不動産を使った資産運用には、いくつかの手法があります。その代表的なものが「不動産投資」と「REIT(リート)」です。ここでは両者を3つのテーマで比較。「リスクとリターンで優位なのはどちらか」を考える材料を提供します。
「不動産投資」と「REIT(リート)」を3つのテーマで比較
本稿では、「リスクとリターンで優位なのはどちらか」を検証するために次の3つのテーマで「不動産投資」と「REIT(リート)」を比較していきます。
- 平均利回りはどれくらいか
- レバレッジをかけられるか
- 平均的な稼働率はどれくらいか
※なお、本稿は投資中級者向けの内容のため、不動産投資とREITの基本情報の説明は割愛しています。また、ここでいう不動産投資とは、大都市圏のマンション投資のことです。
1.不動産投資とREITの比較: 平均利回りはどれくらいか
利回りは、投資のリターンで重要な指標のひとつです。一般的には、不動産投資とREITの利回りを比較すると、「不動産投資のほうが高利回りで儲かる」という意見が多い印象を受けます。これは事実でしょうか。
単純な利回り比較では「不動産投資」のほうが1%前後高い
下記の表は、不動産投資とREITの平均利回りになります。たしかに、不動産投資のほうが高利回りになっています。具体的には、不動産投資のほうがREITよりも0.7〜1%前後、高利回りです。
不動産投資 平均期待利回り | 東京・城南地区4.2 % 東京・城東地区4.5% |
---|---|
REITの全銘柄 平均分配金利回り | 3.49% |
※不動産投資の平均利回り参照:不動産研究所「不動産投資家調査」2020年4月時点
※REITの平均利回り参照:JAPAN REIT公式サイト 2021年4月時点
ローンを利用している場合、不動産投資が有利とは言い切れない
ちなみに、上記の不動産投資の平均利回りは、サラリーマン投資家などに人気の東京23区のワンルームマンションのものです。同じワンルームマンションでも、地方都市になると利回りはアップします。
都市名 | 平均期待利回り |
---|---|
札幌 | 5.5% |
名古屋 | 5.0% |
大阪 | 4.8% |
福岡 | 5.1% |
※参照:日本不動産研究所「不動産投資家調査」2020年4月時点
ただし、これらの結果だけを見て「不動産投資のほうが高利回りで儲かる」とはいえない面もあります。
不動産投資の場合、ローンを利用して収益物件を購入しているケースも多いでしょう。その場合、実質的な利回りは金利分を差し引かなければなりません。仮に、利回りが5%でもローン金利が2%であれば実質的な利回りは差し引き3%になります。
さらにここから管理会社の委託費や修繕費などを差し引くと、わずかな利回り、あるいは赤字になるケースもあります。REITの場合、投資家がローン金利や経費を支払う必要がないため、最終的にREITのほうが高利回りになる可能性もあります。
同じREITでも銘柄によって約5%の利回り差がある
ご参考までに、銘柄別のREITの分配金利回りもご紹介しておきましょう。
2021年4月23日時点で、もっとも高利回りの銘柄は「マリモ地方創生リート投資法人」で利回りは5.37%です。逆に、もっとも低利回りの銘柄は「ジャパン・ホテル・リート投資法人」の0.44 %です。同じREITでも約5%の利回り差があります。
2.不動産投資とREITの比較:レバレッジをどれくらいかけられるか
効率的にリターンを増やすには「手元資金にどれくらいレバレッジをかけられるか」の視点も重要です。不動産投資は手元資金にレバレッジをかけられるアドバンテージがあります。
レバレッジでリターンを積み重ねるスピードをあげられる
「手元資金100万円・利回り5%」という同じ条件でも、レバレッジなし・ありでは下記の表のようにリターンが変わります。
レバレッジ率 | リターン | 計算式 |
---|---|---|
レバレッジなし | 5万円 | 100万円×5% |
レバレッジ5倍 | 25万円 | 500万円×5% |
レバレッジ10倍 | 50万円 | 1,000万円×5% |
レバレッジをかけるほど、リターンは拡大します。レバレッジ10倍はレバレッジなしに比べると10倍のスピードでリターンを積み重ねることができます。
不動産投資はローンで手元資金にレバレッジをかけられる
この資産運用の大きな武器であるレバレッジを不動産投資は利用できますが、REITは利用できません。この部分に着目して「不動産投資のほうが投資効率がよい」と判断する投資家もいるようです。
不動産投資で手元資金にレバレッジをかけられる理由は、「収益物件を購入するときに、ローンを利用できるから」です。さらになぜ、不動産投資だとローンを使えるのかというと、物件に担保評価がつくからです。
