ケアネット(2150)は、36万人超の医療従事者が会員登録する医療情報サイト「ケアネット・ドットコム」の運営会社。医療ニュースや手術動画、論文解説など様々なコンテンツを配信する他、製薬企業の営業支援も展開する。コロナ禍では同業界のデジタルシフトがより加速し、2020年12月期業績が過去最高に。今期は海外進出やオンラインセミナーといった新軸も育成する計画だ。
国内の医師約6割が会員
同社が運営する「ケアネット・ドットコム」は、医師や看護師、薬剤師といった医療従事者が対象の会員制医療情報ウェブサイト。同サイトでは、医療ニュースや特集記事、手術や新規治療法などの紹介動画など様々なコンテンツを配信している。
特徴は、コンテンツの高い品質だ。配信するものは、全て自社編集部が企画・編集。テーマの第一人者である医師に対して取材したり、医師の治療を動画撮影したりする。また、外部医師の寄稿なども掲載。ケアネット・ドットコムに配信されるコンテンツの数は、動画・テキスト合わせて年間3000本以上となる。
「創業当時は医科向けの専門テレビ局を運営していました。そういった背景からも、僕らはインターネットサービス会社というよりメディアに近い。医療情報サイトは様々ありますが、当社は『アカデミックなものを分かりやすく』配信することに力を入れています」(藤井勝博社長)
ケアネット・ドットコムの会員数は、20年12月末時点で36万人超。うち医師会員は、前年比15%増の18万人強だった。厚生労働省によると、18年末の医師数は32万人強。つまり、同サイトに登録する医師数は全体の約6割に上る。
「新型コロナ蔓延後は、ケアネット・ドットコム上でコロナ関連の生放送を毎週1本配信しています。多いとリアルタイムで1万人近い方が閲覧しますね。こういった、臨床現場で役に立つコンテンツが評価されたのでは」(同氏)
営業支援の好調で業績最高
20年12月期業績は、売上高が前期比62.3%増の53億400万円、営業利益が同149.3%増の15億1000万円と6期連続増収増益となった。セグメント別売上高は、①医薬営業支援サービス(医薬DX事業)が全体の91%、②医療コンテンツサービス(メディカルプラットフォーム事業)が9%となった。
売上の9割、そして利益の99%を占める①医薬営業支援サービスは、製薬企業の営業支援を行うもの。70社超の製薬企業と取引があり、武田薬品工業など全ての大手企業と契約している。その主力サービスが「MRプラス」だ。同サービスは、ケアネット・ドットコムを通じて製薬企業の医薬に関する記事や動画を配信するもの。視聴情報やアンケート結果などは、製薬企業の担当MR(医薬情報担当者)に随時通知する。MRは新薬に関心のある医師をタイムリーに把握できるため、営業活動の効率化が図れる。
「MR業界ではアポなしで病院を訪問して営業する風習が続いてましたが、コロナ前から『医師とMRが勤務中に立ち話しているのはけしからん』と徐々に訪問規制がかけられてました。MRプラスでは、会わずとも『どんな薬に興味あるか?』が浮き彫りになった状態で医師と面談できるため、営業の無駄が少なくなったと思います」(同氏)
MRプラスの特長は、製薬企業側が動画視聴率や感想率などを把握できる点だ。藤井社長によると、動画視聴者のうち最後まで閲覧した人の割合は全体の97%程度。これは、動画制作を担うケアネット側の技術力が関係するという。
「例えば動画であれば、視聴者が動画を閲覧できる限界時間というものがあります。
昔は30分くらい平気で見てましたが、今では5分も持たないですね。限られた時間の中で『どういうシナリオやメッセージにするのか』を考えながら制作します」(同氏)
祖業となる②医療コンテンツサービスは、医療従事者に対し医療教育コンテンツを提供するもの。前述のケアネット・ドットコム運営の他、インターネットによる動画配信サービス「CareNeTV」、CareNeTVで配信した動画をDVD化した「ケアネットDVD」の3つを展開する。
CareNeTVでは、人気医師の講座など約2000番組を配信。これまで出演した医師数は3万人前後で、毎月新作が10本程度配信される。CareNeTVの動画を見るためには会員登録の必要があり、プランは①月額5000円の見放題、②1本数百円でダウンロードの2種類。会員になれるのは医師のみで、見放題会員数は20年12月末時点で5452人となる。
希少疾患コンテンツを拡充
21年12月期の業績予想は、売上高が前期比13.1%増の60億円、営業利益が同12.6%増の17億円。同期末のケアネット・ドットコム医師会員数は、20万人に近づけることを目標とする。
更なる会員獲得に向けた施策のひとつが「スペシャルティ医薬品」関連のコンテンツ拡充だ。ケアネット・ドットコムでは、これまで高血圧など生活習慣病関連のコンテンツが多かったが、今後は患者数が少ない希少疾患向けスペシャルティ医薬品に関するコンテンツも充実させる。
「全国でも患者が2000人程度しかいない病気もあるため、患者さんが専門医を見つけにくい現状があります。そういった病気をケアネット・ドットコムで医師に紹介したい」(同氏)
その一方で、新規事業の開拓も進める。そのひとつが「CareNeTVスクール」だ。
21年1月、医学生向けに著名な医師を講師としたオンラインセミナーを開講した。授業はテーマ別に8~10回程度で、参加者は10人前後の少数。修了すれば講師から修了証が発行される。
もうひとつの方向性が「海外進出」。20年、英訳したコンテンツをインドでトライアル配信した。
「日本の医療技術は、体格が似ているアジア圏内では非常に評価されています。私は、『医療』が日本で最後の大きな輸出産業だと思う。医療の海外展開をどう本格化させるかについては、色々と検討を進めています」(同氏)
■ケアネットドットコムを中心としたビジネスモデル
▼コンテンツの案内から視聴、アンケート回答までワンストップで行う
(提供=青潮出版株式会社)