり過去最高を記録した。
事業内容は単一セグメントとなるが、細かくみると①「ソリューションカテゴリー」、②「半導体カテゴリー」、③「先進技術ソリューションカテゴリー」の3つに分かれる。
①のソリューションカテゴリーは、企業向けにシステム開発、カスタマイズ、データ管理の日常的なサポートを幅広く行う事業。一方②の半導体カテゴリーは、半導体工場でのシステム運用・保守などを行う事業だ。
20年11月期の売上高構成比をみると、①は79.7%、②は15.7%となり、両カテゴリーで9割以上を占める。この2事業の最大顧客は重電系企業で、特に東芝・日立製作所・キオクシアの3社が占める割合は76%にも上る。
ソリューションが主力
半導体カテゴリーが好調
同社の強みの1つは、主要顧客と長年に渡り関係を構築してきたことだ。
「東芝、日立製作所、キオクシアの3社は前身企業の時代から20年以上にわたり、システムを担当しています。開発から運用・保守、メンテナンス、次のシステム入れ替えと継続して業務を行い、データ管理の日常的なサポートなど社内の下回りの技術も当社のエンジニアが担当します。他の企業はなかなか入ってこられないのでは」(武川義浩社長)
20年11月期のカテゴリー売上高をみると、①が前期比4%減の18億700万円、②が同17.1%増の3億5500万円。①は、エンジニアの人材不足から選別受注を余儀なくされたことで微減。しかし②は、コロナ下の半導体需要により大きく成長した。
特にNANDフラッシュメモリー市場において世界2位のシェアを持つキオクシアは、T&Sの主要な取引先である。キオクシアは三重県四日市市と岩手県北上市の半導体工場拡張を進めており、T&Sが派遣する技術者も増えている。
外注抑え品質管理を徹底
利益率は業界平均の2倍
同社の特徴は、営業利益率が13.4%と業界平均である6%の2倍以上を推移している点だ。その理由を武川社長はこう話す。
「受託するシステムは長期のため、自社で時間をとってしっかり行い、業務上のトラブルを出さないよう心がけています。またエンジニアは定期的にローテーションし、一人ひとりの経験値を上げることで社員育成と単価アップを実現しています。外注をむやみに使って売上を追わず、品質管理を徹底することが結果的に利益率アップにつながります」(同氏)
また、同社の社員300人弱の中でエンジニアは259名。うちソリューションカテゴリーには174名、半導体カテゴリーには68名(21年3月時点)が所属する。20年は新型コロナウイルス感染拡大による非常事態宣言の影響を受け、エンジニアの採用が停滞した時期もあった。しかし上場による知名度向上効果もあり、第1四半期には12名の中途採用エンジニアの入社が完了。21年4月には、13名の新卒社員が入社する。
R&Dセンター新設
新領域の受託開発に注力
20年の上場時、T&Sの初値は公開価格の2.5倍となる7010円まで高騰した。 同社が注目される一因は、ITコンサルティング企業にとどまらないことにある。18年に立ち上げた③「先進技術ソリューションカテゴリー」では、AIや画像認識など成長が見込まれる産業領域の研究開発、開発支援を行っている。20 年11月期の売上高構成比は総売上高の4.6%とまだ成長段階だが、高度なソフトウエア開発力を武器に、現在本田技研研究所やオムロン、NECなどからの受託開発を行っている。
その一例が、中国やアメリカで発表されたAIに関する膨大な論文の中から有望な案件を研究し、アルゴリズムを再現、取引先に提供するというものだ。
「簡単に言うと、新技術を実用化する“プロデューサー”です。大企業の研究部門で手掛けるケースもありますが、容易に開発できる分野ではないため、ニーズがあります。単独で事業化している会社はほぼないので、注力していきたい」(同氏)
また19年からは、現在のプロセッサの1000分の1の消費電力が可能となる次世代メモリ「スピントロニクス技術搭載の次世代メモリ」に関する東北大学との共同開発もスタートした。T&Sは、スピントロニクス技術を搭載したAIプロセッサ用のアプリケーションソフトウエア開発を優先的に担っている。20年11月、次世代メモリの開発は中小企業庁の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に採択された。1~2年以内の事業化を目標としており、実現すれば業績の急成長が予想される。
同社は20年12月、研究開発部門を独立させ、R&Dセンターを新設した。同センターでの研究開発を通じ、先端技術ソリューションカテゴリーの育成に力を入れる計画を立てている。
「次年度は研究開発や人材確保に注力してきたい」(同氏)
21年11月期の業績予想は、売上高が前期比8.7%増の24億6400万円、営業利益が同5.7%増の3億2200万円。いずれも過去最高を更新する見込みだ。
■研究開発の流れ
(提供=青潮出版株式会社)