金融機関は担保を設定することで貸し倒れリスクを回避できます。なお、一般的に不動産投資ローンの頭金は「物件価格の1〜3割程度」といわれます。仮に、頭金の割合が1割なら、300万円で3,000万円の収益物件を購入できることになります。
ただし、不動産投資で融資を受けやすいのは属性のよい人だけ
不動産投資のレバレッジにはウィークポイントがあります。それは属性(年収、勤務先、勤務年数、預金額など個人の信用力)がよい人でなければ、融資を受けにくいことです。
一般の金融機関であれば、それなりの年収のあるサラリーマン・公務員・士業でなければ融資を受けることは難しいでしょう。
3.不動産投資とREITの比較:平均的な稼働率はどれくらいか
不動産を使った資産運用のリスクのなかで、収支にもっとも大きなダメージを与えるのは「空室リスク」です。不動産投資もREITも収益物件からの賃料をリターンの原資にしているため、空室率が高まり、賃料が減ってしまえば深刻な影響が出ます。
セクターにもよりますが、一般的にREITは稼働率が高い傾向があるため、安定性が高いといわれます。実際にはどうでしょうか。両者の平均的な稼働率は次の通りです。
※100−稼働率=空室率
不動産投資の平均稼働率 | 首都圏:95.7% 関西圏:97.2% |
---|---|
REITの稼働率 | 住居系の稼働率例:95.7% 事務所系の稼働率例:98.4% 物流施設系の稼働率例:99.3% 商業施設系の稼働率例:100% |
※不動産投資の稼働率の参照:公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「日管協短観2020年度上期データ」
※REITの稼働率の参照(2021年3月末時点〈イオンリート投資法人のみ2021年1月31日時点〉):住居系/コンフォリアレジデンシャル投資法人、事務所系/日本ビルファンド投資法人、物流系/日本プロロジスREIT投資法人、商業施設系/イオンリート投資法人
両者を比べてみると、不動産投資の首都圏・関西圏とREITの稼働率はあまり差がないことがわかります。
ただし、不動産投資でエリアを首都圏・関西圏以外に広げると、稼働率は92.6%まで下がります。空室リスクを回避しながら不動産投資をしたいなら、首都圏または関西圏に焦点を絞るのがよいかもしれません。
また、不動産投資の稼働率を見ていて「本当にこんなに高い?空室率はもっと多いのでは?」と感じる人もいらっしゃるかもしれません。この稼働率には、空き家のまま放置されている賃貸物件は含まれません。あくまでも生きている賃貸物件を対象にしたものです。
利回り、レバレッジ、稼働率(空室率)比較の総論
ここまでお話ししてきた内容をまとめると次のようになります。不動産投資とREITの「どちらを選択すべきか」または「両方を組み合わせるべきか」を検討する際の参考情報としてお役立てください。
利回りの比較:不動産投資のほうがやや高いが金利を意識すべき
不動産投資の東京エリアの利回りは4%台です(城南地区4.2 %、城東地区4.5%)。これに対して、REITの平均利回りは3.49%です。不動産投資のほうがREITよりも0.7〜1%程度、利回りで上回っています。
さらに地方都市になると、不動産投資の利回りはアップします。一方、ローン金利を差し引くと不動産投資の利回りがREITの利回り以下になるケースもあります。
つまり、「不動産投資とREITのどちらの利回りが高いか」については一概にいえないということです。経験豊富なプロの不動産投資家であれば10%、20%超の掘り出し物件を見つけることもできますが、大半の投資家にとってはそう簡単な話ではありません。
レバレッジの比較:不動産投資はローンを利用できる強みがある
不動産投資は金融機関のローンを利用することで、自己資金(頭金)にレバレッジをかけられます。一般的に必要といわれる自己資金は物件価格の1〜3割です。
つまり、不動産投資では、自己資金の約3〜10倍のレバレッジがかけられるということです。これに対して、REITの購入目的では金融機関の融資を使えません。
稼働率(空室率)の比較:REITはセクター、不動産投資はエリアに要注意
REITの代表的な銘柄、あるいは、不動産投資の首都圏または関西圏の稼働率は95%以上です。現時点の空室率を見る限り、どちらも安定した収益が確保しやすいといえます。
一方、2020年春以降、新型コロナ感染の影響でREITのホテルセクターの稼働率が極端に落ちています。また、不動産投資では入居者ニーズの強い大都市圏以外は空室率が高いエリアも目立ちます。
こういったリスクの高いセクターやエリアでハイリターンを狙うのか、それともローリターンでも安定した収益を目指すのかは、その人によって選択が変わってくるでしょう。
(提供:Renergy Online )
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